このまま様子見に徹していたのだが、二人はこの戦場に第三勢力の気配を察知する。
oldsnakeさん、申し訳ない。
勝手ながらこっちで第三勢力出してしまいました。と言っても戦場から離れた所でやるから許してね!(土下座
作戦が開始してから数時間が経過した。
シーナの依頼通り様子見に徹していたギルヴァとノーネイム。坑道内部で戦闘が行われている為、戦況は知る手立てはないのだが、それでもなお二人は静かに見守っていた。
悪魔、或いはそれに関連するものが出てこない限り動かないと決めていたギルヴァ。そんな時、彼は何かを感じ取ったのか座っていた岩から立ち上がった。
その横で座っていたノーネイムは立ち上がったギルヴァの背中を見つめながら、突然立ち上がった事について尋ねる。
「父よ、どうかしたか?」
「…どうやら第三勢力が姿を現したみたいだ」
「第三勢力?」
小首をかしげるノーネイムの問いに対し答えを返す事もなく、ギルヴァは背を向けてH&R社本部から離れた場所へと歩き出した。ノーネイムも急いで立ち上がり彼の後を追う。
H&R社、グリフィン…二つの勢力に続く第三勢力。何となくであってがノーネイムも気付きつつあった。
しかし何故今になって?と疑問が抱かずには入れない。だがこの状況に第三勢力が戦闘に介入してしまった場合、確実に戦場は大混乱するという事だけはノーネイムも確証が持てていた。
(狙いが何かは知らんが、お引き取り願おうか―――)
(鉄血)
H&R社本部近く…。
何処でこの本部制圧作戦情報を得たのか、鉄血のハイエンドモデル ドリーマーとデストロイヤーを筆頭に相当規模の鉄血機械部隊と人形部隊が二つの勢力との戦闘を始まった所に乗じて、戦場へと進軍していた。
とは言え、戦場に向かうの機械、人形部隊だけであり、ハイエンドモデルたる二人は高所から全体を見下ろし、状況を監視していた。
「やってるわねぇ。まぁ、そのままやり合ってくれれば良いのだけど」
ドリーマーが大部隊を動員して、ここの来たのは決してグリフィンとH&R社が狙いではない。
それらは飽くまでも障害に過ぎず、狙いは別にあった。とある裏切り者の情報を知る人物が作戦に参加してはなくともこの近くにいる。本来であれば戦場に出てくる事が少ないドリーマーであるが、相手が相手という事もあり、そしてその者を生きたまま捕縛する為、こうしてわざわざ出向いたのだ。
「生きていればいい。それなら四肢をもいでもいいわよねぇ…?」
口角を三日月みたく歪めるドリーマー。
その傍らでいつもの事だと思いながらデストロイヤーは部隊が配置についた事を彼女へと伝える。
「配置についたみたいだよ」
「えぇ、そうねぇ…。あぁ…早くその時が来ないかしらぁ…」
とは言え、戦場に飛び込んだ所で大混乱が起きる事が分からない二人ではない。
部隊に待機を命じ、彼女達も暫く待機する。
しかしこの後に彼女達は知る。相手がどれ程危険か。幾ら物量で攻め入ろうと赤子の手を捻るかのように、戦況を覆す力を持つ相手だという事を。
そしてそれを知るのは、今だという事を。
「?」
何かが聞こえたのか、ドリーマーはふっと顔を上げ周りを見回した。
今この高所に居るは自分とデストロイヤーだけ。それ以外は誰も居ない。
「どうしたの?」
「さっきの音聞いたかしら?」
「音?風の音はずっと聞こえているけど?」
(…聞き間違い?いや、まさかそんな事がある訳が…)
確かにドリーマーはその耳でしっかりと聞いた。
まるで何かがかち合う様な…そんな音を。
そしてドリーマーもデストロイヤーも気付いていなかった。待機させていた部隊が日本刀を持ったローブ姿の誰かによって全員斬り伏せられていた事を。
全て斬り伏せたからこそ、刀身を納める際に鯉口と鍔がかち合った音がドリーマーの耳に聞こえた事を。
状況が読めない事もあってかドリーマーは味方を置いて撤退しようと考えた。このままデストロイヤーも置いておこうかとも考えたが、後で喚かれるのも面倒を感じ傍にいたデストロイヤーへと撤退する旨を伝える。
「引くわよ、デストロイヤー」
傍にいる筈なのにデストロイヤーから反応がない。
次に反応がなかったら置いていってやろうと思いつつも、最後のチャンスとしてデストロイヤーへと声をかける。
「聞こえているのかしら。それとも聴覚機能イカれたの…かし……ら…」
若干イラつきながらも振り向いた時。ドリーマーは自身の目を疑った。
「~!~!~!?」
顔面を鷲掴みにされ、ジタバタしながら抵抗するデストロイヤー。
そして榴弾砲を装備している彼女の顔面を鷲掴みし軽々と片手で持ち上げるローブ姿の誰か。
目の前にいる者が一体誰なのか、それを考えている余裕はない。今は思うべき事は何時からこの者が自分達のすぐそこまで近づいていたのかという事である。
だが彼女は気付いていなかった。部隊が壊滅させた後にこの者が気付かれず近づいた訳ではない。
実はその逆である。ギルヴァ達は先に二人の近くに移動し、ノーネイムを待機させた後に部隊へ攻撃を仕掛けていたのだ。現に三人が見えぬ位置にはギルヴァが置いていったであろう幻影刀が突き刺さっていた。
それに気付く筈もなく、即座に彼女は持っていた銃をノーネイムへと向けようとした瞬間、遠方から斬撃が飛来した。
「!?」
飛んできたそれに驚きつつも、体を逸らし斬撃を避けるドリーマー。が、持っていた武器をつい手放してしまい、それが隙となり、ノーネイムは空いていた腕を伸ばしドリーマーの顔面を鷲掴み持ち上げる。
「~!~!??」
(なんなのこいつ!?こんな奴知らないわよ!!?)
予想以上の力にドリーマーも驚愕せざるおえなかった。
それもその筈で、ノーネイムは重装、重火器を大量に装備出来る事を前提に生まれた為、重武装のデストロイヤーを片手で持ちあげられるパワーを持つ。
ましてや蝶事件以降に生み出されたドリーマーが、事件以前に生まれた、それもあの代理人ですら知らないとされたノーネイムの事を知る訳がない。
「忘れ物だぞ」
つまりは
ドリーマーへとそう告げるとノーネイムは―――
「こういう時は…」
そのまま両腕を勢い良く動かしドリーマーとデストロイヤーの頭同士を―――
「
衝突させた。
「~!????」
「」
その一撃は小さな衝撃波が奔る程の威力があり、ドリーマーは何とか気絶しなかったもののデストロイヤーはその一撃に耐えらず気絶してしまう。
だがこれでは終わらない。二人の頭同士を衝突させたノーネイムはそのまま二人を宙へと放り投げた。肩に下げていたシルヴァ・バレトを手に取ると、持ち手を握らずに銃身部分を両手に握り構える。まるでその構えはバットを振る様な姿勢であった。
重力に引かれ、降下し始めるドリーマーとデストロイヤー。その真下ではノーネイムが構えて待っている。
「目的が何なのか…それについて知るつもりはない。だが狙いが
その声が果たして二人に聞こえているのかともかくとして。
丁度良い所が来るまで見計らい、そしてノーネイムは動いた。
大きくシルヴァ・バレトを振りかぶり、狙いを定める。
「故に…」
地を力強く踏みしめる。
「お引き取り願おうか…!」
可能な限り出せる力でシルヴァ・バレトをフルスイング。そこに合わせてかの様に落ちてきた二人にノーネイムによるフルスイングが叩きつけられた。
まるで流れ星の如く、ぐんぐんと空へと吹っ飛んで行く二人。あっという間にその姿は小さくなり、そのまま星へとなって消えていった。あろう事か自分達が装備していた武器を残して。
消えていった二人を見ながら、ノーネイムはシルヴァ・バレトを肩に担ぎ、二人が飛んでいった方向を見ながら静かに呟く。
「良い夢を見るんだな」
「夢など見ると思うか?」
「ん?ああ、父か。そっちは片付いたのか」
「随分前にな」
本来の依頼であれば、ただ様子見するだけ。シーナからは結果を伝える様には言われていない。
それに今回の一件は自分達は大して何か出来る事はないとギルヴァは判断していた。その考えはノーネイムも同じで、良くて第三勢力として現れた鉄血の排除程度が自分達に出来る事だろうと判断していた。
「それに今回の一件に不信感を抱き、俺達以外の誰かが動いている可能性もある。調査はそちらに任せるべきか」
「もしその誰かが居なかったらどうする?」
「心配ないだろう。誰かが動いている。最も勘でしかないが、今はそれを信じても良いくらいだ」
(後は任せる。俺達は先にお暇する)
居るであろう誰かに任せて、ギルヴァとノーネイムは下山を開始する。ドリーマーとデストロイヤーが置いていった武器と共に。
下山して、回収した武器を荷台に積み、S10地区へと戻っていくギルヴァとノーネイム。
ノーネイムが運転を務める中、ギルヴァはシーナへと連絡を取っていた。事情を話し、シーナに納得して貰った後、彼女からある事が伝えられる。
「クリスマスパーティーだと?」
『うん。以前の作戦で救出した子達と皆の交流会を含めてそれを企画していてね。一応皆からは了承は貰っているから。』
「そうか。なら楽しむがいい」
『え?何言ってるの、ギルヴァさん。全員強制参加だからね』
「…なに?」
『それとクリスマスプレゼントも用意する事。後、45から伝言』
「何だ?」
『パーティー終わった後は私と過ごしてね~、拒否権は無しだから♪だって』
この時ギルヴァは額に指を当て、軽くため息とついた。
どうやら彼の災難は、今から始まるようだった。
「災難だな、父よ」
「…そうだな」
因みにであるがギルヴァはノーネイムに父と呼ばれてもそれなりには許容していたりする。若くして自分が一児の父親になるとは内心驚きながらも、それもまた人生の一つなのだろうと。
ただ問題として父親として、父親らしい事が果たして自分に出来るのだろうかと内心不安に思っているらしい。
娘にクソ親父が!と言われない様には務めようと心の内で決心している事は彼以外知る事はないだろう。
その頃、ブレイクはと言うと…。
机の上に置かれたレトロチックな固定電話が鳴り響く。
雑誌を読んでいたブレイクは机の上に乗せていた足で机を叩くとその反動で受話器が宙へと舞い上がり、彼の方へと飛んで行く。それをノールックで空いていた手でキャッチすると受話器を耳に当てる。
「悪いな、開店準備中だ。また今度にしてくれ」
相手からの話を聞かず、一方的に電話を切ると彼は軽くため息をつく。
「やれやれ。まだ準備中だというのに、気が早い奴もいるもんだ」
そう。ここ、便利屋「デビルメイクライ 第一支店」は本格的な開店はまだしていない。
彼が電話の相手に言った様にまだ開店準備中なのだ。だが暇になってピザを食べ行ったり、S10地区前線基地へと遊びに行っている等、本当に店を開店する気があるのかと思いたいところである。
しかし店内には物も少なく余りにも殺風景とも言えるので彼からすれば、本当に開店準備中なのだろう。
そんな時、店の扉が開く音が響き、ブレイクに来客を知らせた。だが彼は雑誌に没頭しており、来客の方へと向こうもしない。
「あんたもそういうクチかい?シャワーを借りたいなら好きにしな。トイレも裏にある」
「少し性格が変わったかしら、ブレイク?」
「!」
来客の声を聞き、ブレイクはピクリと反応した。
その声は女性の声だった。そしてその声は彼にとって忘れられるはずの無い声だった。
読んでいた雑誌を閉じ、机の上に無造作に放り投げると来客の方へと向くブレイク。
そして、そこに立っていた来客を見て彼は自身の目を疑った。
「お前…」
死んだと思っていた。自分の中にある特異体質のせいで。
だから彼は町を出ていった。これ以上誰かが巻き込まれる前に。
あれからどれ程の時が経過したのかは分からない。だが少なくともこの事実だけは変えられようがない。
ブレイクが便利屋である事に対し、大して気にする事もなくいつも良くしてくれた女性で、彼が密かに想いを抱いていた相手。
「ローザか…?」
ブレイクはその女性の…かつての名を口にする。
それを聞いた女性…グローザは彼が自身を覚えていてくれた事に微笑みつつ頷くと彼の問いに返答する。
「久しぶりね」
彼女はここに来る前、S10地区前線基地に来る前のヘリの中で思った。
自身の中の時はあの時からずっと止まったままだと。
その時が動き出し始めるのは探していた彼との再会によって動き出すだろうと。
「ブレイク」
そして彼女の時は動き出した。
時は止まり、色褪せた過去に…新たな色が彩り始めた。
こちらがやれる事はあんまりないという理由からこちらは先に撤退します。だから許せ…
そして娘たるノーネイムも父から教わったのか、または偶然か。
鉄血のハイエンドモデル二人をぶっ飛ばしてお星様に致しました。もはや通過儀礼っぽくなっている気がしなくもない。
さて次は…クリスマスパーティーかな…。間に合うかは分からんけどね!(多分間に合わない