何故なら"斬れば"済むのだから。
ブレイクがM4と合流したその頃。
ギルヴァは地獄門へと目指しながら移動しながらSOPⅡに黒い壁…地獄門、そしてここ全体を氷雪地帯へと変える力を持つ悪魔という存在について話していた。
しかしSOPⅡは地獄門や悪魔と言われ、多少程度は理解出来たが全部理解しきるまでには至ってなかった。
いきなり地獄門やら悪魔やら言われて全部理解しろと言う方が無理である。
それにギルヴァも早々に理解してくれるなど思っていない。だが聞かれた以上は答える必要がある。
後はSOPⅡが何処までその事をどこまで信じるかの話である。
先を行くギルヴァの後を追いながらもうーん…と唸るSOPⅡ。
大通りを抜け、町郊外へと出るギルヴァ達。二人が居る地点から少々離れた位置に地獄門は存在していた。
「ねぇ、一つ聞いていい?」
「何だ」
「…あれをどうやって破壊するの?言っておくけど爆弾なんて持ってないよ、私」
「爆弾など不要だ」
「え…じゃあどうやって…?」
「斬れば済む」
何言ってんだこいつ…と言わんばかりの表情でギルヴァを見つめるSOPⅡ。
どう考えてもあれだけ大きな建造物を破壊するなら、爆弾が必要になるのは明らかだ。
しかし彼がいて、愛刀「無銘」があるのなら建物一つ破壊するのに爆弾はいらない。
その事をこの後になってSOPⅡは知る事になるのだが、それを知る由もない。
「この程度の距離、造作ない」
SOPⅡと少し距離を空け、彼は無銘の鍔に親指を押し当て鯉口を切る。
鍔と鯉口の間から見える刃から煌きが放たれ、蒼が口を開く。
(大した建造物なんだが…ほっとくと悪影響だからな。だから…)
「斬り捨てる」
抜き放たれる刀身。神速かつ無駄のない動きで刀を振るう。
決して目には見えぬ斬撃が風を纏いつつ放たれ、離れた位置にある地獄門を一閃、真っすぐ歪みのない刀痕が壁面に刻まれる。
訪れた僅かな静穏の最中刃を鞘へと当て刀身を鞘へと納めていくギルヴァ。
鍔と刀身の鯉口がかち合った音が鳴り、刹那轟音が響く。
突然の事に何事かと驚くSOPⅡ。そして彼女は今起きているその光景に目を見開いた。
斜め一閃され二つに分かれる壁。そしてその上部が音を立てながら崩れ落ち、地面へと落ちていった。
彼女は只々啞然するしか出来なかった。
それもその筈で、たかが刀を振るっただけで本当に建造物を斬るなど誰が思うだろうか。
否、誰も思わない。思うとのするのであればギルヴァという男を知る者だけであろう。
そして目の前でギルヴァが起こした現象は認めざるを得ない。
確かめる様に、かつ今起きている事は紛れもない現実だと自身に言い聞かせる様にSOPⅡは静かに呟いた。
「本当に斬っちゃった…」
一方、町の中にある廃れたバーでカウンターに腰掛けながらM4から事の次第を聞いていたブレイク。
彼女が知る全てを聞くと椅子から立ち上がり、傍に立て掛けていたリベリオンを手に取り背に背負いながら口を開く。
「黒い壁か。そいつが出てきた後にここら全体がアイススケート場になった訳か」
「はい。黒い壁が何なのか分かりませんが…ここがそうなったのがブレイクさんの言う悪魔によるものと考えていいでしょう」
その時だった。
バーの外から地響きの様な音が鳴り響いた。それが外からだと気付いたM4は急いで窓へと駆け寄り、外を見た。
丁度そこから遠くにある例の黒い壁…地獄門が見る事が出来る。そして彼女はつい素っ頓狂な声を上げてしまう。
「は?」
まるで斬られたかのように真っ二つに分かれ、崩れ落ちてゆく地獄門。
誰が、と思いつつも彼女はブレイクと共にこの地に来た黒いコートの彼を思い浮かべる。
(いや…幾らあの人でも…)
最初に会った時はあの代理人を圧倒し、二度目に会った時は代理人程は言えずとも鉄血の人形部隊を壊滅させるほど。そんな強さを持つ彼でも建造物を斬り捨てる等到底無理だろうとM4は思った。
しかしそう思った矢先、彼女の隣に立ち地獄門が崩れ行く様子を見ていたブレイクがその考えを覆すかの様に言及する。
「やれやれ。見事なまでにぶった斬ってやがる。ギルヴァの奴、相変わらず行動が早いな」
「え…今のギルヴァさんが!?」
「だと思うぜ。それに真っ先にあれに向かったという事は、もう一人から聞いたからじゃねぇか?」
ブレイクの言うもう一人とはSOPⅡの事を指していた。
名前が分からないから表現したのだが、M4は誰の事を指しているのか理解していた。
仲間が彼と合流出来た事に安堵しつつも、彼女の中で以前から感じていた疑問が再び浮かび上がる。
(ギルヴァさんと言い、ブレイクさんと言い…この二人は何者なの…?)
今になって感じた疑問ではない。
初めてギルヴァと会った時もM4は彼が何者か疑問に思っていた。
しかし本人から語られる事はなく、二度目の再開でそれが語られるかと思っていたがそれも無く気付けば時間だけが過ぎていた。
この場でブレイクにその事を問おうと思ったM4であったが、敢えてそれをしない事にした。
状況が落ち着いていないのだ。故に彼らの事を問うべきではない。お互いにゆっくりとした時間が取れた時に問おう。そう心に決めるM4であった。
「あの建造物をぶった斬っても氷が融けてねぇって事は…こっちで元凶を討つしかねぇか」
「…」
「荷が重いならどっかで隠れててもいいぜ。嬢ちゃんじゃあ、ちょいとキツイ相手だろうしな」
決してM4が非力だとは言っていない。
他の戦術人形よりも高い性能を持つ戦術人形である彼女でも悪魔という相手は分が悪すぎるのだ。そう言った意味を含めブレイクはそう伝えたのだ。
しかしM4の答えはとうに決まっている。大事な仲間を救いに来たというのに自分だけ安全な所で隠れるつもりなど更々ない。彼女はブレイクの目を真っ直ぐと見つめ、己の答えを伝える。
「行きます。例え悪魔が相手であろうと立ち塞がるなら排除するまで…私がここに来たのは大事な仲間を救う為にに来たんです。何であろうとそれだけは変わりません」
啖呵を切るM4を見て、ブレイクは小さく口角を吊り上げる。
(良い目してるぜ。流石は隊長、というのもあるんだが…)
それだけではない、とブレイクは感じた。
普段はどんな様子かは分からない。しかしM4の目に宿った覚悟は本物であった。
(…人間より人間らしい気がするぜ、この嬢ちゃんは)
勘でしかないけどな、と己の内でそう呟き締めくくるブレイク。
「オーケー。ただし無茶は無しだ。良いな?」
「はい…!」
力強く頷くM4。
それを見てブレイクはコートを翻し振り返り歩き出す。それに続く様にM4も歩き出す。
外から差し込む陽の光、氷によって放たれる冷気…その二つが彼らを迎えるのだった。
しかし事態は急変する。
氷に覆われただけであった作戦領域に…
突如として吹雪が発生したのだから。
「何でいきなり吹雪が発生するのー!?」
フードを被り吹雪から顔を守りつつ大声で叫ぶSOPⅡ。
先程まで晴天が広がっていたというのに、突然としてこれである。流石に叫ばずには居られなかった。
その隣で立っていたギルヴァは冷静だった。そして突如として起きた吹雪は地獄門から現れた元凶によるものだと判断していた。このままでは事態は余計に最悪な方へと持っていかれる、自分も元凶討伐に動き出そうと考えたが、それは出来ずにいた。
吹雪が発生した途端、何処に身を潜めていたのか鉄血の人形兵達が現れたのだ。しかしその姿は異常と言えた。
一人は腕が欠損しており、その代わりに巨大な刃が取り付けられている。もう一人は片足が欠損しており、同じ様に巨大な刃が取り付けられている。中には頭が吹き飛んでいるに関わらず両腕を刃と化し動いている人形兵もいた。まともな姿をしている者は誰一人とて居ない。
「何これ…どうなってるの…?」
変わり果てた鉄血人形兵達を見てSOPⅡは声を震わせる。
目の前に居るそれらは動きもぎこちなく、生きて居るかどうかすら怪しかった。
―こいつは…成程。魔界の寄生虫によるものだ。死体に取りつき、取りついた者を自身の武器として利用する。巨大な刃は奴らが生み出したものだ。
(…本体ではなく、寄生虫に叩くしかないのか?)
―それは気にしなくていい。奴らは一度取りついてしまえば、自ら体を消失させ、魔力へと姿を変える。それで死体を動かす。つまり目の前にいる奴らは本体で、死体が破壊されれば環境に耐えられず死滅する。
蒼からそれを伝えられ、ギルヴァは無銘…ではなく背負っていたクイーンの柄へと手を伸ばし、引き抜く。
破壊力なら無銘よりもクイーンの方が勝る。アクセルを捻り、推進剤を燃焼させ一段階解放。そしてクイーンを静かに構えた。
ギルヴァが迎撃態勢を取り始めた事をきっかけにSOPⅡも銃を構える。この状況で吹雪がどうこうとか寒いとか言っていられない。一度に破壊され、そしてまた蘇ったのであれば…。
「もう一度バラバラにしてあげるよ!」
またバラバラに出来るという嬉しさも相まって、彼女は満面の笑みを浮かべる。
それを合図にギルヴァが突撃。変わり果てた鉄血人形兵達へとクイーンを叩きつけるのだった。
そしてその光景を見ている者がいた。
その者は片腕を失っており、体のあちこちから内部が見えるくらいの傷を負っていた。以前までまとめていた髪は解かれていた。肩で息をし、近くに木に身を預けながら彼女…ハンターは見つめる。異形と化したあれらに対し、立ち回る黒いコートの彼を。
「あの男なら…やってくれるかも知れん…」
「…あいつを…処刑人を止めてくれる筈だ…」
そしてブレイク達も元凶がいるであろう場所まで来ていた。
禍々しい魔力で作られた氷があったとしても、ブレイクには元凶の魔力は感じ取れており、迷う事無かった。
「…っ」
元々は広場だったのだろう。しかし周囲に氷壁が広がっていた。
吹き荒れる吹雪の中、ブレイクは顔を顰め軽く鼻をつまんだ。M4もそれを感じてはいたのだがブレイクの様に仕草を見せる様子はなかった。
そして広場の中央で踊っている二人の女性を模った何かを発見する。ブレイク達を見つけて誘惑する様な動きを見せつけ、手招きしている。
あからさまに罠だと気付いているM4は即座に銃を構えるが…。
「ベイビーちゃん!」
あろう事かブレイクが腕を広げながら近づいて行ったのだ。
氷上を軽やかに滑り、近くまで近寄っていくブレイク。女は近寄ってきた彼を抱き着こうとするが、あっさりと躱される。
「イイねぇ!サイコー!」
抱擁を躱し、胸やら尻やらを見ていくブレイク。そして地面に寝転がり観賞する始末。
余りの事に言葉が出てこないM4であったが、すぐさま我を取り戻しブレイクを助け出そうと走り出す。
しかし行動にするには少し遅く、彼女が走り出した時にはブレイクの背後から大口を開け喰らおうとする何かが迫っていた。
「ブレイクさん!!」
M4が彼の名を叫ぶ。
だが心配には及ばない。ブレイクも気付いていたのだから。
後ろから迫る何かに喰われる前に素早く反応してその場から飛び退くブレイク。そのままM4の隣に着地すると、ここを氷雪地帯と化し、吹雪を起こしている元凶の方へと見た。
光る瞳。頭に生えた氷。女の姿をした部分を有して触覚、丸い図体、四つ足に尻尾。
まるで蛙を思わせる姿を持った悪魔、ダゴン。この悪魔こそが元凶であった。仕留め損ねた事に苛立ちながらもバエルはブレイクへと問う。
「何故分かった!?」
「体を隠すのは良いが体臭がな…」
そう言いながら彼はまるでニオイを払う様な手振りを見せる。
「ひでぇもんだぜ」
「人間が!わしをなめとると痛い目にあわせるぞ、コラぁっ!!!!」
大口を開き叫ぶダゴン。その咆哮は周囲に突風を発生させ、ブレイクとM4は腕をかざし顔を防ぐ。
突風により捲りあがったコートを払いのけながらブレイクはダゴンへと挑発を仕掛ける。
「ハッ!イイねぇ、やってみてくれよ」
背に背負っていたリベリオンの柄に手をかけ引き抜くブレイク。
M4も手にしていた銃を構え、ダゴンへと向ける。
もう始まる戦闘の前にブレイクがM4へと最後に問う。
「準備は良いかい、嬢ちゃん。こっからは嬢ちゃんにとっては厳しくなるぜ?」
「行けます…!こんな所で立ち止まる気はありません…!」
「ハッ!良い覚悟だ!んじゃ…派手なパーティーと行くぜ!」
「はい…!!」
駆け出しダゴンへと立ち向かうブレイク。
駆け出した彼を援護する為、銃の引き金を絞りダゴンへと銃撃を仕掛けるM4。
赤き狩人、AR小隊 小隊長コンビによる悪魔討伐作戦が今幕を開ける。
その頃…。
グリフォンによりギルヴァがM4から依頼を受けた事を、45は416に知らせていた。
その事を聞き、416の表情が険しくなる。
「M4が…?」
「ええ。おそらく救出作戦の手助けを依頼したと見て良いわ」
「そう…。考えたくはないのだけどあいつらがここに来る可能性はあるのかしら?」
416としてはAR小隊がデビルメイクライに、ましてやS10地区前線基地に何らかの理由で居座る事を良しとは思っていない。
その問いに45は腕を広げながら肩を竦め、答える。
「さぁ?流石にそれは分からないわ。でも…」
「ええ。早い内に行動した方がいいわね…」
ニヤリと口角を釣り上げる416。
虚ろな瞳。三日月状に歪む口角。狂気か、或いはそれ以外の何かがそこに存在していた。
「待っていたわ、この時を…フフッ♪」
次回はブレイク&M4vsダゴン戦と+αです。
にしてもこの作品もあと十何話で百話到達するんですねぇ…。
作者が文才皆無ですからうちの作品なんて読書からすれば需要あるのかしら…。
まぁ…自分がやりたい様にやるまでです。
百話目の時はコラボでも考えましょうか。…しないかも知れませんが。
では次回ノシ