Devils front line   作:白黒モンブラン

96 / 278
狩人は動き出す―――


Act77 The end of movement

「…」

 

彼の腕の中には願い(依頼)を託したハンターの姿はない。彼の手の平に残ったのは砕け散っていった氷の冷たさと今まさに融けようとしている小さな氷の欠片だけ。ほんの少しだけ感じられた温かさは静かに消え去っていた。

静かにギルヴァは立ち上がり、つい先程までにいた彼女へと向けて口を開いた。

 

「…良いだろう。その依頼(願い)、受けてやる」

 

そう告げて彼は踵を翻しコートを揺らめかせながら歩き出していった。彼の傍にいたSOPⅡは何かを言おうとしたが、言葉が出なかったのか結局言わずじまいになり、先を行く彼の後を追っていった。

その言葉が果たして彼女へ届いたのかは彼には分からない。

しかし彼らを見届けるかの様にひっそりと小さな光が空へと昇っていった。

 

 

元凶であるダゴンが討たれ、ブレイクとM4、そして途中でAR小隊のメンバー、ST AR-15と合流を果たすと彼らは町の廃れたバーに再度身を寄せていた。ブレイクは傍にリベリオンのを立て掛けカウンターに腰掛けており、M4は店出入口近くでAR-15に状況を説明していた。

 

「悪魔、ね…いきなり何を言い出すのかと思ったけど…」

 

「そっちも見たの?」

 

「ええ。冷気を纏っていて氷を飛ばしてくる訳の分からない化け物とか…あと、蛙みたいのも見たわね」

 

「蛙って…」

 

AR-15の口から出た蛙という言葉を聞き、M4はまさかと思った。

彼女の中で思い浮かぶ蛙と言えば一つしか思い当たらなかったからだ。

 

「それって頭に氷が生えていて触角があって、体臭がきつい…?」

 

「何でそんな詳しいのかしら…。…ええ、それよ。流石に手を出さず放置していたけど…」

 

「…その蛙がここを氷だらけにした元凶よ」

 

「嘘でしょう…?」

 

その問いにM4は静かに首を縦に振った。

まさかと思いつつも、AR-15は悪魔という存在を知った以上信じる他なかった。でなければ先程の状況に説明が付かなくなるからだ。

とは言え人知れず存在し、そしてそれが今回の騒動の中心にあった事に表に出さずとも彼女は内心混乱気味であった。それを見抜いていたのかブレイクがAR-15へと喋りかけた。

 

「ま、いきなり悪魔なんて言われたら混乱するのも無理もねぇさ。寧ろその反応が正しいぜ?」

 

「その言い方だと他にも悪魔とやらに関わった人達が居るみたいね…」

 

「まぁな。それでも悪魔の事を信じてくれた良い子ちゃん達ばかりさ。この地区にも知り合いは居るぜ」

 

「…」

 

「それにほっといたら面倒なのが悪魔でね。頭角を現す前に皆でぶっつせば大当たりってやつさ」

 

陽気な態度を見せるブレイクにAR-15は何も言わず、彼を見つめる。

しかしそれに臆する事もなく、肩を竦めながらブレイクは言葉を続ける。

 

「まぁ居るって分かりゃそれでいい。で…嬢ちゃんは敵側に人質として捕まってたんだろ?あっちで何があったのか聞いて良いか?」

 

何故囚われていたAR-15が自分達と合流出来たのか、ブレイクはそれが気になっていた。

黒い壁といい、悪魔といい、そこら辺の雑草の様に生えてきた訳ではない。何らかの発端があったからこそ、このような事態になったのだと判断していた。

そして発端を一番近くで見ていたであろうAR-15が何かを知っていると思い、そう尋ねたのだ。

 

「発端、ね…。私は別に部屋に放り込まれていたから詳しく分からないのだけど…。分かると言えば、同士討ちの様な事が起きていたという事ぐらいね」

 

「同士討ち…?鉄血の内部で?」

 

隣で聞いていたM4が怪訝そうな表情を浮かべながら、AR-15に問う。

その問いにAR-15は頷き、言葉を続けた。

 

「恐らくだけど処刑人が狩人や周りの仲間に攻撃を仕掛けた感じだったわ。何故そうなったかは分からないけど…ただ、あの場に居た時異様な感じがしたわ。肌を刺すようなピリピリとした何か…と言うのかしらね」

 

「異様でピリピリとした感覚、ねぇ…」

 

この時点でブレイクは察した。

その処刑人とやらは魔に飲まれていると。

 

(魔に飲まれたとして…どのタイミングで魔と関わる様になっちまったのやらか)

 

しかしこのまま放置していては、この地区の知り合いにまで迷惑がかかってしまう。それは避けなくてはならない。ここでギルヴァ達を待つという考えがあったが、それでは相手が何をしでかすか分からない。行動するのであれば今が良いと判断したブレイクはカウンターから立ち上がり、傍に立て掛けてあったリベリオンを背へ収めた時だった。

 

「M4!AR-15!」

 

外から二人の名を呼ぶもう一人の声がバーに響いた。

名前を呼ばれた二人は外へと顔を向けると、そこには手を振りながらバーに駆け寄ってくるSOPⅡとその後ろからは歩きながらバーへと歩み寄るギルヴァの姿があった。

離れ離れになってしまったものの、また再会を果たせた事が嬉しかったのかSOPⅡは感極まってM4に抱きつく。びっくりしながらもM4はしっかりと抱き止めてSOPⅡの優しく頭を撫でる。AR-15も今だけは気を緩め、再会出来た事に表情を緩ませ優しく微笑んでいた。

その一方で後からやってきたギルヴァに対しブレイクが茶々を入れる。

 

「遅刻だぜ?」

 

「時間指定された覚えがないのだが」

 

ブレイクの茶々を相手する事無く、ギルヴァはクイーンと無銘を壁に立て掛けて、その隣に腕を組みつつ背を預ける。そこにM4がギルヴァの元へと歩み寄り声をかけた。

 

「ギルヴァさん」

 

「…こうして顔を合わせるのは数か月振りか」

 

「はい。急な依頼、そしてまた大事な仲間を助けて頂きありがとうございます」

 

「単に依頼をこなしただけに過ぎん」

 

(礼ぐらい素直に受け入れろって…)

 

少し冷たいと思わせるギルヴァの言動にブレイクは内心呟く。

M4にフォローを入れようとするブレイクであったが、その前にギルヴァが口を開く。

 

「だが…礼は受け取っておこう」

 

「!…はい!」

 

(…やれやれ)

 

フォローは不要となり気づかれないように肩を竦めるブレイクだった。

 

「さて、話を進めようぜ。こっからのな」

 

普通であればそうするだろう。

しかしそこに待ったをかけた者がいた。

 

「確かにその話は必要だが…まずはあいつらを呼ばなくてはならん」

 

「呼ぶって…良いのかよ?」

 

「隠していたとしてもいずれ知られる事。不安要素は先に潰した方が良い」

 

あいつらとも敵対したくないのでな、と呟きギルヴァは店の端にあった電話へと歩いていく。

何の事を言っているのか分からず、不思議そうに彼を見つめるM4達。

 

「電話線は繋がっているようだな」

 

受話器を手に取り、懐から通貨を一枚入れ番号を押していく。

受話器を耳に当てるとコール音が響く。一秒足らずで彼が予想していた相手が出た。

 

『デビルメイクライ。…ギルヴァですか?』

 

「ああ。今…む?」

 

電話に出たのは当然ながら代理人であった。

彼女が電話に出た時、ギルヴァは電話越しから聞こえる微かな音に気付いた。

 

「運転中か?」

 

『はい。あのまま待つのも落ち着かなくて。今は町の近くを移動中ですが…合流致しましょうか?』

 

「ああ。町の中にあるバーで待っている。…それと例のメンバーもいる。姿を晒す際は気を付けてくれ」

 

『畏まりました。それではあと五秒で到着致しますので』

 

「何…?」

 

彼がそう口にした五秒後…

 

 

 

 

 

 

 

 

彼が立っていた近くの壁から一台のバンが壁を突き破って現れた。

 

 

 

 

 

 

 

『言ったでしょう?五秒後だって』

 

「…」

 

その言葉に返す言葉はなく、ギルヴァは受話器を元へ戻すのだった。

ブレイクは代理人の登場に腹を抱えながら笑っているのだが壁をぶち破って突然現れたバンにM4達は余りの状況に理解が追い付かず啞然とするのだった。

それを他所に車内から95式、グローザが降りてくる。何とか先に現実に戻ってきたM4は二人のどちらかがバンを運転していたのだと判断した。しかし判断は一瞬にして間違っていたと思い知らされる事となる。

 

「ッ!!」

 

バンから降りてきたもう一人…代理人を見てM4の行動は早かった。素早く銃を構え、代理人へと狙いを定める。

M4が行動を起こした事により、AR-15もSOPⅡも代理人へと素早く銃を向ける。

しかし代理人はそれに反応する事は、あろう事か彼女達に向かってカーテシーを掴んで作法ある礼をするのみ。

 

「どうしてお前がここに居るッ!?」

 

声を荒げ代理人へと問うのはM4。

 

「さあ?どうしてでしょう?」

 

「ッ…!」

 

その一方でAR-15は周りの様子に疑問を持っていた。

自分達が代理人へと武器を構えていると言うのに、バンから降りてきた95式やグローザ、それどころかブレイクやギルヴァがただ様子を見守っているという事に。

 

(これじゃまるで今まで一緒に行動していたみたいじゃない…どういう事なの?)

 

彼女はもしやと思った。そして思い当たる事があった。

鉄血から離反し、グリフィン側に付いた鉄血のハイエンドモデルがいる、と。もし目の前にいる代理人が本当に鉄血から離反し、グリフィン側に着いたのであれば…。

 

「M4、少し落ち着きなさい」

 

「でも!」

 

「落ち着けと言っているのよ。隊長のあんたが冷静にならなくてどうするのよ」

 

「…あいつの肩を持つ気…?」

 

「そうじゃないわ。少し気になる事があったから止めたのよ」

 

銃を下ろし、AR-15は代理人へと問いかける。

 

「まどろっこしいのは要らないから、単刀直入に聞くわ。貴女、鉄血から離反してるわね?」

 

「おや。分かりましたか。貴方達も中々に侮れないものですね」

 

「お世辞は要らないわ。それでどうなのかしら?」

 

「ええ。貴女の言う通り私は既に鉄血とは縁を切っております。それでも信用出来ないのであれば結構。かつて敵であった私がすぐに信用されるなど思っておりませんので」

 

代理人とてそうなる事は予想していた。

しかし後々になって姿を晒した所で面倒な事になるのは間違いない。どうせなら早い内に解決しておくべきと代理人は判断していた。ギルヴァに気を付けろと言われておきながら早々に姿を晒したのはそう言った意味を含めての行動だった。

それが嘘か誠か…AR-15は判断しかねた。そこで彼女は代理人を連れてきていたギルヴァへと問う。

 

「そいつを信じて良いのかしら」

 

「…無理に信じろとは言わんが?」

 

「完全に信じるつもりはないわ。只、そいつが私達を後ろから撃つ事はないか…それを気にしているの」

 

「後ろから撃つ事はない…それだけは保証してやろう。それでも不安が残ると言うのなら…」

 

ギルヴァはちらりと代理人へと視線を送った。

今から何かをする…その意図を読み取った代理人は彼へと頷き返した。

了承を得られた事により、ギルヴァは魔力を用いて代理人の周囲に複数の幻影刀を出現させ展開。周りに展開された幻影刀の切っ先は全て彼女へと向けられていた。

突然現れた群青色に輝く刀にAR-15、それどころかM4やSOPⅡも目を見開き驚きの表情を浮かべる。

 

「少しでも怪しい行動を取れば、代理人の周りにこれが展開される。逃げようとしたとしても追従する仕組みだ。こちらのタイミングで攻撃する事も出来る。…これならそちらも多少なりとも安心できると思うが」

 

「え、ええ…」

 

「そうか。それなら良い」

 

AR-15に何とか納得してもらった事により、ギルヴァは代理人の周りに展開していた幻影刀を消す。

突然起きた事情にAR-15は少しだけ体を震わせた。それは彼に対する恐怖だという事に彼女は気付いており、そして心の内で呟いた。

 

(何者なの…この男…)

 

「さて…話を進めようか」

 

心の内で呟いた彼女の声がギルヴァに聞こえる筈もなく、中断されていた話は再度進み始める事となった。

 

ギルヴァとブレイクはそれぞれ自身が遇った出来事を話していった。

突如として現れた地獄門、その存在、作戦領域一帯を氷で囲んだ悪魔がその地獄門から現れた事、そしてその地獄門を起動させたのは鉄血のハイエンドモデル 処刑人であるという事…全てこの場にいる者達に明かした。

 

「処刑人がそんな事をしでかしてたとは…」

 

「加えて言うならその処刑人とやらは魔に飲まれてるぜ。どこで関わったのか知らねぇけどな」

 

沈黙が訪れる。

処刑人が魔に飲まれている。それにより一体どれ程の力を有してしまったのか、誰にも想像が付かなかった。

当然ながらギルヴァとて想像は付かなかった。しかし依頼(願い)を受けた以上放棄するつもりは彼にはなかった。

 

「…ギルヴァさん、あの事は言わなくていいの…?」

 

沈黙が包む最中、SOPⅡは逝ってしまった鉄血のハイエンドモデル 狩人からの依頼について明かさないのか尋ねた。壁に凭れ、腕を組み、伏せていた目を開くとギルヴァはそうだな、と答える。

一体何の事だろうかとギルヴァとSOPⅡを省く誰もが彼へと視線を向けた。

 

「依頼を受けた。相手は鉄血のハイエンドモデル 狩人からだ」

 

「狩人から?ギルヴァ、それはどの様な内容でして?」

 

「…処刑人を救ってほしいと言われた。そしてその依頼人である狩人…先に逝った」

 

「…そうですか」

 

話すべき事を話したギルヴァは壁から離れ、近くに立て掛けてあったクイーンと無銘を手に取ると、バーの出入口へと歩き出した。そこに95式が彼を呼び止める。

 

「何処へ行くのですか…?」

 

「…依頼を終わらせに行ってくる。それだけの事だ」

 

「…まさか一人で?」

 

「そのつもりだ」

 

そう言われて95式は自分もついていく、とつい言い出しそうになった。

しかし自分一人が加勢入った所で魔の力に飲まれた処刑人に立ち向かった所で彼の足を引っ張る。それに魔の力に飲まれ異形と化した者を彼女は知っている。それによって身に付けた魔の力の恐ろしさも。

 

(何て非力なのでしょう、私は…)

 

そう知っていても尚、95式は彼の背中を支える事が出来る力を持っていない事に不甲斐なさともどかしさを感じていた。

悪魔の恐ろしさは知っている。自分達の手で何とかなる悪魔も居るが、強力な悪魔となればどうする事も出来ない。その結果、ギルヴァやブレイクといった倒魔の力を持つ者達の力が必然となる。しかしその力を持つ者の力は人形である彼女達では到底追い付かない領域にあるのだから。

 

(けど力だけを得ようとした所で自身を見失うだけ…)

 

非力だと感じつつも95式という少女は決して弱い少女ではない。

強力な悪魔との戦いで彼を支える事が全てではない。どんなに小さい事でもいい。それが彼の支えになるのであれば良いのだから。

 

「…ここで帰りを待っています。どうか…ご武運を」

 

「ああ。…彼女達を頼む」

 

「はい…!」

 

背を向けてギルヴァは外へと出ていく。

誰もが小さくなっていく彼の背中を見つめる中、ブレイクの隣で座っていたグローザが彼へと尋ねる。

 

「貴方は行かなくて良いのかしら」

 

「まぁ…あいつが受けた依頼だからな。おいしい所は譲ってやるさ」

 

「そう…」

 

それ以上グローザは何も言わなかった。

ブレイクも本来であれば自分が動こうと考えていた。しかしギルヴァが正式な依頼を受けたのであれば、そこは譲るべきと判断したのだ。それに自分までここを抜けてしまえば、何かあった時に手助け出来ない。

ならばここは自分は引き受け、最後の依頼を彼に任せる事にしたのだ。

 

バーで出てギルヴァは迷う事無く処刑人がいるであろう場所へと向かっていた。

感じられる禍々しい魔力。その発信源は町から遠く離れた位置にある処刑人が狩人と共に拠点にしていた基地から感じられていた。

 

「何時ぞや戦い以来か…」

 

処刑人と剣を交えたのは彼が行方不明となった95式の捜索依頼を受けた時の事だ。

あの時は捜索対象が近くに居た為、強引に終わらせた事により決着はつかず仕舞いになっていた。

基地へと目指しながら彼はこの先にいるであろう彼女へと言葉を投げかける。

 

「終わらせよう…」

 

始まってしまった戦い。

長きに渡り決着が付かなかった戦い。それはこの時をもって…

 

 

 

 

 

 

「処刑人」

 

 

 

 

 

 

終幕へと動き始めた。




―――決着つかずの戦いを終わらせるために



次回 ―rematch(再戦)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。