Devils front line   作:白黒モンブラン

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始まりには終わりがある。
パーティーにも終幕の時が迫っていた。



Act27 終幕

時刻は既に深夜を過ぎている。

数時間もすれば夜も明ける。だというのに未だに絶え間なく銃声、爆発、落雷の音が響き渡り狂騒が鳴り止む兆しは一向に見えない。

だがそれも幕引きを迎えつつあった。塔の最上階で互いに睨み合う二人が今邂逅したのだから。

 

「…」

 

刀身の切っ先を突き付けつつ、ヴァンギスはゆっくりと立ち上がり、目の前の男を見つめた。

 

(俺と同じ…)

 

一目見ただけでヴァンギスはギルヴァが悪魔だと言う事を察した。

そしてこの男こそが一番の弊害だという事も気づいており、罠にかけたつもりだった。

あわよくば地下牢のエンプーサクイーンに食われていてくれと願っていたらしいが、今ここにいるという事は女王は破れたという事を示していた。

だがヴァンギスは元より期待などしていなかった。ギルヴァから感じられる隙の無さから、たかだか魔虫の女王如きにやられるなど思っていなかったからだ。

やはり自分の手で屠るべきだと。

 

「挨拶代わりに一杯奢れと?…随分なご挨拶だな」

 

「…最も外道が出す酒など飲む気にもなれないがな」

 

「そういうな。同族のおごり…有難く受け取るが良い!」

 

ヴァンギスの背中から飛び出している無数の先端が鋭い触手がギルヴァへと襲う。

飛んでくる攻撃にギルヴァは右へ左へと跳躍しつつ回避。そのまま回避行動を取りつつレーゾンデートルを放つ。

触手を迎撃しつつ、彼はヴァンギスへと挑発をかます。

 

「同族?貴様ほど堕ちてはいないがな」

 

「堕ちようが、堕ちまいが同じだろうがッ!」

 

「残念だが人を捨てた覚えはない。その空っぽな頭に刻んでおくんだな」

 

放たれる弾丸。

一回、二回、三回と13mmの弾丸がレーゾンデートルの銃口から放たれていく。

そこでレーゾンデートルの弾が尽きる。即座に弾倉を取り出し、空薬莢を排莢。上手い事スピードローダーを自身の後方かつ上へと放りあげると、彼はその場で一回転した。

ローダーから弾丸が離れ、そして息を合わせたかの様に12の弾丸はシリンダーの薬室へと納まり、回転の勢いを利用しシリンダーを元に戻すと再度ヴァンギスへと狙いを定めるが――

 

「流石に銃では埒があかないか…」

 

そう呟きつつ、ギルヴァはレーゾンデートルをホルスターに収め無銘の柄に右手を添えた。前傾姿勢で低く構え、そして左手の親指を鍔に押し当て鯉口を切った。

鯉口を切る音が部屋全体に澄み渡る。その瞬間――

 

「ふっ…!」

 

地を蹴り駆け抜ける黒き疾風。

間合いを詰め、懐を飛び込みつつ抜刀。

抜き放たれた一撃はヴァンギスの体を軽々と切り上げ、ギルヴァも追従する。

両者が宙へ舞い上がった瞬間、つかさず彼は刀を振るう。右へ一閃から左下へ袈裟斬り。

手首を捻り、下から時計回りに斬り刻むかの様に回転斬り。

そして彼は数回転した後に何故か宙で刀を納め始めた。

 

「馬鹿か!態々隙を晒すとはなッ!」

 

好機と見たヴァンギスは触手を伸ばし、ギルヴァへと放つ。

刃にも似た先端が貫こうと彼へと向かって行く。

しかし、その瞬間――

 

「頭が高いぞ」

 

空間が歪んだと同時に無数の斬撃が触手共々ヴァンギスを斬り刻む。

それは次元斬ではあるのだが、規模が違う。

かつてギルヴァが放ってきた次元斬は比較的小規模かつ斬撃数も多くはない。

だが今放たれたのは大規模かつ斬撃数も段違いの次元斬。

刀全体に魔力を通す時、絶妙なタイミングで放つと発生する次元斬の強化版である。

何故今までしなかったのか?それはそこまでする必要がなかったからだ。寸での所で避けた勘が良い鉄血の人形もいたが、大体は反応できずにやられていった。

しかし目の前の相手は違う。

純粋な悪魔であり、外道である以上出し惜しみする必要などありはしないのだから。

 

「ぐううっ!?ま…まだだッ!」

 

物理攻撃では倒せないと判断したのかヴァンギスは背の触手を束ね翼を形成。

そして両翼を勢いよく前へと羽ばたかせ大型の光弾を放つ。

 

「球技をするつもりはない」

 

が、一直線に飛んできたそれをギルヴァは鞘で弾き返した。

弾き返された光弾に反応が遅れたヴァンギスに直撃。

宙を飛んでいた事もあり、そのまま彼は外へ吹き飛ばされる。この高さで落ちても死ぬ事はないだろうと思ったギルヴァは一度着地すると床を蹴り外へと駆け出す。その時、9を担ぎつつ彼の名を45が叫ぶ。その隣では辛うじて立てる様子だったのかG11が416を抱えている。

 

「ギルヴァ!」

 

「奴を追う。そちらは皆を連れて他の部隊と合流しろ」

 

「分かった!」

 

彼女の返しにギルヴァは静かに頷くと内包する魔力を全面に開放し魔人化を果たす。

四枚の羽を広げ、地上へと急降下していくヴァンギスを猛スピードで追いかける。ギルヴァが追いかけてきた事に気付いたヴァンギスは体を反転させ、小型ながら光弾を放ちつつ触手を飛ばす。

飛び交う攻撃の嵐にギルヴァは刀で迎撃、追撃として幻影刀を無数に展開し投射。ぶつかり合う光弾と幻影刀、斬り落とされていく触手。お互いに距離が段々と縮まっていき、ヴァンギスは拳を、ギルヴァは刀を振るった。

急降下しながら激しくぶつかる両者。攻撃がぶつかる度に衝撃波が飛び、塔の窓ガラスが次々と割れていく。

激しい攻防。だが形勢はギルヴァへと優勢になりつつあった。そんな中、苦しまぎれにヴァンギスが吠える。

 

「何故だ!何故この俺が!この人間界を統べる王となるこの俺が負けるだと!?」

 

「貴様の様な奴が王になると?悪い事を言わん。やめておけ」

 

「何…!?」

 

「確かに力はあるが、それだけだ。見る限り頭も空っぽそうだ。それに特技もなさそうだからな」

 

「貴様ッ!!」

 

挑発を受け激怒するヴァンギス。

それを現すかの様に背から飛び出す触手の数が増える。先程までより段違いの数で触手が一斉に飛ばされる。

それは束ねられ、一つの槍の様に形状を変化させギルヴァへと飛ばされる。

 

「ふっ…!」

 

しかしそれは一刀両断され、バラバラに崩れる触手の中を掻い潜り、ギルヴァがヴァンギスへと急接近する。

複数の幻影刀をヴァンギスの周囲に配置。それを確認するとギルヴァは体を素早く回転させ、踵落としを叩き込もうとした瞬間、配置された幻影刀が一斉に突撃、突き刺さった衝撃により彼の体を打ち上げられる。

それに合わせたかの様に月輪脚からの強烈な踵落としがヴァンギスの頭部に直撃する。

強烈な一撃より彼は一瞬にして地面へと叩きつけられ、広場に轟音が響き渡る。土埃が舞う中、そこに魔人化状態のギルヴァが降り立つ。

 

「…」

 

「…うぐ…ぐうっ……」

 

墜落地点から満身創痍のヴァンギスがよろめきつつも立ち上がる。

威勢が良かった姿から、今の姿は哀れと言えた。まるでそれは奪い去られ命を落とし、また最悪の結末を迎えてしまった者達が与えた呪いの様で。そして呼び寄せたかの様にギルヴァという男に圧倒された。

これは罰なのか、或いは定められた運命なのか。どちらにせよヴァンギスという悪魔の死は刻々と迫りつつあった。

しかしこの悪魔はすがりつくつもりであった。最後の最後の悪あがきをするつもりであった。

 

「…誰にも成し得なかった…!王になる事を…!この俺が王になるのだ…!!」

 

「王、か…。では…これで――」

 

だが目の前の男はそれを許さない。

幼い命を奪い、何の罪もない人形に絶望を与えたこの悪魔を到底許すことなど出来なかった。

誘拐された子供は只々母の名を泣きながら叫んであろう。親の代わりに子供を育てていた人形も幾度ともなく嘆き、悲しんだであろう。

彼も人形に育てられ、その人形に沢山の愛情を注いでくれた。その人がいなければ、今の自分が居ないと言うほどに。

故に彼…ギルヴァは「王」に成り損ねた悪魔に告げる。

 

チェックメイトだ(詰 み)

 

死の宣告を。

居合の構えの状態でヴァンギスとの距離を詰めると彼は素早く抜刀し一閃。

しかしこのままでは終わらない。

ありとあらゆる角度から刀を振るい、ヴァンギスに斬撃の嵐を浴びせる。神速の連撃から逃れる術はない。

腕がぶれて見える程の斬撃の嵐。そして刀を振るう度にヴァンギスへ向けて幻影刀が一つ、また一つを配置されていく。

 

「ふっ…!」

 

斬撃の嵐の最後に横一閃し、ギルヴァはヴァンギスへと背を向けた。

刀を軽く払い、持ち手を変える。刃を鞘に当て、刀身を鞘へと納めていく。

そして鯉口と鞘がかち合う音を響かせた時、彼は静かにヴァンギスに向けて言った。

 

 

 

 

 

「安らかに眠れ」

 

 

 

 

それを合図にヴァンギスへと向けられていた幻影刀が射出された。

魔力で群青色の刀が次々と射出されヴァンギスの体を貫き、そして最後の一撃が胸を貫いた。

「王」になれなかった悪魔は静かに両膝を地につけ、何も成す事無く倒れ伏せた。

言葉を発する事もなければ、動く事もない。足先が粒子となって消えていく。

 

「…」

 

魔人化と解除し、ギルヴァは事尽きたヴァンギスを見下げる。

この基地が、そしてこの広場が彼のある場所だと感じたギルヴァは静かに呟いた。

 

「これが貴様の墓標だ」

 

その呟きにヴァンギスは答える事もなく、粒子となって舞い上がる風と共に消滅した。

すると空の向こうから陽が昇り始めた事に彼は気付く。また戦いの音も消えている事に気付き、耳に付けていた通信機を使って、戦場に居る仲間に告げた。

 

「こちら、ギルヴァ。リーダーは始末した」

 

『こちら代理人。こちらも制圧完了。S-10地区の部隊、そちらは?』

 

『こちらS-10地区第一部隊。こちらも制圧完了しましたわ。それと404小隊の皆さんとも合流しましたわ』

 

次々と制圧完了の報告が通信越しから聞こえ、ギルヴァは安堵する。

また援軍として来てくれていた者がここで囚われていたAUGを保護した報告を耳にしたギルヴァはその者達に礼を述べ、また一つ安堵した。

長い戦いではあったが誰も死んでいない事を嬉しく思い、ついぞ笑みを浮かべる。

 

「代理人」

 

『どうしましたか?』

 

「帰るか」

 

『…ええ。帰りましょうか、ギルヴァ』

 

そのやり取りから察した全員が作戦が完了した事を理解した。

そして勝利した事も。

張りつめていた状況から解放され、誰もが胸を下ろす。

かくして、基地制圧作戦は終幕を迎えたのだった。

 

 

 

 

「疲れた…」

 

本部のヘリやらあちこちに降りてくる中、自分はバンに凭れかけて休んでいた。

代理人とフードゥルは無事。S-10地区の面々も軽傷を負ったが全員無事。

また404小隊は45以外はあの悪魔の攻撃で怪我を負った為、迎えに来ていたS-10地区からのヘリに乗って、先に基地へと戻っていった。45はこちらと一緒にバンに乗って戻るつもりの様だ。

先に戻れと伝えたのだが…

 

「ギルヴァに触れられるチャンスを不意にするつもりはないわ♪」

 

と、笑顔で言われた。まぁ…今回は彼女も頑張ったからな…それ位は構わないか。

 

―お前も…とことん人形に…いや、女には甘いよなぁ?

 

「…否定できんな。そればかりは」

 

前々から分かっていた事でもあったがな。

性格…なんだろうな。やれやれ…自分も人の事言えんな。

いつの日か会う誰かにいじられそうだな…全く。

その後だが、あの時助けた戦術人形 AUGにお礼を言われたり、援軍として来ていた者達と少しだけであるが会話させて貰った。と言ってお礼を言いに行っただけであるがな。

 

 

「はあっ……昇天しそう…」

 

「頼むから変な声を出すな、45」

 

揺れる車内で、助手席に座っている俺の膝の上で45が座っている。

先程から運転している代理人が鋭い眼差しをこちらに向けているが、あえて気づかない振りをしておく。

フードゥルは後ろの方で身を丸めて休んでおり、ジュークボックスからは静かな曲が流れる。

 

「また何時も通りの業務だな」

 

「ええ。と言っても依頼は中々来ませんがね」

 

「耳が痛いな。だがまぁ…のんびりしていて悪くはないと思うが?」

 

「ふふっ、ですね」

 

だが今日、明日くらいは休みにしていいかも知れない。

疲れを癒すには丁度いい。といっても何時もと変わりないがな。

 

 

 

 

 

 

「あ、そうそう。私達、このままS-10の基地で居座る事になったから」

 

「「え?」」

 

「だから、よろしくね?ギルヴァ~♪」

 

―一難去ってまた一難。…二次会かねぇ?




と言う訳で制圧完了です。







まだ締め切りはしていないのですが。
現在、コラボ企画にご参加して下さった方々、この場をお借りしてお礼申し上げます。
ありがとうございます!
あ、まだ締め切りはしていなので、詳しい内容は私の活動報告まで。ではノシノシ

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