二人の時間を過ごし、一日を過ごす。
その一方で彼を巻き込む嵐が迫っていた。
短い、そしてデートっぽくないかも知れないです…許してぇ…(涙
S-10地区は他の地区は様々な商店街や店が存在し、他の地区とは引けを取らない程、その規模は大きい。
酒場、雑貨屋、甘味処、武器屋、ジャンク屋等々…。
この地区で過ごすには十分過ぎると言っても差し支えない。だがこの状態にまでもっていくにも大変だったといつの日か指揮官がそう語っていた。
彼女がここに着任した頃は偶然にも鉄血の部隊が使われなくてなった古びた基地を拠点にし始めた為、毎日の様に激しい攻防があったと言う。その当時は所属している人形も多い訳でもなく、最悪な時は彼女が銃を手に鉄血とやり合ったらしい。彼女と同時期に着任したナガンも自分の命を危険にさらす様な事はするなと何度も言ったらしいが、頑としてナギサ指揮官はそれを聞き入れなかったらしい。
酷い時は油断から一体のリッパ―に接近を許してしまったらしく、最悪な事に銃も弾切れ。リロードしている時間もなく、撃たれそうになった瞬間、あろう事か彼女、何をとち狂ったのかリッパーへ急接近しヘッドロックを決めた後、後ろに回り込んでジャーマンスープレックスを繰り出して頭から地面へと叩きつけると態勢が崩れた所に止めと言わんばかりにドロップキックをぶち込んだと言うのだ。
どうやら親から教えてもらったらしいが…決して勧められた行動ではない。その時は当時所属している人形達にこっぴどく怒られたらしい。その時の事も彼女は「今思えば馬鹿な事やってるなぁーって思うよ…」と苦笑交じりにそう語っていた。
行動がどうであれ、彼女達が戦わなかったらこの地区は鉄血の占拠下にあったであろう。
一週間と続いた戦いはグリフィンが勝利、数か月かけて復興。そして今に至るという訳である。
「こうして歩けるのも彼女達が居たからこそ…という訳だ」
「ねぇ?あの指揮官って人なの?何でプロレス技なんかかましている訳?」
地区内にある小さなカファにて。
窓際に近い席でアイスコーヒーを飲んでいると対面に座りケーキを味わっていた45がひきつった笑みを浮かべながらそう言ってきた。幾ら親に教わったからといい付け焼き刃にも等しい事を戦闘の最中でやる物ではない。
それにあの人柄からしてそんな事をするような人物にも見えない事もあって、45は驚いている様子。
聞かれた以上答えなければならないのだが…悲しい事に返す答えは一つしかなかった。
「さぁな…俺に聞かれても困る」
「だよね…」
「だが…人は危機的状況に陥った時、本人自覚無しに予想以上の力を発揮するとどこかで聞いた事がある。生きたい、死にたくない、諦めたくない…そういった思いが力になっているのかも知れないな」
悪魔にはない…人間が持ち得る強さ。
戦う理由は様々だろう。愛する者の為に、成さなければならない事の為…挙げていけばキリがないがその者達はそれをその手に掴み取る為に、死力を尽くし戦い抜き、勝利を収めたのだろう。
故に自分はその者達に勝手であるが敬意を表している。最も会った事はないが、何時しかこの目で見てみたいと思ってたりする。まぁ叶う事はないと若干諦めてたりするがな。
「ふーん…そういうものかしら」
「そういうものだろう。…ケーキは美味しかったか?」
「ええ。それはすごく」
「そうか、それは良かった。次へ行こうか」
「りょーかい♪」
席から立ち上がり、会計を済ませてカファを後にする。
右腕に45が抱き着いてくるが振りほどく事はしない。以前の作戦で悪魔相手に戦ってくれたのだ。報酬としては安すぎるかも知れないが、満足そうな表情を浮かべているので彼女にとっては最高の報酬なのかもしれない。
それからはというものの二人して様々な所に回った。
武器屋に行って弾薬の調達、雑貨屋では彼女達404の面々が部屋に置く小物を買ったり、酒類販売店に寄り酒を買ったり…時間が許すまでデートを続けた。
時刻は夕刻時。買った物が入った袋を抱え、店へと戻っていた。
空は橙色に染まり、夕陽が段々と沈むもうとしていく。隣には満足そうな表情を浮かべている45。
舗装された道を共にのんびりと歩いていた。そんな中、45が何かを思い出したかの様に尋ねてきた。
「ギルヴァは…どうして悪魔になったかしら?」
「どうしたいきなり」
「少しね…。ほら、以前の作戦であなたが倒した悪魔…あの姿になるまでは人だったから」
「あれは元から悪魔だった。ただ人に化けていたという事だ」
この世界の王になるとか頭空っぽな事をほざいていたが…まぁそれは言う必要は無いだろう。
しかし何故悪魔になった、か…。そう言えばその事を話した事はなかったな。
「しかしそうだな…。ただ死にたくなかったから、悪魔と契約して悪魔になった…それだけだ」
あの時の事を思い出す。
全ての始まり。人から悪魔となったあの日であり蒼との出会い。
それなりに経った今も忘れる事はない。
「ええ~…少し端折り過ぎない?」
「悪いが説明は苦手でな」
「むうぅ~」
「頬を膨らませても駄目だ。まぁ…いつか話す。それだけは約束しよう」
空いている手を彼女へと差し出す。
差し出された手に不思議そうな表情を浮かべる45だが、彼女も空いた手で握ってきた。
「だから今は手を繋ぐだけで勘弁してもらおう」
「もう…。約束だからね?」
「ああ」
歩幅を合わせ、手を繋いで店へと戻る。
そのまま戻ったのは良いが、手を繋いで戻ってきたという状況を代理人に目撃され、ひと悶着あったのはまた別の話。
某所。
S地区から遠く離れたこの場所で一人の青年が人一人住んでいない街を歩いていた。
短髪に銀髪、古びたコートを羽織り彼は何かを目指して歩いていた。
暗闇が支配する、明かりがないここは近寄りがたい場所とも言える。そんな中をお構いなしに突き進んでいく。
手には一枚の写真。
「ここじゃねぇか…。ったく、S-10地区ってどこなんだ…」
そして彼は道に迷っていた。ここからもっと離れた所だというのに青年は気づいていない。
足を止めて辺りを見回し始めた時、何かに気付いたかの様に後ろへと体を向けた。
写真をコートの内ポケットにしまい、その先にいる何かを睨む。
そこに居たのはダイナゲートの群。彼を見つけたのか紅く光らせた目を輝かせて迫ってきていた。
「またかよ…。首輪位つけておけってんだ」
仕方ない、と呟くと彼は方向転換、そのまま思い切り走り出した。
まさかの戦うのではなく、その場からの逃亡を選んだのである。
「さてと…お散歩コースでランニングと行くか!」
人とは思えぬ速さで全力疾走する青年。
その最中で彼はコートの内ポケットにしまった写真を取り出す。
そこに映るのは青い刺繡が入った黒いコートは羽織っている男。手には日本刀を手にしている。
青年の目的が一体何なのか、それを知るのは彼だけである。
「まずはこいつを見つけねぇとな…話はそっからだ」
暗闇の中を青年は駆け抜けていく。
そしてその様子を見ていた第三者が居た。高層ビルの屋上からじっと眺めている。
長く伸ばされた赤毛、整った顔立ちと体つき。そして豊満な胸が目立つ。その場では白を基調としたドレスの様な衣服を身に纏っていた。そこまでは綺麗な女性と思えるだろう。
しかし彼女の頭には一対の角は生えていた。それから察する様に、彼女は人ではない事を差している。
「…似テイル」
カタコト交じりであるが彼女は駆け抜けていく青年を見てそう呟く。
「デモ…違ウ。彼ジャナイ…」
彼女はそっと夜空を見上げる。
思い出すはあの日の事。まだ完全に人の形をしていなかったあの頃。
相対し、相打ちになってしまったものの、ある事がきっかけで完全な人の姿を得た。
「何処二居ルノカシラ…」
「黒コートノ彼」
次回、第三章「動き出す運命の歯車」
はい、これにて第二章は終了です。
三章ではぼのぼのも取り入れつつ、戦いも入れていこうかと。
なので三章は大分長くなるかなと思います。
そして三章で彼の母代わりであった人形の正体も明かそうかと。
では次回お会いしましょうノシ