Devils front line   作:白黒モンブラン

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過去からの来訪者。
長き眠りから目覚めた者。

S10基地前線基地に新たな風が吹き荒れる。



遅くなって申し訳ありません。
そして今回は四章、そしてグダグダだー!
だから許せ…(土下座


第四章 Iron Bloody palace
Act61 No name


―ん?あいつの事か。あぁ…あいつなら三日前辺りに町を出ていったよ―

 

―すごく思い詰めた顔をしてたわ。どうして町を出ていったのかしら…―

 

私が戻ってきた時、彼は町から居なくなっていた。それがどうしてか誰も知らなかった。

私は知りたかった。ふらりと酒場に一人で現れて、他愛のない話をして、気付けば飲み代だけおいてふらりといなくなっている彼がどうして居なくなったのか…その理由を知りたくて私は彼を追いかける様に戦場へと舞い戻った。血と硝煙の匂いが漂う戦場へ…。

 

 

 

 

 

全てはあの夜から始まった

 

 

 

 

 

 

私の中の時はあの日から止まったまま

 

 

 

 

 

 

もしあの日から動き出す事があるとするのであれば

 

 

 

 

 

彼との再会によって止まってしまった時は再び動き出すだろう。

 

 

 

 

 

 

「グローザ?」

 

揺れる機内。響くヘリのローター音。

そして私の対面に座り、こちらを見つめてくる同僚(SPAS12)の姿。

少し昔を思い耽っていたみたいね…心配そうにこちらを見つめてくる彼女を安心させないと。

 

「大丈夫よ。少し昔を思い出していただけ」

 

「それって…」

 

「ええ、民生用人形だった頃の思い出を少しね」

 

あれからどれ程経ったか…。

後を追う為に私は戦場へ赴いた訳だけど、まさか最初所属した基地があんな基地だったとはね。

それどころかあんな大規模作戦まで展開される始末…戦場に出ると決めた時の私はこうなるなんて予想してなかったでしょうね。

 

「…その…ごめん」

 

「いいわ、もうだいぶ前の話だから」

 

彼女は民生用人形だった時の私に起きた出来事を知っている。

だからこそ申し訳なそうな表情を浮かべていた。何時も底抜けに明るい所が彼女の良い所なのに…全く。

 

「そんな顔は貴方には似合わないわよ?いつもの様に底抜けに明るいのが合っているわ」

 

「底抜けに明るいって…それって馬鹿にしてる?」

 

「いいえ、全く。それどころか誉めている方よ」

 

「そう?…えへへ」

 

…彼女のこういう所には何度救われた事か。

最初の場所は最悪だったけど…彼女との出会いは悪いものではなかった。最も出会って早々、酒じゃなく"ストロベリーサンデー"を頼む彼との出会いも中々だったけど。

あの時は確か…便利屋だって言ってたかしら。このご時世だから命のやり取りを生業にしている人もちらほら居たからさして気にはしていなかったけど、向こうは安心した様子を見せてたわね。実の所内心不安だったのかもね…。

 

「にしてもS10地区前線基地ですか」

 

乗ってから沈黙を貫いていたSGの戦術人形 M590が静かに呟いた。

あの基地から解放され、一度I.O.Pへと戻った私達。時を経て私を含め、SPAS12、M590が他の仲間達より先にある場所に向かう事になったのだ。

…そう。このヘリはS10地区にある前線基地へと向かっている。有名とは言えないが一部から聞いた話では…

 

所属する戦術人形達の三分の一がブラック基地と称される基地に属していた経緯がある

 

S10地区前線基地を統べる指揮官は女性であるが、鉄血の人形相手に臆する事なくプロレスラー顔負けのプロレス技をかました、

 

一時期グリフィンで噂になっていたあの「黒コートの悪魔」がいる

 

これらはほんの一部に過ぎない。まだまだあるのでしょうけど、それは自分の目で確かめる他ないわ。

 

「何か気になる所が?M590」

 

「いえ…。あの場所の襲撃作戦を最初に考案したのがそこだと聞いたので」

 

「…どうやってあの基地の事を知ったのか聞きたい…みたいな顔してるわよ」

 

「それは貴方も同じでしょう?グローザ」

 

「まぁ、ね…」

 

でも…何となくだけど察しがつく。

今回の一件が発覚したのは…恐らく自力で脱出したWA2000のおかげ。彼女にはお礼を言わないとね。

もし彼女がS10地区前線基地に保護されていなかったら、今頃どうなっていたか。

 

「にしても悪魔、ね…」

 

あの基地から脱出する際に見た死神の様な化け物。彼女達はあれを悪魔と呼んでいた。

まさかとは思っていたけど…そのまさかだったわ。

 

「嫌な事を思い出させてくれるわね…」

 

ヘリの窓から外を覗く。

…段々とS10地区に近づいていくヘリ。あの場所に…"彼"は居るのかしら。

 

 

一方その頃…

 

「…」

 

「…」

 

S10地区前線基地執務室にて。

室内は沈黙に包まれていた。ソファーに座るシーナと後方幕僚のマギーの対面にはS11地区後方支援基地の地下に発見された謎のハイエンドモデルが座っている。透き通るかの様な白い髪、雪の様な肌、美形とも言える整った顔立ち、漂わせるクールな雰囲気。鉄血のハイエンドモデルにしては対面に座る彼女は一言で片づけるには惜しい程の美しさがあった。

 

「…」

 

「…」

 

そして室内にはシーナとマギー以外に第二格納庫にいたギルヴァとブレイク、代理人と95式、そして偶然にも謎のハイエンドモデルが目覚めた直後に第二格納庫に訪れたUMP45も執務室にいた。

ギルヴァとブレイクは執務室の出入口近くの壁に身を預け、代理人と95式はソファーに腰掛けるシーナ達の後ろの方で待機。因みに45はギルヴァの隣に並び立っている。

 

(にしても…デカいな)

 

内心そう呟いたのはブレイクだ。

目覚めた際は何にも着ていなかった謎のハイエンドモデル。流石に全裸というのは不味いので適当に彼女の体格に合う服を身繕い、それを着てもらっているのだが体つきは女性からすれば誰もが羨む程と言えた。

着ている長袖シャツ越しでも分かるほどにたわわに実ったそれが主張していた。

 

(こりゃ…45の嬢ちゃんが泣くな)

 

当の本人は…

 

(ナンデ ワタシ ノ マワリ ニハ キョニュウ ナ ヤツ ガ オオイノカシラ…?)

 

顔は笑っているが、目は笑っていない45であった。

 

「…貴女の事聞いていいかな?」

 

先に沈黙を破ったのはシーナだった。

対話をするつもりはあるのか彼女は頷くが…ふとそこで何か悩む素振りを見せた。

どうしんだろうと思ったシーナは彼女へと声をかけようした時、ある事が告げられた。

 

「すまない…私には名前がないんだ」

 

「あ…」

 

そこでシーナはマギーから聞かされた調査の中途報告を思い出した。

彼女は名前すら与えられず、生まれる事も許されなかった存在ではないか、と。流石に名無しさん、と呼ぶのはシーナとしても気が引けるだろう。どうしたものかと思った時、名無しのハイエンドモデルは静かにシーナへと告げた。

 

「だから今はノーネイム(名無し)と名乗らせてもらっても良いだろうか?」

 

響きからすればかっこいいが、意味は変わらない。

だが名無しと呼ぶよりかはまだマシと言える。そう判断したシーナは了承の意を込めて頷き、対するノーネイムもありがとう、と一言礼を伝え、本題へと切り出した。

 

「私の事について聞きたい、だったか」

 

「うん。覚えている限りでいいから」

 

「そうか。…何処から話したものか」

 

何を話そうかと指を顎に当てて思い悩む素振りを見せるノーネイム。

今まで眠っていたのだ、いきなり自分の事を話せと言われても多少無理があるかと思われたが、何かを思い出したのか、数秒でその態勢は解かれた。

 

「私は秘密裏に計画されたハイエンドモデルの一体。情報統制が敷かれ、知る者には緘口令が敷かれる程。完成間近までこぎ着けたものの、急遽として計画の路線が変更され、破棄される筈だった」

 

「だった?…と言う事は破棄される前に誰かが持ちだした…?」

 

「意図的に私の中に残されたログデータにはそうなっている。計画の急遽変更に良しとしなかった者達が私を秘密裏に外部へと持ち出し、破棄された工場で私は最終調整まで行われた。そして蝶が舞った…」

 

「!」

 

蝶が舞った…それが何を意味しているのか、この場に居る全員が理解できない訳ではなかった。

そしてノーネイムは蝶事件が起きる前に一応は存在していた人形だったという事が発覚する。

 

「…私が持ちだした者達は統括AIに何らかの不信感を抱いていたのだろう。ほとんどの鉄血人形が統括AIの下に置かれる中、私は置かれる事はなかった。だが…私を持ち出した者達は、ある選択をした」

 

「それは…?」

 

「私を目覚めさせれば暴走した鉄血人形を相手に出来る…だが、彼らは私が兵器として目覚めさせる事を望まなかった。気付かぬ内に何らかの感情があったのだろう…彼らが遺したメッセージログには、自由に生きて欲しいと残されていた」

 

まるでその言葉は親が子へ向ける様な言葉であった。

本当の親を知らずとも、親代わりだった人形に育てられたギルヴァ、親代わりだった孤児院の院長に育てられたブレイクにとっても遺されたメッセージは何か思う所があった。

とはいえ否定的な考えではないのは事実であるが。

 

「そして私は長い眠りにつき…相当な月日が経ってから今に至る」

 

「成程…。情報統制、知る人には緘口令まで敷かれた状況、秘密裏となれば代理人が知らないのは当然だね…」

 

だが、秘密裏に動いていた計画が一体何だったのかは明確となっていなかった。

気になったシーナはそれを問うとノーネイムから驚きの事実が返ってきた。

 

「それか。…所謂、汚れ仕事用の人形と言うべきか」

 

「汚れ仕事? それって…同僚の始末とか…?」

 

「ああ。暴走する事が知っていた訳でないと思うが、何らかの事情で同僚が始末する事になった際に運用される予定だった。最も今は違うがな」

 

「同僚の始末を専門とした人形、か…だから性能は他のハイエンドモデルを圧倒する様な性能を有していたのかな…?」

 

「その事だが…」

 

「ん?」

 

「私の中に残っているデータによれば…内部骨格のほとんどに魔鉱が使われているとなっているのだが…。魔鉱とは一体何だ?」

 

「魔鉱…それって!?」

 

シーナは勢い良く隣に座るマギーの方へと向く。

向けられる視線にマギーは静かに頷くと凛とした表情へと切り替える。

 

「やはりでしたか。…私も知らない魔工職人が彼女の製造に関わっていたようですね。どうりで魔力を検知できるわけです」

 

「何の事を言っているんだ…?」

 

「こちらの話と言いたいですが…良いでしょう。この際に話しておくべきですね。悪魔、魔工職人の事について」

 

マギーから語られる非現実的な話。

人知れずこの世に存在する悪魔という存在、悪魔の血をその身に流しながらも悪魔を狩る狩人たち、人間界に静かに過ごす悪魔や、グリフィンに属している悪魔、戦う力を持たずとも現代の科学を圧倒する魔工の技術を有する魔工職人…。

ノーネイムにとってはどれもが非現実的と言えたが、自分の身に魔の技術を使われている事があってか真摯にその話に耳を傾けていた。

ひとしきりマギーから説明を受けたノーネイムは、少し考える素振りを見せた後シーナへとある事を提案した。

それは今後の事を定めての提案であった。

 

「私をここに置いてくれないだろうか」

 

「え?そのつもりだけど?」

 

最早ここに置くつもりであったシーナ。余りにも早すぎる返答にノーネイムは目を丸くしながらも小さく微笑み、そっとシーナへと手を差し出した。

 

「新人だが…宜しく頼む、指揮官」

 

「うん、こちらこそ。ノーネイム。でもいつかそのノーネイムという名前変えないといけないね。名無しなのは良くないから」

 

「…! ふふっ、貴女はとても良い指揮官ね。こんな私でも楽しくやっていけそうだ」

 

その後、ノーネイムはこの場にいる挨拶を交わしていくのだが…ギルヴァと挨拶を交わした時、彼に対してとんでもない事を口走った。

 

「宜しく頼む、父よ」

 

「!?」

 

突然としてギルヴァの事を父と呼んだのだ。

理由としては目を覚ました時に髪の色、目の色が自身と似ている事からまるで自分の父の様に思ってしまったからだとか。とは言えこれは彼女の所感に過ぎないのだが、それを良い事にUMP45と代理人が自分の事を母と呼ぶ様に命じてしまった為に、ギルヴァは若くしながらも大きすぎる娘が出来てしまう事になるのだった。

その傍らでブレイクはゲラゲラと笑うのだが、彼もまた自身に災難が振りかかる事を知らない。




はい、と言う訳ですよ。
うちに二体目のハイエンドモデル ノーネイムが所属。ギルヴァ、父になる。
ノーネイムの見た目はアズールレーンに登場するティルピッツ。そして彼女の髪型をロングヘアにした様な感じだと思って頂けたら幸いです。

今年も残り少ないですが…何卒宜しくお願い致します。

では次回に~ノシノシ

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