一時的であるが店で居座る事になったブレイク、そしてここで居る事にしたグリフォンを迎え、いつも通りの一日を過ごす事になるのだが…。
S10地区の店に戻ってきた俺達。
フードゥルもグリフォンも店内におり、迎えてくれた。偶然にも404の面々は一昨日から任務出向いているらしく、代理人の話ではもうすぐに戻ってくるとの事。
そして…
「へぇー、それなりにはしっかりしてんのか。てっきり殺風景な感じを予想していたんだがな」
ソファーに腰掛け、堂々と凭れるブレイク。
何故ここに居ると思うだろうが、これには訳がある。
本来であればブレイクはフェーンベルツに戻る事になるのだが、今回の一件であの町はゴーストタウンと化してしまっている。思い入れがあれど流石に一人で過ごすつもりは本人もないらしく、一応店に連れてきていた。
だが彼もここで居座るつもりはないらしい。どうせなら何処かの地区で自分と同じ様に便利屋を営むのも悪くないと考えているらしい。
「店を構えるなら外装と内装にはそれなりに気を遣うべきだろう」
「まぁ確かにな。ただ…掃除が苦手でな…」
「代理人にやってもらっている上、人の事は言えんが…それは何とかするしかないだろうな…」
「そう言うと思ったぜ…」
なんだろうか…ブレイクが店を開けば、数日足らずで店がゴミ屋敷になりそうな予感がしてならないのだが…。
…流石にそこまでは至らないと思うのだが、こいつが店を開けば定期的に様子を見に行く必要があるかもな。
とりあえずその事はその時に決めるとしよう。今は…
「ん?どっかに行くのか?にいちゃんよ」
自分が店の裏口から出ていこうとするのを見ていたのか、置いてあるジュークボックスを足場にしていたグリフォンがそう聞いてきた。
「ああ。迎えにな」
台処から出てきた代理人に視線を送る。
向こうも理解した模様で、その印に頷いて返してくれた。
ドアノブを捻り、店を後にする。
外は少しひんやりしていた。…今日の夕飯は暖かいもので作ってもらうするか。
―それと埋め合わせも考えておけよ?
分かっている。心配かけたのは事実だからな。
向かう場所は一つ。
この基地のヘリポートだ。
「冷えるな」
基地のヘリポートで、45達が乗っているヘリが来るのを待つ。
空を見上げれば、空は灰色に染まっている。
雨雲は見えないが、下手すれば雪でも降るかも知れないが…この感じだと降ったとしても積る事はないだろう。
「…」
思えば旅をしている時やここにいる時もそうであったが、季節などあまり気にしてはいなかった。
立ち寄った廃墟でカレンダーを見かけたりもしたが、訪れた日が何日かすら分からなかったのでカレンダーを見た所で意味などなかった。
ただ自由気ままに、時間も気にせず旅をしていたからか…恐らくあの日から一年か二年は経っているのだろう。
―あっという間だよなぁ…。時間って…
「そうだな…。子供の時は一日、一か月、一年が長く感じられたが、この歳になるとそれらが全て短く感じる様になってきた」
―成長するにつれて時間が短く感じる…。何でそう感じる様になるんだろうなぁ…
「さぁな…。俺にも分からん」
静かに空を見つめる。
ふとヘリの音が遠くから聞こえた。その音が聞こえる方へと向くと一機のヘリがこちらへと飛んできている。
恐らくであるがあれに45達が乗っているのだろう。
ヘリは段々とヘリポートへ近づき、ゆっくりと着地。そしてヘリから彼女達が降りてくる。しかしどこか様子がおかしい…。全員がおかしいという訳ではない。強いて言うなら先頭にいる45と416がおかしいというべきだろう。
ユラユラと歩いて、前も見えていない気がするが…大丈夫だろうか…。
心配になり彼女達へと近寄る。9とG11はこちらに気付き、驚いた表情を見せているが二人は違う。
本格的に心配になり、まずは45に前に立ち、手を彼女の肩に乗せる。
こちらの手が肩に乗せられた事に気付いたのか、ゆっくり彼女は顔を上げた。
瞳は黒く濁り、光が灯ってない。…これは不味いかも知れんぞ。
「大丈夫か」
「…ギルヴァ……?」
「ああ、俺だ。…心配かけてしまった様だな」
彼女の瞳に光が宿り始める。
今俺が目の前に居る事を漸く理解したのか、45の目は見開いていた。
驚きのあまり言葉が出せないのか、口をパクパクしている。
そして…
「ギルヴァ…ッ!」
両腕を伸ばし、勢い良く飛びついてきた。
力強く抱きしめられ、もう離さないと言わんばかりに強く抱きしめられている。
心なしか泣いている気がするが…それは聞く必要はないだろう。
「…ギルヴァなんだよね…?…夢なんかじゃないのよね…?」
「人形は夢を見るのか?」
「…いいえ、見ないわ」
「ならばそういう事だ」
「ええ…」
体を預け、今までお預けを食らっていたのを全てぶつけるかの様に45は強く抱きしめてくる。
自分が人であったら軽く骨を一、二本折れていたかも知れんが、この身にであるが故に折れる事はない。
そして空いている右腕も416によって塞がれていた。体全体を当てるかの様に彼女はくっついている。
45は兎も角、416までもが大胆な行動に出るとは思わなかった。
―で、感触はどうよ?当たってんだろう?416の立派なのが。
黙秘権を行使させてもらう。
「…心配かけたな、416」
「もう帰ってこないかと思ってたわ…」
「だが、ここにいるが?」
「そうね…。…もう離さないわ、ずっと…ずっと…永遠に…」
「最後に何か言ったか?」
「いいえ、何も。…それよりも」
「ん?」
腕に埋めていた416の顔が上げられる。
笑顔なのは変わりないが…何だ、この感じは?これではまるで…あの時の45と同じ…。
「心配かけたのだから……責任とってよね?」
ね?という彼女の瞳には光が宿っていなかった。
これは…まさか…?
―そのまさかってやつだろうな?責任取るの頑張れよ?
…ぬぅ。
「そうそう、責任とってよね。ギルヴァ~♪」
「さっきの様子はどこに行った。復活するのが随分早いぞ」
「ギルヴァを抱きしめてたら、すっかり元気になっちゃった♪」
「俺は栄養剤ではないのだが」
「私にとっては栄養剤かな~。色んな い・み・で…♪」
「何も聞かんぞ」
「ええ~」
やれやれ、これでは話が進まん。
しかし責任、か…どうすれば良いものか。
404の面々に心配かけてしまったのは事実。さて…どうしたものか?
「とりあえず、報告を済ませてこい。話はその後だ」
「は~い」
すっかり元気になった45は先に行き、続く様に416達がヘリポートを後にする。
その際にすれ違った9とG11からはおかえりと言われた。表情から分かったが、どうやら二人にも心配かけてしまったようだ。さてはて…どうしたものか。
それにブレイクやグリフォンの事も紹介せねばならん…。どうやら休みは当分先になりそうだ。
この後に店で404の面々にブレイクとグリフォンの事を紹介した後、責任…というより埋め合わせをする事になった。
何がしたいのか一人一人聞いた結果、こうなった。
まずは45。二人っきりで酒が飲みたいとの事。本部の時の事が忘れられないらしい。
次に9。彼女は一日デートを所望。
416も同じく一日デート。
G11に関して昼寝する際に膝枕を所望してきた。それだけで良いのかと聞くと、それでいいらしい。
彼女がそう言うならそれで良いのだろう…。
そして…代理人もその権利があると主張し、埋め合わせを所望。
今すぐは決められないが、明日か明後日に伝えるとの事。
さて…決まったのは良いが、その間依頼が来ない事を願うしかないな…。
因みにこの事を傍で聞いていたブレイクが神妙な面持ちでこう聞いてきた。
「悪魔って女にモテる力でもあんのか?」
「俺が知るか」
また余談であるが、グリフォンが何をトチ狂ったのか、45の一部を見て…
「ちっさいな…」
本人の前でかまし、何についてなのかを理解したのかキレた45に本気で調理されそうになっていたのはまた別の機会に話すとしよう。
という訳で次回からは埋め合わせ回です。
場合によっては短くなるかもですが、悪しからず。
では次回にーノシノシ