処刑人と悪魔がぶつかる。
「また会えたな、95式」
「ええ。こんな形になってしまいましたが」
苦笑いを浮かべる彼女に釣られて小さく口角を上げて笑う。
そこでふと、95式の脚が視界内に入る。
膝から下に掛けて先が無い。見えるのは金属パーツやら配線。人形であれ、その姿はとても痛々しい。
「あの…あまり見ないでくれると嬉しいです…」
「!…すまない」
彼女だって見られたくなかった筈だ。
即座に視界から外し、相対する鉄血のハイエンドモデルを見つめる。
長く伸ばされた黒髪、目つきは鋭く、手にしているのは巨大なブレードと大口径拳銃。
何だろうか…何かが被っている気がしなくもないが、今は気にする事ではない。
今は…目の前に居る敵を排除、或いは撃退。少し遊んでいきたい所ではあるが…。
―戦闘の余波が彼女にまで行ったら不味いからな。やるとしても早めに片を付ける事を勧める。
分かっている。
「黒いコートに刀……はっ!てめぇがそうか!」
何かを思い出したかの様に、そして相手の目つきはまるで獲物を見つけたかの様に獰猛な目つきへと変わる。
どうやらこちらの噂は鉄血にも回っていたそうだ。散々斬り伏せてきたツケが回ってきたのかも知れない。
「知ってるぜ。散々俺らの仲間を可愛がってくれたじゃねぇか?」
「それはすまなかったな。何しろ向こうから喧嘩を吹っ掛けてきたものでな…こちらも抜かずにはいられなかった」
「ま、それはどうでもいいさ。今は…」
ゆっくりとブレードの切っ先が突き付けられる。
「あんたとは一度やり合いたかったんだ。こういうの運命の出会いっていうらしいぜ?」
ゴーストタウンに風が吹く。
まるで戦いの舞台を整えたと言わんばかりに。
「…」
その台詞に答えることなく。
相手を見据えつつ、静かに無銘の鯉口を切った。
「おらぁっ!」
ギルヴァが無銘の鯉口を切った途端、処刑人がブレードを構え突進。
頭部に目掛けて振り下ろされる一撃。だが彼は決して抜刀する事はせず、納刀された状態で簡単に一撃を弾き、持ち手を変え処刑人の足元に目掛けて払いを入れる。
掬い上げるかの様な払いに彼女は態勢を崩され、間髪入れず無銘による振り下ろし攻撃が襲うが辛うじてブレードで自身の前に展開し攻撃を防ぐ。
だが威力だけは完全に防ぐ事が出来ずそのまま地面に叩きつけられ、一度地面にバウンドしてから上手く後方へと回転し、ギルヴァとの距離を取った。
このたった数十秒間で行われた攻防に処刑人は体が歓喜という熱に浮かされそうになる感覚を覚えた。
グリフィンの人形でも彼女と相対して生きて帰るのは難しい。ましてやそれが人間となれば命はないだろう。
簡単にやられる相手ばかりをしてきたのか、気づかぬ内に彼女は求めていた。
自身と対等に戦える奴を。
それが今現れた。
目の前にいるギルヴァという男が自身の飢えを満たしてくれる存在であると。
「ははっ…あははははっ!」
「…」
「あぁ…!これだよ!これだ!俺が求めていた何か!それがまさかお前だなんてな!」
まるで狂ったかの様な処刑人の姿にギルヴァの表情は窺えない。
無銘を握ったまま、動く気配すら見せない。様子を窺っているのか、あるいは相手が動き出すのを待っているのか。どちらにせよその真意は彼の後ろに立つ95式さえ分からない。
「さぁ…俺を楽しませてくれ!」
地を蹴り、一気に間合いを詰める処刑人。
両手で持ち手を握り右へと薙ぎ払う。黒鉄の刀身が迫る。
ギルヴァは身をかがめて攻撃を回避しつつ、幻影刀を展開、連続投射。
(なっ!?)
突如として現れた幻影刀に内心驚きつつも、その場から後退しハンドガンを引き抜く
迫りくる幻影刀を撃ち落とし、撃ち落とせなかった分は素早くブレードを振るい叩き落とす。
ガラス細工の様に砕け散っていく幻影刀。そして最後の一振りを弾き飛ばすが、彼女は目を疑った。
そこにはギルヴァの姿がない。あの一瞬で逃げたのかと思うが、助けに来た筈であろう仲間を放置するとは思えない。ならばどこへ?
辺りを見回すが、彼の姿は何処にも見えない。まさか本当に…?
この時、処刑人は気付いていなかった。
迫りくる幻影刀の最後の一つだけが砕け散る事無く宙へと舞った事に。
それが攻撃を意味したものではなく、移動を意味したものだとすれば?
「何処を見ている」
「っ!!」
真上から聞こえた男の声。
空を背に、鞘からは銀色に煌めく刀身がその姿を現し、無銘を構えるギルヴァの姿。
体を捻るかの様に勢い良く刀を処刑人にへと振り下ろす。何が起きたのか分からずじまいでありつつも、寸での所で彼女は横へと転がり攻撃を回避。その直後降ってきた袈裟斬りがガキン!と音を立て地面を削り、多少の隙が生まれる。
そこを見逃さなかった処刑人はブレードを前へと突き立て突進。
最速の刺突が放たれるが、ギルヴァはそれを上手く刃で受け流して態勢を崩し、処刑人は前方へと押し出される様な状態になるが無理やりブレードを後ろへと薙ぎ払った。
だが、読まれていたのか背中の後ろを刀身が塞ぎ攻撃が防がれる。そのまま処刑人は地面へと叩きつけられるが瞬時に手をついて一回転。態勢を整えるとつかさずギルヴァへと突撃する。
「らあぁっ!!」
袈裟斬り、逆袈裟、右切上、左切上。恐ろしいまでの速さで繰り出される斬撃の数々。
だと言うのにギルヴァは無銘を納刀した状態で全ての攻撃を弾ていた。火花を散らしながら繰り返される攻防。まるで嵐の様な攻防ではあるが、それは次で終わりを告げる。
一瞬の隙を突き、ギルヴァは無銘を抜刀し一閃。その鋭い一撃はブレードの剣幅で塞がれるが彼は間髪入れず逆袈裟。そこから柄を逆手にして持つと勢い良く右切り上げ、左切り上げ。逆手にして繰り出された二回の斬撃から衝撃波が放たれ、処刑人には防御態勢を崩してしまう。
(蒼。何でもいい、打撃武器を錬成してくれ)
―何に使うんだよ!?
(それは見てのお楽しみだ!)
ギルヴァに言われた通り、蒼は魔力を用いて武器を錬成し、彼の手元へとそれが現れる。
それは嘗て玉を打つために用いられたもの。木製と金属があり、スポーツで用いられる事もあれば、犯罪にも用いられる一品。
その名も「バット」である。
何故それなのかはともかく。
無銘を納め、それを宙へと放り投げるとギルヴァは魔力で錬成された浅葱色のバットを掴んだ。
そして大きく振りかぶり、狙いを処刑人へと定める。
「ちょ…てめっ!」
「悪いが戯れもここまでだ」
地を大きく踏み込む。
そして蒼が叫ぶ。
―ホームランだなッ!!
力の限り勢い良くバットをフルスイング。
まるで巨大な鉄球がぶつかったかのような一撃が処刑人を襲い、あろう事か彼女は一瞬にして空へと流星の如くへと吹っ飛んだ。
「ぎゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…」
断末魔が響き渡るがそれも数秒程度で聞こえなくなり、そのまま処刑人は星になっていった。
残ったのは放り投げ、そして今落ちてきた無銘をキャッチしつつ額に付いた汗を拭うギルヴァと星になった処刑人を何とも言えぬ表情で空を見つめる95式と手放してしまったであろう処刑人の愛剣だけとなるのだった。
「意外と地味だな。もっと派手になると思ったが」
―星になっただけ、十分派手だと思うが?
「それもそうか」
何となく納得がいかない気もしなくはないが、今はそんな事を気にしている暇はない。
頭を切り替え、95式の元へと向かうと何とも言えない表情で座り込んでいたがこちらが近づいてきた事に気付き、笑顔で迎えてくれた。
笑顔になる前に表情は何だったのかと少し疑問に思いつつも彼女へと声を掛ける。
「敵は片付けた」
「ええ。本当に助かりました」
すると一機のヘリがこちらへと接近していた。
恐らく依頼人が言っていた捜索部隊なのかも知れない。
ヘリは自分達が居る所から少し離れた所に着陸。降りてきた戦術人形が95式!と彼女の名前を叫んでいた。
「皆…!」
不安が払われ安心したのだろう。薄っすらと95式の瞳から涙が出つつあった。
今すぐ駆け出していきそうな感じではあったが、片足が無い為立つ事すらままならない。
彼女へと近づき、背と足に腕を通して持ち上げる。
「ギ、ギルヴァさん!?」
「何だ?仲間が来ているんだ。ヘリまで送る」
「は、はい」
彼女をお姫様だっこしながら捜索部隊へと向かう。
あちらもこちらに気付いたのたが、一部は95式が無事だった事に安堵し、一部は顔を赤らめている。
何故顔を赤らめているのかは知らないが。
そこで95式に預けている旅の仲間の事を思い出し、その事を彼女に尋ねる。
「ニャン丸は元気か?」
「ええ。あの時と同じ様に何時も甘えてきますよ。そう言えばあの子、最近土鍋の中で眠る様になっちゃったんですよ?」
「何で土鍋の中なんだ…」
「つい貰ってしまって…気付けばニャン丸の寝床に。それに周りの皆からはニャン丸ではなく、土鍋って言われたりするんです」
「それはまた…。うちに来た時は土鍋を用意しておくかな」
「ええ。その時は私も、そしてあのバイクも一緒です」
「楽しみにしている」
彼女の仲間達の元へと到着し、95式をヘリに乗せる。
周りの安全が確認できたのか、次々と仲間が機内へと乗り込んでいく。
そろそろ別れの時間がやってきた様だ。
「…またお別れですね」
「その様だな。…また会える」
「!…ええ、そうですね。あ、そう言えばお店の名前は…」
「あぁ。店の名前はDevil May Cry…君が考えてくれた名前を使っている」
「そうですか。何だか嬉しいです」
「こちらも良い名前を付けてくれた事に感謝している。……また会える事を祈っている、95式」
その言葉で締めくくりヘリのドアを閉める。
少し後ろへと下がると、機体は離陸。そのままゴーストタウンを飛び去った。
段々と小さくなっていくヘリと見届けつつ、自分もその場から去ろうとした時、ふと地面に突き刺さったままの大剣が視界内に映る。
あのハイエンドモデルが持っていた武器ではあるが…。
「…」
持ち手を握り、片手で勢い良く振るう。
「ふっ…ってぇぁッ!!」
唐竹、袈裟斬り、逆袈裟と繰り出して、最後は勢いのある刺突。
ふむ…意外と悪くないな。だが持ち手の部分が少し握りづらいな。使えない訳でなさそうだが…。
「一応貰っていくか。…要らなくなったら何処かに売りさばくか」
―売ったらあのハイエンドモデルの怒りを買うと思うんだがなぁ…。
そんな会話をしながら、バンの中で待っている代理人の元へと向かった。
誰も倒すとは言ってないぜ?
さて…次はどうしたものかね。内容は未定なので、更新はかなり遅くなるかと。
まぁ…うちは内容は酷いったらありゃしないから見捨てられるかも…(震え
こんな作品で良ければどうぞよろしくお願いいたします…
では次回お会いしましょう。