ギルヴァは大聖堂の地下通路を歩んでいた。
しかし一緒に行動していたであろうブレイクの姿はなかった。
今回はギルヴァ視点で。
また新しい戦術人形も登場です。
どうやら彼女は色々あって今回の一件に巻き込まれてしまったみたいです…。
ずっと奥まで続く大聖堂の地下通路。こちらが大聖堂に乗り込んだ事は向こうも分かっていると思うのだがこれが予想に反して何も出てこない。それ程までにアルフェネスは封印を解く事に夢中になってしまっているのか、或いはこちらが来るのを待っているのか…。どちらにせよ急ぐ必要がある。
「ブレイクと合流出来ればいいが…」
共に行動していたというのに、隣にはブレイクの姿がない。
実は彼とはつい先ほど離れ離れになってしまった。どうやらこの地下にへと踏み入れた際に、アルフェネスが敷いたであろう罠が発動し、分断されてしまったのだ。
なのでブレイクが今どこに居るのか分からない。だが魔力探知で何となくであるが彼の魔力を感じられるので生きていると判断していいだろう。
「先を急ぐか」
じめじめとした空間。辺りに漂う魔力の残滓。あからさまに人の手が加えられているであろう木枠には小さい照明器具が備え付けられている。だが出力が弱いのか、薄っすらとしか道を照らさない。暗くないだけまだマシと言えばマシであるが。
幸いというべきか、この辺りに悪魔達が出てくる様子はない。このまま奴らと鉢合わせない限りアルフェネスが居る場所に辿り着けるだろう。最もこういう場合は上手く行く事はないが。
一歩ずつ、一歩ずつ、地面を踏みしめ一本道の中を進んでいく。狭い空間だからか、靴底が地面と当たる音が反響し、響き渡っていく。
「む…」
半分は歩いたであろう。正面へと続く道とは別に右へと曲がる道が見えた。
どうやら分かれ道のようだが…アルフェネスの気配は正面から感じられる。わざわざ右へと続く道に行く必要はないだろう。見向きもせず、そこを通り過ぎようとした瞬間だった。
「!」
素早くレーゾンデートルの持ち手を握り、ホルスターから引き抜き分かれ道の先へ銃口を突き付ける。
ゆっくりと頭を動かし、その先にあるものを見つめる。
黒いスーツ、伸ばされた髪に赤いリボン。目立った外傷はなさそうだが、相当疲弊しているのか肩で息している。
にも関わらずその瞳からは闘志は失われてはおらず、現にライフルの銃口をこちらへと向けている。
気配からしてまさかとは思っていたが…。
「人形だとはな…」
しかし何故こんな所に人形が?
町には誰一人とて居なかった。それはアルフェネスの術に巻き込まれ、養分として捧げられたからだ。
もしあの町に人形が居たとするのであれば、その人形も同じ結末を迎えたに違いない。
では今ここにいる彼女は…?
向こうに銃を下ろす気配は感じられないが、こちらはレーゾンデートルを下ろし、ホルスターに収める。
するとこちらが銃を下ろした事に、彼女の表情が少し変わった。何処か驚いている様にも見えた。
元より狙いは悪魔であり、戦術人形ではない。無駄な戦闘で余計な消耗をしたくはない。
「…あいつらとは違うの…?」
「何を見てきたかは知らんが、お前が知るあいつらとは違うとだけは言っておこう」
「信用できないわ」
「だろうな」
こんな押し問答をしている暇はなかった。
この間にもアルフェネスはディスペアの封印を解いている真っ最中だろう。だから早々にこのやり取りを切り上げる必要があった。
このまま彼女を見捨てて、立ち去るという手段もある。だがその手段は自分としては使いたくない手段。
効率を選ぶか、情を取るか。その二つに限られる。だが自分の中での決断は既に決まっていた。
そして心の中で笑う。やはり自分は甘いと。弱点でありながら、それが人間らしいと思った。
ゆっくりと彼女へと近寄る。ライフルの引き金に指がかかるのが見えた。いつ撃たれてもおかしくない。だが足を止めない。その距離が縮まり、お互いの距離が近くなった時、彼女が持つライフルに手を置き静かに下へと押す。
「ここまで近づかれて撃たない…弾は尽きていたのか」
「変な化け物相手にしてたら弾なんて尽きてたわ…。ライフル使いとしてこんなお笑いだわ…」
自虐的な笑みを浮かべる彼女。
自分がここから生きて出る事が叶わないと思っての事だろうか。それが自分の何かに触れた。そして決意した。
この娘を死なせない。人知れず只々寂しい終わりを迎えさせない。
理由?逆に必要か?人形を、人を助けるのに理由などあってたまるか。
その思いを胸に秘めたまま、何故ここにいるかを尋ねる。
「何故ここに?」
「…捨てられた、と言えば分かるかしら。あんた、私の事を人形だってわかっているみたいだから」
簡単に想像がついた。
彼女は…指揮官に捨てられたのだ。人形を道具としか見ない者に。
グリフォンでもそういう奴は居る。だが自分は違う。幾ら彼女達が造られた存在であろうと人して見ている。おかかしいと言うのであれば幾らでも言えばいい。それが気に食わぬと言うのであれば幾らでも掛かってくるが良い。刀の錆になりたいのであれば、幾らでも斬り伏せてやろう。
「捨てられた私は僅かな食料と弾薬で動いていた。この町に来たのも偶然だった。けど迎えてくれたのは訳の分からない化け物たちだった」
「…悪魔か」
「あれは悪魔というのね。確かに見た目からすればその表現は間違ってないかもね…」
彼女は自分の身に起きた事を語ってくれた。
名前はWA2000。ライフルの戦術人形。今から一週間前に指揮官の無茶苦茶な命令によってそれを果たせず捨てられた。基地に戻る事はできず各地を彷徨っていたらしい。時には少数の鉄血の人形と交戦し、時には誰もいない小さな民家で身を休めていたりしていたそうだ。
そして彼女はこの町 フェーンベルツを訪れたのだが、訪れたタイミングが悪かった。アルフェネスによって町の人間は消え去り、逆に悪魔が蔓延っていたであろう状態に来てしまったのだから。得意とする狙撃で悪魔達とやり合っていたそうだが、弾が尽きかけ逃げていたらしい。そして偶然にもこの大聖堂を見つけ、地下に逃げ込み、身を潜めていた所に自分とこうして会ったという形になる。
「成程。…これからどうする気だ、WA2000」
「どうするも何もここで静かに機能停止しかないわ。…もう戻る場所なんてないから」
言葉が上ずっていた。何処か強気だった姿はなく、只々弱弱しい姿の彼女がいた。
気付けば彼女の瞳からは涙があふれていた。そっとその雫は頬を伝っていく。
それを見て自分の胸の中で込み上げてくるものがあった。言葉では表しづらいものであり、そしてそれは自分を動かした。
「…戻る場所ならある」
「…ないわよ」
「いや、ある」
手を伸ばし、彼女の頬を伝う涙を指で拭う。
この先へと一緒に連れていくことは出来ない。だが彼女をここで死なせてはならない。
ホルスターからフェイクを抜き、予備弾倉をあるだけ取り出す。そしてそれをWA2000の傍に置いた。
彼女の視線が傍に置かれたフェイクへと注がれ、不思議そうな表情を浮かべていた。
「いいか、これを持って地下を出ろ。仲間が上に居る。喋る鳥に、喋る狼、そしてメイドだ。メイドの方に関してはかなり驚くと思うが、そこは落ち着いて対処しろ。合流出来たら、ギルヴァという奴に合流する様に言われたと伝えろ。そして俺からの伝言として、彼女の保護をしろと伝えてくれ」
「…勝手に話を進めないで」
「…信用するかしないかはお前次第だ。だがこんな所で最期を迎えるなど望んではいないだろう?」
「…当たり前でしょ」
「なら銃を手に取れ。そして死ぬな。何があっても生きる事に縋りつけ。不幸をここで断ち切れ。戻る場所が無いなら、こっちが戻る場所になってやろう。だからここで死ぬという選択を選ぶな」
言いたい事を伝え、立ち上がる。
そして背を向けて歩き出す。歩き出しても彼女が動く気配はなかった。
元来た道へと戻り、アルフェネスがいる場所へ向かう。
―いいのか?
…やる事はやった。後は彼女次第だ。
―それは大丈夫じゃないか。…何となくだが、あの嬢ちゃんは諦めないさ
そう…願いたいな。
WA2000がどうか正しい選択を選んでくれる事を願って、地下通路の奥へと目指す。
この先はひらけた場所になっているのだろう。段々と魔の気配が強くなっていた。アルフェネスのものとは思えない。となるとこれは…ディスペアの気配なのだろうか。体がビリビリとした感覚に襲われる。
自分だけに当てられているものではない。全体に放たれている。心なしか全て揺れている様にも見える。
封印されても尚これだけのものを放って…いや、封印が段々と弱っているからこそディスペアから放たれているそれがここまで広がっているのであろう。もしこれが普段から放たれていたなら、普通の人間では気絶する程のものだ。
一歩足を進める度に目的地へと近づいていく。
蒼は言っていた。ディスペアは最早災厄とも言える悪魔だと。やろうと思えば世界を終わらせる事も出来ると。
本部前で戦ったアンジェロや以前倒したあの悪魔とは比較にならない程。
奴が復活し、自分が敗れる様な事はあってはならない。もしそうなってしまったら、人間や人形では到底太刀打ちできない。世界の命運というのだろうか…それが自分に掛かっているとは正直実感が湧かないものだ。
ひらけた場所に出る。そこには一体の悪魔と宙に浮かぶ禍々しい色をした球体らしきものがあった。
辺りは妖々しい光に包まれており、不気味さを感じさせる。
足を止める。レーゾンデートルを抜くと封印を解くに忙しくこっちの事に気付かない悪魔の頭へと向けて発砲する。響いた銃声、銃口から吐き出された弾丸は見事悪魔の頭に直撃。撃たれた反動で体が前のめりになっていた。
「背中ががら空きだ。魔術師なら周りの気配に気を配る事だな」
しかし大したダメージにはなっていないみたいだ。
何事もなかったかのように、その悪魔はゆっくりとこちらへと振り向いた。
「…ネズミの正体は貴様だったか」
その声は女のものだった。良く見ると体があるが足が無い。どこで見つけてきたのか蠍みたいな化け物と一体化しているみたいだ。端から見れば魔術師には見えぬが、封印を解いていたところを見るとこいつが魔界の魔術師 アルフェネスなのだろう。
「そして貴様、人間ではないな?私には分かる。お前も我らと同じ悪魔か」
「貴様ほど醜悪な姿はしてないがな」
無銘の鍔を親指で押し当て、鯉口を切る。
「そして無駄な話をするつもりはない。…ここが貴様の墓場だ」
「ここが墓場だと?…フフッ…ハハハッ!!!」
何かがアルフェネスのツボにはまったのだろうか。
高らかに奴は笑い出した。
「違うな。ここがお前の墓場となるのだ。悪魔の血を流す者よ」
「…」
「貴様がもう少し早ければ封印を解除を止められたかも知れぬな。だがもう遅い。封印は今解かれた!」
「!!」
その言葉通り、アルフェネスの後ろで浮かぶ球体が上昇し始めた。
球体に少しずつ罅が入っていき、そして破裂した。
その中で胎児の様に眠る炎の様な輝きを放つ人の姿をした何か。あれが…
―ザ・ディスペア・エンボディード…
封印が解かれた。
長きの眠りによりディスペアは顔を上げ、体を大きく広げ、背の翼を大きく広げた。
勢い良く広がったそれから放たれる風圧と輝き。ただそれだけの行動なのにここまでの風圧を起こせるとは正直どうかしているが、魔界の覇王がその程度の事を出来てもおかしくないだろう。
悠然と翼を羽ばたかせ、ディスペアは地へと降り立つ。状況は最悪とも言えた。
「ああ…。そう、この輝きだ。私が求めていた覇王の姿。さぁ、その力を私によこせ!」
アルフェネスの狙いは元からディスペアの力を自分のものにするのが目的だったというのはグリフォンから聞いている。力を奪う為、魔術を行使し始めるアルフェネスだが、どうにもディスペアの視線がアルフェネスへと向けらている。そして感じられる殺気。
その時だった。どこからともなく扉が現れ、扉を蹴り破りブレイクが飛び出てきた。背には十字剣の様な大剣を背負っており、今起きているこの状況に困惑気味の様子。こちらを見つけたのか、視線で何が起きているのか教えろと言わんばかりに促してきた。
「アルフェネスがディスペアの力を奪うの様だ…少し妙であるがな」
「妙?それって…」
ブレイクが分からないと言った表情を浮かべた矢先だった。
魔術を破り、ディスペアがアルフェネスにへと瞬間移動し急接近。腕を剣へと変貌させると真っ二つにへとアルフェネスを切り裂いた。
一瞬の出来事だった。抵抗を一切許さず、自分より遥かに大きいアルフェネスをディスペアは一撃で沈めたのだ。魔界の覇王の伊達ではないという事を証明している様にも見えた。
「な…何故……自我を……抑えた筈…なのに…」
自分が行った魔術に自信があったのだろう。
有り得ないと言わんばかりと表情を浮かべるアルフェネスは崩れていき、その体は粒子へ変わっていく。
ディスペアはそれに見向きする事はなく、こちらを見つめている。
その時だった。ディスペアが何かを感じ取ったかの様に上を見上げた途端、翼を広げ天井を突き破って飛び上がっていった。
何をするつもりかは分からないが、追わない訳に行かない。
デビルトリガー発動させ、ディスペアを追い始めると後ろから赤い何かが追ってきた。
「まさかブレイクか?」
「そのまさかってやつさ」
「何故魔人化を?」
「その話は後にしてくれ。今は奴を追うのが先決だ!」
翼を羽ばたかせ、ディスペアを追う。
何故奴がこの場から飛びさったのか分からないが、放置する訳には行かない。
地下から地上へと飛び出し、星空が輝く中、どこかへと目指すディスペアの後を追い始めた。
次回はブレイク視点で行います。
ディスペア戦はもうちょっと待ってね。
また今回出てきた戦術人形は病まないからね?流石に病むイメージがわかんのだよ…。
あ、それとですが。
ディスペア戦でもしかしたらコラボ依頼をお願いするかも知れないです。
確実に決まっていないので…お願いしないかも知れないですけど…念の為伝えておこうかと。
ではノシ