「二人だけで向かうのですか?」
「ああ」
バンの中でギルヴァが立案した作戦に代理人が不満の声を上げた。
彼が言うには、捜索と事態の解決には自分とブレイクで行うと。しかし何もしないで待機していろと言われて、代理人は黙って聞くつもりはなかった。
しかしギルヴァには代理人達を待機させる明確な理由があった。
「一帯に広がっている氷は普通の氷ではない。魔力で形成され、それに触れた者は一瞬にして氷漬けにされる。俺やブレイクなら脱出は出来るが、人形は違う。触れた次の瞬間氷の棺桶に閉じ込められ、氷漬けにされる」
「…」
「俺達は一度機能停止した人形を甦らせる術を持っていない。それはお前も分かっている筈だ、代理人」
(全く…素直じゃねぇやつ)
二人の会話を聞き、ジュースボックスに背を預けながらブレイクは内心呟いた。
ブレイクはギルヴァと代理人が夫妻という関係にある事は知っている。事態解決の為に彼女達を連れて行かないのは、何かあったら心配だというギルヴァの思いも見抜いていた。
そんなギルヴァを見てもっと素直になればいいものをと思うブレイクであるが、公私共にパートナーであるグローザを前にして素直になれるかと考えると自分も人の事を言えないと思った。自分もギルヴァと似た様に大事な事は敢えて伏せる癖はあるのだから。最もパートナーであるグローザがそういった回りくどい事を嫌う点はブレイクも知らない訳でないのだが。
「俺達が元凶を討つまでは良い子ちゃんにして待ってな。氷が融けさえすればそっちも動けるからな」
それを口にするギルヴァではない事も知っているので、ブレイクは敢えて助け舟を出した。
ブレイクとてグローザや95式、代理人が氷漬けにされる様を見たい訳でないのだ。
「それに場合によれば、迷子の二人がここに来るかも知れねぇ。その時はそっちが保護してくれればいいさ」
「こう言っては何だけど、向こうがこっちにそう簡単に信用してくれるかしら?」
グローザの意見も間違っていなかった。
グリフィン側へ投降した身とはいえ、鉄血の人形が一緒に居るのだ。それもハイエンドモデルとなれば尚の事。
「まぁちょいと厄介な事になるかもだが、その時は上手く説得してくれ、ローザ」
「そこは人任せなのね…」
「適材適所って言うやつさ」
肩を竦めながらおどけた態度を見せるブレイク。
そんな彼を見てグローザは手を額に当て軽くため息をつくのだが、仕方ないと判断した。
悪魔が相手となれば雑魚程度なら彼女達だけで何とかなるだろうが、上位種となれば必然的にギルヴァやブレイクの力が必要になってくる。それに今回は作戦領域全体を氷雪地帯へと変えてしまう力を持つ悪魔が相手なのだ。それだけの力を有するという事は自分達では倒す事が出来ない強大な悪魔が相手だと言う事。
その事が分からないグローザではないし、当然ながら95式も代理人も理解はしている。
「分かりました。私達はここで待機しています。…あまり無理はなさらないでくださいね?」
このまま言い合っていた所で埒が明かないと判断した代理人はブレイクの説得もあって、ギルヴァが立案した作戦を了承する事にした。了承を得られたことからソファーからギルヴァは立ち上がり、ウエポンラックから何時もの武器一式を装備し、クイーンを背に背負う。
そのまま外へと出ようとした時、95式がギルヴァへと声をかける。
「お気を付けて」
「ああ。…ここは任せる」
「はい…!」
バンの後部ドアを開き、ギルヴァはリベリオンを背負っているブレイクと共に外へと出る。
凍てついた作戦領域へと向かって行く彼らの背中が小さくなるまで代理人達はバンの車窓から見つめるのだった。
彼らがどうか無事に戻ってくる事を願って。
「さぁて…ここからどうするつもりだ?」
バンを後にし、凍てついた領域へと足を踏み入れブレイクがギルヴァへと方針を尋ねる。
「対象を見つけ、元凶を討つ。後は本来の依頼をこなせばいい。単純な話だ」
「そう単純には思えないんだが」
肩をすくめながらブレイクはその先に映る光景を見つめる。
その先にあるのは凍てついた町の姿。巨大な氷山のせいで大通りは封鎖され、また別の氷が彼らの行く手を塞ぐ様に正面から入る事は不可と言えた。その為町へと入るのは迂回して入る必要があった。
「先に行っているぞ」
わざわざ一緒にいる必要は無い。また分担した方が効率的だと判断したギルヴァはブレイクにそう告げると幻影刀を一つ展開し、近場の建物へと投射した。
放たれた幻影刀は窓を通り抜け内部の壁に突き刺さり、それを着地点としギルヴァはエアトリックを用いて建物内部へと消えていった。
それを見届けたブレイクはやれやれと言いながらギルヴァは入っていった建物とは別の建物の窓へ向かって跳躍し、そのまま内部へと侵入する。
建物内部は荒れており、長い事人が暮らしていない事が容易に読み取れるがブレイクはさして気にする様子もなく、部屋のドアへと向かって行き、ドアを開こうとする。
しかし壊れているのか、或いはドアの向こう側に何か引っかかているのかドアはびくともしない。
「…」
ドアを見つめるブレイク。
次の瞬間、思い切り蹴りを叩きこみ強引にドアはぶち破った。
飛んで行ったドアは壁に叩きつけられその中から何もなかったかのように彼が部屋から現れる。
「修理代はツケといてくれ」
自身がぶち破ったドアの残骸に対し、そう告げるとブレイクは階段を降りていく。
漂う冷気。建物の一階へと降りると氷による封鎖はされておらずブレイクはそのまま外へと出る。
彼が外へと出る時、遠くから銃声が響いた。
「おっと、もう迷子が見つかったか?」
何処からは分からないが、ある程度の場所の把握をしたブレイクは音の発生源へと向かおうとした。
その瞬間、後ろから何かが飛来しそれに気付いたブレイクは咄嗟に後ろへと振り向きつつリベリオンの持ち手を握り、飛んできたそれは振り払うとリベリオンを肩へと担ぐ。
振り落とされ、散る氷。砕けた欠片が飛散する。
奇襲が失敗し、直接攻撃するしかないと思ったのか襲撃者は建物から降り立ちブレイクの前にその姿を晒す。
氷の鎧に氷の爪、纏う冷気。ブレイクに対し威嚇の声を上げる何か。
決してこの世の物ではない。それが悪魔だという事はブレイクも気付いていた。
「元凶じゃあなさそうだが、悪魔に変わりないか」
担いでいたリベリオンを振り下ろし、剣先を氷の精鋭…フロストへと突き付ける。
「それじゃゴミ掃除と行くか!」
元凶でなくてもこの世に居られては害にしかならない。
ゴミ掃除と称し、ブレイクはフロストへと向かって攻撃を仕掛けるのだった。
一方SOPⅡは危機的状況にあった。
彼女も悪魔…フロストによる襲撃を受けそれと交戦状態に入っていた。先程まで一緒にいたM4A1はフロストが繰り出した攻撃により運悪く分かれてしまい、またM4A1もフロストに追われてしまった為に離れ離れになる結果へと陥っていた。
相手が何者かは分からないが敵対者である事は変わりない。悪魔を相手にめげずに彼女は銃撃を止めない。
マガジンを交換し新たな弾倉を装填。このまま撃っていても大したダメージにならないと判断し、とっておきをくれてやる事にした。
銃身下部に備え付けた大砲にとっておきを装填し、敵へと照準を合わせる。
「吹っ飛べ!」
放たれる榴弾。吸い込まれる様にそれはフロストへと着弾し大爆発を起こす。
幾ら未知の敵と言えど榴弾を真面に喰らえばひとたまりもない。しかしそれを裏切られる。
フロストと煙の中から姿を現す。榴弾の一撃により片腕は吹き飛んでいるが、だから言って弱まっている様子は見受けられない。その様子にSOPⅡも自身の目を疑わずにはいられなかった。
だが敵は驚いている時間を与えてくれない。即座に正気を取り戻し、銃を構える。
「ッ!?」
銃を構えた瞬間、彼女は目を見開いた。とどめの一撃を刺さんと言わんばかりにフロストがすぐそこまで接近していた。腕を振り上げ、氷の爪が彼女に目掛けて振り下ろされる。
回避しようにも、もう間に合わない。今回避したとしても爪の攻撃範囲からは逃れられない。
迫る爪。彼女に映る光景がスローモーションになる。
その瞬間、彼女の目の前で"空間"が歪んだ。
奔る斬撃。それにより攻撃は中断され、フロストはその場から飛び退く。
「えっ…?」
突如として起きた現象にSOPⅡは混乱させずにはいられなかった。
そして謎の現象を起こした者が後ろから姿を現す。
黒いコートを揺らめかせながら、歩み寄り彼女の傍に立つ。
左手には日本刀。背には大剣。黒いコートを羽織った銀髪の男。
男は左手に持った刀の持ち手に右手を添え、居合の態勢を取る。
鋭い眼差しがフロストへ向けられた瞬間…。
「遅い」
黒き残影が生み出された無数の真空刃と共に駆け抜けた。
背後では男が刀を巧みに回転させ、そのまま鞘へと納めていた。鍔と鯉口がかち合い音が響いた瞬間、真空刃によって斬り刻まれたフロストは膝を尽き、そのまま地へと倒れる。ジタバタともがき苦しみながらも、成す術なく消失。その最期を見届けた後、その者は状況につかめずに呆然と立っているSOPⅡへと歩み寄り声をかける。
「お前がM4 SOPMODⅡか」
「え!? あ!うん、そうだよ!えっと…」
SOPⅡはM4から事前に聞いていた。
今回の作戦で便利屋に依頼したと。
その者は黒いコートを羽織り日本刀を手にしていると。
自身の目の前に立っている男こそがそうでないかと判断し、彼女は男へと問う。
「貴方がギルヴァ?」
その問いに男は頷き、肯定をする。
「ああ。そうだ」
という事でDMC4で登場した悪魔、フロストの登場です。
DMCに登場する悪魔の中で作者が一番好きな悪魔です。
今回の話で倒されましたが、この後の話でもフロストは何度でも登場しますのでご安心を。
さて…元凶は誰でやるかなぁ…。
では次回ノシノシ