依頼内容は消息を絶った戦術人形の捜索依頼。
そして捜索対象はギルヴァにとって忘れられない人形だった。
代理人を迎えた翌日。
早速と言わんばかりに彼女は店内の掃除をしていた。一応デビルメイクライ所属という形に落ち着いたのだが、基地の面々と本部に説明し説得するのは中々に骨が折れた。…無理もない話なのだがな。
敵を招き入れる時点で何が起きるか分かったものじゃない。だが自分が代理人を一度敗北に追いやった事、そして代理人本人の証言もあって一応認めると言う形になった。だが何かあれば一切躊躇するなと釘を刺されたが。
―でもまぁ…これだけで落ち着いて良かったと思うが?
―うむ。本来であればもっと大事になっていただろうな
自分の中で存在する蒼と書斎の近くで立ち尽くしているフードゥルが思念でそう語りかけてくる。
彼らに言われた通り、この程度で落ち着いただけでも良かったかも知れない。この手の問題は早期に解決できる問題ではないのは何となくだが分かる。
「ふぅ…これで一通り綺麗になりましたね」
窓を拭いていた代理人が額に付いた汗を拭いながらそう言った。
彼女が言った通り、店内は綺麗に清掃されていた。それもたった30分という速さでここまでやってのけた事もあるのだが、代理人の家事能力が途轍もなく高い事に驚かされていた。
本当にあの時と比べると驚く程様変わりしたな…。こんなにも笑顔を見せる方だったろうか。
すると電話が鳴り響いた。また45からだろうか?出来れば依頼だと良いんだが…。
どちらにせよ出ない訳にいかない。受話器を手に取る。
「デビルメイクライ」
『君がS-10地区で便利屋を開いている者で間違いないだろうか?』
聞こえてきたのは男の声。
「そうだが?どこでうちの事を?」
『情報通の者から少しな』
「成程。で?うちに何か用だろうか。冷やかしなら切るぞ」
『まぁ待て。冷やかしなどではない。ちゃんとした依頼だ』
ちゃんとした依頼と来たか。
こちらとしては願ったり叶ったりの初依頼だな。
それにこちらの生活も掛かっているからな…。
「話を聞こうか」
『うちに所属している戦術人形を一人見つけて欲しい。後方支援中に鉄血の攻撃を受けて、部隊と離れ離れになってしまった。こちらでも捜索部隊を出しているが早期発見の為、君にも手を借りたい』
うちに所属…となれば電話の相手は何処かの地区にいる指揮官と見ていいだろう。
「最後に消息を絶った場所は?」
『S-10地区からS-11地区の間に存在するゴーストタウンだ。そこで鉄血の襲撃を受けた。あそこはとても広くてな。場合によっては彼女はそこで救援を待っている可能性がある』
「成程。そこへ赴いて欲しい訳か」
『そうだ。例えこちらが見つけたとしても報酬は必ず払おう。だから頼む…!彼女をどうか見つけて欲しい…!色々事情があってうちに来たんだが、皆にも慕われてるんだ…!』
先程まで淡々として男の反応が一転。
まるで懇願する様な声を聞かせてきた。こちらに頼るまで助け出して欲しい者となれば、連絡をかけてきた本人にとって大事な人なのかも知れない。ならば思いに答えない理由がない。
何故ならば自分も大事な人がいたから。力がなく守れず失ってしまった。失う辛さと守れなかった悔しさは知っている。
「良いだろう。報酬はS-10地区前線基地宛に送ってくれ。言っておくがふざけた報酬は返品するつもりだからな」
『分かっている。ちゃんと報酬は出す。そこは心配しないでくれ』
「そうか。それと成功の暁には、うち「Devil May Cry」の宣伝も頼む。何分昨日開いたばかりでな」
『了解した』
「後、探し出して欲しい人形の名前を教えて欲しい。出来れば特徴とかもな』
『あぁ。彼女の名前は…』
『95式。黒髪に白いブランケットが特徴の戦術人形だ』
「何…?」
まさか…彼女が?
いや、待て。あの時別れた彼女とは限らない筈だ。
だが色々事情があって来たと言っていたが…。
「一つ聞きたい。その95式は初めてそっちに来た時、子猫を連れてバイクを持ってこなかったか?因みに子猫の名前はニャン丸だ」
『あ、ああ!連れていた!ある人から預かった大事な子猫とバイクだと。…まさか』
「そのまさかだ。彼女にニャン丸とバイクを預けたのは俺だ」
よりよって彼女が消息不明となるとは…!
「電話を切る。今から捜索に当たる。何かあればここの指揮官に掛けてくれ」
こちらから強引に電話を切り、無銘を手に取る。
そのまま店を出ようとすると代理人が前を塞いだ。一体どういうつもりだ…?
「ここからそのゴーストタウンまで半日かかります。ですので、そのゴーストタウンまで私が送り致します」
「送るだと?どうやって?」
「それは現場に着いてからのお楽しみです」
一つウインクして外へと出ていく代理人。
フードゥルに待機する様に命令すると同時に指揮官に依頼で外していると言っておく様に指示した後、彼女に続く様に自分も店を後にした。
代理人についていき、到着したのは地区の外れにある小さな車庫。
何故ここに連れてきたのかは全く分からない。すると彼女は車庫のシャッターを開き、そこにある物を見せた。
あったのは一台のバンだった。ここに来る前に持ち出した物なのだろうか。
塗装は所々剥がれおり、走るのかどうか怪しい。
その疑問を感じ取ったのか代理人は自ら運転席に乗り込み、車のエンジンを掛ける。
すると車は何事もなく動きだしエンジン音を響かせる。運転席越しからではあるが、彼女が微笑んできた。
―半日も要らなさそうだな?
「その様だな」
早速助手席に乗り込む。
ゴーストタウンまで運転を任せ、自分は只々祈る。
どうか無事に居てくれ…。
あれからどれ程経っただろうか。気付けば二日は経った筈。
逃がした皆は無事帰還出来ただろうか?自分が危険な立場にあるというのにそればかりが心配で仕方なかった。
早く戻らないといけない。部屋で待っているニャン丸が心配する。
「けど…今の足では……」
自身の片足を見る。
中ほどにかけて先が無くなっており、パーツやら金属やら見えている。
上手くここに逃げ込んだのは良いもの、問題はここからどう逃げ出すかだ。
「こんな姿…あの人には見せられないわ」
思い出すは黒いコートの彼。
短い期間であったが共に旅をし、そしてあの時また会おうと約束を交わした。
一度は自ら死のうと決めてしまった身であるが、今は違う。
例えどんなに辛い道であっても諦めない。約束を果たす為…彼に会う為に。
皆が分けてくれた命を失くさない為にも。
「お願い…後少しだけ動いて」
言い聞かせる様に体に鞭を入れる。
壁に手を付きながら何とか立ち上がり、一歩ずつ前へと歩き出す。
そして願う。どうかここに敵が現れない事を。
「見つけたぜ」
「!」
無情にもその願いは叶う事はなかった。
暗闇から声の主がその姿を見せる。
黒い衣装を身に纏い、ブレードを手に歩み寄ってくる。
鉄血のハイエンドモデル
後方支援から帰還中に襲撃を仕掛けてきたのもこいつが原因だ。
「ったく…手こずらせやがって。こっちは忙しいってのによ」
「…」
「だがこっちも色々溜まっているもんでな。…今からバラバラに切り刻んでやるよ」
ブレードの切っ先が突き付けられる。
そしてそれが大きく振りかぶられた瞬間、逃げる道中で拾った手榴弾を投げつけた。
爆発に巻き込まれる前に何とか片足で外へと飛び出た瞬間、投げた手榴弾が爆発。爆風で背中を押され、地面へと倒れ込んでしまうがすぐさま銃を奴が居た方へと向ける。
この程度でやられてくれるのならいいのだが…相手はハイエンドモデル。そう簡単に倒れる筈がない。
「やってくれんじゃねぇか」
「…」
舞い上がる土埃から奴が姿を現す。
まるで何もなかったかのようにゆっくり歩み寄ってくる。
「だが所詮この程度しか出来ない。それがてめぇらの限界だ」
ブレードが振り上げられる。
煌めく刃はこの身を切り裂こうと狙いを定めている。
「じゃあな。…死ね」
「貴様がな」
突如としてこの場に聞こえた第三者の声と同時に自分と処刑人の前を塞ぐかの様に空間が歪むと同時に無数の斬撃が走った。
処刑人は後ろへと飛び下がり、自分は声の主へと顔を向ける。
何故ここに居るかは分からない。また助けられた事がどうしようもなく情けなく感じてしまう。
だけど…彼がここに居るという事が何よりも嬉しかった。
あの時を同じ様に黒いコートを纏い、手にはあの日本刀。
「また会えたな、95式」
悪魔も恐れる彼がそこにいた。
さぁ…処刑人よ。
悪魔と踊る準備は出来たか?
次回は戦闘です。
まぁ…描写上手くないから、何卒ご容赦を…。