Devils front line   作:白黒モンブラン

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酒場に呼びされたギルヴァ。
店主からある事を聞かされ、ある地区へと赴くのであった。


第三章 動き出す運命の歯車
Act30 謎


とある地区。

そこはS-10地区から少し離れた地区。当然ながらそこにも酒場は存在しており、昼間から飲んでいる者もいる。

立派な髭を蓄え、グラスを磨く店主。見知った者と飲んだり、一人で酒を煽ったり…店主としてはもう既に見慣れた光景…になる筈だった。

扉を開く音が響く。来客に店主はそっと視線をそちらへと向ける。

そこに居たのは銀髪の青年。古びたコートを羽織っており、フラフラとした足取りでカウンター席へと向かっている。店主を含め、その場に居た客全員が怪訝そうに青年を見つめる。

対する彼は疎いのか気にする様子もなく、カウンター席へと腰掛けた。

見るからに風貌は怪しいが、客は客。店主は少し彼を警戒しつつも声を掛けた。

 

「お客さん、何にします?」

 

「…」

 

店主の声に青年は答えようとはしない。それどころか沈黙を貫いている。

更に警戒を強めながらも店主は再度声を掛けようとした瞬間。

青年の体が静かに右へと倒れ始めた。その事に誰もが反応できず、彼は椅子から転げ落ちる。

どさりと響き渡る音と並んでいた椅子がいくつか倒れる音が店内に響く。

突然の事に誰もが啞然とし、その目を見開いた。まさかの出来事に誰も動けずにいる。

が、いち早く現実に戻って来た店主が慌てて青年の元へと駆け寄る。

 

「お、おい!しっかりしろ!おい!」

 

肩を揺らして声を掛けるが青年は全く起きる様子はない。

そこで店主は最悪な事態を考えてしまった。

一番考えたくない事態を。

 

(まさか…死んでないよな…)

 

自分の手を青年の手首へと当てた。

手に伝わる脈の鼓動。幸いな事に青年はまだ死んでいなかった。

その事に安堵した店主。そこで彼はある事に気付いた。

 

(ひでぇ隈…。もしかして寝てないのか、こいつ)

 

青年の目元には深い隈の跡が残っていた。それから察するにこの青年が暫くの間睡眠が取れていないと判断。

寧ろそれだけで済んだ事に店主は胸を撫でおろし、裏にあるベットへと寝かせる為彼を担ぎ上げた時、ふとコートから一枚の写真が落ちた。

それに気付いた店主は青年を担いだままの状態で写真を拾い上げた。

 

「ん?こいつは確か…」

 

写真に映る一人の男。

その男を見て店主はある事を思い出す。

自身と同じ様に酒場を経営している知り合いの一人から聞いた話。

S-10地区にて便利屋を開いた奴が居ると。店主は銀髪が特徴の若い店主で、黒コートを愛用しているとの事。

青年が何故この男の写真を持っているか分からない。だが彼はこの男に用があってここまで来たのではないかと推察する店主。

 

「こいつを寝かせたら、あっちに連絡入れないとな」

 

やれやれ昼間から騒がしいったらありゃしないと呟きながらも店主は裏にあるベットへと歩き出す。

後に青年を寝かせた後、店主はS-10地区で酒場を経営している知り合いへと連絡を入れるのだった。

 

 

S-10地区にある酒場。

昼間だというのに酒を煽る客で繫盛しており、大半が常連客達で埋まっている。

しかし常連客達のほとんどがこの地区で店を経営している者達ばかりで暇されあればこうやって酒場にたまるのが当たり前となっていた。

店主もこの光景を見慣れており、カウンターで黙々とグラスを磨いていた。

だがこの店主、昼間から酒場を開くつもりはなかったらしい。昼間はカフェ、夜間は酒場という二つの姿を持ちたかったらしいが、常連客達に猛反対を受け、やむを得なく昼間から酒場を開く事にしたのだ。

最初こそは違和感を覚えていたらしいが、今となってはこれはこれで悪くないと語っていた。

見慣れた光景。しかし今日ばかりは違った。

酒場の扉が開く音。そこに居たのは基本夜にしか酒場に姿を見せない男。

来客に店主は顔一つ変えずにグラスを磨いているが常連客は違った。

彼らの中にはその来客の事も知っている者もいる。昼間から酒を飲みに来る様な奴ではない事は知っており、この時間帯に現れた事に不思議な表情を浮かべ、目を丸くした。

黒いコートをなびかせカウンター席へと向かう彼はその視線に一切動じる事もなく、そのまま席に腰掛けた。

 

「何にします?」

 

「ストロベリーサンデーを一つ」

 

「うちは酒場だぜ?便利屋の兄ちゃん」

 

「ならこのやり取りを止めにして、呼んだ理由を聞かせてもらおうか」

 

「はいはい」

 

昼間から酒を煽りに来たわけでないギルヴァ。

ではここに来た理由は何か。それはカウンターでグラスを磨いている店主が彼を呼んだのだ。

しかし呼ばれたのは良いものの、何故呼んだのか、その理由は一切聞かされておらず話は酒場で話すという事になっていた。

そして今、その張本人からギルヴァを酒場に呼び出した理由が明かされる。

 

「実はある地区で酒場をやっている知り合いから連絡があってだな。店に訪れた若い青年があんたの写真を持っていたと言うんだよ」

 

「若い男が?何故俺の写真を?」

 

「さあ?その男、店に来て席に着いた途端にぶっ倒れたらしくてな。酷い隈の跡が残ってみてぇだから、恐らく暫く寝てないんだろう。今はそいつの店のベットでぐっすり寝てるみたいだ」

 

「ふむ…」

 

ギルヴァは指を顎に当て、店主から聞かされた話を思い返す。

若い男が自分が写っている写真一枚を手に、ある地区に訪れた。現在の所、その彼は重度の寝不足で倒れ、店主の知り合いが経営している酒場のベットで休んでいるとの事。

只のモノ好きが自身を尋ねてやってきたのではないかと彼は考えたが、何故か勘がそれは違うと否定の声を上げていた。しかし自分はその男の事は知らない上にこれ以上何の関係があるのだろうか。

やはりただのモノ好きが、とそう結論付けようとした時、彼の中で存在する悪魔「蒼」が待ったをかけた。

 

―流石に早計過ぎないか?もしかしたら依頼をしにお前を尋ねようとしたかも知れんぞ?

 

ギルヴァもその線を考えなかった訳ではなかった。

しかしたかだが一枚の写真を手にやってくるものだろうか?それに連絡先さえ知っていれば幾らでもそれが出来た筈だ。それをしない点がかえって怪しく感じた彼はその線をないと考えていた。

だが蒼の言う通り、幾ら何でも結論付けるには早いと感じたギルヴァは店主にその男がいる地区を尋ねる事にした。

 

「店主。その男が居る地区はどこだ?」

 

「S-12地区だが…まさか会いに行くのか?」

 

「色々疑問に思う所はあるが、依頼という線も捨てられん。ならば直接こちらから出向くしかなかろう」

 

「仕事熱心だねぇ…」

 

「生活がかかっているからな」

 

席から立ち上がるとそのまま彼は踵を翻して、酒場を後にする。

 

(S-12地区、か…。今日一日で着くかどうか。それにだ…)

 

ともあれ店に戻り、代理人やフードゥル達にこの事を伝えなければならない。

歩みを少し早めつつ彼は店へと戻っていく。

 

(何だろうか…この胸騒ぎは)

 

内に抱えた何かを感じながら。

 

 

「今からS-12地区にですか」

 

「ああ。依頼とは言えんがどうも引っ掛かる」

 

店に戻ると代理人が掃除をしながらであるが迎えてくれた。

酒場の店主に突然呼ばれた理由を話し、今からS-12地区へ向かう事を話した。

 

「一体何者なのでしょうか、その男性は」

 

「分からん。奴の正体を知る為にも出向くつもりだ」

 

「そうですか…。分かりました、すぐ準備致しましょう」

 

「頼む」

 

掃除道具を片付け、愛用武器を取りに自室へと向かった代理人。

こちらも出かける準備を始め、ホルスターに何時もの二挺の銃を、書斎に立て掛けた無銘を手に取る。

予備弾倉も忘れずに装備。後は代理人が来るのを待つだけなのだが、あと幾つかする事がある。

まず一つ目。それはソファー近くで休んでいるフードゥルにある頼みをする為だった。

 

「フードゥル、今回はお前にも来てもらいたい」

 

―む?我もか?

 

「ああ。今回の一件、妙な胸騒ぎを感じている」

 

―成程。主が言うなら我も出向こうではないか

 

「感謝する」

 

彼の元に近寄り、そっとフードゥルの頭を撫でる。

確かに9が言っていた様にとてもふさふさした毛並みだ。

…ふさふさした毛並み、か…。そう言えばニャン丸も同じくらいの毛並みだったな。

95式もそうだが、あいつも元気にしているだろうか。あの時の様に甘えているのだろうか。

別れてからそれなりの日が経ったが…一度元気な姿を見てみたいものだ。

 

―ふむ。主も撫で上手だな。今まで撫でられた中で一番かも知れぬ

 

「それは嬉しいな。お前も遠慮せず甘えても良いのだぞ?」

 

―ははっ!主からその様な言葉が出るとはな。だがそう言うのも悪くなさそうだな。

 

そう言うやフードゥルは自身の頭をこちらの体へとこすりつけてきた。

言葉では語ろうとはしないが、甘えさせろという意味合いなのかも知れない。撫でる手を止めて、そっとフードゥルを両手で抱きしめる。

 

「何時も留守番をさせてすまないな」

 

―何、気にするでない。この基地の人形達の訓練相手したりするのも悪くないものよ

 

「そんな事していたのだな」

 

―かつて部隊の長を務めていた経験からか、指導という立場に着くのも悪くない。主もたまには彼女達の訓練相手に付き合ってみるといい。あやつらもそれを願っていたからな。

 

「考えておこう」

 

そういう付き合いをしてみるのもありかも知れんな。

代理人や45が何か言うかも知れんが、希望されているのであれば考えなくもない。

それにフードゥルとコンビでやってみるのも悪くないかもしれない。

 

「さて…。フードゥルは車庫の方へ行っててくれ。俺は少しやる事をしてからそっちに向かう」

 

―承知した。

 

フードゥルがバンを停めてある車庫へと向かっていったのを確認すると、ガンキャビネットにしまってある一丁の銃を取り出す。

それは以前の作戦前に武器屋の店主から譲り受けたショットガン。あの時の作戦では持ってこなかったが、今回は出てきたもらうとしよう。だが俺はこれを使うつもりはない。

個人的に持つべきだという者に渡すつもりでいた。

 

「お待たせしました」

 

自室からシルヴァ・バレトとニーゼル・レーゲンを手に代理人が出てきた。

自前のガンベルトにシルヴァ・バレト用の予備弾倉を吊り下げてはいるが、ホルスターは空いたままであった。

以前から自分にしっくりくるものを探していたらしいが、丁度良かったかも知れない。

 

「代理人、これを使え」

 

手に持っていたショットガンを投げ渡す。

それを片手を受け止めた彼女は渡された銃を見つめた後、不思議な表情を浮かべた。

 

「えっと…これは?」

 

「取り回しが良い武器を持っていなかったからな。その銃なら丁度良いだろう」

 

「つまり…プレゼントですか?」

 

「まぁ…そう捉えてくれても構わない」

 

その事を聞いてか代理人は笑みを浮かべた。

空いたホルスターにショットガンを差し込むとこちらを見つめながら、歩み寄ってきた。

心なしか頬は紅潮しており、空いていた手が頬を撫でた。

 

「お返しはいりますか?今なら濃いディープキスが付いてきますが」

 

「…それは大事な時まで置いておいた方が良いと思うが」

 

「ふふっ、ですね。その時はこの事を含めてお返しさせて頂きますわ」

 

そのまま彼女は軽い足取りで車庫へと歩き出していった。

普段から冷静な代理人であるが…あの感じだととても嬉しかったのだろう。

武器がプレゼントと言うのも些かどうかと思ってしまったが…本人が喜んでいるのであれば良しとしよう。

 

「後は書置きをしておかないとな」

 

そう。今やこの店は404小隊の帰る家となっている。

だがその姿は見えない。それもその筈で、彼女達は今朝方任務で出向いていった。

早めに戻るとは言っていたがそれが何時になるかは分からない。

もしかすれば自分達が出ていったすぐかも知れない。どちらにせよ彼女達が帰ってきた時に店には誰もいないという状況を作るのはよろしくない。

その為、一枚のメモの用紙に書置きを置いておく事にした。

 

―依頼で暫く店を空ける―

 

たった一文ではあるが変に書き込むよりかはシンプルで良いだろう。

これを見て45がどんな反応するかは分からないが…自分が絡む事以外は冷静で判断できる彼女だ。

変に取り乱したり、寧ろ追ってきたりする事はないだろう。

 

「ギルヴァ、そろそろ出ますよ?」

 

車庫から車のエンジン音と共に代理人の声は聞こえる。

分かった、とだけ伝えると書置きを書斎の上に置いて車庫へと歩き出す。

後部ドアから乗り込み、無銘をウェポンラックに立て掛けるとジュークボックスの前に立つ。

 

「代理人、今日の曲は何がいい?」

 

「そうですね…私のお気に入りで」

 

「了解した」

 

要望通りにお気に入り曲のボタンを押してから助手席に腰掛ける。

 

「行こうか」

 

「ええ」

 

バンが発進する。

あの時流れた曲を車内で響かせながら、S-12地区へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「そう言えば向こうまでどれ程かかる?」

 

「S-12地区までですと…恐らく明日の昼間には着くでしょう」

 

「となると何処かで車を停めて車内で一夜を過ごすしかなさそうだな」

 

「ですね。…今夜はお楽しみになりそうですね?」

 

「ならないから安心しろ」

 

「いけず…」




謎の青年の名前はまだ決まってないです…
さてお次はどうするかな…。




ああ、それとですが。
今後の投稿先について、最新話を上げたのち活動報告でお知らせをしておこうと思います。

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