45との酒盛り。
そしてギルヴァは…
404との埋め合わせ期間も今日で最後となる。
45と酒盛り。しかし昼間から酒を飲むつもりなく、45も飲むなら夜が良いの事。
夜が来るまで時間を潰していた。とはいえまだ昼の13時。その時が来るまでまだまだ時間があった為、基地内の射撃練習場へと向かっていた。刀を振るう事あれど、銃を使う事は多いとは言えない。
一度訪れた事もある為、迷う事無く射撃練習場の内へと入る。
普段から練習で使っている戦術人形達が居ると思っていたが、今日は珍しい事に一人しかいない。
偶然にもその者は訓練を終えたのか、或いは休憩を挟んでいたのかベンチに腰掛け水分を補給しており、練習場に入ってきたこちらを見て、軽く驚いている様子だった。
「貴方は…」
「確か…WA2000か」
「そうよ。あの時以来ね」
「あの時だと…?」
WA2000に、そしてあの時と来たら思い当たるのは一つしかない。
「フェーンベルツの大聖堂地下で会った…あの時の」
「ええ」
「しかし君は別の基地の所属の筈だ…どうやってこちらに?」
「長くなるわよ」
「構わない」
「それでこっちに所属する事になった訳よ」
「成程な」
あの時、自分と離れた彼女は貸したフェイクを手に地下を脱出。後に代理人達と合流したそうだ。
どうやらブレイクと共に魔界の覇王を追いかける自分を見たらしいが、バンのスピードでは追いつく事が出来る訳もなく、S10地区に行くことになったそうだ。そして基地の指揮官であるナギサ指揮官に事情を伝え、WA2000は製造元であるI.O.P社へと戻ったそうだが、本人は前線で戦う事を望んだ為、所有権がナギサ指揮官に譲渡され、そしてWA2000はここに所属する形になったそうだ。
聞いた話ではI.O.Pに返却された人形はコアを除去し、民間用人形として売り出されると聞いたのだが…。
WA2000の様に前線に残り、再度どこかの基地に所属したりする人形も居たりするのだろう…。
そう言われれば95式もそうだ。彼女も本来属していた基地とは別の基地に所属している。
「…あの時、貴方が居なかったら、今頃私は寂しく一人で機能停止してた…」
「…」
「だからね…その、えっと…」
礼を言うのが気恥ずかしいのか、あるいはそれ以外の理由があるのか。
隣に座っている彼女は頬を赤らめていた。
「あ、ありがとう…助けてくれて」
恥ずかしさ混じりのお礼。
彼女が元々どういった性格をしていたのか分からないが、とても可愛らしく感じる。
まぁ…それで口説く様な事はしないが。だが自分ではなく、彼女のそう言った所に心を撃ち抜かれた者も居るのだろうな。
「あと、これ…返すわ」
そう言って渡してきたのは貸していたフェイクだった。
手に取り、弾倉を取り出すと3発使っていた形跡があった。どうやら脱出の際に使ったと見ていいだろう。
弾を使っていようが使っていまいが、彼女が無事なら問題なかろう。
「無事ならそれでいい。…寧ろ無事で安心した」
「ッ…!」
フェイクに弾を込めて、ホルスターに収める。
ベンチから立ち上がると、そのまま出口へと向かう。
結局一発も撃つ事もなかったが…WA2000に会えた事だけでも良しとしよう。
「無事で安心した、か…」
そんな事言われたの今まであったかしら…。
私が覚えている限りではそんな事はなかったわね。あの最悪な空間に戻る度にあいつからは罵倒やら暴力を振るわれた。私だけではない、他の皆もそんな風に扱いを受けていた。
だから私はあいつの無茶苦茶な命令を態と受け入れて、そして逃げた。皆を置いて。
私は卑怯者だ。嫌になって、逃げだしたくて、同じような扱いを受けている皆を置いて逃げた。
自分だけが安全な所にいる…。仲間を見捨てた私がここに居ていい訳が無い。
「助けて…皆を…」
気付かぬ内に流れた涙。
誰もいないから良かったかも知れない。
「助けて…私を…」
涙声に混じったその声は誰にも届かない。
射撃練習場を後にした直後、持っていた通信端末にメールが入っていた。
送り人は以前9と一緒に訪れたあの雑貨屋の店主から。頼んでいた物の一つが完成したので取りに来て欲しいとの事で、そのまま基地から市街地へと向かい雑貨屋へと直行。
店内に入るとレジで店主が待っていた。
「悪いね、急に呼び出して」
「問題ない。それでそれが…」
「うん。注文通りに仕上がっているよ。にしても君がこう言うのを欲しがるとは思っていなかったよ」
「まぁ…色々あるのでな」
代金は既に払っている。
店主から頼んだ物を受け取り、そっとコートの懐へとしまう。
さて…ベースは出来た。この後の作業は自分の役割だ。
蒼、少しだけ力を借りるぞ。
―あいよ。少しだけで良いんだな?
ああ。少しだけでいい。その後は俺が何とかする。
―にしてもねぇ…。それで?覚悟…いや、お返しするって訳かい?
そんなところだ。…答えを返す時が来た、とでも思っていてくれ。
―ハハッ!成程。…二人っきりの時は俺は離れててやるよ。存分に楽しむんだな?
そこまで行くとは思えんがな…。
―さぁてどうかな?酒の勢いでそのまま…って事もあるかもだぜ?
何がそのままだ、全く。
内心ため息をつきつつ、店主へと礼を述べる。
「礼を言う、店主。また頼むかもしれんが構わないだろうか」
「良いよ。残り二つも出来たら連絡するから」
「恩に切る」
踵を返して、雑貨屋を後にする。
外はまだ明るい。陽が沈むまでまだ時間はある。
それまでに仕上げておくとしよう。…誰にも知られぬ様にな。
一方その頃。
「♪~♪~」
私はとても機嫌が良かったその印が口ずさんでいる鼻歌が店内に響いている事が証拠だ。
それもその筈。今日は彼と二人っきりの時間が過ごせるから。約束の時間はまだだけど、早くその時が来ないものか。待ち遠しく仕方ないわ。
「随分と機嫌がいいな、嬢ちゃん。それ程までにあいつにぞっこんっていう訳か」
そう言ってきたのは、ギルヴァと同じ様に悪魔の血を流しながらも悪魔を狩るもう一人のデビルハンター、ブレイク。赤いコートと前髪で片眼を隠しているのが特徴で、ここから遠く離れた町 フェーンベルツで起きた事件をきっかけにここデビルメイクライに居座っている人物。
身の丈以上はある大剣を振るい、時には愛用している大型二丁拳銃を放つ。一度見せてもらったのだけど、彼の二丁拳銃を用いた連射は正直言って驚いたわ。どうすればあれだけの連射が出来るのかとも思ったし、何よりもあれだけの連射に耐えられる銃も凄すぎる。銃の耐久性はともかく、あの連射は悪魔の血が影響なのかしらね。
「そりゃあね。ギルヴァは私の心を奪った悪い悪魔さんよ」
「ハハッ。そりゃそうかもな」
ソファーに凭れつつ、彼はこちらを見つめてくる。
思えばギルヴァとブレイクって…どこか似ているのよね。性格は正反対、戦い方もそのスタイルも違う。
血の繋がりはないってギルヴァは言ってたけど…。
「ま、ぞっこんのは結構だ。積極的な女ってのは男にとっちゃ最高だからな。それに加えて嬢ちゃんはどこか謎めいた所もある。謎めいていて、かつ積極的な女ってのは良い線行っていると思うぜ?」
「あら、そう?それはそれで嬉しいかも」
ギルヴァも顔には出さないけど、満更でもなかったからね~。
ただ416に彼のファーストキスを取られたのは少し痛かったけど…まぁ良いわ。
一歩行ったなら、その倍を行くまでの事よ。
「ただあいつからのカウンターにも気を付けるんだな。ああいう奴に限って、積極的な女の顔を一発で真っ赤にさせちまうモン持ってるからな。一回ぐらいは経験あるんじゃねぇのか?」
「…言われてみればそうかも」
「だろ?…今日は店の方は嬢ちゃんとあいつが二人っきりにできるようにしておいてやる。一夜を楽しみな」
「意外ね。そういう事はあんまりしてくれないと思っていたのだけど?」
「恋する乙女ってやつを応援してやるのも悪くねぇのさ。それに…」
「それに?」
「想いを伝えれず命を落した、その想いに答えれず命を落とした…それはそれで辛いものなのさ」
その時の彼の顔はどこか思い詰めているようにも見えた。
それを聞こうとは思わないけど…ブレイクにも色々あったみたいね…。
「じゃ、俺は先にチキン野郎とワンちゃん、あとメイドさん連れてここの基地の嬢ちゃんが貸してくれている部屋に行ってるぜ。そっちのメンバーはとうに基地の方に行っているみたいだしな」
そう。ギルヴァが何らかの用事で外している内に代理人やフードゥル、グリフォン、私以外の404のメンバーは今夜だけ基地の寮舎で過ごす事になっている。誰がそうしてくれたのは分からないけど…まぁご厚意を有難く受け取っておくべきね。
「♪~」
ブレイクが店を出ていくの見届けた後、私はまた鼻歌を口ずさみ、いつもギルヴァが座っている椅子に腰掛け、彼が帰ってくるのを待つ。
…まるであれね。結婚したばかりで、それで仕事から帰ってくる旦那を待つ妻って感じね。
「早く夜が来ないかしら」
まだ昇っている太陽に向かって私はそう呟き、ここで待つ。
その後、呟いてから10分後に彼は帰ってきた。そして…待ちに待った時がやってきた。
「「乾杯」」
店の自分の部屋にて。
必要最低限の家具が置かれたこの部屋にて、グラス同士がぶつかる音が響く。
注がれた酒が揺れ、氷が踊る。丸テーブルの上に広がるウイスキーボトルに炭酸水。
そして自分の対面に座っている寝間着姿の45。
部屋に自分と45の二人。ある種本部で飲んだ時の再現だったりもする。
「あの時以来かしら。こうやって二人で飲むのって」
「そうだな。互いに依頼や任務でこの様な時間を設ける事は出来なかったからな」
「あれから…だいぶ経ったよね」
「ああ…」
彼女達との出会い。本部で45の告白。
確かにあの日からだいぶ日数は経っている。
「ギルヴァとの出会って…そしてこっちに来てからは色々な事があったわね」
「こちらに来たのは…人権保護団体の過激派が拠点としている基地の制圧の依頼で来たのだったな」
「ええ。ギルヴァ以外の悪魔を見るのがあれが初めてだった。そして恐れたわ。あれが悪魔なんだって」
「無理もない。最早人の理を超えた存在だ。…寧ろ恐れない方がどうかしている」
「そうね…」
そこで会話が途切れ、45はグラスに入った酒を一気に煽った。
炭酸水で割っているとは言え、ベースは度数の高いウイスキーだ。
すぐに酔いが来るのは分かっている筈なのだが…。
「…あの時…」
「ん?」
「あの時416と一緒に現れた貴方を見た時、凄く警戒していた。何故416が貴方と一緒に行動しているのか、あれだけ大きな扉をどうすればあんな風に切り裂く事が出来るのか。そして貴方が囚われていた95式の所へ向かった時、見捨てていこうとも思った」
「…」
「でも今はそれをしなくて良かったと思ってる。普通なら恐れて銃口を突き付けられてもおかしくないのに、悪魔の力を使って私達を助けてくれた。…正直最初は良く分からなかったんだけどね?」
可愛らしくウインクを一つすると45はグラスを持ったまま椅子から立ち上がるとこちらへと寄り、そのまま膝の上に座ってきた。
どうやら酔いに乗じて甘えたいのだろう。…まぁ今だけは良いだろう。
グラスを持っていない手でそっと彼女の頭を撫でる。
「どうしてそこまでしてくれるのか、どうして恐れられるかも知れないのに力を使ってくれたのか、どうして…私達人形を大事にしてくれるのか…。疑問は尽きなくて、そしてギルヴァの事が知りたくなった」
他にも理由はあるんだけどね?と言うと45は酒を一口含むとそのままこちらへと振り向き、こちらの唇を塞いできた。強引に舌がねじ込まれ、流れる様に酒が注がれる。
雰囲気に負けたか、或いは酔いが来てしまっていたのか注がれた酒を飲みこんでしまい、そのまま成されるがままに口内を彼女の舌によって蹂躙された。
「ぷはっ…。ふふっ、ファーストキスには行かないけど、セカンドキスの味はどうかしら?」
「強引にも程があるな。酒を口移ししてくるとは思わなかったぞ」
「そういう雰囲気になったと言えば許してくれる?ギルヴァ~♪」
そういう雰囲気…?
まさか……いや、それはないよな…。
「さ、もっと飲も?」
「…今回だけは付き合ってやろう」
埋め合わせという事もあり、45の願いに答える。
しかしこれが自分も予想もしなかった展開になる事になるのだが、当時の自分が気付けるはずもなかった。
「えへへ~…ギルヴァ~」
あれからどれ程飲んだだろうか。ウイスキーボトルは空になっており、追加として飲んでいた缶ビールも机の上に数本転がっており完全に酔いが回り、顔を真っ赤にしている45がこちらへともたれかかり胸板に頭を摺り寄せていた。こちらもそれなりに酔っているが、45程でない。そろそろここら辺でお開きにするべきだろう。まともに歩く事がままならないであろう45をお姫様抱っこする形で抱っこし、そのままベットの上へと寝かせる。
「離れたらイヤ~!」
「っ!」
だが酔いが原因か軽く幼児退行しかけているのか45に腕を引っ張られるとそのままベットへと押し倒される。
見上げた先にあるのは45の顔。しかしどこか違和感を感じられた。
「ふふっ…つ・か・ま・え・た♪」
先程まで酔いの影響でデキ上がっているというのに、何故かそれが感じられない。
…まさかさっきのはフリ…?。
「おい、さっきまでの様子はどこに行った。酔いが醒めたにしては早すぎるぞ」
「いいえ、酔っているわ。でもね、今から事を考えると少し冷静になったちゃった」
「出来ればそのまま酔い潰れて欲しかったのだが」
「い・や♪」
顔は笑っているが、目は獲物を捕らえた捕食者の目と同じ。
この状況は…どうするべきだ…。蒼も居ないから聞く事もできない。
酔いが原因で良い答えが思い浮かばない。
そうこうしている内に45が片手で身に纏っている寝間着のボタンを一つ、また一つと外し始めた。
空いている手でズボンのベルトにへ掛けられる。
「ねぇ…ギルヴァ…」
顔が近づき、耳元でささやかれる。
とても甘く、艶やかな声で。
「朝まで寝かせないわ…」
部屋の明かりが消え、暗闇に包まれ…。
目が覚めた時はベットの上で互いに裸で朝を迎えたのだった。
「…」
未だに眠っている45をそのままに何時もの服に着替えて、ベットの上に腰掛ける。
昨夜の事は覚えている。彼女と飲み、そしてそのまま…。
…結局蒼が予想していた結果になった訳だ。遅かれ早かれこうなるのは多少なりとも予想出来ていたのだが…。
「…」
ベットの上で健やかに眠っている45を見る。その笑顔はとても安らいでいた。
そっと手を伸ばし、頭を撫でる。
思い出せば一番は私だと、あの時言っていたな。これで本当に一番になったという事になるのだろう。
「…ふぅ」
小さく息を吐き、コートの懐からある物を取り出す。
銀色のチェーンに、本来指に通す筈の指輪が通されている。指輪自体は雑貨屋の店主に作ってもらったものだ。
そこにある細工を施してある。それは指輪にはめられた群青色に輝く小さなダイヤ。元々はそんな装飾は施されてなどいなかったのだが、魔力で錬成し指輪に施した。
そしてこのダイヤはただの飾りなどではない。ダイヤには使用者の力を少しだけ上げる能力を持ち合わせている。
つまりこれは人形の性能を少しだけ上げる補助装備だったりする。
因みに蒼はこれの事を「アミュレットハーツ」と命名している。
「…俺なりの答えだ」
そっと45の首にかけてやる。
それのせいか、彼女の目が薄っすらと開いた。
「おはよ…ギルヴァ」
「ああ、おはよう。…よく眠れたか?」
「うん…」
体をシーツで隠しつつ、起き上がる45。
そこで自分の首に吊り下げられているアミュレットハーツに気が付き、尋ねてきた。
「これは…え?」
「…グリフィンで言う誓約の証みたいな物と言うべきか」
「え、え、えっ?…ちょっと待って?」
これを送った渡した意味が段々と気付き始めたのだろうか。
45の顔がみるみると紅くなっていくのを他所に言葉を続ける。
「俺はグリフィンに属してない。本当の意味での誓約は俺が指揮官にならない限り無いと言っていい。だがお前も知っている通り、俺は指揮官というのは性に合わん。…それは俺なりの答えという事になる」
ベットから立ち上がり、部屋のドアへと歩き出す。
そしてドアノブに手をかけた時、彼女へと向けて伝える。
「ネックレス状にしたのも、攻撃で指を失くしてしまい指輪を失くす事を防ぐためだ。…加えてそれには使用者の力を少し上げる能力を持ち合わせている。…自分を愛してくれている者に死んでほしくないのでな。無くすなよ」
伝えたい事を全て伝えて、そのまま部屋を後にするのだった。
「…」
多分私は顔を真っ赤にしている。
ネックレスのチェーンに通されているのは指輪なのだから。
確かに昨夜は素敵な一時は過ごせたし、自分からしたら最高の一言に尽きる。
けどまさかお返しに指輪なんて想像していなかったわ…!
「ヤバい…すごく顔が熱い…」
一歩リードした416の10歩リードするつもりが100歩リードしちゃってる。
「ブレイクが言っていた通りとんでもないカウンター貰っちゃった…」
今後彼をどう呼べば良いの?
ギルヴァ?それともアナタ?それともパパ?
「~~~~っ!!!!」
更に顔が熱くなるのが分かる。
このままだとオーバーヒート起こすかも。いやもう起こしてるかも。
「…愛しているわ…」
ギルヴァ…ううん…。
あ・な・た♪
うん、そういう事だ。
恋人をすっ飛ばして、嫁として…。ギルヴァぱねぇ!
アミュレットハーツに関してはまた設定集で設けますので…許して。
さてはて404は終わった。でももう一人埋め合わせを望む者がいるんだぜ?
またわーちゃんがかつて属していた基地案件。これもしかしたら…コラボ依頼として出すかもです。確定ではないのですけどね。
では次回ノシノシ