Devils front line   作:白黒モンブラン

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作戦に向けて彼らは準備を始める。
そして今夜、パーティーの始まりが告げられる。


Act25 Let`s Lock!

明日に大規模作戦を控え、代理人とフードゥルには準備等をしておく様に伝えた後、自分は指揮官が居る執務室にへと向かっていた。

基地内も作戦の事があって慌ただしく、出撃が決まっている戦術人形達は各々準備をしていた。

奥まで続く廊下にブーツの底が当たる音を響かせ執務室へと向かう最中、一人の戦術人形が窓越しから外を眺めていた。

銀髪に紅い瞳、黒いコートを羽織り、制帽を被った戦術人形…Kar98kがそこにいた。

彼女とは一度だけであるが会話をした事がある。最も何を話したのか覚えていないが。

どこか決意と迷いの双方を感じさせる表情を浮かべるが、その根幹にあるものは彼女にしか分からない。

下手に声をかける気にもなれなかったので、そのまま通り過ぎていこうとする。

だがそれは叶わず、こちらに気付いた彼女が声を掛けてきた。

 

「あら、ギルヴァさん。ごきげんよう」

 

「ああ、ごきげんよう。外を眺めていたが…何かあったのか」

 

「やだ、見ていらしたので?」

 

その問いに頷き、彼女の隣に立つ。

 

「偶然ではあるがな」

 

「そうですか…」

 

会話が止まる。

明日に作戦を控えているというのに、この場所だけ静けさを残っている気がした。

お互いに沈黙を貫き、会話は始まらず、時間だけが過ぎて行く。

このまま彼女の口から出る話を待つか、自分から聞き出すか、二つの選択肢が頭の中で浮かんだがそれを決める前にカラビーナがこの沈黙を破った。

 

「今回の作戦に私も出撃する事になりましたの」

 

「…」

 

「従来通りの作戦とは違い…E.L.I.Dとも違う存在。…悪魔でしたか?…攻撃が通ると分かっていたとしても…」

 

「…不安か?」

 

「ええ…」

 

分からない話ではなかった。

自分自身が悪魔であるが故に、そしてアンジェロと戦った事もあって悪魔という存在は知っている。

404小隊のメンバーも俺を通して悪魔という存在を知った。

だが今回の作戦に参加する面々はどうだ?

倒した敵の死体の中から食い破って出てくるのはE.L.I.Dとも全く違う別の存在。

銃弾による攻撃が効くと分かっていたとしても不安になるのも無理もない。

 

「状況は違うが、少しだけ不安を和らげる方法がある」

 

「それは…?」

 

「…手を出してくれないか?」

 

「え?あ…はぁ」

 

戸惑いながらも差し出されたカラビーナの右手を両手で優しく包む様に握る。

 

「母がよくやってくれた方法だ。こうやって誰かが自分の手を握ってくれるとどこか安心する」

 

「…指揮官の手とは違い、大きく、ごつごつとした手ですこと…」

 

「嫌だったか?」

 

「いえ…。貴方なりの優しさがこの手から感じられますわ…」

 

「そうか…。…不安は少し和らいだか?」

 

「ええ。おかげさまで」

 

そうかと言って、手を放す。

しかしまさかこれを教える事になるとはな…昔の自分が見たら何て言うか。

全く…人生というのはつくづく分からないものだ。だが悪い気分ではない。

 

「不安が少し和らげたのなら良かった。そろそろこれで失礼する。…明日の作戦では宜しく頼む」

 

「ええ、こちらこそ。ギルヴァさんの力、この目でしっかり見させて頂きますわ」

 

そうか、とだけ残して自分は背を向けて歩き出す。

少し寄り道をしてしまったが、特に問題はない。

 

この後で指揮官に出撃する部隊の事を教えてもらった。

この基地における最高戦力であるらしく、カラビーナもその一人であった。

また他のメンバーは、AR戦術人形 FAL、SMG戦術人形、スコーピオンとVector、HG戦術人形、アストラ。

FALはあの時出会った彼女だ。まさかここの所属だったとは思わなかったので会った時は内心驚いた。

スコーピオン、Vector、アストラとは会った事はないので一度顔合わせしておきたい所であるが、こちらも準備で忙しいのもあり、会うのは作戦決行前となってしまったのだが…。

どうやら指揮官が前もって伝えてくれたらしく、こちらの事はまっかせてー!と代表してスコーピオンが指揮官に伝言を頼んでいたらしい。

どんな娘かは分からないが、その言葉を信用するとしよう。

 

時は過ぎ去り、ある場所へと来ていた。

そこはこの地区内でひっそり経営している武器屋。多くの銃器、弾薬、その他諸々といった商品を取り扱っており、利用するのは初めてではない。

扉を開き、店内へと入るとカウンターで何らかの作業している店主の姿があった。

こちらが訪れた事に気付いたのか、ゴーグルを外して頬に付着した汚れをぬぐいながら話しかけてきた。

 

「いらっしゃい。例のものは出来ているよ」

 

「助かる」

 

店主は椅子から立ち上がると奥の部屋へと引っ込んだ。

だがすぐさま戻ってきて、カウンターの上にそれを置いた。

それはフェイク用の45口径弾とレーゾンデートル用の弾薬、そして専用のスピードローダーだ。

一週間前に頼んだ筈だったのだが、随分と仕事が速いものだ。それに手抜きすらしていない。

もはやそれは職人の域に到達していると言っていいだろう。

それもその筈。この店主、時間さえあれば様々な弾薬や戦闘に役立つ備品を自主制作、挙句の果てには銃の改造をしているのだ。材料等はどうしているのか知らないが…。

流石に専用の予備弾倉を作ってほしいと頼んだ時は驚かれたが。

 

「いやはや。弾薬とはともかく、こんな予備弾倉を作る羽目になるとは思わなかったよ。まぁ作りごたえがあって悪くなかったがな」

 

「そうか。代金はここに置いておくぞ」

 

「あいよ、毎度あり。それと約束、守ってくれよ?」

 

「分かっている。ほら」

 

ホルスターからレーゾンデートルを抜き、それを店主の前に置く。

それを見た店主は目を見開きつつも、それを眺めていく。

 

「はー…これはまた凄いもんだ。連装化された銃身、シリンダーの薬室は12。それであって同時に弾を放つ特殊機構…。長い事銃の携わる仕事をしてきたが、こんな銃は初めて見た。てかこんな銃を作るなんざ、そいつ相当の変態だぞ。まぁこんなおもてぇ銃を片手で扱うあんたもそうだがな」

 

「酷い事を言ってくれる…」

 

「でもまぁあんたとっては大事な相棒なんだろう?大事にしなよ?女を扱う様にな」

 

「彼女もいないのでな、その扱いがどういうものかは良く分からないが…。大事にするつもりだ」

 

レーゾンデートルをホルスターに納め、品を手に取る。

そのまま店を出ていこうとした際に、カウンターから少し離れた所に配置されたガンケースの中にあるものがこちらの視線を引いた。

そこに置かれたあったのは水平二連装ショットガン。だが改造を加えているのか弾倉が装備されている。

店主が改造したのを商品として売り出しているのだろうが、買い手が居ないのかそれは静かに眠っていた。

 

「それが気になるか?」

 

「ん?…ああ。これは店主が?」

 

「まぁな。この店を開いた始め辺りに商品として出してな。それにこれは俺が初めて改造手掛ける様になったきっかけを作った一品だ」

 

「きっかけを作った銃なのに、商品として売り出すのはどうなんだ?」

 

「よく言うだろ?孫にも旅をさせろって」

 

「この銃も孫という訳か」

 

銃の事は詳しい方ではない。

だがこの銃は待っている様にも思えた。誰かの手によって外へと出る事を待っているかの様に。

 

―買うのか?

 

店主の初めての力作だ。それにこいつも外の空気を吸いたかっている。

 

「店主、この銃、幾らだ?」

 

「ん?それはどういう…」

 

「そのままの意味だ。幾らで買える」

 

「そうだな……。タダでやるよ」

 

「何…?」

 

きっかけを作った銃なのに、タダで言い出した店主に驚いた。

そんな安易に言っていいものなのだろうか?

 

「今の今までこいつを眠らせていた俺にも責はある。贖罪にしては大袈裟かも知れんがな」

 

「…良いのか?」

 

「構わんよ。だがこれだけは守ってくれ」

 

「何だ?」

 

「そいつが壊れたり、故障した際は必ず俺の所に持ってきてくれ。他のとこに修理させる様な真似はしないと約束してほしい」

 

その瞳は親だった。

彼にとってはこの銃も大事な孫同然という訳か。ならばその約束を破るつもりにはなれないな。

 

「分かった、約束しよう」

 

「決まりだな。大事に扱ってくれよ」

 

店主はガンケースからその銃を取り出し、丁度良い箱に梱包してこちらに差し出した。

それを受け取り、自分は店を後にする。

その直後。うっすらとだが…「しっかりやれよ…」と彼の声が聞こえた。

その言葉は初めての力作に向けられたものなのだろう。とても優しい声だったと言っておこう。

 

 

「ただいま」

 

「おかえりなさいませ」

 

武器屋から店に戻ると代理人が迎えてくれた。

彼女の方もあらかた準備の方は終えたのだろう。最終調整でシルヴァ・バレトの整備を行っていた。

買ってきた品を机の上に広げ、専用の予備弾倉に13mmの弾を装填し、ガンベルトの腰に当たる位置にいくつか吊り下げた後、店主から貰った力作を箱の中から取り出す。

水平二連装ショットガン。排莢と同時に次弾装填が行われる機構が備わっているみたいだ。

最初の作品にしては、良くこの様な機構を思いついたものだ。

レーゾンデートルを作った奴を変態だと言っていたが、彼も十分変態だ。

 

「おや、買ってきたのですか?」

 

「いや、店主がくれた」

 

「まぁそれは気前の良い事で」

 

「確かにな」

 

取り敢えず名前を付けなくてはならないが、ゆっくり時間をかけている暇はない。

今度名前を考えるとして、ソファーに腰掛けてシルヴァ・バレトを整備をしている代理人の隣へと腰かける。

 

「どうかされましたか?」

 

「少し話をしようと思ってな」

 

「それは愛の告白?それとも今から部屋で二人っきりの時間でも過ごすお誘いでしょうか?」

 

「そうでない事ぐらい気付いているだろうに」

 

「ふふっ。ええ、気付いていますわ。…今回の作戦の事についてですよね?」

 

「ああ。…作戦の流れは大方分かっているな?」

 

そう。

今回の作戦の流れは、404小隊を乗せたバンで敵拠点に真正面から突撃。

そのまま敵を一掃した後、自分と404小隊が内部に侵入し道中の敵を排除しつつ目標の一つである裏切り者の排除を目指す。

また基地内部の制圧は代理人、フードゥル、S-10地区の第一部隊、そして今回援軍として参加する面々で行う形となっている。

そういう事もあり、今回は彼女とは共に行動出来ないのだ。そして今回は悪魔が相手になる。

フードゥルも一緒にいるので大丈夫と思いたいが…。

 

「ええ、分かっていますよ。それに貴方と一生の別れを向かえるつもりはないのでご安心を。濃厚で官能小説並みの一夜を共に過ごすまで死ぬつもりはないので」

 

「最後の部分がなければまだマシだったのだがな。…無理はするなよ」

 

「ギルヴァこそ。無理をしたら承知しませんので」

 

「…肝に命じておこう」

 

「ええ、肝に命じてください」

 

ソファーから立ち上がり、自分は書斎の椅子に腰掛ける。

作戦までまだ時間はある。このまま時が来るまでのんびりするとしよう。

のちに再度ブリーフィングが行われるだろうから…今は身を休めておくとする。

そして相棒にも声を掛けておく。

 

頼むぞ、蒼。

 

―あいよ、相棒。おいたが過ぎた奴らを泣かせるとしようか。

 

 

 

 

辺りは闇に包まれ、バンもエンジンを消してその時を待っている。

運転席の代理人はその時が来るまで目を伏せて待っており、荷台の方では404小隊の面々とフードゥル。

奥は暗く上手く見えないが、うっすらと人権保護団体の過激派が拠点としている基地が見える。

S-10地区から離れたゴーストタウンの中で、まるで自分達が支配者と言わんばかりの大きさだ。あの中にどれ程の敵が、悪魔が潜んでいるのか分からない。だがやらなくてはならない。

恐らくあの基地の中には、囚われている人形達や子供たちが居る。無視はできない。

 

『S-10地区第一部隊隊長、カラビーナ。配置に付きましたわ。他の方々も配置に付いた模様ですわ』

 

「分かった。ありがとう、カラビーナ」

 

『いえ。ギルヴァさん…ご武運を』

 

カラビーナとのやり取りを終え、代理人、そして404小隊とフードゥルへと視線を送る。

全員静かに頷き、いつでも行けると言わんばかりの様子だ。準備は整った。

後は配置に付いた面々にパーティーの開幕の合図を知らせるだけだ。

 

「始めましょう」

 

代理人がバンのエンジンをつける。

バンも調子がいいのか、高らかにその雄叫びをあげた。

アクセルを踏み、徐々にそのスピードを上げていき、段々と基地の正門へと迫っていく。

悪路だと言うのに気にせず、ガタガタと車体を揺らしながらも止まる事は決してない。

正門が見える。護衛が二人いるが気にしない。それどころか敵がこちらに気付き、銃を撃ってきた。

 

「このまま行きます!」

 

―うむ!

 

「行くよ!9!」

 

「分かっているよ、45姉!」

 

「今回は眠るんじゃないわよ!」

 

「…分かってる!」

 

―さぁ、マジな遊びをしようか!なぁ、ギルヴァ!

 

「ああ。そのつもりだ!…パーティーの時間だ…!」

 

 

 

―「「「「「「Let‘s Lock!!」」」」」」—

 

 

 

バンは正門をぶち破り、基地内へと突撃をかます。

パーティーの始まりの知らせを高らかに響かせた。




今日は一端ここまで。
次はギルヴァ&404の面々で敵の親玉の元へと目指します。
え?コラボはって?

一応依頼するつもりではありますが…完全お任せになってしまうけどいいかい?
ネタに困っている、しゃーない、やったるわという方だけどうぞ。
あとで活動報告の方でコラボ依頼の方を投稿するのでしばし待って下され。

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