Devils front line   作:白黒モンブラン

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図書館に現れた悪魔を撃退した彼ら。
この町の謎に直面している所に代理人がギルヴァに思っていた事を告げる。
それはブレイクの事だった。


Act34 Break

図書館を後にし、一度バンへと戻ると比較的安全であった車庫にバンを移動させた後に、自分は車外へと出て外を眺めながら、この町 フェーンベルツで起きている事を思い返していた。

消えた住民たち、中途半端とも言える町の荒れ具合。1000年前に起きた悪魔による支配。この町を救い、町の名前ともなった魔剣士 フェーンベルツ。彼が去った後に起きた町の変貌。未だ見えぬ原因の正体。

繋がりがある様で、繋がらないこの状況に頭を悩ませる。

 

「さて…どうしたものか」

 

静かに空を見上げる。段々とオレンジ色へと染まり始める空。

この時間帯でも町は活気にあふれていたのだろうか。それは聞こえる事はなく、町は静寂のみとなっていた。

静かな時間は嫌いではない。だがこの町の静けさは不気味さを交えている。悪魔が原因か、或いはこの町の狂気か。

いや…両方か。そんな気がしてならない。

 

―一つ良いか?

 

「どうした、蒼」

 

―かつてこの町を救ったのはフェーンベルツという悪魔なんだよな?

 

「ああ。あの本にはそう載っていた」

 

―そのフェーンベルツという悪魔だが…俺の知る限りじゃそんな悪魔聞いた事がない。

 

「何…?」

 

ならばかつてこの町を救った悪魔は一体何者だ?何故自身の名を偽った?

 

「謎が謎を呼ぶとは正しくこの事か」

 

―フェーンベルツという名前で自身の名を偽った魔剣士。偽ったには何らかの理由があると思うが…。

 

「自分だとバレるのを恐れたみたいだな…」

 

何故偽ったのか。町の人間に対しては態々偽る必要性はないと考える。

ならば…封印した悪魔に?だとしたらこの中途半端な荒れ具合に説明がつかない。

町の住民、封印した悪魔以外の誰かに何かをバレる事を恐れて名前を偽った…?

流石にこれは憶測に過ぎないが…だがその線はあながち間違っていない気がしてならない。

 

「もう一つ気になる事がある」

 

―それは?

 

「ブレイクの事だ」

 

―…悪魔を相手にしたというのにたじろぐ事もなく、寧ろ余裕すら感じさせる態度。恐らく彼は…

 

「悪魔を知っている…或いは悪魔を知らずとも奴らを相手にした事がある…という事か」

 

正直そうとしか言わざるを得ない。

でなければあの余裕の態度は見せないだろう。

しかし何時から彼は悪魔と戦う事になってしまったのか…。それに関しては彼から聞く他ないだろう。

 

「ギルヴァ」

 

「ん?」

 

声を掛けられ、体をそちらへと向けるとそこには代理人が立っていた。

ここが比較的安全とはいえ、いつ奴らが現れるかは分からない。故に彼女はニーゼル・レーゲンを背負い、シルヴァ・バレトを手にしている。渡したショットガンもホルスターに差し込んだままだ。

完全フル装備の状態で代理人が自分の隣に並び立った。

 

「どうかしたか」

 

「中々戻ってこないので様子を見に来ました」

 

「そうか。…心配をかける」

 

「いえ」

 

風が吹いた。

町を駆け抜ける緩やかな風が体を包む。とても心地よいそれは、もしかすればこの町ならではのものかも知れぬと錯覚してしまう。それまでに心地よいものだった。

もしかすればこの町に移住してきた者はこれを理由の一つとして移住してきたのかも知れない。

自分も只々普通に生きていたら…この町に訪れていたかも知れぬ。最もこの町の狂気を知ってしまった以上、そんな思いは微塵の欠片もないが。

 

「ブレイクという青年…本当に"人"なのでしょうか」

 

沈黙の中、ふと代理人はそう呟いた。

何かブレイクに対し何か思う所があるのだろう。自分も彼に対し悪魔と戦った事があるとは別に思う所があるのだが、まずは彼女の方から聞いてみるとしよう。

事実、ブレイクと共に悪魔を撃破したのは他ならぬ彼女なのだから。

 

「あの悪魔と戦っている時の彼の動きは…最早人の動きとは言えませんでした…。あの様な動きは人形でも無理でしょう」

 

「…」

 

「だから私は思ってしまった。彼…ブレイクは、貴方と同じ"悪魔"ではないのかと」

 

やはりというのだろうか。

彼女は彼を…ブレイクの事を悪魔ではないかと疑っていた。

そして自分も彼は悪魔ではないかと思っている。そう思ったのは初めて会った時だ。

彼からは普通の人間とは違う何かを感じていた。それが自分と同じような悪魔の気配だとすぐには気付けなかったが、時間が経つにつれてそれは気付けた。

極めつけは彼が悪魔と対峙している際に見えた空中で弾丸の雨を降らしている所を偶然にも見た事だった。

代理人が言った様あんな動きは人間では不可、ましてや人形でも無理だ。できるとするのであれば、自分の同じ様に悪魔の力を持つ者ぐらいだろう。

問題は自分が悪魔の力を持つ者だと分かっているのか…或いはそれだと分からないが力を使っているのか。

前者で聞けばいい、後者であれば自分がその事を告げるべきだろう。

 

「その答えは…本人に聞くべきだろうな」

 

「え…?」

 

響くブーツの音。

赤いコートをなびかせながら彼が…ブレイクが姿を現す。

彼も疑念を持たれている事ぐらいは気付いていたのだろう。だから姿を見せたと言っていい。

 

「話を聞かせてもらおうか」

 

その言葉に彼はふっと口角を釣りあげるとバンの車体を背に凭れると腕を組みながら話し始めた。

 

「少し長くなるが、それでも良いか?」

 

「構わない」

 

「OK。さて…どこから語るかな」

 

静かに彼は語り始める。

どこか寂しそうで思い詰めた様な表情で。

 

「親を亡くしたか、捨てられたかのどちらかの理由で俺は孤児院の院長に拾われてね。今の名前も院長が付けてくれた。その当時院長が愛読していた本の作者から取ったらしい」

 

やはりか。

ファミリーネームがない辺りで気付いていたが…それに境遇は自分と似ているな。

自分も本当の親を知らない。彼と同じ様に亡くしたか、捨てられたかのどちらかだ。

違うのは名前を自分で付けたか、付けてくれたぐらいだろう。

 

「それから孤児院で過ごす事になって三ヶ月経ったぐらいだ。些細な事で同じ孤児院で過ごす奴と喧嘩になってな。あまりにもしつこい奴で、ついカチンときた俺はそいつをぶん殴ったのさ。まぁ手加減しておいたから大丈夫と思ってたんだが、これが予想に反してな。ぶん殴られたそいつ…軽く2メートルは飛んだのさ」

 

「手加減したにしては飛びすぎだな」

 

「だろ?その後、そいつは気を失って病院へ。俺は院長はこっぴどく説教された。幾ら何でもやり過ぎとか、色々言われたさ。だがこっちにも言い分がある。殴った事に関しては反省しているが、だからといって気を失う程の力で殴っていないとな。普通ならそんなことを言った所で言い訳するな、って言われて一蹴されるだけ。だが院長は違った。その事を伝えたら目を見開いていたよ。あの顔は今でも忘れられない」

 

ブレイクが過ごしていた孤児院の院長は彼の何か気付いていたというのだろうか。

危惧していたのか…あるいは別の理由があって?本人ではないから、そこまでは分からない。

 

「そしたら言われたよ。それを本気で使うなって…理由は教えてくれなかった。当然それが何なのかも教えてくれなかった。その時は自分でも分からなかった」

 

「では何時からそれに気付いた?」

 

「孤児院を出た後さ。前にも言ったが俺は便利屋まがいな事をやっていた。生活が懸かっていたからな、何振り構わっていられなかった。だが院長の言いつけは守っていた。殴り合いになったとしても殺しはせず、手加減した。でもそれはある事をきっかけで破らずにはいられなかった。そこで自分が普通じゃない事を知った」

 

「何があった?」

 

「町を転々とする前さ。俺は小さな酒場で働く女と知り合って…そいつに片思いしていた。俺が知る中で最高の女だった。自分が便利屋である事を怖がらずに受け入れてくれたからな。いつか彼女と付き合えたらとも思っていた。だがそれが叶う事はなかった」

 

ブレイクの顔に影が一段と差す。

彼にとって辛い出来事ではあったらしいな…。

小さく頷くと彼は言葉を続けた。

 

「何てことのない日の夜の事だった。仕事で別の地区から戻ってきた俺はいつものように酒場で酒を一杯飲んでから家に戻るつもりだった。酒場に向かうと店の隣に路地辺りで人だかりが出来ていた。嫌な予感がした…だから気になって見てみたのさ。人だかりをかき分けながら前に進み、たどり着いた。それを見た時言葉を失った…」

 

「…何があった」

 

 

「酒場で働いていたそいつが無残な姿で死んでいたのさ。鋭利な何かで何度も斬り裂かれ…惨い死に方だった。金属パーツやらが見えていたから…あいつは人形だったんだろうな。でもそんな事はどうでも良い。片思いしていた彼女が誰かの手によって殺された…その事だけが頭に残っていた」

 

「町を転々とし始めたのはそれが理由か?」

 

「いや、その時は町を転々するなど考えなかった。あいつらに鉢合わせする様になってからはな」

 

あいつら…となるとそれは。

隣で静かに聞いていた代理人もその答えに行きついている様子であった。

 

「悪魔か」

 

「そう。便利屋の仕事をしている傍ら俺は奴らと良く鉢合わせする事があってな。奴らとやり合っている内に気付いていたのさ。自分は普通とは違う…そして理解した。あいつが死んでしまったのも自分に原因があるのではないかってな。だから俺は自分が原因で他の誰かに悪魔による危害が及ぶ前に町を転々とした。そしてこの町に行きついたという訳だ」

 

「成程…。銃を何度も壊したのもそれが理由か」

 

「ん?ああ、その事か。答えはYESだ。奴ら相手に無茶苦茶連射する事が多くてね。その都度銃をぶっ壊してた」

 

確かにあれだけの連射を見れば壊れるのも無理ない。

何度も買い直すのであれば専用を作ってもらった方がいいだろう。

だからあれだけ大型化を施していたという訳か…今更だが納得がいった。

 

「うーん…昔を語るのは性に合わねぇな。でだ…これで納得が行ったかい?メイドさん」

 

「ええ、十分過ぎる程に」

 

「そいつは良かった」

 

疑念も晴れた事だ。そろそろ行動しなければならない。

しかしどうしたものか。ブレイクの事は解決したものの、今回の一件が解決した訳ではない。

手当たり次第探る他ないのだろうか…。

その時だった。

 

「っ!」

 

気配を感じた。それも悪魔の気配だ。

同じ様にブレイクもそれを感じ取ったらしく、銃を抜いていた。こちらが態勢に入った事に代理人も周囲の警戒を始め、バンからフードゥルも降りてくる。三人に視線を交わすと先に自分が車庫の外へと出る。陽は沈み、夜空が見えつつある。通りには静けさを保っており、それが返って不気味さを感じさせる。

…近いな。もうすぐそこに来ているらしい。態々姿を見せに来るとは…決闘者気取りか、あるいはそれ以外か。

 

「おうおう、流石に気付くよなぁ」

 

この町に聞こえた声。

誰もいない通りでその声は良く聞こえる。声が聞こえた方へと体を向けると、街灯の上で立っている猛禽類がいた紺色の体色で決して大型ではない。だがこの悪魔から感じる気配は以前相手したヴァンギスと比べるとあの猛禽類の方が勝っている。油断は禁物だ。

 

「お前も…悪魔か」

 

「正解。で、だ…。こんな所に何か用かい?にいちゃんよ。今や人一人いないこの町を観光しに来たというのならやめておいた方が良いぜ?回れ右してさっさとお家に帰んな」

 

「親切心を見せる割には随分と殺気を感じさせるのだな。帰す気など最初からないのだろう?」

 

「おうよ。テメェには…いや、テメェらには悪いがここでゲームオーバー。死んでもらうぜ」

 

―あぁ~思い出した。あいつ、グリフォンか。何であいつがこんな場所に?

 

どうやら蒼はあの悪魔…グリフォンを知っているみたいだ。だがここに居る事に関して疑問を感じているみたいだが…。

ともあれだ、グリフォンが姿を見せ俺達を始末しに来たのも何らかの理由があるのだろう。何とかして捕える必要があるな。

 

―ほう。貴公、グリフォンか。

 

「あん?…って、あんた、フードゥルか!?」

 

様子を見に来たのだろう。

フードゥルに続く様に代理人とブレイクも車庫から出てくる。

特にフードゥルの姿を見た瞬間、グリフォンはやけに驚いてはいるが…。

二人に何か関係があるのだろうか。

 

―我々を始末しに来たとなれば…そちらも始末される覚悟があるのだろう?

 

フードゥルの籠手と具足を模った外殻から雷が放たれ始める。

それは段々と大きくなり、そして彼が空へと向かって吼えた瞬間、雷は激しく放電した状態を保った。

フードゥルは身をかがめ、牙を見せる。まるでそれは獲物を見つけ、今から仕留めんとする狼。

これは彼に任せた方が良いみたいだな…。

 

「フードゥル」

 

―む?どうされたか、主

 

「あれを完全に仕留めず、捕える事は可能か?」

 

―ふっ…。その様な事、我からすれば容易い事。しかして何故?

 

「もしかしたら情報を聞き出せるかも知れん。…やれるか?」

 

―命とあればやり遂げてみよう

 

その瞬間、フードゥルの姿が消えた。

金色の雷を纏い、高速移動しながらグリフォンの頭上へと飛び出ると雷を纏い刃を形成し襲い掛かる。

 

―参るぞ、グリフォン。最期はどれがいい?ローストチキンか?それともフライドチキンか?好きなのを選ばせてやろうではないか!




はい。という訳で分かっていた人は分かってた、グリフォン登場です。
しかしDMC5のグリフォンとはちょっと違う感じでやります。その詳細に関してはまた今度。

しっかし…ダブルカリーナアン、楽しすぎて困る。
それと感想の事で少しお願いがあって活動報告を投稿しました。

ではノシ



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