Devils front line   作:白黒モンブラン

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もうあの時の様な思いをしない為にも。
彼は内包する「魔」を開放し彼女が居る合流地点へと飛翔する。


Act21 合流

合流地点へと駆け抜ける。

代理人が飛行場の一つを叩いたおかげで現状は敵の数は大したことではない。だが他にも飛行場があるので増援部隊がここに集まりだす前に彼女と合流し、脱出するか。

あるいはこの領域内に居る鉄血兵を一人残らず殲滅するか…そのどちらかを選択する必要がある。

こちらは無銘があるので問題ないが代理人やS-9の面々は違う。弾薬や配給にも限度がある。

また長期戦はかえって鉄血に隙を与える形になりかねない。ならば取る手段は前者を選択すべきと判断。

 

『ギルヴァ、聞こえますか?』

 

「聞こえるぞ」

 

『どうやら敵はそちらへと向かい始めた模様。また別の飛行場からも増援部隊が出ているみたいです』

 

「…やはりか」

 

『ええ。ですのでこのまま私は飛行場の制圧、そして周囲の敵の一掃に取り掛かります。そちらは合流を急いで下さい。それまでには帰り道を楽なものにしておきますので』

 

「了解した。…頼むぞ」

 

『仰せのままに』

 

代理人との通信が切れた直後、何処からか連続してやたら大きな爆発音は響いた。

確かシルヴァ・バレトの予備弾倉の一つは榴弾が装填されていた筈…この爆発もそれによるものだろう。

最もあれは銃というより砲だ。撃ち出される一撃はニーゼル・レーゲン程ではないにしろとんでもない威力を誇る。下手すればあれ一つで戦況を変えられると言っても過言ではない。まぁそれを言えばニーゼル・レーゲンの方もそれに該当するのだが。

 

―もはや一種の軍隊だな、俺達。下手すればやばい連中に目を付けられそうだ。

 

「そうなるのであれば、全力で抵抗するつもりであるがな」

 

―言うと思った。

 

戦場とは違い、静かさに包まれ、斬り伏せた鉄血兵の残骸が残る一本道を駆け抜けていく。

走る度に響く渡るブーツの音と自身の息遣いだけが聞こえる。あとどれくらいか?敵の数はそれくらいか?

何よりもM4A1は大丈夫だろうかと、そういった思いが頭の中を過る。

だが今は自分の事も心配する必要がある。幾らこの身が人でないとしても、油断はできない。

作戦領域にいる鉄血は俺達を相手にするよりも保護対象を始末する事を優先的に動いている。

それ程彼女が得た情報は鉄血にとっては何としても阻止しなくてはならないという事なのだろう。

現に向こうはかつて倒したマンティコアを空戦用に改造したであろう兵器を持ちだしていた。そこまでするのだから本気度合いがどれ程の物か言わなくても分かる。

そう思うとつい走る速度が速くなる。それほどに自分は彼女の事が心配なのだろう。

その理由は何故か?それは考えなくても分かる。

 

「カエデに似せているせいか…」

 

彼女は妹のカエデではない事ぐらい知っている。

違うと自分に言い聞かせても何故か今だけは心配で仕方ない自分が居る。

 

―それで良いんじゃないのか?

 

「どういう意味だ?」

 

―妹さんとは違う…それは分かっているんだろう?似ている彼女が心配に思うにも無理ない話さ。だから、全力で助け出せ。こういう言い方は酷いが、昔に起きた事を繰り返したくないだろう?

 

「…」

 

また一段と走る速度が上がる。

そうだ…。もう二度とあんな思いはしたくはない。彼女と関係が深い訳ではない

だがそれでも…!

 

「もうあの時の自分ではない…!!」

 

地を蹴り、広がる夜空に向かって跳躍。

内包する魔力を放出させ、その姿を「悪魔」の姿へと変貌させる。

四枚の翼を羽ばたかせ、彼女が…M4A1が待っている合流地点へ飛翔した。

 

 

 

外から銃声や爆発音が聞こえる。

だと言うのに私がいるここは敵が歩く音だけが響いている。

今日の今日まで逃げていた事もあり、弾も心許ない。奴らを相手にする程の余裕すらない。

また奴らは血眼になって私を探している。正直見つかるのも時間の問題とも言えた。

 

「…」

 

近くの部屋で身を壁際に寄せ、見つからない様に息を最小限に押しとどめる。

先も言った様に弾も心許ない。だがここから何とか出なければ見つかってしまう。

そんな中、私は思った。状況は違えど窮地に陥った時があったな、と。

そしてあの人に…日本刀を手に黒いコートを纏った彼に助けられた。でもあの時の様な奇跡はもう一度起きるとは思えない。

死ぬ訳にはいかない。でもどうしたらいい…!?この状況をどう脱する…!

考えろ…!どうする…どうする…!?

思考が入り乱れる。故に私が身を隠している部屋の近くまで敵が接近していた事に気付くのが遅れてしまった。

弾は少ない。だけどまだ死ねない!

身を出して銃を構える。狙いを定め引き金を引こうとした瞬間。

建物の天窓が音を立て割れた。

 

「ッ!?」

 

突然の事にその場にいた全員が上を見上げた。

天窓を割って現れたのは黒いコートに日本刀を手にした男性。あの時と変わらぬ風貌で再度彼は私の前に姿を現した。鞘から抜き放たれる白銀の刀身。淡く煌きを放ち、その刃は鉄血の連中へと襲い掛かる。

落ちてくる硝子の破片がまるで輝く雨の様で、そんな中でまた一人、また一人と斬り伏せていく。

只々美しく、磨き抜かれた技は相手に死を与える。

そして止めと言わんばかりに黒き疾風が敵の間を駆け抜けた。目に見えない刃が数多の敵を切り刻み、その動きを止める。

背を向け、見る事もなく彼は刀身を鞘に納めながら奴らに告げる。

 

「遅い」

 

鍔と鯉口が合わさり、納まる音が響く。

それに合わせたかの様に鉄血の連中はバラバラに崩れ落ちる。

この間、ほんの数秒。翻弄するかのような動きで、そして舞うかの様な攻撃で、彼は鉄血の人形部隊を壊滅させた。まるであの時と同じ様に…。

また助けられたという情けなさも感じつつも、また助けてくれたという喜びが胸中で渦巻く。

そんな思いを抱えながらも、私は彼の元へと寄る。

名も知らぬ彼は近寄る私に気付き、振り返ると少し安心した様な声で言った。

 

「また会えたな」

 

「はい…。あの時以来ですね」

 

その安心した様な声が何故か私の中で引っかかった。

 

 

 

黒髪で緑色のメッシュが入った戦術人形 M4A1と合流。未だに戦闘は続いているが、先程と比べると戦闘の音は小さくなっていた。

飛行場の制圧と周囲の敵を掃除している代理人に連絡を取ると、あちらも終わった模様。現在聞こえているのはS-9地区の戦術人形の部隊のものらしい。どうやら残党の一掃しているとのこと。

対象と合流出来た事を報告すると、戦闘中に向こうと連絡を取ったのだろうか、向こうの指揮官から救援部隊が到着するまでそこの安全確保し待機していてほしいと代理人を経由して伝えてきた。

安全は確保できているので救援部隊が来るまで待機する事になり、M4A1と待つ事になった。

それから救援部隊が来るまで自分は壁に背を預け身を休め、彼女は自分と少し離れた位置で休んでいた。

話す事もなく終始無言の状態が今も続いていた。このまま時間が過ぎるのを待っていると向こうから話しかけてきた。

 

「先程…どうして安心したのですか?」

 

「…質問の意図が分からないのだが」

 

「私を見て、どこか安心した様な様子が少し気になって…」

 

言うべきだろかと思案する。

だが何故か隠す気にはなれず、話す事にした。

 

「一度助けたという事もあるが……」

 

「あるが…?」

 

「君が死んだ妹に似ていたからだ」

 

「妹さんにですか…?」

 

「ああ」

 

右手を広げ、手のひらを見つめる。

あの時どんなに伸ばしても…この手は届かなかった。守れなかった。ただ見ているだけしか出来なかった。

 

「違うと分かっていた。だけど心配で仕方なかった」

 

「…」

 

「…もしかすれば自分は許されたいのかも知れんな。助けてあげれなかった事に」

 

自虐気味な笑みを浮かべ、M4の方へと向く。

だが彼女は答えなかった。

当たり前だ。こんな事を言われても答えに困るのは当然だ。

 

「まぁこちらの事はどうでもいい。そろそろ救援部隊も来る頃合いだろう」

 

凭れていた壁から離れる。

そのまま自分は出口へと歩き始めた。

 

「どこへ?」

 

「目的は果たしたからな。このまま帰る」

 

今頃代理人が近くに車を止めて待っている筈だ。

余り待たせるつもりもない上に報酬の話は店を出る前から決まっている。

もうここにいる用はない。ドアに手を伸ばそうとした時…。

 

「最後に教えてください」

 

彼女からの声によりその手を止めた。

後ろへと振り向くと、ゆっくりと彼女が歩み寄ってきて、自分の目の前で止まった。

 

「貴方の名前を…教えてください」

 

「…ギルヴァ」

 

「ギルヴァさん……また会えますか?」

 

〈また会えるよね?〉

 

今の彼女と初めて出会った妹の姿が重なってしまう。

分かっているというのに、どうして自分はこうも踏ん切りが付かないのだろうか。

これも…心が「人」としての自分の本来の弱さか。全く答えははっきりしないものだ。

気付けば自分は右腕を伸ばし、その手を彼女の頭へと置いた。

 

「どうかな…。だがお互いに生きていれば会える」

 

「…約束してくれますか?」

 

「…ああ、約束しよう」

 

その手を下ろし、再度背を向ける。

今度こそはと思ったが、ある事を思い出しのでそれを彼女へと伝える。

 

「もしも…手が必要あればS-10地区にある店を訪ねるか、連絡してこい」

 

「店?それはどういう…」

 

「便利屋を開いていてな。無償とは言えんが、依頼してくれるのなら引き受けよう」

 

それだけだ、と言い残して自分は外へと出て行った。

すれ違いざまに救援部隊が彼女が居る所へと向かって行ったのですぐに合流できるだろう。

満天の星が見える空の下で近くで車を止め、待っていた代理人と合流する。

 

「終わりましたか?」

 

「ああ。帰ろうか」

 

「そうですね」

 

二人して車に乗り込み、代理人がエンジンを掛ける。

自分はジュークボックスのボタンを押してから助手席に腰掛けた。

流れた曲はとても静かな曲だった。

 

 

 

 

 

彼…ギルヴァさんが出て行った後、私はそっと頭を触れた。

先程まで頭の上には彼の手が乗せられていた。男性に頭を撫でられた事は今までなかったが、とても心地よかった。まるで姉さんに頭を撫でられる時の様な…優しい感じだ。

思えば姉妹は居れど、兄というのは居ない。だからだろうか…。

 

「また会いましょう…。…お、お兄ちゃん」

 

彼の事を何故かお兄ちゃんと呼びたくなってしまったのは、今だけだと思いたい。




という訳でM4救出作戦はこれにて閉幕。
ある種、ギルヴァの弱さが少しだけ出たところかも知れない。
彼だって心は「人間」ですから…。


さてはてお次はどうするかねぇ…。
次回更新は遅れるかもです。何卒ご容赦を…。

では次回お会いしましょうノシノシ


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