鎮守府外出録テイトク   作:ていん?が〜

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大槻不在回です。
今回のお話は原作第14話をモチーフにしています。


第2話「包卵」

【アア……ソレニシテモ スコッチエッグ ガ タベタイ……!!】

 

「えっ…?」

 

鎮守府ドック内の脱衣所。入渠から上がり、服を着ていた正規空母加賀は突如聞こえた声に振り向く。しかしそこには同じ正規空母の赤城しかいない。突然振り返った加賀に赤城は不思議がる。

 

「どうしたんですか、加賀さん?」

 

「いえ………赤城さん、今スコッチエッグが食べたいって言いませんでしたよね…?」

 

「え?言ってませんが……」

 

「そう……ですか。すみません、いきなり……」

 

「いえ気にしてませんよ。それよりもスコッチエッグと言いましたね?スコッチエッグ……私があの魅惑的な料理に出会ったのは自分探しでヨーロッパを放浪していた6年前―――――――」

 

(まさか、今の声は………)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

正規空母加賀は生まれながら心中に怪物を飼っている。

いや、それは怪物というよりむしろ―――――――――

 

 

  深  海  棲  艦  で  あ  る 

 

 

加賀の心の中の深海棲艦は普段は大人しく眠っているのだが、

加賀が珍しい料理を食べていない期間がある程度の日数を超えると

 

【カ……ガ………】

 

(!?)

 

再び聞こえた声に加賀は確信した。この声は自身の中に巣食う深海棲艦のものだ。

であれば、深海棲艦は次に――――

 

【ササ……ゲ…ヨ……】

 

【ワレ…ニ……】

 

加賀の中に深海棲艦の声が反芻する。それとともに深海棲艦の姿が形成されていく。

 

漆黒のマントを纏い

 

禍々しいステッキを持ち

 

軽空母ヌ級似の帽子の代わりに大きなスコッチエッグを頭に乗せた

 

美しくも冷酷な海の魔女

 

空母ヲ級ならぬスコッチエッグヲ級である!

 

【ササゲヨ…!ワレニ…スコッチエッグ ヲ……!!】

 

完全に目覚めてしまった加賀の中の深海棲艦。この深海棲艦はとどのつまりは珍しい料理食べたい欲。目覚めるたびに違う姿になっており、加賀が興味を持った料理の姿で現れる。今回は加賀が以前テレビで見たスコッチエッグを模した深海棲艦、スコッチエッグヲ級として目覚めたのだ。

 

【ササゲヨ…!スコッチエッグヲ…!スコッチエッグヲ…ササゲヨ……!!】

 

(ぐっ……早く目当ての物を食べて黙らせないと…………)

 

そう、加賀の中の深海棲艦は要求した料理を口にしない限り延々と要求を続ける。

それが出撃中でも入渠中でも食事中でも就寝中でも構わず要求を続ける。

 

かなり昔に加賀は深海棲艦の※要求を無視して生活を続けたのだが

絶え間なく続く要求、寝てても夢の中でまで続く要求の嵐に

心身ともに疲れ果ててしまい、精神病院入院一歩前まで追い詰められた過去がある。

(※その時の要求は火鍋だった)

 

要求の料理を食べれば少なくとも数週間は大人しくなるのだが

今回の料理はイギリスの郷土料理、スコッチエッグ。

和食がメインの鎮守府内の間宮食堂では扱っていないのだ。

 

(仕方ない…ここは……)

 

加賀は手早く服を着替えると、延々とスコッチエッグとの出会いを語り続ける赤城を無視して脱衣所から出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

間宮食堂のテーブルにて、加賀は目の前に置かれた料理をジッと見つめる。

ごはんに味噌汁ときゅうりの浅漬け、

そしてメンチカツとゆで卵である。

 

スコッチエッグとはゆで卵を牛・豚の合挽肉で包んでパン粉をまぶし揚げたイギリスの郷土料理。

簡潔に言えばメンチカツの中にゆで卵が入っているようなものである。

つまりメンチカツとゆで卵を同時に食べてしまえば疑似的にだがスコッチエッグを食べているかのような感覚を味わえると加賀は考えたのだ。

 

早速加賀はゆで卵を一口、口に含みそしてすぐさまメンチカツにかぶりついた。

ジュワッと口の中に溢れ出すメンチカツの肉汁、そして脂っこさを包み込む白身の淡白さ、その後に顔を出す黄身の濃厚な旨味。

本物のスコッチエッグが食べれないのは残念だが、これはこれで美味である。

これで深海棲艦も静まることだろう、と思った。

その時である。

 

 

【…ケ……ナ………】

 

 

 

 

 

【フザ…ケルナ……!!】

 

 

(なっ……!?)

 

深海棲艦、スコッチエッグヲ級の怒号が加賀の中に響き渡る。

 

【コンナモノデ ダマシトオセルト オモッタカ カガ!!ハヤク ワレニ ササゲヨ!スコッチエッグヲ……!!】

 

スコッチエッグヲ級は加賀のほんの僅かに残念に思った気持ちに反応し、怒り狂う。

こうなれば一切の誤魔化しは効かない。鎮守府ではもはや手に負えなくなった。

 

(仕方ないわ…最終手段よ………)

 

加賀は速やかに夕食を平らげ食堂から出ると、あるところに電話をかける。

 

「もしもし、加賀です。実は――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

翌日の土曜日、東京都渋谷区原宿。

ブティックが立ち並び、行き交う人々のほとんどが若者であるこの街に加賀は来ていた。

 

【ササゲヨ…!スコッチエッグヲ ササゲヨ……!!】

 

(フッ、言わずともあなたの望みは叶えてあげるわ)

 

早速加賀は『()()()』に向かうために歩を進める。

が………!!

 

【ササゲナサイ……ワタシニ……ローストビーフヲ……!】

 

【キャハッ!ワタシニハ フィッシュ&チップスヲ ササゲテネ!】

 

(な……!?)

 

加賀の中にスコッチエッグヲ級とは違う新たな深海棲艦の声が2つ増えていた。

1体は軽巡ト級のような猛獣型の艤装がローストビーフで出来ている戦艦棲姫ならぬローストビーフ棲姫。

もう1体は下半身と一体になった艤装がフィッシュ&チップスと化した軽巡棲鬼ならぬフィッシュ&チップス棲鬼。

 

そう、昨晩メンチカツとゆで卵で珍しい料理食べたい欲を誤魔化したことが返って仇になった。

加賀が一晩眠っている間に加賀の中の珍しい料理食べたい欲はグングンと増大し、気づけば

 

スコッチエッグヲ級

ローストビーフ棲姫

フィッシュ&チップス棲鬼

 

という強大な深海棲艦が3体に増えてしまったのだ。

ただでさえグルメにうるさい深海棲艦なのに、それが3体にもなっては絶体絶命だ。

しかしそんな絶望的な局面でありながら加賀は涼しい顔を崩さない。

 

「これは予想外……だけど、問題ないわ」

 

構わず加賀は目的地に向けて歩き出す。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

加賀が着いた先はセンター街から少し外れた路地裏。その中にポツンと立っているとある店の扉を開ける。

 

「こんばんはマスター、予約した加賀です」

 

「フフ…待っていたよ………」

 

店内に入った加賀を迎えたのは穏やかな笑みを浮かべた初老の男性。

クラシック調の店内にはテーブル席が2つしか無く客は今来た加賀しかいない。

 

「さぁ、こちらの席へどうぞ」

 

マスターは加賀を席まで案内するとそのまま厨房に入っていった。

加賀は案内された席に座り、一息つく。

 

【フフ…ナァニ コノ セマッチイ ミセハ…?ワタシタチ ヲ マンゾクサセラレル モノヲ ダセルノカシラネェ……】

 

【キャハハ!オキャクサン ガ ダレモ イナーイ!】

 

言いたい放題のローストビーフ棲姫とフィッシュ&チップス棲鬼。

だが加賀は耳を貸さずに予め用意されたお冷を飲み喉を潤す。

 

そして待つこと15分、加賀の元にマスターが料理の乗った皿を運んできた。

 

「お待たせしました……1品目のスコッチエッグです」

 

テーブルに置かれたのはスコッチエッグ。

揚げたての衣にたっぷりかかったデミグラスソースの芳醇な香りが深海棲艦達の食欲を刺激する。

 

【ワー!イイ ニオーイ!】

 

【マテ…イマ 『()()()()()』ト イワナカッタカ……マサカ………】

 

(フフ、そうよ……私がこれから食べるのはスコッチエッグを含むイギリス料理のコースよ)

 

心の中で加賀がニヤリと笑う。

実は加賀が来ているこの店はミシュラン三ツ星レストランの元料理長のマスターが営むレストランである。

この店には従業員はマスターしかいないためテーブル数も2つと非常に少ない。

そしてメニュー表もなく客は事前に食べたい料理を電話予約で伝える必要がある。

だが、最高の料理を最高の準備を以ってお客様にお出ししたいというマスターの理念で出される料理は感動の涙が出る程の絶品。政治家もお忍びで来る隠れた名店である。

 

早速加賀はナイフとフォークでスコッチエッグを切り分け、口へと運ぶ。

その時である。

 

【グオッ………!?】

 

突如よろめき片膝をつくスコッチエッグヲ級。仲間の異変に何があったと駆け寄るローストビーフ棲姫とフィッシュ&チップス棲鬼。

 

【ドウシタノ!?スコッチ チャン!!】

 

【ウ…ウゥ……………………】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ウマイ……………………!!】

 

顔を上げるスコッチエッグヲ級。その顔はどこか晴れやかながらもとめどなく涙が溢れていた。

 

イギリス料理は香辛料をあまり使わない薄い味付けの物が多いため、他国の料理と比べてイギリス料理はまずいと言われている。

だがマスターの手にかかれば他国に負けない、いやそれ以上に美味なる逸品へと姿を変えたのだ。

このスコッチエッグは肉の旨味を引き出すために鶏卵の代わりに小ぶりなウズラの卵を使用、更に黄身は半熟のため噛んだ瞬間に暴力的な肉汁の洪水とともにトロリと溢れ出す半熟の黄身、そしてそれらを包み込む母なる海ならぬ母なるデミグラスソース。メンチカツとゆで卵の組み合わせとはわけが違う!美味くないわけが無いのだ!!

 

(材料のこだわりや手間暇が尋常じゃないからその分、値段はかなりするけどそれでもそれだけのお金を払う価値があるのよ)

 

そしてここからイギリス料理フルコースは始まる。

 

2品目はサクフワ白身魚のフライとホクホクポテトのフィッシュ&チップス。

 

【タンパクナ サカナ ガ タルタルソース ト スッゴイ アウ~~!!】

 

3品目は山のように盛られたローストビーフ丼。

 

【ニク ノ ウマミ モ サナガラ カケラレタ ヨーグルトソース ト コレイジョウ ニ ナイグライ ノ ベストマッチ ダワ……!!】

 

そしてその後にはサンデーロースト、シェパーズパイ、ハギス、サンドウィッチと極上の品々が続き深海棲艦達の舌を唸らせ、デザートのカスタードプディングを食べる頃には深海棲艦達はすっかり満足しきっていた。

 

【クク…イイダロウ…カガ ヨ……ワレラ ハ マンゾクシタゾ…!】

 

【アトハ ワショク デモ チュウカ デモ スキナモノ ヲ タベテモイイワ】

 

【フィッシュ チャン オナカ イッパーイ!】

 

(フフフ…じゃあ、お言葉に甘えるわ)

 

加賀がカスタードプディングを食べ終えたその時、マスターが加賀の元に来る。

 

「お待たせしました………フルコース『()()()』です」

 

そう言い終わるや否や、加賀の目の前に山盛りのスコッチエッグが乗った皿が置かれた。

 

【ナ…ナニィ~~~!?】

 

深海棲艦達はまさかの展開に目を見開き驚愕する。

 

【アナタ、イッタイ ナニヲ……!!】

 

(だって、好きなものを食べていいって言ったから食べるのよ………『()()()()()()()()()()』をね)

 

そう言って加賀はスコッチエッグをほおばり始める。その姿に深海棲艦達はゾクリと寒気を覚える。

 

【モウイイ…!ジュウブン ワレラ ハ………】

 

(ダメよ……欲望の発散というのは小出しはダメ…!いけるところまでいかないと、あなた達……また暴れ出すでしょ…?1、2週間ほどで……)

 

【グッ……】

 

【デ、デモッ!アナタ ニモ ゲンカイ ガ………ハッ…!】

 

その時、ローストビーフ棲姫はある恐ろしい事実に気付いてしまった。

 

【アナタ……イツノマニ アカワイン ヲ………】

 

お冷のグラスの横に置かれた深紅に輝く赤ワインが並々と注がれたグラス。

これまで来たフルコースのほとんどは肉料理。

そして赤ワインは肉と相性が非常に良いため必然的に完成する…。

肉と酒の無間ループが…!

 

【ワ、ワカッタ!カガ…!】

 

【モウ ヤメテ……!!コレ イジョウ ハ モウ……!!】

 

【ユルシテ……ゴメンナサイ………】

 

身を寄せ縮こまり子犬のように震える深海棲艦達。散々加賀を苦しめてきた面影はもはや消え去っていた。

その姿に加賀は手を止める。

 

が……!!

 

 

 

(やるなら徹底的に…一航戦の常識よ)

 

 

 

グラスを持ち、赤ワインを一気に飲み干す加賀。その顔は冷酷な悪魔そのもの。

加賀の無慈悲な蹂躙は止まらない。

 

山盛りのフィッシュ&チップス…!

山盛りのローストビーフ丼…!

山盛りのサンデーロースト…!

マンホールサイズのシェパーズパイ…!

セカンドバッグよりも巨大なハギス…!

タワーマンションのように積み上げられたサンドウィッチ…!

そしてバケツサイズのカスタードプディング…!

 

1巡目とは比べ物にならないサイズの暴力にも加賀の手は止まらない、止まらない!止まらない…!!

 

【グッ…ガァ……!!】

 

【ソンナ…コンナ コト デ………】

 

【イヤダヨォ…!モウ ヤメテヨォ……!!】

 

苦しむ深海棲艦達の身体に亀裂が入る。

そして………

 

 

【【【グワアアアアアアアアア…………!!!!】】】

 

 

深海棲艦達は無残にも爆発四散。

 

「フフ…ごちそうさまマスター、美味しかったわ」

 

加賀の財布に大きなダメージを与えながらも深海棲艦との戦いに勝利したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

満足げに店を出た加賀。あとは電車に乗って鎮守府に帰るだけ。

駅に向かって加賀は歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

【オイテケ………】

 

 

突如聞こえた声に加賀の足は止まる。

 

 

【シュークリーム オイテケ………】

 

【マメ ダイフク ヨコセ………】

 

【チョコ ファウンテン オイテケ………】

 

【フルーツタルト ヨコセ………】

 

【サヴァラン オイテケ………】

 

【フォンダンショコラ ヨコセ………】

 

【キンツバ オイテケ………】

 

【カガ…ツギ ハ……ワタシタチ ガ アイテ ダ……!!】

 

加賀の心の中に現れたのはシュークリームや豆大福などの様々なスイーツを頭にかぶった北方棲姫ならぬスイーツ棲姫の軍団だった。

しかし加賀は不敵に笑う。

 

(フッ、仕方ないわね……行きましょう……ケーキビュッフェに…!)

 

だが加賀は気付いていない。

時刻は現在午後9時。

大抵のケーキビュッフェは既に閉まっている時間だということを。

30分後、さまよい歩いた加賀はローソンに入り片っ端からコンビニスイーツを買い漁った。

その店で働いていた加賀の後輩の練習巡洋艦の鹿島は先輩の凶行に泣かされたのだった。




スコッチエッグが食べたくなったから書きました。
イギリス料理回なのにアークロイヤルとウォースパイトが出てこない。

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