S10地区前線基地に社長たちが急遽として訪れる事になった。
新たな年を迎え、各々が今年の抱負を静かに抱く中S10地区前線基地は新年早々忙しくしていた。
前線基地というだけあって、鉄血の軍勢が攻めてきたのかと思われるが珍しい事にそれはなく、忙しくしている理由は別にあった。
「えっと、社長が来るのって一時間後だよね?」
そう。新年早々、急遽社長であるクルーガーがS10地区前線基地に訪問する事となったのだ。
余りにも突然という事もあって、流石にだらけた所や汚い所を見せる訳にも行かないので、シーナの指示の元、所属する人形達は役割分担しながら大掃除を行っていた。
そして指揮官たるシーナは後方幕僚のマギーと一緒に執務室で打ち合わせを行っていた。
「補足しますとへリアントス上級代行官、そしてI.O.P 16Labのペルシカリアさんも訪問される予定です」
「ん、分かった。急にその連絡が入ったのは驚きだけど…うちって何かヤバい事……やってるね」
シーナの顔が少しだけ引き攣る。
その顔を見てマギーは軽く苦笑いを浮かべた。
ここS10地区前線基地は色物ぞろいに踏まえて、大量の魔具も保管している。
ヤバいだけで片付けられる事なのか怪しく感じる所である。
「ですねぇ…。特にS11地区後方支援基地にて回収した魔具とリヴァイアサン、それにノーネイムさんの事は報告はしているんですけど」
「それだけを聞いて納得する訳がないと言うか…実際目にしないと納得できないか」
「でしょうね。しかし新年早々やってくれるますね」
「仕方ないって。こういう抜き打ち視察も必要だよ。普段から気を引き締めるのも大切だからね」
「やましい事はしていませんからね。もしやましい事をしていたら、それでこそ今でも大慌てでしょうし」
だね、と頷き返すシーナ。
そこに執務室のドアをノックする音が響き、開く。
入ってきたのはギルヴァとノーネイム、そしてフードゥルとグリフォンだった。
何故二人と一匹と一羽がここに呼ばれたのか。ギルヴァはS11地区後方支援基地の際の詳細を知る者の一人、そしてノーネイムはその基地で眠っていた鉄血のハイエンドモデル、最後にフードゥルとグリフォンは魔界出身という事もあって、悪魔の事についてクルーガー達に話さなくてはならないと思ったシーナが招集をかけたのだ。
そして呼ばれた理由を知らないギルヴァ達の中でグリフォンがシーナへと話しかける。
「来たぜ、シーナの姉ちゃん。来て早々で悪いけどよ、何で呼ばれたのか教えてくんね?」
「うん。今皆を呼んだ理由を話すよ」
揃った事によりシーナはギルヴァ達に呼んだ理由を話す。
新年早々G&R社の社長が訪れると言われてもギルヴァ、フードゥル、グリフォンは特に驚きもしなかった。
寧ろついに来たか、と思っている程だ。
対して大袈裟ではないものの、驚いていたのはノーネイムだった。
鉄血のハイエンドモデルであるが、最早彼女は鉄血との縁すらない状況にある。代理人という前例がある為、ある程度は納得されると思われるが不安がない訳ではなかった。
そして彼女はグリフィンと敵対するという気など更々ない。ならばその敵対しないという意思を見せつけるべきだと判断していた。
「成程な。…ならばやらなくてはならないか。ここに世話になっている以上はな」
「事態が事態だから。お願いするね」
「了解した」
目を伏せて腕を組みながら返答するギルヴァ。
しかし彼はちょっとした懸念を感じていた。
(急遽訪れるとはな。抜き打ち…それなら理解は出来るが)
悪魔や魔具、ノーネイム…一度は報告されている。
流石に聞いただけで納得できないから、見に来るという事は彼も分からない訳ではなかった。
しかし疑問は残る。
そしてふとギルヴァは考えの末に、ある答えに行き着いた。
(…力か)
S10地区前線基地は何度か悪魔が関わる案件に関わっている。
そして作戦の要としてデビルメイクライが動き出す事が殆どであり、一人の力でなくとも、ギルヴァは問題解決の為に尽力した一人とは言えるだろう。
戦術人形で解決出来なかった問題を解決出来る便利屋…。そこで誰が動き出すか。
そこで彼が思ったのは、所謂
何処かで情報を得て、クルーガーにギルヴァを自分の配下に置くように命じた上層部が動いたのかも知れんと。
(…所詮は金と権力でしか身を守れぬ存在か。…下らん)
ギルヴァに対して直接でなくても、指揮官であるシーナに対して何らか動き出すかも知れない。
飽くまで憶測でない為、彼らが来てそういった動きの話はないという事もあるかも知れない。
ギルヴァは静かにこの訪問が穏便に済む事を祈るのだった。
そして一時間後。
予定通り、クルーガー、へリアントス、ペルシカリアがS10地区前線基地に訪れる。
理由としてはS11地区で起きた作戦について、そして回収した魔具や武器、眠っていたノーネイムについて知りたいという事であった。訪れた上官に立ち話を強いる訳にも行かず、S10地区前線基地を統べる指揮官、シーナは三人を執務室へと通す。S11地区後方支援基地で起きた事や回収した魔具に関してはシーナ、マギー(悪魔、そして魔工職人という事は伝えている)、ギルヴァによって説明され、ある一定の理解が得られたのだが、科学者としての血が騒いだのか、ペルシカがある事を提案をしてきた。それは使わない魔具の一つを調べさせて欲しいというもの。その答えとしてマギーは笑顔でこう答えた。
「触れた瞬間、大火傷、感電、呪い、精神崩壊…挙げていけばキリがないサービスが付いてきますが?」
「うん、やめておくわ」
そういうやり取りがあったのは言うまでもない。
そしてノーネイムの事も話され、彼女も三人の前でグリフィンと敵対する気はないという意思を見せつけている。
しかしそこにギルヴァが補足としてある事を告げた。
「ノーネイムはデビルメイクライの一人として属している。つまり協力関係という事だ。そちらが下手な手を打たん限り、この関係は続くと約束しよう」
遠回しに脅している様にも聞こえるのだが、ギルヴァもこういう事に関しては黙っているつもりなどなかったのでそう伝えたのだ。
良い様に扱われるつもりはない…言葉の裏にはそう意味が含められている事に三人は気付いていた。
「さて…シーナ指揮官」
「は、はい!何でしょうか」
「報告では聞いているが…例の大型機動兵器を見せてもらっても良いだろうか」
クルーガーが急遽としてS10地区前線基地を訪問する事としたのは、理由としてリヴァイアサンが一番大きかった。無論S11地区での事やノーネイムの事も理由の一つなのだが、特に気にしていたのはリヴァイアサンだ。
幾ら報告で聞いていたとしても、やはりどの様なものかは把握しておきたいのは上に立つ者として至極当然の事であろう。
「分かりました。ご案内します」
断る理由も、断る権利もない。
シーナは頷き、ソファーから立ち上がる。そのまま全員を連れてリヴァイアサンが置かれている第二格納庫へと案内するのだった。
第二格納庫。
まだ完成には至ってなくとも、その姿からして完成間近のリヴァイアサンが鎮座している。
シーナにリヴァイアサンの元へと案内された三人はリヴァイアサンを見て、それぞれ異なった反応を見せていた。
クルーガーは驚く様子は見せず、へリアンは目を見開き驚愕な表情を浮かべ、ペルシカは興味深そうにリヴァイアサンを見つめていた。
「SFとかで出てくる空飛ぶ戦艦ね。それを実際に作ろうと考えた人に会ってみたいわ」
リヴァイアサンを見て、一番に口にしたのはペルシカだった。
リヴァイアサンの見た目は彼女が例として挙げた様にSF映画に出てくる空飛ぶ戦艦に近い。
こんなものを作ろうと考えた人物に会いたくなるのは学者として、そして個人的な意味でそう口にした。
そしてこんなものを作ろうと考えた人物が、ペルシカの直ぐ横で笑顔を崩さず口を開いた。
「私が考えたんですけどね。最も設計図のみでしかないですが」
「え…マジで?」
悪魔であり、魔工職人であるマギーがいくら何でもこういうのは作ろうとは思わないと感じていたのだろう。
その事をあっけらかんと暴露するマギーに流石のペルシカも驚かずはいられなかった。
二人の傍らで静観していたクルーガーがマギーへと尋ねた。
「S11地区後方支援基地で見つかったと聞いている。…設計図でしかなかったそれが何故形を得た?」
「そうですね…。まぁ大まか言えば盗まれたんですよ。リヴァイアサンの設計図、そしてここに保管している魔具全てを」
「…」
「私の管理体制がなってないのが原因ですがね。けど、この人間界にもいるでしょう?金や地位、権力の力を振りかざす者達が。魔界にもそういう輩は居たんですよ。圧倒的な力を持つ悪魔達が」
それに、と彼女は言葉を続ける。
「魔界は弱肉強食の世界。そこに慈悲なんてものありません。弱者は淘汰され、強者が全てを統べる。では何故戦う力を持たない魔工職人達が生き残れたか?単純な話、強力な魔具などを作れるからですよ。それ以外に価値はない。只それが作れるという機械としか見られていない。そして私は無理難題しか言わない力を持った悪魔達の要望を聞き続け、作り続けるしかなかった。狂った魔工職人なら幾らでも作るでしょうが、私は違った」
フッと微笑むマギー。
しかしそれは自虐的な笑みだった。
その表情を目にしながらクルーガーは何も言わない。
「正直辟易していたんですよ、そんな輩に。…それで一時期、自暴自棄になっていましてね。管理体制が最悪な所に付け込まれる形で手掛けた作品、リヴァイアサンの設計図をS11地区後方支援基地の協力者としていた者に盗まれて、リヴァイアサンは未完成ながらもその姿を得た訳です」
「…」
「納得して頂けましたか?」
「ああ。例え種族が違えど、抱える問題に似る部分はあるという事をな。…相当苦労した様だな」
彼からの台詞にマギーは軽く肩を竦める。
「ええ。正直人間界は生きやすいですよ。…そしてこっちに就いた以上は悪魔でありながら協力はしますよ。最も魔具とかの話は別になりますがね」
「それに関してはそちらに任せる。我々人類にとっては魔具は手に余るだろうからな」
元よりクルーガーはそのつもりでいた。
確かに従来の武器と比べれば魔具は非常に強力であるが、その代償は自身の命になる場合もある。
悪魔が使う事を想定しているのだから、人類が使う事は想定されていない。
過ぎた力は自身の身さえ滅ぼす。…人類にとって悪魔の力は過ぎたものなのだ。
最もマギーは力の代償を取らない魔具を作ろうと思えば作れる。伊達に伝説の魔工職人はやっていない証拠である。
「シーナ指揮官」
「はい、何でしょうか」
「…リヴァイアサンと言ったか。あれの運用に関しては貴官に任せる。必要に応じて運用するがいい」
「!」
一瞬だけ目を見開くシーナであったが、すぐさま真剣な面持ちへと切り替える。
「よろしいのですか…?」
「鉄血との戦いの他、ここは悪魔との戦いにも関わっている。そうなれば厳しい戦いを強いられる事もあるだろう」
「…」
「それにS11地区後方支援基地での一件ではここに報酬を出していなかったのでな。その報酬代わりを受け取ればいい」
そう言われても結構受け取っているんだけどなぁ、とシーナは思った。
しかしリヴァイアサンとその運用権利を得られた事は彼女は嬉しく思っていた。
航空支援を可能とする航空機をS10地区前線基地は保有していないのだ。運送用のヘリはあれど攻撃に特化した航空機はない。またリヴァイアサンは他と比べると大型であるが、その分有する機動性と火力は他を圧倒する。
「それと以前の名残であるカタパルトの使用を許可する。あれほど大型を飛ばすにはカタパルトが必要だろうからな」
「分かりました。…本当にありがとうございます」
「若い者を前線に放り込んでいるのだ。これくらいしなくては意味がない」
そう言い終えると彼は背を向けて歩き出した。
「これからの健闘を祈っている。…便利屋、お前にも期待しているぞ」
「…そちらが下手な手を打たん限りは期待に応えるとしよう」
「…そうか」
ギルヴァと少し会話した後に、彼は見送りはいらんと伝えへリアンとペルシカと共にS10地区前線基地を後にした。新年早々、大変な目に合うS10地区前線基地であった。
クルーガー達がS10地区前線基地に去る少し前の事。
ペルシカはギルヴァを呼ぶとある話をし始めた。
「M4の事、助けてくれて感謝するわ」
「…何の事だか分からんな」
「白を切るならそれで良いわ。…もし何かあったら協力してあげて」
「…覚えておこう」
「そう。…それじゃあね、便利屋さん」
背を向けて去っていくペルシカ。
ギルヴァは近くの壁に凭れ腕を組み、目を伏せる。
(何かあったら、か…)
―今どうしてんだろうな、あの嬢ちゃん
(分からん。…最後に会ったのはS09地区での一件か)
―…勘なんだが、近々会えるかも知れないな?
(…かも知れんな)
彼は知らない。
否、知る由もなかった。
蒼の勘が近々現実になることを。
え~…遅くなりながらも明けましておめでとうございます。
ん?何で投稿遅れたのだって?
いや~…あるゲーム買ってしまってはまってしまいましてね…それで執筆が後回しに。
ま、まぁそれはおいといて!
さて、リヴァイアサン&運用権利が入った福袋を得たS10地区前線基地。
そして航空戦力を有する事が出来ました。なのでコラボ作戦では状況によってはリヴァイアサンを投入するかもです。
それとS10地区前線基地の名も近々改名する予定です。
…いい加減大量の魔具をどうにかせんとな…うん。
では次回ノシ