寄ったカフェにて、9は彼にある事を尋ねる。
埋め合わせ回 9編。
だと言うのにあれだな…デートっぽくないかも…許してぇ
「ギルヴァってさ、45姉の事をどう思っているの?」
404の埋め合わせ期間 二日目。
今回は9の願いを叶える為、店を出てデートをしていた。
以前45と来たカフェとは別の小さなカフェにて、イチゴが乗ったショートケーキを頬張りながら9がそう尋ねてきた。
「どう思っているか、か…」
ブラックコーヒーを一口含む。
苦味、そして芳醇な香り。ここの店主は良い腕をしている。
「うん。45姉は見たら分かる位にギルヴァに積極的だし、ギルヴァの事が好きなんだなぁって言わなくても分かるもん」
少し積極的過ぎる気もするが…態々口にする事でもなかろう。
あの時…本部に居た時、彼女…45から告白された事は今でも覚えている。
その想いに対して自分は明確な答えを返してないのもまた事実だ。
煮え切らない態度に不信感を抱かれてもおかしくない。
「だから、か…。俺の態度が気になったという訳か」
「…まぁね」
助けてくれたから、あんまり疑う事はしたくないけど…と9は静かに呟いたのが聞こえた。
だが9が思っている事も間違っている訳ではない。大事な姉だからこそ…思う所はあるのだろう。
こうしてみると何とも姉思いな妹だと思わざる終えない。
「言い訳にしか聞こえんと思うが…」
カップを静かに置く。
9の目を見据えたまま、語る。
「自分に恋愛経験がない、というのが大きな要因だろう」
「経験がない…?」
「ああ。45に告白される前まで俺は放浪していた身。放浪する前も誰かに告白されたことなどない」
家族が生きて居た頃。
決して他者との交流がなかった訳ではない。その中には異性もいたのも事実だ。
だが自分はその者達を友人ととしてしか見ていなかった。
好意を抱くという感情が、自分にはそれが酷く欠落していたのだ。家族愛はあったが、異性に好意を抱くという感情は只の友人としか見ていないというものに移り変わっていた。
その当時は気付けなかったが…恐らく自分は人に対する選り好みが酷かったのだと思う。
信用できると思った者には優しくし、信用出来ない、或いは嫌いだと思った者には冷たい態度を取るなど…思い込みの激しさ故に自分はそんな態度を取っていた。
だからこそ…恋愛感情など気付かぬ内に分からなくなっていた。45に告白されるまでは。
「故にその想いにどう答えればいいのか分からないという事が多かった。だが…」
「だが?」
「それを理由に逃げるつもりはない。…今すぐとは言えんが答えは出すつもりだ」
45だけに限らず、代理人にもそれは当てはまる。416にもそれが該当すると思うが…。
理由はどうであれ、こちらは答えなければならない。煮え切らないまま…そしてそのままにしておくのも許される事ではないだろう。
…彼女達の想いに対し向き合う。それは自分に課せられた義務だ。
「うん…。早めに答えを出してあげてね。45姉待っている筈だから」
「分かっている」
「だったらさこれを機に契約したらどう?」
「契約…もしや指輪の事か?」
「そうそう」
話には聞いていたが…。
確かにそういう考えもあるだろう。
だがこの手段は行えないという明確な理由がある。
「9、一つ忘れていないか?」
「ん?」
「俺はグリフィンとは協力関係にあるが、属してはいない」
「あ…」
その事を失念していたのだろう。
9の表情がハッとしたものになる。基地に隣接されているから、グリフォンに属していると思ってしまってもおかしくないだろう。
だが自分達は協力関係にある便利屋なのだ。そこだけは忘れてはならない。
「だが…成程。指輪か…検討してみる価値はあるかも知れん」
「え?」
「何でもない。…さて次は何処に行く?」
「何か重大な事を聞き洩らした気もするけど……次は雑貨屋さんかな」
「了解した。…欲しいものがあるならこちらから出そう」
「え?良いよ、良いよ。そこまでねだるつもりはないって!」
「事情がどうであれ、心配かけたのは事実。…それ位はさせてくれ」
「…そういう所、45姉にもちゃんとやってあげてね?」
分かっていると答え、最後の一口を飲み干し椅子から立ちあがる。
支払いを済ませ、9と共にカフェを後にする。
雑貨屋にて。
9が店内を自由に見て回っている間、自分は近くの壁を背に身を預けていた。
ここは以前45と来た雑貨屋でなく、この雑貨屋は商業地域から少しだけ離れた位置に存在する。
老夫婦が経営しており、品ぞろえも悪くない。聞いた話ではS10基地所属の人形も訪れる事があるそうだ。
「これ可愛い!おばあちゃん、これ幾ら?」
「それかい、それはね…」
店内に響く9と店主の奥さんの和気あいあいとしたやり取りを耳にしていると、店主が歩み寄ってきた。
「今日はデートかい、ギルヴァ君」
「そんなところだ。…体の方は問題ないか」
「大丈夫だよ。こんな年寄りを気にかけてくれるなんて、ありがとうね」
「…気になっただけだ」
店主とは酒場で何度か面識がある。酒は飲まないらしいが、同じく店を営む仲間たちと話すのが楽しみだとか。
便利屋を開いたばかりの俺に良く話かけてきたのがここの店主だ。
「ふふっ、そっか」
何がおかしかったのか、店主は笑みを浮かべ椅子に持ってくるとこちらの近くに置いて腰掛ける。
店主の奥さんと9が話し合っている様子を見ながら、見つめている。
こちらからも見えるが、二人の様子はまるで祖母と孫娘といった感じだ。
「あの子も、そして君を見ていると先に逝った息子と娘を思い出すよ…」
「…」
「…息子は君と似ていて冷静な子だった。娘は妻と話しているあの子と同じ様に明るい子だった」
初耳だった。
だが上手く言葉が出てこなく、沈黙を貫いた。
そしてそっと店主の肩に手を置く。
「このご時世だ。君がやっている仕事の中には命のやり取りもあるんだろう。だけど…私達より先に逝っちゃ駄目だよ…。君はまだ若いから。綺麗なお嫁さんと結婚して、温かい家族を作るんだよ?」
「…分かっている」
「…うん。その言葉が聞けたなら安心かな。これで心置きなくあの世に逝ける」
「そういう事は言うものではないと思うが?」
「ははっ、それもそうだね」
優しい笑みを浮かべ、椅子から立ちあがる店主。
…それにしても温かい家族を作れ、か。
俺にとって「家族」という言葉は少しだけ重たく感じるな…。
―ギルヴァ…
悲しいな、蒼。悪魔としての力を身に付けたとしても、心は成長してないのかもしれん。
―それは…
まだ飢えているのだろう。家族の温かさ、母さんの温かさにな…。
M4の時もそうだが、どうやら俺は今になっても踏ん切りが付かないみたいだ。
思う事は忘れはしない。だがこのままでは良くないという事も分かっている。
弱いな…俺は。
―これから…ゆっくりやっていけばいいさ。心は"人間"のままなんだろう?
ああ…そのつもりさだ。永遠にそれだけは変わらんよ。
「うん?どうかしたのかい、ギルヴァ君」
「いや、何でもない」
「そっか。少し思い詰めている様に見えたんだが…君がそう言うなら何でもないんだろう」
「ああ」
そろそろ何を買うか決まった頃合いだろう。壁から離れて、9の元へと向かおうとした時。
ふとある物が視界の端に映った。
気になりそちらへと向くと、そこには身に付ける装飾品といった品々が置かれていた。
ネックレスやイヤリングなどと言ったものばかり。
「…これは」
そしてその中にあったものに視線が釘付けとなる。
「それが気になるかい?」
「ああ。これは店主が?」
「そうだよ。全部私と妻で手掛けたものさ」
「成程…。店主、一つ頼みたい」
「ん?何かな?」
「それは――――」
陽が沈みし頃。
雑貨屋で購入した品が入った袋を下げた9と共に帰路へと赴いていた。
「楽しかったか?」
「うん!」
「そうか。それは良かった」
段々と冷えつつあるのか、最近は陽が沈むのが早い。
店にも暖房設備を用意しなくてはならないな。
これからの事を考えていると、ふと9の足が止まった。
「どうした?」
「いやさ、ずっとギルヴァって私からしたらどんな人だろうって考えてたんだけどね。今分かった気がする!」
「それは?」
「えへへ♪ それはね…」
軽やかな足取りで歩み寄ってくる9。
が突然走り出し、勢い良く腰に抱きついてきた。
そして顔を上げ、誰しもが惚れるであろう満面の笑みを咲かせ言った。
「お兄ちゃん!」
「っ!」
兄、か。
自分はそこまで兄らしいとは思えないが…。
やれやれ、こうも満面な笑みで言われたら否定する気にもなれん。
「…そう呼びたいならそうしてくれても構わん」
「うん!それじゃ…」
そう言ってこちらから離れ、先へ行く9。
だがまた足を止めるとこちらへ振り向き笑顔を咲かせつつ、口を開く。
その姿はまるで…
「帰ろっ!お兄ちゃん!」
陽の明かりに溶け込み様に振り返りつつ見せる笑顔は一枚の絵の様だった。
9の振り返き笑顔を想像したら破壊力がとんでもない気がする。
ギルヴァ、そろそろ答えを出す事を考える。そしてお兄ちゃんになりました。
次は416編。
ではノシ