二週間も放り込まれたままで何も音沙汰ない事に不満を感じつつある彼。
しかし彼らを巻き込もうとする騒動が刻々と迫っていた。
薄暗い室内。
周りは固いコンクリートの壁に覆われ、設置されているトイレには蠅がたかっている。
決して休める事のない簡易ベット上で座り、グリフィン本部の独房に放り込まれて二週間。
不味い食事が運ばれてくるだけの日を過ごしていた。
「暇だな」
―仕方ねぇさ。こればかりはな
「むぅ…」
無銘もレーゾンデートルも取り上げられ、只々ここで過ごすばかり。
あの時、ここを放り込んでくれた奴は少し待てば来ると言っていたが完全に嘘だったようだ。今度会う事があれば幻影刀の嵐をお見舞いしてやるとしよう。
まぁそれは置いておき…。これからどうしたものか。
思い悩んでいると蒼が言ってきた。
―仕方ない。俺が外の様子見てくるよ
「どうやって?」
―魔力で分身を作る。多少はお前の力は弱まるがさして問題ないだろう
「誰かに見られないのか?」
―この程度の魔力なら人間に見る事は叶わない。問題ないさ
魔力がどうのこうのに関しては蒼の次に右に出る者はいない。
その本人が言うのだから問題ないのだろう。
―よっと…
自分の身体からすり抜ける様に目の前に分身が現れる。
その姿はまるでデビルトリガーを引いた時の魔人化時の姿。これで見られる事が無いというのはどうなのだろ。
まぁそれを気にしていてもキリが無いと言えば無いのだが。
―じゃあ行ってくる。
「あぁ。頼む」
そう返すと蒼は扉をすり抜けて独房の外へと出て行った。
さて…帰ってくるまでのんびり待つとしようか。
独房の扉をすり抜け、立っていた看守に向けて労いの言葉を掛ける。
―看守お疲れさん
「…」
当然ながらこっちの声は彼らに聞こえる事はない。
銃を手に仏頂面のまま看守の仕事を全うしている。やれやれ…仕事熱心な事で。
そんな看守に背を向けて歩き出す。見る限りここは5階か?窓から見える景色は割かし高さもある。
普通独房って地下とかに配置するもんじゃないのかね?ここの奴らが考えが全く分からねぇな。まぁ…気にしても仕方ねぇか。
それに…この気配…。珍しいというか…変というか。
―何で俺達以外の悪魔の気配があるんだか
ここに来てからずっと感じていた。ギルヴァは気付いているのか分からないが…。
ここら一帯を探索した後、もう一人の悪魔に会いに行ってみますかね。まずは一つ下に降りてみるか。
下へと通ずる階段を探して歩き出す。見えるは廊下を行き交う人々の姿。
まるで何かに追われているかの様にせわしない。まぁこのご時世だ。鉄血の連中以外にも色々気を張らなくちゃならないのだろう。一時前にサラリーマンの姿に重なって見えるなぁ…。それに何か背中から黒いモヤモヤしたのが見える辺り、ここって意外とブラックだったりするのかね?
もしそうなら労基は守った方がいいぞぉ?グリフィンさんよ。デモが起きる前に業務内容を見直した方が良いかもな?まぁ悪魔にそれを言わせる辺り、もう遅いかも知れないがな。
―お、階段っと。下に降りますかね
階段を一歩ずつ降りて4階にへと降りる。
ここのフロアは上とは違い、ラウンジになっているみたいだ。ここで休憩するらしいな。
ベンチやら椅子に腰掛けて寛いでいる。
「で?あの黒コートの男はどうしてるんだ?」
―ん…?
ふと聞こえた会話。黒いコートの男と言えば十中八九ギルヴァの事だ。
そちらへと向くと水が入った紙コップを手に二人の男が話していた。
「今は独房にいるらしい。暴れる様子はなく、飯もちゃんと食べている辺り生きてはいるらしい」
「へぇー。あんだけ逃げ回っていたからてっきり暴れているのかと」
「まぁここで暴れてた所で何もならん…奴もその事位は分かっているんだろう」
―例え暴れなくてもあのドア位は普通に壊せるんだけどな…まぁ知る訳ないか
それにあいつが暴れる事をしないのは下手に敵対したくないのが理由だったりする。
元々あいつはグリフィンと敵対する気はない。それにあいつを育ててくれた人形が元グリフィン所属だったという事もあり避けていた。寧ろ手助けする事が多かったのだがその事はこいつらには伝わっていないのだろう。
―まぁ…あいつもあいつで色々あるからなぁ…。
それを分かっていて行動している自分も随分と大人しくなったものだな、ホント。
昔の俺が見たら何て言うものか…まぁ自分も柔らかくなったという訳か。
でもまぁ…仕方ないのさ。あいつが心が人間として生きていくと言った時、心のどっかで支えてやろうと決めたんだ。今さらあいつを裏切る気にすらなれないし、それにあいつと居て退屈しないんだ。
最後は悪魔っぽいかも知れないが、理由なんて挙げていけばキリがない。大まかな理由としてはこれぐらいが丁度いいんだよ。
―さてと、お次は三階に降りますかねぇ…
階段を降りて三階に到着。
どうやらここは部署ごとに部屋が分かれているらしく、上と比べると人の行き来が多い。
流石は本部と言った所かね。まぁここらは大して興味がないからな…このまま下に降りるとしようか。
三階から二階へと通ずる階段を降りて行くのだが、どうも二階は三階と似た感じだった為スルー。
そのまま一階へと降りる。一階は所謂エントランスになっているが…
―ここも上と同じかぁ…人の行き来が多いな。これは下ではなく、上を目指すべきだったか?
だがここより下に居るであろう悪魔の存在の事がある。
それが何よりも気になっていた。確かに…この世に悪魔が決していないと決めつける事はできない。
だがここまで大きな魔力を持つ悪魔が人間界にいる方が珍しい。何らかの理由でこっちに来たんだと思われる。もしそうだと仮定してそいつが考えている事とすれば…
―人間界の支配…
大方の理由としてはそこら辺が妥当だろう。
―もしそうなら…今の俺では到底太刀打ちはできない。あいつが居ないと無理だが…
同時に気になっていた事はこの気配を自分はどこか知っている。
正確に当てられる自信はないが…もしこの気配が俺の予想した通りならば…。
恐らく戦闘に発展する事はないと見ていいだろう。
―さて…その本人がいる地下への入り口は、と……お、あれか。
エントランスルームの端に見える扉。
そこにはkeep outの貼り紙が張られており、律義にそれを守っているのか誰も近寄ろうとしない。
人間はそういう所には律義なんだよなぁ…まぁルールを破れば何らかのペナルティを課せられるとなれば近づきたくもないか。
迷う事無くそこへ向かい、扉をすり抜ける。
地下へと続く階段。コンクリートの壁で覆われており、見事なまで殺風景だ。
逆にここがカラフルだったら、それはそれで気持ち悪いがな。
―…行きますか
階段を一歩ずつ降りて行く。
降りて行く度に気配が段々を強くなるのが感じられる。寧ろここの人間は悪魔が居るからこそ、地下へ通ずる階段を封鎖していたのだろうか?もしそうならこの先にいる悪魔をどうやって封じた?
この世界に退魔の力はあるとは思えない…。だとすれば取引したか。
取りあえず先へ急ごう。その事は本人に聞けば早い話だ。
それにだ…
―ここに来てからとは言うものの…地下の悪魔の件といい…
確実にここへと迫りくる別の悪魔の気配は何だと言うのだ?
階段を降り切り、辿り着いたのは無駄に広く馬鹿デカい扉があるだけの場所。
どうやらここへと通ずる道は他にもあるらしく、エレベーターもあったのであっちが正規ルートの様だ。
自分が通ってきた階段は非常階段だったみたいだな。
―しかしまぁ…
気配が駄々洩れ。ここに立っているだけでも感じられる。
そして本人はあの扉の向こうに居ると見ていいだろう。さて…顔合わせと行きますかね。
だだっ広い通路を歩いていき、そのまま扉をすり抜ける。
そこに居た本人を見て、つい笑い出してしまう。まさかとは思っていたが…
―珍しい事もあるもんだ。何時から獣からペットに趣旨変えしたんだい?
そこに居たのは一匹の獣。だがそのガタイはこの世のものとは思えない位デカい。
籠手と具足を模っした外殻からは金色の雷が溢れ出ている。
―む…その声は…
こちらが声を掛けた事により、眠っていた獣は目を覚まし体を起こした。
―よぉ。まさかあんたがここに居るなんて思わなかったぜ。フードゥル
フードゥル。
その名は雷を意味し魔界にて戦闘用として造られた狼型悪魔。
生まれた当初こそは命令に忠実、無口、無感情。まさしく戦闘用として悪魔だったが、ある日を境に自我が目覚め、何時しかカリスマ性溢れる悪魔として生きていた。そのカリスマ性と高い戦闘力もあって魔界の精鋭部隊の隊長を務め、造られた悪魔の中では珍しく、フゥードゥルが認めれば自らを武器へと変える力を持っている。
「あの戦い」以降消息を絶っていたらしいが…まさかこんな所で会うとはな。
―まさか貴公は…。久しいな…こうして会うのは何時振りだ?
―さぁな。最後に会ったのは何時だったかすら忘れたよ。なんせ俺ら悪魔に年月なんてあっという間だからな
―確かにな…。にしても貴公…その姿は?我が最後に見た時とは随分と姿が違うが?
―色々あってね。この姿は分身さ。それでもって肉体は滅んだ。「あの戦い」のツケでな
―!…そうか。貴公もまた…辛い決断をしたのだな
俺もフードゥルも「あの戦い」に参加した身だ。
あれがどんな戦いだったのかも知っている。そしてお互いに守りたいもの、譲れないものの為に戦った。
ただそれだけのこと。
―それで?何でこんな所に居るんだ?まさか飼われている訳じゃねぇよな?
―そんな訳なかろう。単純にここの人間に眠いのでそっとしていて欲しいと頼んだだけだ
―マジかよ。何て言うか…あんたらしくないな?
それを簡単に従った人間も中々だなぁ…。
まぁ…この世のものとは言えない奴がいるんだ。命だって惜しいだろうさ…従うのも無理もないか。
―それを言うのであれば貴公もだろう。何故心変わりした?
―…まぁ色々あったのと、面白い人間に会ってね
―ほう。長い事誰かと話す機会もなかったものでな。良ければ聞かせてくれぬか。貴公が言う面白い人間とやらを
―あぁ。聞かせてやるよ。きっと気に入ると思うぜ?
俺はフードゥルにギルヴァと過ごした日々を全て語った。
悪魔でありながら心は人間という矛盾を抱えながら生きると決めたあの時の事や人形の為に力を振るった事などなど…。奴は興味深そうに話を聞いており、珍しく目を輝かせていた。
元々こいつは人間の事を下に見る事をしていない。弱い存在だという事は分かっているが自分達悪魔には無い物を人間は持っていると話していた。故に人間を卑下するつもりないのだとか。
―ふふっ…よもや珍しい者も居るものだな。是非ともそのギルヴァとやらに会ってみたいものだ
―別にそれは構わねぇが……まさか戦うつもりじゃねぇよな?
―そのつもりはない。既に牙は丸くなってしまったからな
―じゃあどうするつもりだ?
―正直ここでの生活も飽きてきてな。その者に力を与えてやる分、ついていこうかと思って……ッ!
―ッ!!
二人して上を見上げてた途端、大きな振動が地下に伝ってきた。
恐らく地上に何かが降ってきたと見ていいだろう。砲弾にしては規模が小さい。
それにこの感じは分かる…降ってきたのは俺達と同じ悪魔だという事だ。
―む…この気配は…
―あんたのとこの問題児じゃねぇか?てっきり始末したと思っていたが?
―我もそう思っていたのだがな…どうやら生きていたらしいな
―みたいだな…。さてどうする?俺がギルヴァと合流して奴をぶちのめすか。もしくはフードゥルがここから飛び出てもう一度葬るか。どっちがいい?それとも両方選ぶか?
―ふっ…。両方に決まっているだろう
―よし。じゃあ俺はあいつの元に戻るよ。あんたはここを出る準備でもしていてくれ
―了解した。現地で会おうか
―あいよ
一旦別れを告げて、部屋を後にする。
さて…あまり時間を掛けられないな。幾ら人形でも悪魔相手だと敵う筈がない。
それにここは本部。壊滅とかしてしまえば色々やばい、ていうかマジでやばい。
「一体何が起きて…」
蒼が出て行ってどれ位経っただろうか。
ひと眠りしようと思っていた矢先、突如として響いた轟音によってそれは中止された。
独房の外は慌ただしく、警報はさっきから鳴り響いたまま。看守もどこか行ってしまっている。
このまま外へ出ようと思えば出れるがまだ蒼が戻っていない。
―ギルヴァ居るか!?
「蒼!」
どうしたものかと迷っている所で蒼が戻ってきた。
分身が自分の身体へ消えると蒼に何が起きているのか尋ねる。
「一体何が起きているんだ?」
―俺ら以外の悪魔が本部を襲撃してきたのさ
「俺達以外の悪魔が…?そもそもどうやって…?」
―魔界と人間界を繋ぐトンネルがあるんだが…今やそれは完全に封鎖されている
「ならば余計に気になる。どうやってそいつは此処に?」
魔界と人間界を繋ぐトンネルが既に滅んでいるとするのであれば…そいつがどうやってこっちに来たのか。
それに対する疑問を感じてもおかしくない筈だ。
―恐らくだが…不定期に二つの世界が繋がってしまう事象がある。普通は誰も近づこうとはしないがな
「何故近づこうとはしない?」
―確実に辿り着くとは限らないからだ。迂闊に入ったら出る事も戻る事も出来なくなるからな
「だが今回は運よく行けた、と?」
―そうなるな。さておしゃべりはここまでだ。まずは此処を出るぞ
「分かった」
幻影刀を一つ展開し、ドアを切り裂き破壊。
そのまま外へ出ると、建物の外から銃声と爆発音が響いていた。
窓から下を覗いてみると戦術人形達が騎士の甲冑を纏い、身の丈以上の大剣を持った悪魔と対峙していた。彼女達の攻撃は全て大剣で防がれており、あの悪魔は防御に徹している。
手を出ないという訳でない…こちらが見る限り余裕が有り余っている様子だ。恐らく弾切れになるまで待つ気なのだろう。そして完全に戦闘力が無くなった所を大剣で蹂躙という訳か。
―やはり…。アンジェロか
「!?」
第三者の声。
そちらへ振り向くと籠手と具足を模っした外殻から雷を放ち、真っ白な毛並みが特徴の狼がゆっくりと歩み寄っていた。
つかさず幻影刀を展開しようとすると蒼が止めてきた。
―ギルヴァ、止せ。こいつは味方だ
「…。こいつも悪魔か…?」
―名はフードゥル。見ての通り悪魔でね。ちょいとした仲さ。
―紹介に預かった。我はフードゥル。貴公がギルヴァか?
その声はどこか大人びており、喋り方もまるで中世の騎士みたいな喋り方。
何よりも隙が無い。どれ程の修羅場をくぐってきたのか…。
「あぁ」
―ふむ…。成程…どうやら我が力を託すのに相応しいと見た。ギルヴァよ、今からあの騎士をやるのであろう?
「そうだが…。知り合いか?」
―かつて共に戦っただけの間柄。今は敵対しておるがな
悪魔同士でも敵対はするのか…。
てっきり協同するものかと思ったがそうではないらしいな。
―それよりもだ。どうだ、奴を屠るのであれば我が力を使ってみるか?
「?それはどういう…」
―こう言う事だ
大きく吠えるフードゥル。
その瞬間、彼の体が光に包まれ、そこから光球がこちらへと寄ってくる。
手を伸ばしてそれに触れると両手足が光に包まれ、数秒程度で耀きは消える。そしてそこにあったのは…
「これは…籠手と具足か…?」
まるでフゥードゥルの外殻が武器へと転用した様にも見える。
実際籠手と具足からは電がバチバチと音を立てて発せられている。
―これが我が力。勝手ながらだが貴公についていこうと思っていてな。その対価として我が力を授ける
「成程。だからか…」
無銘もレーゾンデートルもない今、彼の力はとても心強い。
それにこの手の武器が欲しいとも思っていた。素手でリアルインパクトは意外と痛かったからな…
「だが心強い」
窓を破壊して、下を見る。
まだ戦闘は続いているが、あの騎士…アンジェロと言われた悪魔が今にも動き出そうとしていた。
「行くぞ。良いな?蒼にフードゥル」
―あいよ!
―うむ!
二人の返事を聞き、窓から大きく外へ飛び出し、アンジェロへと目掛けて降下。
向こうはこちらに気付く様子はなく、大剣を構え始めている。
籠手に電を帯電。奴に近づくにつれて電は激しさを増していく。
そこでこちらに気付いたのかアンジェロは瞬時に顔を上げた。だがその距離は間近。
空中で構えを作り腕を引く。そして奴の顔面目掛けて一撃を叩きこむ。
その瞬間…
「雷注意報だ」
金色の雷光が迸った。
「雷撃鋼 フードゥル」
雷を操る悪魔 フードゥルが自ら姿を変えギルヴァに与えた籠手と具足。
その両手足からは電が放出されており、攻撃にも転用可能。
また貯める動作によって電を帯電させる事が可能で、貯める時間が長ければ長い程、強力な電を発生させることが出来る。
造られた悪魔は純粋な悪魔では無い為普通であれば自身を武器に変化する事はできない筈なのだが、稀にそれを可能とする悪魔も居るらしく、フードゥルもその一人である。
フードゥルはDMC4でいうブリッツみたいな奴。但し、見た目は狼。
…DMC4のブリッツ嫌いだったなぁ…自爆特攻してくるし…