Devils front line   作:白黒モンブラン

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―――その歌に誘われた者は気付かずに蜘蛛の糸に引っかかる


Act80 Alkenyl

ギルヴァがS09 P地区に訪れ三日目。

昼頃にギルヴァは宿を出て、町へと赴き情報収集へと動いていた。大通りへ歩き、昨夜訪れた酒場の前を通り過ぎていく。その時、通り過ぎて行こうとする彼を見つけて呼び止める者がいた。

 

「よぉ、昨日の兄ちゃん」

 

「ん…?」

 

呼ばれて振り向くギルヴァ。

彼の視線の先には昨日声をかけてきた酒場の店主がいた。

 

「ちょいと時間貰っても良いかい?」

 

「…何かあったのか」

 

「そんなところだ」

 

もしかしたら悪魔とは言えずともそれに類する情報が出てきたのかも知れない。

そしてこれを無視すれば、情報は出てこないかもしれないだろうと判断した彼は店主の誘いに乗る事にした。

店主の後に続き、店内にへと入るギルヴァ。客はギルヴァ以外にカウンター席に男性が一人。

だが酒を飲みに来た様子ではない。どこか不安そうな、心配している様な表情を浮かべていた。

店主が男性の近くに寄るとギルヴァに向かって口を開いた。

 

「まずはこいつの話を聞いてくれねぇか。何で呼び止めたのか、話はそっからだ」

 

そう言うと仕事があるのか、カウンターへと引っ込み作業をし始める。

 

(取り敢えず聞くべきか。話はそこからだ)

 

店主に言われた様にギルヴァは男性の隣に腰掛ける。

男性は一度ギルヴァをちらりと見やるがそのまま下へとうつむいてしまう。そして小さい声で彼へと話しかけた。

 

「何か飲むか…?」

 

「そんな気分ではない。…話を聞こうか」

 

「…店主から聞いたんだが、オカルトとか…その手に詳しいんだって?」

 

「それなりにな」

 

すると男は顔を勢いよく上げるとギルヴァの肩を掴んだ。

突然だった為、つい反射的に反撃しそうになるギルヴァであったがそれをすれば話どころではなくなるので何とか抑えた。

そして男性は希望を見つけたと言わんばかりにギルヴァへと頼み込んだ。

 

「頼む!俺のダチを救ってくれ!」

 

その様子からしてギルヴァはこの男性ではなく、この男性の友人に何かが起きたと判断。

言葉にせずとも彼は首を縦に振り頷く。そして男性は起きた事をギルヴァにへと話し始めた。

 

 

「行方不明の友人か…」

 

男性が語った話にギルヴァは静かに呟いた。

男性は仕事の為、ギルヴァの隣にいない。今は酒場にいるのはギルヴァと店主だけ。

そしてギルヴァの中で話を聞いていた蒼は男が話した事に言及した。

 

―昨日一緒に酒を飲んだ友人があの男と別れた後に行方不明とはなぁ…。

 

(本人が言うには特に何か悩んでいる様子はなかった。となると…)

 

―尻尾現したな?

 

(ああ。だがその友人はどこで姿を消したか…それが気になる)

 

男性は友人が忽然と行方不明になったという事は話したが、その友人がどこで姿を消したかまでは知らなかった。

ギルヴァにとってそれが一番の謎として残っていた。しかしその謎はすぐに明らかとなる。

 

「あいつの話聞いたみてぇだな」

 

「ああ。俺を呼び止めたのはあの男の話を聞かせるだけ…ではないのだろう?」

 

「そうだ。あいつの話もそうだが…俺の知り合いも何人か行方不明になってんだよ」

 

「…ほう?」

 

偶然ではないとギルヴァは思わざるえなかった。

何故店主が自分を呼び止めたのか。ただのオカルトマニアという事だけ呼ぶ筈がない。

そこで思ったのは、店主が自身の正体に気付いているという事だった。

悪魔はともかく、便利屋だという事に。

だが今はそれを問う事はせず、ギルヴァは店主の話に耳を傾ける。

 

「けどな、奇跡的に行方不明にならずに話してきた奴がいてよ。そいつが言うには、こことは別の大通りで歌の様なものが聴こえたって言ってたんだよ」

 

「歌だと?」

 

「ああ。結構綺麗な歌声だって言ってたぜ?…どうだい、ちと面白くなってきただろ?」

 

「人の生死が分からんと言うのに面白いも面白くないもあるか」

 

この状況で少し楽しそうにしている店主に対してまともな意見で反論するギルヴァ。

その返答に腕を広げ、肩を竦める店主。

その様子を見てやれやれと言わんばかりに指を額に当てため息をつくギルヴァ。

しかし情報を得られたのは大きい。これ以上被害者を増やさない為にも今夜動く事にすると決めるギルヴァ。

椅子から立ち上がり、その場から後にしようとするがギルヴァは店主に対し気になった事を尋ねた。

 

「…昨夜話しかけてきた時点で気付いていたのか?」

 

「さあ?どうだろうな。お前の想像に任せるぜ…"便利屋"?」

 

「…そうだな」

 

そのまま酒場を後に、宿へと戻っていくギルヴァ。

無駄な体力を消費しない様に時が来るまで待機にするのだった。

 

 

三日目の夜が訪れた。

大通りには冷気が漂う。夜空に上がる月が全てを照らし出し、静寂に包まれる。

そんな中で店主が言っていた例の大通りに無銘を片手にギルヴァは訪れていた。大通りに静かにブーツの底が当たる音が小さく響く。

そして大通りを半分歩いた時だった。

 

「~♪」

 

どこからか華麗な歌声がギルヴァの耳に届いた。

足を止めると彼は周りを見渡して、その歌声が何処から発せられているのか探し始める。

 

(蒼、どこからか分かるか)

 

―直ぐそこに路地裏からっぽいな。気を付けろよ、ギルヴァ

 

(ああ)

 

蒼の言う通り、その歌声はすぐ近くの路地裏が聞こえていた。路地裏の出口の先には別の大通り、しかしそこに行き着くまでの道中は闇に包まれている。何ら臆することなく路地裏へと足を踏み入れるギルヴァ。一歩、一歩と足を進めていく度に小さかった歌声は次第に大きくなっていく。

そして路地裏を抜けた時、彼を迎えたのは別の大通りではなく、ポツンと建つ古びた劇場。

後ろを振り向けば先程通ってきた路地はどこかへと消えており、まるでここだけ独立している様であった。

 

「空間を歪ませ、ここにたどり着く様に仕向けたものか。…悪魔にしては利口だな」

 

―確かにな。確実に仕留めるなら、自身のテリトリーまでおびき寄せばいい。

 

「その様だな」

 

ギルヴァがここにたどり着いた事により、劇場の扉が静かに開いた。

誘われている事など最初から分かっている。わざと誘われた振りをしてギルヴァは劇場内へと足を踏み入れる。

彼が中へと入った事を感知していたかのように閉じる扉。しかし振り向く事はせずギルヴァはこの町で勝手な事をしている悪魔の元へ歩みを進めた。

古風な造りが特徴の廊下。所々に蜘蛛の巣が張っており、廃れた印象を与えさせる。歌声は今も尚響いており、それを頼りに彼は進んでいく。

長い廊下を突き進み、暫くして歌を歌う主が居るであろう会場前へと到着し、そのまま会場内へと入っていく。

そして中に入ってすぐにギルヴァは険しい表情を浮かべた。

 

「悪趣味な」

 

―人の姿をしているが…ありゃアルケニーかぁ…。

 

舞台上で踊る様に歌い続ける白きドレスを纏う金髪の女。そしてその周囲には蜘蛛の糸で全身包まれ、天井に宙吊りにされている行方不明になった人達の姿。周りを見渡せば、何処から湧いてきたのか魔界の蜘蛛が何体も姿を見せており、その全てがギルヴァへと向けられていた。

歌が終わる。ドレスを裾をつまみ、軽く一礼する女。そして彼女はギルヴァを一度見ると静かに微笑み、話しかける。

 

「ようこそ。貴方も歌を聴きに来たのかしら」

 

「…」

 

「あら?意外と物静かなのね。前に来た男は私の歌を拍手しながら誉めてくれたわ」

 

今はあそこでつるされているけどね、と蜘蛛の糸で包まれた一人を指さす女。

そして一度ギルヴァを見つめながら蠱惑的な表情を浮かべた。この女…否、この悪魔とて相手が人間か、悪魔かぐらいの判別はついている。

また人間が歌に惹かれてやってきたと思い彼を一目見た瞬間、彼女の中で何か熱いのが滾った。

 

(他の人間と違ってどんな味がするのかしらぁ…あぁ…早くタベタイ…)

 

しかしそれを表に出す事はせず、一言返してくれないギルヴァに不満の声をあげた。

 

「ねぇ…何か答えてくれても良いんじゃない?流石に無視は悲しいわ」

 

「…一つ聞く」

 

ここに漸く口を開くギルヴァ。

 

「何かしら?」

 

「あの者達は生きているのか」

 

「ああ、その事か…」

 

どこか心底どうでも良いと言わんばかりの表情を浮かべる女。

しかし聞かれた以上は答える事にした。

 

「ええ、生きているわ。後で食べる予定よ…無論貴方もね?」

 

「そうか」

 

何かを納得したのだろう。

そのまま戦闘態勢へと移行するつもりどころか、背を向けるギルヴァ。

()()()()()()()()()()()()()()

 

(あら…?)

 

その様子に女…アルケニーはふと不思議に思った。

何時、どのタイミングでギルヴァが抜刀していたのか。予備動作すら分からず、只々疑問に思うしか出来なかった。ましてや自身が斬られている事すら気付く筈もなく。

鍔と鯉口がかち当たる音が響いた瞬間、一体、一体と一閃された魔界の蜘蛛の亡骸が落ちていき、吊るされ、包まれた蜘蛛糸が斬り落とされ舞台の上に転がる気を失っている行方不明者たち。

そしてギルヴァの背後ではドサリと何かが倒れる音が響く。同時に古びた劇場が消失し始める。

消失していく舞台の上ではまるで悲劇のヒロインを表現するかの様に首と胴体が分かれた悪魔の死体が転がっており、古びた劇場と共に静かに消失していくのだった。

 

 

「…戻ったか」

 

古びた劇場は消失し、ギルヴァが立っていた場所はあの路地裏から出た先に大通りだった。

周囲に見回せば、寒さに目を覚ましたのか起き上がる行方不明達の姿。

特に異常を見受けられず、後は何とかなるだろうと判断したギルヴァはその場から去っていき、そのまま宿へと戻るのだった。

 

 

四日目の昼。

ギルヴァは布に包んだ無銘とクイーンを背負い、町にあった電話ボックスに背を預け迎えを待っていた。

 

(これで一件落着か)

 

―ちと事を大きくしてしまったがな?

 

(そうだな…)

 

そこに一台のバンが彼の近くで停車した。

運転席には代理人ではなく、何故かマギーが座っており、それを見たギルヴァは疑問に思った。

連絡した際には代理人が対応した筈なのだがと思いつつも助手席へと乗り込む。

 

「何故お前が?」

 

「代理人さんはノーネイムさんと一緒に貴方が拾ってきた処刑人さんの付き添いで。45さん達は任務で外しており、95式さんは哨戒任務で外していまして。そして代理人さんに頼まれて、代わりに私が」

 

「成程」

 

マギーからここにいる理由を聞き納得するギルヴァ。

そしてバンはマギーの運転の元、S10地区へと戻る道を辿って発進する。

その帰り道の際、ギルヴァはマギーにある事を尋ねた。

 

「推進剤燃焼機構のパーツ、残っていたりするか?」

 

「ええ、ありますよ。幾らか量産しておいたので。…それが何か?」

 

「代金は俺が持つ。クイーンを製作してほしい。理由は…後で知らせる」

 

「よく分かりませんが、了解しました。丁度良い刀身パーツが手に入ったので、それで製作致しましょう」

 

「助かる」

 

後にS10地区前線基地に戻った後、代金はギルヴァ持ちで新たにクイーンが製作される。またクイーンを納める用の専用ケースも製作される。

ギルヴァもかつて世話になった基地に手紙を当てた。自分らのミスで悪魔を討ち逃した事、そして秘密裏に悪魔の討伐に動いていた事。その詫びとしてクイーンを渡す事を記した。

またその事を聞きつけたシーナもあちらの基地の指揮官宛に手紙を当てており、いつかS10地区前線基地にいらっしゃって下さいという事とまたある大型兵器の運用試験に地区の上空を失礼するかも知れないという事を記した。

こうしてやり残した仕事は完了し、ギルヴァとシーナが記した手紙と共にクイーンが納められた専用ケースが「早期警戒管制基地(S09 P基地)」へと送られるのだった。




という訳で、やり残した仕事編は完了です。

またあちらの地区に迷惑をかけてしまったので、ギルヴァとシーナが書いた手紙と共に新たに製作されたクイーン(仮名)と専用ケースをお詫びとして基地の方へ送りました。
手紙はともかく…クイーンの方は喜んでくれるかな。

そろそろノーネイムのもう一つの専用装備にリヴァイアサンの運用試験。
そして拾ってきた処刑人の件にも踏み込んでいきます。
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