Devils front line   作:白黒モンブラン

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WA2000は資格など無いと言った。
しかしギルヴァは――


Act51 WA2000

「…」

 

何やっているんだろう。

誰もいない射撃訓練場の隅っこで丸くなり、その言葉が頭の中を反響する。

部屋に戻る気にはなれなかった。戻れば…怖くなってしまうから。

 

「…」

 

私を受け入れてくれた指揮官や便利屋のギルヴァに非はない。

ただ私だけが…皆に会いに行く事に、助けに行く事に情けない位に怯えていた。そして今日、あの場所が悪魔の巣靴を化していると聞いた時、拍車をかけるかの様は体が震える程怯えていた。

あそこに悪魔が居る事にではない。悪魔が闊歩しているあの場所に皆を置いてきてしまったが…私の中で重圧となって圧し掛かっている。

 

「…」

 

泣きたかった。でもこういう時に限って涙は流れる事はなかった。

 

「…涙は枯れたってやつかしらね。…そう言えば悪魔は泣かないんだったっけ」

 

これが自分だけ逃げた代償だとでも言うのだろうか。

 

「殺しの為に生まれた奴が悪魔にへと堕ちた、か…」

 

裏切り者に相応しい結末じゃないの…。

 

「ハハッ…」

 

笑いが出る。

 

「アハハハッ…!」

 

ああ…もう何もかも可笑しい。

可笑しくて仕方ない。もう笑いが止まらない。

なのにどうしてかしら…

 

「ハハハハハハハッ!!!」

 

何で私は―――

 

「妙な事を言うものだな。悪魔に堕ちたとは…ジョークにしては笑えんが」

 

「!」

 

その声が聞こえた時、さっきまで出ていた笑いがぴたりと止んだ。

声が聞こえた方へ向くと部屋の出入口近くの壁に背を預け、腕を組みながら立っているギルヴァの姿があった。

あぁ…そうだわ…。

 

「何の用…」

 

「何の用だと?お前も分かっているのだろう?」

 

「…てっきり指揮官が来ると思ってた」

 

「彼女の方が良かったか?」

 

「いいえ…寧ろ貴方の方が都合が良かったわ」

 

「ほう…?」

 

そう。悪魔をこの世に居てはならぬもの。

そしてここに彼はそれを討つ専門家。何て最高なタイミングで来てくれたのかしら。

込み上げてくる笑いを必死に抑え込み、私は彼へと歩き出す。ふらふらとまるで悪魔の如く。

こちらが歩み寄ってくる事を分かっていながらも彼がそこから動く気配はない。

 

「どうやら私は…悪魔になったみたい…」

 

「…」

 

彼は一切動かない。

 

「悪魔を討つのが貴方の仕事なんでしょ?だから…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ワタシ ヲ コロシテ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

濁り切った瞳で自身を殺す様にギルヴァへと頼み込むWA2000。

狂ったかの様な笑みを浮かべ一歩ずつギルヴァへと近づくWA2000。しかしギルヴァは武器を抜く事をしなければその場から動く事もしない。只々瞳を伏せたまま立ち尽くしていた。

二人の距離が半分と縮まった時、ギルヴァは伏せていた目を開き、静かに、かつ彼女の耳にはしっかりと聞こえる声で答えた。

 

「下らん」

 

たった一言だった。

しかしその一言はWA2000にとって、自身に介在する闇を払いのける様な力強さがあった。

証拠として狂った様な笑みは消え去り、浮かび上がる表情は呆然と驚きの二つが混ざった様なものになっていた。

 

「悪魔になっただと?寝言なら寝て言え」

 

鋭い視線がWA2000へと向けられる。

どちらかというと強面に当たるギルヴァ。

その事に加えどことなく彼から発せられる怒気に当てられた彼女は小さく、ひっ…と怯えた声を漏らした。

 

「一つだけ教えてやろう」

 

壁から離れ、ギルヴァはWA2000へと歩み寄る。

彼女の前に立つと、手を伸ばす。

 

「悪魔というのは…」

 

伸ばされた手。その手は段々と瞳へと向かって行き…

 

「泣かないものだ」

 

WA2000の瞳から流れる涙を指で拭った。

狂ったかの様な笑いを上げていた際に感じた疑問が明らかになった事により彼女は目を見開く。

確認するかのように自身の手でそっと頬を触れる。頬に伝う一滴の涙が彼女の手に零れる。

枯れたと思われた涙は、しっかりと流れていた。何故今なのか?彼女にはそれが理解出来なかった。

それが顔に出ている事に気付いたギルヴァは一つため息を吐くと、彼女にへと告げた。

 

「幾ら自分を偽った所で、感情は騙しきれん」

 

そして、と彼は言葉を続ける。

 

「資格がないと言っていたな?その考えも愚かだと思え」

 

「どうして愚かなのよ…」

 

愚かだと言われた事に彼女の言葉に怒気が混じる。

一度伏せた顔を上げるとその瞳を流しながら、ギルヴァへと詰め寄り胸ぐらをつかんだ。

 

「私はッ!!見捨てたのよッ!!?悪魔とか訳の分からない化け物共が跋扈しているあそこに!!皆を置いてッ!!自分だけ逃げたッ!!!」

 

「…」

 

「そんな奴に…誰かを助ける資格も理由もないッ!!!」

 

溜まりに溜まったものを吐き出す様に叫ぶWA2000。

興奮状態にあるのか、息を荒くしギルヴァを睨む。対する彼は彼女の目を見つめ返す。

 

「一つ聞く…」

 

「何よ…」

 

「誰かを助けるという事に対し資格や理由がいるのか?」

 

「…ッ」

 

「貴様はそれを理由に逃げているだけだ。…それでこそ置いてきてしまった仲間に対する裏切りではないのか?」

 

胸ぐらをつかんでいる彼女の手を払いのけるとギルヴァを背を向け出入口へと歩き出す。

 

「…このままそれを理由に逃げるか、或いは立ち向かうか。決めるの貴様次第だ」

 

「…」

 

「立ち向かうを選択するのであれば…幾らでも手を貸そう。それだけは約束する」

 

そのまま部屋を出ようとした時、待ってよ…と小声ながらもWA2000がギルヴァを呼び止める声が響く。

呼び止められたギルヴァは足を止め、振り返る。服の裾を強く握り、顔を俯いたままで表情は分からない。

しかし彼は立ち去る事はしない。ここで答えが出るか、それを待っていた。

 

「あんたは便利屋だったわね…」

 

「そうだが」

 

「ならば…依頼するわ…」

 

俯いていた顔をバッと上げるWA2000。

その表情は影はない。目は覚悟を決めたと言わんばかり。それを見たギルヴァは小さく口角を吊り上げた。

 

「手を貸して。皆を助ける為にも。報酬は…」

 

「今回は取らん。だが個人的な依頼として受けよう。…指揮官は会議室に居る。飛び出した事を謝罪したの内、作戦の内容を聞いてこい」

 

「うん…!」

 

ギルヴァの横を通り過ぎ、射撃訓練場を出ていこうとするWA2000。

出入口まで近くにくると、ふと足を止めてギルヴァの方へとちらりと向く。彼女の方へと向く事無く背を向けたままのギルヴァ。その背を見て彼女は何を思っているか。それは彼女にしか分からない。

 

「ありがとう…」

 

静かにそう呟き、彼女は部屋を出ていく。

部屋を出ていった事を確認したギルヴァは続く様に部屋を出て…

 

「盗み聞きとは。良い趣味とは言えんな」

 

行こうとはしなかった。彼がここに入ってきたタイミングでこっそりと忍び込んできたもう一人にへと声をかけた。その人物はギルヴァがいる反対側で壁に背を預け腕を組んで立っていた。

呼ばれたその者…ブレイクは赤いコートを揺らめかせ、飄々とした表情で歩み寄ってくる。

 

「全く…もう少し優しい言葉の一つや二つ位は出せないもんかね」

 

「悪いな。そこまで考えが出てこなかった」

 

「やれやれ」

 

肩を竦めるブレイク。

対するギルヴァは何故彼がここにいる事を不思議に思い、その事を尋ねる。

 

「何がやれやれだ。お前、作戦の方はどうした」

 

「あー…眠くなりそうだったんでな。メイドさんに後で教えてもらう様に頼んだ」

 

寧ろこっちがやれやれだ、と言いたくなる所を敢えてギルヴァは言わなかった。

そして話は先程の事へと移り変わっていく。

 

「あの嬢ちゃん…大丈夫かね?」

 

「今度こそ大丈夫と見ていいだろう」

 

「ま…あの感じだとその様だな。しかし個人的な依頼として受ける、ねぇ…」

 

気配を消して聞いていたからか。先程の事を振り返し、ニヤニヤと笑みを浮かべるブレイク。

 

「まぁ便利屋らしくていいんじゃねぇの。でも何で個人的な依頼として受ける事にしたんだ?」

 

「女の涙には弱い…そういうものだ」

 

「ほう?お前がそんな事を言うなんてよ。…明日は雷が落ちるな」

 

「雷の代わりにお前の頭上から剣を落とす事は出来るが?」

 

「おっと、それは勘弁願うぜ」

 

両手を上げて降参の意を示すブレイクを見て、ギルヴァは小さくため息をつく。

そのまま射撃訓練場を出ていくとブレイクもその後に続き、二人して廊下を歩く。

そんな中、ある事を気になったギルヴァは隣を歩くブレイクにへと尋ねる。

 

「何故あの場に来た?眠くなったとしてもわざわざあの場に行く理由などなかろう」

 

作戦会議で眠ったなったにしろ、誰かが訓練している可能性がある場所にわざわざ来る理由がない。

それでこそ選ぶなら誰も居ない静かな所を選ぶ。

 

「単純に気になっただけさ」

 

「…」

 

そんな筈はないだろ、と言った視線をぶつけるギルヴァに誤魔化しが利かなかったのかブレイクは肩を竦める。

 

「おいおい、そう睨むなよ。…昔あの嬢ちゃんに会った事あるのさ。見た目は同じだが…あの基地に属していた奴じゃねぇけどな」

 

「てっきり片思いしていた人形と思っていたが?」

 

「まさか、あいつじゃねぇよ。…ま、あいつ…WA2000だったか?ありゃ中々素直になれないタイプってやつさ。そりゃ可愛げのある所はあるんだろうが…ああいうタイプってのは案外溜め込みがちなのさ。良い事も悪い事もためこんでしまう。…一度見た事あってか、それなりに心配だったもんでね。まぁその役目はあんたに取られちまった訳だが」

 

「悪かったな」

 

「気にすんなよ。…ま、作戦当日は俺達があの嬢ちゃんを支えてやんねぇとな」

 

「当然だ」

 

お互いに羽織るコートをなびかせ、歩く二人。

その背は大きく、かつ悪魔すら泣き出しそうなほどの圧力があった。

 

 

後に店にて作戦事項を聞いた代理人から全てを伝えられた。

今回の作戦は大規模作戦として想定されており、S10基地も現状動かせる部隊を全て投入するとの事。

まずは第一部隊。以前の作戦にて悪魔を相手にした事から参加は絶対と言えた。

部隊長はFAL。メンバーはKar98k、Vector、スコーピオン、アストラ。

次に第二部隊。後方支援を目的とし、メンバーもRFの戦術人形を主軸といった構成が成されている。

部隊長はスプリングフィールド。メンバーはSVD、スオミ、100式、M1895。

続き第三部隊はMGとSGを主軸とした部隊。SGの高い防御力、そしてMGによる瞬間火力で敵を一掃という構成。

部隊長はMG5。メンバーはPK、AA-12、97式散、グリズリー。

最後は第四部隊。こちらは機動力に長け、AR、SMG、HGといった戦術人形で構成。

部隊長は64式自。メンバーはGr G41、Gr MP5、JS9、コンテンダー。

また今回は特例としてWA2000が第四部隊に編成。

そして404小隊、デビルメイクライといったそうそうたる面々が参加。

 

作戦の流れとしては外部迎撃組と内部制圧組と分かれる形となる。開幕の狼煙として代理人のニーゼル・レーゲンによる妨害装置を破壊。それをきっかけに現れるだろう基地外部の悪魔達の所に例のバイクに乗ったブレイクが突撃。道中の悪魔を撃破しつつ内部へと侵入。溢れているであろう悪魔を撃破していき、数が減ったタイミングで第四部隊、404小隊、援護組としてフードゥルとグリフォンが突撃。基地に囚われている戦術人形の解放を目指しつつ内部の悪魔を撃破。

対して外部迎撃組はギルヴァ、代理人、第一部隊、第二部隊で行う。またフードゥルの情報の中にあったヘル=バンガードがどちらかに現れた場合はギルヴァかブレイクで対処。同時に協力者も二人のどちらかで対処。

またS11地区のブラック基地の指揮官の始末、そして外部迎撃組の協力者として他地区の基地の申請しお願いすると事。

作戦は明後日の深夜帯に決行、参加する面々には十分な休息と準備が言い渡される。また今回の作戦には、S10基地に異動予定だったARの戦術人形二人が途中参加する事となる。

そして今回の作戦名は…

 

 

 

 

 

 

 

operation End of nightmare(悪夢の終焉)




次回からはオペレーション・E.O.Nです。

コラボ依頼として活動報告の方に投稿致しますが、色々お伝えしなければならないので何卒宜しくお願い致します。。、

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