依頼主と合流する為に向かった作戦領域は凍てついていた。
S09地区、某所。
ノーネイムが鉄血が占領している基地にて大暴れしている一方でギルヴァ達もS09地区に訪れていた。
代理人が依頼人が待つ目的地へとバンを走らせていると、以前から置いてあった簡易通信機のコール音が鳴り響いた。それを聞き助手席に座っていたギルヴァが受話器を手に取り、耳に当てる。
「デビルメイクライ」
『良かった、繋がった!…私です、シーナです!今どの辺りにいますか!?』
彼の耳に届いたのは、切羽詰まった様子のシーナの声。
その様子から明らかに何か起きていると判断しつつもギルヴァは冷静に対応する。
「先程S09地区に入った所だ。10分程度で依頼人が待つ目的地に到着する。それで何があった?」
『先程へリアンさんからの連絡で、今ギルヴァさんが向かっている作戦領域にて謎の現象が発生。現地にいたM4A1さ達と連絡が取れなくなりました!』
「…ッ! ナギサ指揮官、その謎の現象について分かっている事は?」
『連絡によると、作戦領域全体が突然氷雪地帯になったしまったみたいで…!それでこの状況を打破するためにグリフィンからデビルメイクライに追加依頼したいと…』
「追加依頼だと?」
追加依頼と言われギルヴァは疑問の声を上げた。
今回の依頼の依頼主はAR小隊の小隊長、M4A1だ。なのに何故グリフィンが追加依頼をしたいと言い出すのだろうか。これでは依頼主はグリフィンであると言わんばかりであった。
「俺達の依頼人はM4A1の筈だが?」
『それがM4A1さんがデビルメイクライに依頼したのはへリアンさんからの指示らしくて。だから…』
「それを指示したから…依頼主は自分達でもあると言いたいと?」
『…はい』
どうしたものかと彼は考えた。
突如として現れた氷雪地帯によって依頼主であるM4A1と連絡は取れない。そして自分達へ依頼する様に彼女へ指示したグリフィンが追加依頼したいと言い出した。
最早この状況でどうするべきか、考えなくても彼は分かっていた。
「代行としてなら追加依頼の内容を聞こう。ただし報酬は上乗せしてもらうぞ」
『…! ありがとうございます!…追加依頼の内容は、氷雪地帯にて連絡が取れなくなったAR小隊のメンバー二名、M4A1、M4 SOPMODⅡの捜索及び発生した謎の現象の解決です』
(…む?)
追加依頼の内容を聞いた時、ギルヴァは妙な違和感を覚える。
しかし敢えて口に出す事はしなかった。
「了解した。通信を切るぞ」
『はい。…何かあればご連絡下さい。こちらでも何か出来る状態にはしておきます』
「頼む」
グリフィン側からの追加依頼を了承し、ギルヴァは通信を切る。
相手との連絡が終わった事を確認した代理人が前を見ながら彼へと声をかける。
「相手は?」
「指揮官からだ。作戦領域全域に謎の現象が発生。一帯が氷雪地帯と化し、現地に居た依頼人と連絡が取れなくなった」
「…悪魔による仕業でしょうか」
突如として一帯が氷雪地帯できる力を持つ者など一つしかない。
代理人も何度も悪魔という存在、その力を目にしている為今更驚く事はなかった。
「十中八九な。…その事を受けて、依頼主の代行としてグリフィンから追加依頼が来た。内容は作戦領域にて連絡が取れなくなったAR小隊のメンバー、M4A1、M4 SOPMODⅡの捜索。及び事態の解決だ」
「畏まりました。…少し飛ばします」
「頼む」
アクセルを踏み込み、バンの速度を上げる代理人。
そして後方からその事を聞いていたブレイクが静かに呟いた。
話を聞いていた95式とグローザが真剣な面持ちをしているというのに、ブレイクはソファーに寝転がり吞気に雑誌を読んでいた。
「追加依頼として迷子の捜索に事態の解決、か…それだけなのが妙な所だな」
「…」
それはギルヴァも感じている事だった。
追加依頼の内容はAR小隊のメンバー二人の捜索と謎の氷雪地帯の解決"だけ"。
まるでそこにはグリフィンの部隊はいないと思わざるえなかった。疑問が残る中、彼らが乗るバンは氷雪地帯と化した作戦領域へと向かって行くのだった。
作戦領域に到達した彼らを待っていたのは、報告にあった通り辺り一帯が氷雪地帯を化し凍てついた町の姿だった。肌を刺すような冷気が漂い、巨大な氷山がそこら中に存在している。中には巻き込まれたのか氷漬けにされた鉄血人形兵の姿もあった。まるで時が止まったかのように、その人形は氷の棺桶の中で機能停止していた。
「酷い有様ね…」
その有様を見てグローザが言葉を漏らす。
そこにグローザの隣で立っていた95式がここに来てから気になっていた事を口にする。
「グリフィンの部隊も巻き込まれて…?でも追加依頼の内容にグリフィンの部隊の捜索は…」
鉄血のハイエンドモデルを倒すのに、AR小隊のメンバー二人だけで行う筈がない。普通あれば大規模の部隊が居ても何らおかしくないのだ。しかし彼女達が到着した時にはその姿すらなかった。
もし巻き込まれたのなら、一刻も早く助けに行かなくてはならないのだが…。
95式が言及した謎。そして違和感の正体に気付いたのかグローザの顔が険しくなる。
「回りくどい事をしてくれるわね…」
「グローザ?」
「…ここが氷雪地帯と化した直ぐ後に撤退しているのよ、グリフィンの部隊は。追加依頼の内容にグリフィンの部隊の捜索が無いのはそういう事よ」
「まさか…AR小隊の二人と救出対象のAR-15さんを置いていったのですか…!?」
「そう考えるのが自然でしょうね。甚大な被害を受ける前に撤退したと見ていい。…ブレイクやギルヴァが納得が行かなそうな顔をしていたのがよく分かるわ」
グローザと95式は少し先で町を見つめるブレイクとギルヴァの背を見つめる。
二人が何を考えているのかは心が読める筈がない彼女達には分からない。
しかし彼らがこのまま依頼を放棄する筈がない。それ位の事は二人も分かっている。
指示があるまでグローザは95式を連れて、バンで待機している代理人の元へと戻る事にした。
季節は冬。ただでさえ気温が低いと言うのに、氷雪地帯によって気温はさらに低くなっている。
「流石にこのままここで突っ立っているのは厳しいわね…」
「ええ、そうですね…」
幾ら人形と言えど寒いものは寒い。
そしてこの状況で彼らが平然としていられるのは、その身に流れる悪魔の血が大きく影響しているからであろう。
その頃…。
「SOPⅡ、大丈夫?」
「うん、大丈夫」
周囲一帯が氷雪地帯と化したこの場所にて、AR小隊の二人は何とか氷の棺桶に閉じ込められずに済んでいた。
被害にあっていない廃屋に身を潜ませ、二人は現状把握に努めようとしていた。
「…一体何が起きたの?これも鉄血の仕業?」
「違うと思う。幾らで鉄血でもこんな事出来る筈がないわ」
「だよね…」
(…本当に何が起きたと言うの?)
突如として発生した氷雪。あっという間に凍てついた作戦領域。当然ながらこの現象の仕業には悪魔という人知れず存在するものによるものなのだが、鉄血もそしてこの二人も知る筈がない。
「取り敢えず移動しましょ。早急にAR-15を見つけてここを脱出。いい?」
「了解!」
(…ギルヴァさんとも連絡を取らないと…)
ここで居た所では何もならない。
二人は廃屋から外へ出て、この地にいる仲間の捜索と依頼しここに来てくれている彼と連絡を取る為に動き出す。
そして彼女達は気付かなかった。二人の背中に遠くから見つめる…
氷の精鋭がいた事に。
今回からはAR-15救出作戦なのですが…当然ながら悪魔もぶち込みます。
氷系の悪魔が出てきますが…まぁ皆分かるよね。
では次回ノシ