大雨が降る日にて、ギルヴァはある事が気になった。
それは代理人が放浪の際に戦闘とかどうしていたのか、という事だった。
初依頼から数日が経った。
約束通り、依頼人は報酬をS-10地区前線基地に報酬を送り、そのままこちらへと指揮官から渡された訳なのだが、予想していた額を遙かに上回る額だった事に自分を含め、蒼、代理人も驚いていた。
指揮官が言うには本来の目的に加え、鉄血のハイエンドモデルを退けた事が大きく関係しているらしく、依頼人はその事を知って、追加報酬を出したとの事。
恐らくだが救出対象だった95式が依頼人に口添えしたのだと思う。あの時、鉄血のハイエンドモデルを退けた所を見たのは彼女しかいないのだから。とは言っても確証は無い為、分からないのだが。
それから数日後。
何時もの様に店の書斎で読書を楽しんでいると紅茶が入ったカップがそっと置かれた。
それに気付き、視線をそちらへと向けるとトレーを片手に立っている代理人がいた。
どうやら気を使って紅茶が淹れてくれた様だ。
「わざわざすまないな」
「いえ。それはそうと読書を始めてからかれこれ三時間も経っていますよ?少し休息を取ってはいかがですか?」
「む…もうそんなに経っていたのか」
本を閉じて、時計を見てみると代理人が言った様に読書を始めてから三時間も経っていた。
確かに休息を挟むべきだろう。淹れてくれた紅茶を一口飲む。
甘さ過ぎず、渋過ぎず、丁度良い味が口の中に広がる。
「うん…美味しい」
「お口に合って良かったです」
今日は依頼が来る様子がない。
このまま一日を過ごす事になりそうだな。
「そう言えば、以前の依頼の報酬はどうなさるのですか?」
「そうだな…。今の所はこれといった使い道は考えていない」
「でしたら、バンの改造費に当てていただけないでしょうか?」
「バンのか?」
「ええ。遠くへ移動する際もバンはとても重宝すると思います。ですが防弾使用など今後に役立つ仕様を施しておくべきだと思うのです」
確かにあの車両は今後も大きく役に立つだろう。
それに代理人が言う事も間違ってはいない。
「分かった。報酬はバンの改造費に当てて構わない。どの様な仕様にするかは任せていいか?」
「お任せくださいませ」
彼女の事だ。
無茶苦茶な改造を施す事はしないだろう。
だが代理人はあのバンに何か思い入れがあるのだろうか?その事は聞かされていない為分からないが…。
「しかし依頼が来ませんね」
「そうだな。それに外は大雨だ」
そう。
今日は朝から雨が降っていた。それもかなりの勢いで。
こんな雨に依頼してくる客もいないだろうと思いつつも、個人的には雨の日には動きたくないという思いもある。
ずぶ濡れになるのはあまり好きではないのでな。
「ですね」
窓から見える外を眺めながら、そう呟いた代理人。
その彼女の姿を見て、ふと疑問に思った。
本人から聞いた話では鉄血を離反した後、ずっと自分を探して放浪していたと言っていたが…。
その間敵との戦闘はどうしていたのだろうか?離反した事は知られている筈なので、道中味方であった者と鉢合わせする事もあっただろう。
それにだ。自分はあの時、彼女の武装と腕を斬り落としている。
見た所、手は修復しているみたいだが武装に関しては分からない。
―結構刺激的な武装展開をするからな。
正直何故そこに武装を配置したのか分からん…。
それは兎も角。
疑問に思った事を早速彼女にへと尋ねてみる。
「そう言えば、手の方は修復しているのだな」
「え?…ああ、手ですか。ええ、御覧の通り修復していますわ。それがどうかしましたか?」
「いや、俺を探して放浪していたと言っていたのを思い出してな。その間どうしていたのかと思ってな」
「そうですね…。手の方は修復しましたが、武装に関しては修復もせず鉄血を離反しましたからあの時のままですね」
「なに…?」
今、さらっと凄い事を言わなかったか?
武装に関しては修復していないだと?では今までどうしていたのだ?
その事が顔に出ていたのか、代理人は右手で拳を作るとにこやかに言った。
「ですので、放浪している時は基本素手で敵をぶちのめしていましたね」
驚きの事実が発覚。
目の前にいるメイドは君を確実にぶちのめす系メイドだった。
「とは言っても、状況によっては落ちていた武器も使用していましたよ。鉄血の物の時もあれば、普通の銃も。時には鉄パイプを用いた時もありましたね」
意外と使い心地は悪くなかったですけど、と語る彼女。
あの時の性格は本当に何処に行ったのか。もはや敵を倒すなら手段を選ばなくなっている。
それに銃器以外に鉄パイプを用いていただと?何だろう…彼女と鉢合わせた敵が可哀想に思えてきた。
―それを言ったら、お前と敵対した奴らも可哀想だがな?
…さて、何の事やらか。
蒼に言われた事に素知らぬ振りをする。
だが流石に現地調達品ではどうかと思ってしまう。何とかして代理人専用の武器でも持たせるべきだな。
しかしこの辺りにレーゾンデートルが眠っていた場所みたいな所などあっただろうか。
この地区の周辺はあまり詳しくないからな…さてどうしたものか。
―その様な建物ならこの辺りに幾らかあったぞ。
「ん?」
「おや。フードゥル、おかえりなさいませ」
―うむ。ただいま
店の裏口から基地内の散歩へと行っていたフードゥルが戻ってきた。
それよりも先程言った事は本当なのだろうか。
「フードゥル、それは本当か?」
―うむ。以前この地区を散歩した事があってな。その際に幾らか見繕っておいた。そこで人が居る気配はなし、だが形が残ったままの建物をな。
「いつの間に行っていたのかは不問にするとして……フードゥル、その建物がある場所を教えてくれないか」
ここ周辺の地図を取り出し、彼の前に広げ、教えてもらう。
どうやら細かい位置まで覚えているらしく、彼の記憶力の高さに感服する。
流石は魔界の精鋭部隊の隊長を務めたまでの事はある。
―これで全てだ。
「ふむ…この辺りに6つもか…」
これだけあれば良い掘り出し物に出会えるかも知れない。
それに代理人用の武器も見つけられるだろう。
正直何でも使いこなしそうな気もするが念のため聞いておくとしよう。
「代理人」
「はい、何でしょうか?」
「今後使う武器として、何か希望するものはあるか?」
「そうですね…」
腕を組み、考える素振りを見せる代理人。
数分してそれは解かれ、彼女は満面の笑みを言った。
「鈍器ですかね」
「鉄パイプにでも取り憑かれたのか、お前は」
いつか彼女の通り名として、撲殺系従者という名でも付いて回りそうだ…。
だがしかし鈍器か…まぁ彼女の希望に添う様な武器があればいいのだが。
「しかしそれがどうかされたのですか?」
「先程の話を聞いたら、今後使う武器も必要だろうと思ってな。現地調達品では限度があるからな。だから明日は店を休みにする。君用の武器を探しに行くとしよう」
「つまりデートですね?」
「いや、誰もで「デートですよね?」…勝手にしてくれ」
「はい。ふふっ…明日が待ち遠しいです」
そのまま上機嫌な様子で代理人は店の台処へと入っていった。
何か間違えたかも知れないと思いながら、中断していた読書を続けようとした時、電話が鳴った。
依頼か?そう思いながら受話器を取った。
「デビルメイクライ」
『はぁーい、ギルヴァ』
「45?どうした、何か依頼か?」
『ううん。でもギルヴァに伝えたい事があってね』
「伝えたい事?」
『うん。それはね…』
『次は私とデートしてね?』
「お前はここを盗聴しているのか?」
どうかしら~、とはぐらかす様に彼女からの電話が切れる。
―次のデート相手は決まったな?
…その様だな。
いつかここに来るかも知れないからな…。
その時が来るまで、この地区周辺を知っておく必要がありそうだ。
という訳で次回はデート?でございます。
さて…武器は何にするかなぁ…
次回お会いしましょう。