Devils front line   作:白黒モンブラン

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―――ここからがクライマックス


Act55-Extra operation End of nightmare Ⅳ

「そらよっ!!」

 

「aaaaaaa!!!」

 

ぶつかり合う刃。散る火花。

開幕したメインイベントの主役と化したヘル=コマンドを相手にトリッキーな動きでリベリオンを振るうブレイク。

お互いの獲物をぶつけ合い、ぶつかる音が響き合う中外部迎撃部隊は中々手出しができない状況にあった。

 

「無理だ!このまま撃ったら彼にも当たる!」

 

「なんつう動きしておるのじゃ…これでは狙いが付けられん!」

 

S10基地の第三部隊の部隊長、MG5と第二部隊のM1895が声を上げる。

二人が言った様に最早両者の動きは幾ら戦術人形でも追い付くのがやっとと言えた。

下手に撃てばブレイクに当たる可能性もあり、ヘル=コマンドの動きが大人しくなる他なかった。

だがブレイクは彼、彼女達が撃ったとしても避けられる自信はあった。何故ならかつて相対した魔界の覇王の攻撃は四方八方から飛んできたのだ。

それに彼女達が下手を打つ事なんてないと思っていた。だがこのまま撃てないのならどうにして撃てる状況を作るまでだ。

 

「おっと!」

 

リベリオンを振り下ろした瞬間、読んでいたのかヘル=コマンドは両手の大鎌で攻撃を防ぎ弾いた。

弾かれた事により態勢が崩れるブレイク。生まれた隙を突く様に大鎌を勢い良く振るうヘル=コマンド。だが彼は即座にヴァーン・ズィニヒを呼び出し跨ると、フルスロットルで突進しお返しと言わんばかりに繰り出された攻撃を弾く。

流石に弾かれる事は想定していなかったのか、攻撃を弾かれたヘル=コマンドの態勢が崩れ後方へと仰け反る。

その瞬間、恐ろしいまでの弾幕がヘル=コマンドに襲い掛かった。

ブレイクとヘル=コマンドとの距離が空いた事とブレイクが攻撃を弾いた事によって仰け反ったヘル=コマンドを見てチャンスと判断し、外部迎撃部隊が一斉射を開始したのだ。

 

『撃って!撃ち続けて!!銃身が焼き切れるまで撃ってッ!!榴弾でも火炎瓶でもナイフでも何でもいい!ブレイクさんの援護を欠かさないでッ!!』

 

普段の姿は何処に行ったのか。男が見れば確実に惚れる位に勇ましすぎるシーナの声が無線に飛び込む。

それに鼓舞となって弾幕は更に恐ろしい物となる。嵐の様な一斉射による弾幕は確実にヘル=コマンドに確実なダメージを与えていく。そこに後方から流星が駆け抜け、落雷が轟き、五筋の電撃が奔った。

無論それは後方で代理人がニーゼル・レーゲンのレーンガンを放った一撃と、フードゥルが生み出した雷による落雷、グリフォンによる五筋の電撃は放つ技「ブロッケイド」によるものである。

フードゥルとグリフォンは電子機器の影響及ぼす技を繰り出す為、無線機は付けていないのでブレイクは無線機を付けている代理人にへと話しかける。

 

「やるねぇ、メイドさん!惚れていいかい?」

 

『他を当たって下さい。私はギルヴァの妻なので』

 

「はっ!つれないねぇ!」

 

圧倒的な弾幕にヘル=コマンドも次の手に出せずに、只々的になるしかなかった。

一切抵抗を許さない銃弾の嵐がヘル=コマンドの体を貫いていく。

このまま倒れてくれれば誰もが望む結果になるのだが、現実とはそう簡単に行かないものである。

嵐に晒される中、ヘル=コマンドの右目が一瞬だけ輝きを放った。

その一瞬を見逃さなかったブレイク。その身に良からぬ何かを感じ取った瞬間、鐘が鳴り響きヘル=コマンドがその場から消えた。

そしてS10基地の第一部隊の前に突如として姿を現しすと大きく大鎌を振り上げた。

誰もが反応に遅れた。魂を狩り取らんとする狂刃が襲い掛かる。

 

「ッ!?」

 

「くそっ!」

 

悪態を付くと、ブレイクは瞬間移動技「グラウンドトリック」で立っていた地点からS10基地第一部隊の前に割って入り、リベリオンでその一撃を受け止める。

ガキン!と刃同士がぶつかる音が響き、彼はそのまま鍔迫り合いへと持ち込む。

 

「おいおい。お前の相手はこっちだぜ?嬢ちゃん達が可愛いから目移りするのは分からなくもねぇけどな!」

 

いつもの様な挑発を仕掛けるブレイク。

それが聞こえていたのか、あろう事に自我を取り戻しヘル=コマンドが怒気を交えた声を上げた。はっきりとして言葉でブレイクに分かる様に。

 

「貴様…!」

 

「ほーう?喋れる様になったのか。お喋り相手が居なかったから丁度退屈していた所だ」

 

「なら退屈しなくさせてやる。…貴様ら全員を皆殺しにしてやるよッ!」

 

「悪いが死ぬつもりはないんでね。お断りだ!」

 

鎌を押し返し、ヘル=コマンドの腹部に蹴りを入れ、そのままリベリオンを突き立て突進していくブレイク。

蹴り飛ばされたヘル=コマンドも態勢を立て直し、突進してくるブレイクに向かって大鎌を振るう。

互いの攻撃がぶつかり、そして目にもとまらぬ速さでブレイクは突きによる無数の連撃を繰り出し始め、ヘル=コマンドは両手の大鎌で連撃を繰り出し始める。飛び交う刃の嵐、幾度となく火花が散りばめる。

 

(さて…あっちはどうしてんのかね?)

 

ちらりとブレイクは飛び出してきた部屋の方を見やる。この場にギルヴァと95式が居ない事に気付いていた彼は、あっちでも何か起きていると察知していた。

正直な所言えば、ギルヴァがこの場に加わればワンサイドゲームでも発展しかねない位にえげつない技を繰り出すので、今は彼が居なくてよかったと思っていたりする。

 

「んじゃ…こっちはこっちで楽しませてもらうか!」

 

メインイベントはまだ終わりを告げない。

 

 

 

 

「これが魔工職人の力だ!」

 

高らかに宣言しながら、協力者であり悪魔であり、召喚士であり魔工職人であるアグリット。

その背から魔術紋が展開され、そこから彼が手掛けたであろう銃と犬が合わさった様な悪魔や剣と鳥が合わさった様な悪魔達が次々と現れギルヴァと95式の二人へと襲い掛かる。

だが飽くまでも雑魚に類するそれ如きではギルヴァの敵ですらない。神速の抜刀術と幻影刀を巧みに使いこなし攻撃を繰り出して、一体ずつ排除していく。

 

「私の作品をッ!」

 

「作品だと?趣味が悪いにも程がある。作り直せ」

 

「貴様ッ!」

 

見事なまでに挑発に乗っかり怒りを露わにするアグリット。一振りの剣を取り出すと、そのままギルヴァに向かって突撃。しかしそれをもう一人が許さない。

 

「うぐっ!?」

 

響く銃声。アグリットの体に喰らい付く散弾。

よろめく悪魔が見た先に居たのは、自身の名と同じ名を冠する銃とは別に、烙印システム外の銃を発砲した95式の姿。

 

(ええぇい…!時間をかけている暇などないというのに…!ガラクタ共がッ!!悪魔の力を与えてやったというのにあいつは好き勝手暴れやがって!)

 

表には出さずとも内心焦り始めるアグリット。

それもその筈で、自身の戦闘力は決して高い方とは言いづらい。召喚による物量の差で相手を圧倒する戦い方を得意としているのだが、今回の作戦で攻めてきた敵の戦力を測り間違えた事が原因で召喚で魔力を使い過ぎていた。

当然ながら召喚には魔力を有する。だが今のアグリットには召喚が出来る程の魔力が残っていないのが現状だった。先程から生み出しているのは自分が作った作品を異空間から取り出しているだけであり、携行武器と言えるものだ。

ここから生きて出ていくにはこの場に二人を始末する必要がある。もはや手段など選んでいられなかった。

 

「細切れになって死ねぇッ!!」

 

痛みに耐えながらも、アグリットは自身が出せる携行武器の中で高い切れ味を誇る大型剣を二振り取り出し、コマの様に高速回転しながらなぜかその場で居合の構えに入ったギルヴァへと迫りだした。

 

「ギルヴァさん!」

 

95式が彼の名を叫び、援護に入る。

確実に攻撃を貰っているにも関わらずアグリットは止まる気配すらない。

このままでは幾ら彼と言えど、耐え切れる筈がない。

その時だった。95式は微かな風を感じ取った。外から入り込む風ではない。

流れてくる風はギルヴァを中心に流れていた。

 

「これって…」

 

彼女は思い出す。

かつて彼が見せたあの光景を。戦力的に不利だった状況にも関わらず、それを一転させる程の力を持った技を。

 

「あの状態でなくても出せるの…!?」

 

ここに居ては巻き込まれると判断した95式は即座に部屋か飛び出す。

あれがどの様な技なのか、一度目にした彼女は知っている。だからこそ急いで部屋を飛び出したのだ。

 

「今更何をしようが遅い!…死ねぇ!!」

 

迫る刃。

その瞬間――――

 

「全て――――」

 

 

 

 

 

 

 

「――――滅する…!」

 

 

 

 

 

 

 

――――奔った無数の斬撃と共に…

 

 

 

 

 

 

 

――――時が止まった。

 

 

 

 

 

 

否、止まったのは先程まで高速回転していたアグリットだけだろう。

今も尚、外から銃声は引っ切り無しに響ている。では何故アグリットだけが止まってしまったのか。

それを知るのはそれを行ったであろうギルヴァとそれを一度見た事がある95式だけであろう。

 

「細切れになるのは…」

 

止まったままのアグリットに背を向けたまま、静かに刀身を鞘へと納めるギルヴァ。

一瞬だけ放たれた刃の輝き。鍔と鞘がかち合った音が響いた瞬間…

 

「貴様の方だったな」

 

アグリットは跡形もなく消失した。

彼も何をされたのか分からなかったであろう。端的に言えば只斬っただけと済ませられるのだが、その威力はこれまで彼が繰り出してきた技とは一線を画す程。

かつて一度だけ放たれたその技こそ、次元斬 絶。

 

「戻ってきて良いぞ、95式」

 

その声を聞き、95式が部屋へと戻ってくる。

大した怪我はない事から軽く安堵していると二人が付けていた無線機に誰かの声が飛び込む。

 

『こいつ…攻撃が効いていない!?』

 

『さっきより元気になってるぞ、こいつ!!』

 

『狼狽えないで!!撃つ事を止めないで!!』

 

『つってもこんだけ撃ってんのに何であいつは平然としてられんだよ!?』

 

『ハッ!ますます面白くなってきやがったぜ!』

 

『『『『何処かだ!!』』』』

 

一部の声がシーナとS09地区P基地のノアとブレイクのものだとと判断するギルヴァ。

95式と顔を見合わせるとギルヴァは彼女へと伝える。

 

「先に行っている。…後で合流だ」

 

「…はい!」

 

頷き、外部迎撃部隊と合流する為その場を後にし走り出す95式。

そしてギルヴァはヘル=コマンドが空けた穴の前に立つ。その時彼の視界の映ったのがヘル=コマンドの背から生えた触手が相対するブレイクへと襲い掛かろうとしている瞬間だった。

刹那、彼は勢い良く無銘の柄を握り抜刀した。

 

 

 

 

「どうした?さっきまでの余裕が無くなっているぞ?」

 

「ちっ…!」

 

舌打ちをするブレイク。

先程まで優勢だったにも関わらず、気づけば外部迎撃部隊は押されていた。

その理由としては戦闘が長引く度にヘル=コマンドが徐々に力を付けていったからだ。当然ながらこれはアグリットの仕業である。悪魔を媒体に、それを魔術によって増強剤へと変換。人間に投与する事によって、悪魔の力をその身に持たせるつもりだった。最初こそは自我を失い、暴れる事あれど時間経過と共に力を増幅させ、かつ制御下に置く事が可能になる。最も悪魔の力を制御する事は無理に等しい。ましてや人の身でそれを制御下に置くなど尚更。

現にヘル=コマンドの姿は醜悪な姿をしている。その醜悪な姿こそ悪魔の力を制御出来ていない証拠と言えた。

 

「ガラクタ共に、只の人間に、半端な力を持った奴に…悪魔の力を得た俺に勝てる訳がない!」

 

ヘル=コマンドの背から触手が飛び出る。

狙う先はブレイク。この中で彼が一番厄介と判断した為。

このまま彼が破れてしまえば、外部迎撃部隊に勝ち目はない。

迫りくる触手。身構えるブレイク。しかしその攻撃は彼に届く事はなかった。

 

「!?」

 

「!」

 

飛来する斬撃。触手を一閃し、斬り落とされた一部が宙を舞い、地に落ちる。

その場に居た誰もが斬撃が飛んできたであろう方へと向く。そこに居たのは、ヘル=コマンドが破壊し大きく開いた壁穴から、青い刺繡が施された黒いコートを揺らめかせ、動作を終えた状態を維持しつつ、男…ギルヴァは下ろしていた顔をゆっくりと上げ、不敵な面構えで薄っすら口角を吊り上げる。

 

「貴様!」

 

「まだ終わっていなかったみたいだな。…それならば多少は楽しめるか」

 

体を立たせ、彼はその場から大きく跳躍。宙で一回転してブレイクの前に降り立つ。

遅れてきた事に思う所があるのか、ブレイクは彼に向かって不満を漏らした。

 

「おいおい。遅刻してきたってのに、主役気取りかよ」

 

「では―――」

 

斬り落とされた触手を無銘の刀身で払い上げヘル=コマンドへと返す。自身の一部を返されたヘル=コマンドがそのまま斬り落とされた部分を合体させる傍らでギルヴァは刀身を醜悪な姿をした悪魔へと突き付ける。

 

「あれがメインイベントに相応しいと?…前に言った筈だ。所詮あれはサプライズイベントに過ぎんと」

 

「…言われてみれば―――」

 

その台詞にブレイクの中で考えが変わったのか、リベリオンを担ぎながらギルヴァの隣に並び立つ。

 

「確かにそうだな」

 

それが合図になったのかギルヴァは無銘の切っ先を地に向け、ブレイクはリベリオンを担いだままヘル=コマンドへと歩み出す。

 

「俺に勝つつもりなのか?この悪魔の力を得た俺に!」

 

高々一人増えた程度で奴らが自分に勝てる筈がないという絶対的な確信を信じ、疑いもしないヘル=コマンド。

それ対し、ギルヴァは少し呆れた表情である事を伝える。

 

「まさか気付いていないとは…愚かにも程がある。その姿になった今でも力を制御していると本気で思っているのか」

 

「言うだけ無駄さ」

 

担いでいたリベリオンを下ろし、刀身の切っ先をヘル=コマンドへ向けるブレイク。

彼の体が赤い魔力が包まれ、その瞬間光が放たれる。ギルヴァの隣に立つは内包する魔の引き金を引き、魔人化を果たすブレイク。

 

「こういうのは体に教えてやらねぇとな」

 

「…」

 

そしてギルヴァも内包する魔の引き金を引く。

体から青い魔力が放たれ、光に包まれる。魔人化状態のブレイクの姿とは異なり、如何にも悪魔らしいと言えた。

羽織っていたコートは鱗の様な物になり、4枚の羽として広がる。

 

『これは…』

 

『あの二人も…もしかして悪魔…?』

 

本当なら引き金を引くべきではなかったかも知れない。彼らの事をあまり知らない者からすれば、ギルヴァもブレイクも自分達が相手してきた悪魔達と同じと認識してしまうからだ。

だが相対した悪魔達と二人には確固たる違いがある事を、404小隊のUMP45が無線で皆へ伝える。

 

『大丈夫よ。…二人はあいつらと違って―――』

 

 

 

 

 

 

『心は人のままだから』

 

 

 

 

 

「はああああぁぁっ!!」

 

「うおおおおぉぉっ!!」

 

無銘を振り上げ、リベリオンの刀身にへとぶつけ、雄叫びを上げながら駆け出すギルヴァ。

リベリオンを後ろへ引き、ギルヴァと同じ様に雄叫びを上げながら駆け出すブレイク。

二人が動き出した事を合図に外部迎撃部隊も攻撃を仕掛ける。

 

『いい加減悪夢は見飽きました。…そしてこれが最後の戦い!皆!ここで終わらせるよッ!この戦いを、悪夢を…全て!』

 

『『『『『『了解ッ!!』』』』』

 

舞台はクライマックスを迎える。

集った役者達によって悪夢は終焉を迎え始める。




予告
最終回operation End of nightmare Ⅴ    ―――決め台詞は?




次回でコラボ作戦最終回。
もう少しだけお付き合いください。


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