Devils front line   作:白黒モンブラン

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―――今宵悪夢が終わりを迎える


Act52-Extra operation End of nightmare Ⅰ

風が吹く。

夜空に上る満月は等しく全てを照らす時もあれば、雲によって月は遮られ等しく全てを暗闇へと包む。

幾度となく繰り返され、これで何度目になるだろうか。また雲が月が遮り地表は暗闇に包まれる。

民家等無く、だだっ広い平野が広がる。そんな平野にある場所へと向かって黒いコートを纏った男…ギルヴァが歩いていた。左手には愛刀の無銘、そして背には鉄血のハイエンドモデル 処刑人から奪った大剣を、魔工職人であるマキャ・ハヴェリが改造した機械剣 クイーンを背負っている。

緩やかに吹く風でコートがなびき、彼はその先にある建物を見つめ、呟いた。

 

「S11地区後方支援基地…」

 

『今は悪魔の基地ですが』

 

右耳に付けている無線機から代理人の声が入る。

ギルヴァが居る位置から後方…偶然にも基地を見渡せる高さのある自然できた岩の高台にて彼女は愛用のニーゼル・レーゲンをレールガン形態にした状態で時が来るまで待機していた。

 

operation End of nightmare

 

悪夢の終焉と名付けられた作戦は開始時刻まで残り30分を切っていた。

本来であれば代理人の砲撃の内、ヴァーン・ズィニヒと名付けたマギー・ハリスンお手製のバイクに乗ったブレイクが基地へ突撃する流れであったのだが、彼が内部に突撃した後にも外部にて増えていくであろう悪魔を部隊が来るまで少しでもその数を減らしておく必要があるとギルヴァが指摘。

その為、作戦の第一段階である基地侵入はブレイクとギルヴァという形となり、先行してギルヴァは徒歩で基地へと足を進めていたのだ。

 

『どうですか?ギルヴァさん。基地の方で何らかの異常とか見受けられますか?』

 

代理人に続いて彼の通信機に響いたのはシーナ指揮官の声だった。

本来であれば彼女は基地に居なければならないのだが、的確な指示を出す為にも自分も出ると告げ、戦場から離れた位置にて仮司令塔という名目の装甲車にて待機していた。

その為か彼女がいる地点は仮司令塔という事もあって野営地が設営されており、また協力者のおかげもあってか大規模になっていた。

 

「いや、こちらが見る限りではそれは見受けられない。現状はな」

 

足を進めつつ、自身の目に映る現状を伝えるギルヴァ。

だが彼は感じ取っていた。この先から流れてくる魔の気配を。ちょっとやそこらの問題ではない。波となって押し寄せていた。ギルヴァやブレイクの様な悪魔の血を流す者でなくても、全身がピリピリとした感覚に襲われても可笑しくないと言える。

 

(これだけとなれば…人形にも影響が出ているかも知れんな…)

 

あながちその考えは間違っていなかった。

突撃に備えて待機しているだけと言うのに肌がピリピリとした感覚に襲われる人形はいた。それを知ってか知らずか、ギルヴァはある事について代理人と話し始める。

 

「今回の作戦、相当規模の増援が参加している事もあってか大規模になったな」

 

『そうですね。S9地区P基地、U05基地、H&R社のお二方、男性型戦術人形M16A4様、M14様…。特にS09地区P基地とU05基地からは航空支援を出してくれるみたいです』

 

「航空支援か。…作戦名は悪夢の終焉ではなく、悪魔も泣き出すに改名した方が良いのではないか?」

 

『Devil May Cry…ですか?では別名でそうしておきましょう。主に私の中で、ですが』

 

「…この通信が全員に聞こえている事を知っておきながらそれか」

 

『それを言うのでした貴方もでしょう?ギルヴァ』

 

作戦開始時刻が近いというのにこの二人のやり取りは緊張感がなさすぎるとも言えるだろう。

だがこうしてちょっとしたやり取りで場を和ませ、協力者達の緊張で固くなっている体を少しでも解そうと考えた結果の行いだった。小さくであるが誰かがクスリと笑う声が耳に届いたのがギルヴァは決して聞き逃さなかった。

そこに二人のやり取りに加入する者が現れる。

 

『ギルヴァ~?正妻の私を差し置いて仲良く代理人とおしゃべり?』

 

『ああ、申し訳ありません。まな板である貴方様の事を忘れていました』

 

『は?』

 

デビルメイクライに属している面々は知っているが、UMP45に胸の話はしてはいけないと暗黙のルールとなっている。通信越しであるがそれを平然と破り彼女に挑発を仕掛ける代理人にギルヴァは指を額に当て軽くため息を付く。一部からは「お前、結婚していたのか…」という声も上がっているのだが、これ以上は作戦にも集中できなくなると考え、彼は軽く咳払いし今にも始まりそうな二人の喧嘩を止めさせる。

余計な事はするものではなかったと内心後悔しつつ、彼は全員へと告げる。その声は顔を見なくとも真剣だと感じさせるほどに。

 

「今回の作戦に参加、協力してくれた事に感謝する。特に今回で二度目の共闘となる笹木一家とリホ・ワイルダー氏には尚の事な」

 

『へぇ?二度目なのか。その手の話、聞かせてくれよ』

 

「黙っていろ、ブレイク。…その他にもこちらが世話になったS09地区P基地の面々、今回が初の共闘となるM16A4、M14も協力に感謝申し上げる。だからこそ言っておく。…奴らを甘く見るな」

 

決して脅している訳ではなかった。当然ながらこの作戦に参加している者達は悪魔を甘く見ているつもりなどない。だが相手が相手。人間でなければ、暴走している鉄血人形でもない。ましてやE.L.I.Dでもない。人知れずこの世に潜む未知の存在。何かをしでかしても可笑しくない事は変わりなく、ギルヴァは念を押す様な形でそう告げたのだ。

 

「幾ら入念に準備をしていたとしても、予想外の事を平然とやってのけるのが奴らだ。…不味いと思ったら引け。空いた穴は俺達で埋める。それと対象指揮官排除組に伝えておく。返事はいらん、聞くだけに徹しろ。奴が悪魔と組んだと言う事は何かを有している可能性もなくはない。……追い詰められたネズミは何かをしでかしても可笑しくない。投降を呼びかける事も意味を成さないと思え。…その事を念頭に置いて行動してほしい」

 

『そういうこった。緊張するなと言わねぇが…命あっての物種。人形のお嬢ちゃん達も、替えがあるからって無理は無しだ。それだけは頼むぜ?』

 

「黙っていろと言った筈だが」

 

『いいじゃねぇか。俺にもカッコイイこと位言わせてほしいもんだね。…まぁ、それを話している時間は残りわずかになってるがな…』

 

通信越しからでありながらブレイクの雰囲気を変わっている事を感じつつもギルヴァは何も言わず足を止めた。

先にはあるのはS11地区後方支援基地、もとい悪魔の巣靴と化した基地が数メートル先にある。

先程まで相当の距離があったにも関わらず、随分と近づいたものだなと思いつつも彼はそこで立ち尽くし、無銘を杖の様にして地面に付けると静かに目を伏せ精神統一を図る。

作戦開始時刻まで残り数分を切っている。

先程のやり取りはもう訪れない。妨害装置範囲外で待機している外部迎撃組も内部突撃組も息をひそめ、時が来るのを待つ。

一秒、一秒と時が刻まれいき…残り2分となった時。

 

『パーティークラッカー、用意』

 

指示が飛び代理人はレールガン形態のニーゼル・レーゲン(パーティークラッカー)を基地上空を浮かぶ妨害装置へと狙いを定める。左手で砲身を支え、左足を一歩後ろへと引く。

 

「ふぅ…」

 

軽く息を吐き、彼女の目つきが鋭くなった同時にニーゼル・レーゲンは最大出力モードへと移行。発射に要するエネルギーを生み出していき、増幅にするに連れて段々と余剰エネルギーが光輝く蒼き翼となって、その羽を大きく広げていく。ニーゼル・レーゲンとの同調による副作用か、代理人の右目は水色へと輝きを放ち、三又状へと変形した砲身の砲口からは橙色のターゲットサイトが展開。

まだ撃たない。これでは十分な破壊に至らない。改造を手掛けたマギーが言っていた様に展開されているターゲットサイトが色を変えるまで撃たない。

 

 

 

 

 

 

ターゲットサイトが水色へと変色する。

 

 

 

 

 

 

 

パーティークラッカーの準備は出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

狙うは一つ。穿ち爆ぜるは一つ。

 

 

 

 

 

 

 

『パーティークラッカー、鳴らして!』

 

「!」

 

ニーゼル・レーゲンが咆える。

水色に輝くそれは流星の如く、風を切り、雲に大穴を開け駆け抜ける。

狙いに一変の狂い無し。放たれた一撃は吸い込まれるかの様に妨害装置に着弾。開幕を知らせる狼煙が爆発音と共に辺りを照らす光となって咲いた。

最大出力での一撃をまともに受けた妨害装置は散り、それを合図にナギサが作戦開始の知らせを叫び、基地外部では死神の様な悪魔達がわらわらと現れる。

外部迎撃組は一斉に動き出し、先行していたギルヴァは基地前広場に乗り込む。瞬く間に死神の様な悪魔…ヘル=プライド、ヘル=ラストに囲まれるが…そこに外部迎撃組より先に後方からブレイクがバイクにまたがり猛スピードで現れる。

 

「いやっほおおおぉぉ!yeahーー!」

 

テンション高く、そしてバイクと共に一気に跳躍しギルヴァの後ろから飛び越えると群がる悪魔達へと切り込む。

空中をターンをしつつ、襲い掛かる悪魔達を薙ぎ払い着地すると正面に立った一体を弾き飛ばし、再度バイクごとジャンプ。宙で一回転しつつブレイクはヴァーン・ズィニヒをバイク形態から双剣へと変形。雄叫びを上げるエンジ音と共に回転するホイールからチェーンソーの如く無数の刃が現れ、敵集団の真ん中に着地と同時に彼はヴァーン・ズィニヒを振り回し始める。

 

「ハッハー!!」

 

両手に持った重量級の鋸を振り回し前方の敵を薙ぎ払い、自身の足を軸に回転しつつ攻撃を繰り出したのち、そのまま斜め後方に居たヘル=プライドに対し振り向きつつ右手の鋸を頭部へ目掛けて振り下ろしそのまま地面へ叩きつけると、ホイールを回転させる。叩きつけた悪魔を斬り刻みながら勢いを利用しそれを軸にしながら大回転。何度も唸りを上げるエンジン音と共に左手の鋸で周囲に敵で弾き飛ばし最後は回転の遠心力を使い宙へと身を投じる。そこに目掛けて襲い掛かる悪魔達であるが、それが通用する訳が無くまるで台風の様に全身で回転しながらヴァーン・ズィニヒを振り回すブレイク。

迫りくる敵を轢き飛ばしていき、そのまま地面に着地。両手の鋸で地面を滑っていき、正面の二体を吹っ飛ばす。彼の後方で文字通り轢き飛ばされた悪魔達が地面へと激突する中で終始テンションが高いままのブレイクは余裕のある笑みを浮かべたまま言葉を口にする。

 

「大渋滞してんな!」

 

スタイリッシュアクションならぬスタイリッシュバイクアクションをお披露目をするというブレイク。しかしこのまま此処にいる訳にも行かず、ヴァーン・ズィニヒをバイク形態へと戻し跨るとエンジン全開でそのまま基地正面玄関へと突撃し始める。

 

『ブレイクさん、内部に突撃を。中も大渋滞しているから気を付けて!』

 

「オーライ!嬢ちゃん!通行料金を払わなくても良いのかい?」

 

『悪魔達による大渋滞なんで、逆に向こうに迷惑料を払ってもらいます!』

 

「いいねぇ!じゃあ…行くぜッ!!」

 

バイクをエンジン全開にし、正面玄関を破壊し内部へと消えていくブレイク。その様子を終始見ていたギルヴァは何も言わなかったのだが、一部はこう呟く。

 

『バイクってよ…あんなのだったか?』

 

『そもそもなんじゃあのバイク…』

 

S10地区基地の後方幕僚兼魔工職人が魔界製の素材を壊れたバイクと強引に融合させたお手製バイクです、とあれを知る者は苦笑いを浮かべるしかない。

あんなのを見せられたら気が狂っているとかし思えないのだが、何かの偶然かバイクの名であるヴァーン・ズィニヒはドイツ語で狂気の、または気が狂っているという意味であり、名を示す通りの暴れっぷりだったのは言うまでもなかった。

 

(外部迎撃組が来るまで後少し…。未だに増え続けている奴らの始末が先か)

 

一方で敵に囲まれている最中だと言うのにギルヴァは至って冷静だった。試しがてら背に背負っている機械剣 クイーンを使ってみようかと思いつつもやはり一番使い慣れている無銘がやりやすいと考える。

獲物が逃げてしまった事から悪魔達の狙いはギルヴァへと向き、赤い目を不気味に光らせながらゆらりゆらりと手に持った鎌の刃を煌かせ、近づいていく。

対するギルヴァは小さく首だけを動かし、敵の位置を把握する。前方と後方、右方と左方から悪魔達に囲まれている。何ら行動を起こす事の無いの彼に痺れを切らしたのか悪魔達は手に持った鎌で襲い掛かり始める。

彼の事を知らぬ者なら何してるんだ!逃げろ!と言うかも知れない。だが彼を知る者ならば、この程度心配する必要はないと判断する。何故ならばこの程度の状況、彼は何度も経験した事があるのだから。

 

「っ!」

 

納刀された状態の無銘の鞘で一番最初に来る攻撃を弾き飛ばし、流れる様に反対側の攻撃を弾き返す。そのまま後方から来る攻撃を無銘の持ち手部分で弾き、前方へと振り向き抜刀態勢に入る。鯉口を切り、晒しださせれる刃が後方の敵の姿を映し出した。

その瞬間、縦に一閃奔る。前方から跳躍しての一撃を繰り出そうとしていた悪魔が縦に真っ二つにずれ落ちる最中、左から迫る悪魔へと切り裂き、返す刀で左から右へと無銘を振るう。

 

「っでえあぁッ!!」

 

素早く、かつ力強い一撃は周囲の悪魔を容易に真っ二つに切り裂く。一体、また一体を崩れ落ちていく中でギルヴァは刀身を払い、刀を鞘へと納める。

だが悪魔達はわらわらと姿を見せる。奇襲攻撃を得意とするヘル=ラストが、鎌を振り下ろすが彼は上体を反らし回避、反撃で無銘の柄で突き飛ばし抜刀。後方から来た攻撃を弾くと素早く刀身でヘル=プライドを足を掬い上げる。掬い上げられ宙で回転しかける所にそのまま胴へ向けて一閃し、その後ろから来たヘル=プライドの鎌を持っている手を切り裂き、二撃目に斬り払い。つかさず自身の後方から来る悪魔に向かって足払い。それによってこけた所を右から左へと一撃を浴びせ、近くにいたもう一体にも一撃を与えつつ移動。自身の正面から迫りくる敵の足に目掛けて今度はもう一体にぶつかる様に刀身で掬い上げ、背を向けつつ納刀。

敵同士がぶつかった所を狙い振り向きながら二体同時に立ち居合構えからの抜刀し切り裂く。

軽く舞う砂埃の中を立つギルヴァ。しかしその背後からはまだ悪魔達が現れる。派手に動いていた事もあってか、後ろへとかき上げていた前髪は下ろされているのだが、今はそんな事を気にしている暇はない。

腰を低く下ろしつつ、前傾姿勢を作る。刀身を一度を鞘へと納めた後、親指で無銘の鯉口を切るとそのまま一気に地を蹴ったその瞬間。

 

「遅い」

 

目にも追えぬ程の速さで黒き残影が駆け抜けた。居合抜刀から繰り出された無数の真空刃が渦巻き、抵抗も一切許さず一瞬にして悪魔達を切り裂く。卓越した技術によって崩れ落ちていく悪魔達を背に、刃を鞘に当てた後刀身を鞘へと納める。最後には鍔と鯉口がかち合う音が響き渡った。

そのタイミングで外部迎撃組が集まりだす。当然ながら先程の彼の戦闘は目撃されており、只々目を丸くする者もいない訳ではなかった。そんな事を知らず下ろされた前髪を後ろをかき上げつつギルヴァは静かに呟く。

 

「―――始めよう」

 

かくしてS11地区後方支援基地を舞台とした悪魔との舞踏が月下の元、今宵開幕する。




はい。今回からはコラボ作戦!多くの方々が参加していますが…。
もうあれですね…参加する面々が豪華過ぎてこちらが委縮しちゃいますね…。

期限を11月18日までさせていただきましたが、これ以上参加する方が居ないと考え、また参加してくれる方々に待たせるのは不味いかと思い、活動報告にて11月11日23時59分をもって締め切らせていただきました。


参加して下さる方々はこちらで何か不備があれば感想か、またメッセージを頂ければ幸いです。次回投稿は出来るだけ早くと思っていますが、場合によってはかなり遅くなる事もありますので何卒宜しくお願い致します。

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