今回のお話は原作12話をベースにしています。
某日の昼過ぎ、大槻はとある山に足を運んでいた。
大槻は深呼吸をし、体をググっと伸ばす。
「んん……ふぅ…しかしいいのか?折角の休日にワシについてくるなんて」
「比叡」
大槻の後ろには金剛型2番艦、比叡が大きなリュックサックを背負っていた。
「いえいえ!先日スーパーで提督がカレーの材料を買っていたのを見かけたので、もしやと思いまして!」
「フフ…まぁ、自分から進んで荷物持ちをやってくれとるからワシは文句は無い。それに…食ってみたいと思わんか…?空気のうまい山の中で食べるカレーを…!」
そう、大槻の目的は大自然の中でキャンプをしながら手製のカレーを食べること。前日の仕事終わりに比叡がキャンプについていきたいと言ってきたのは予想外だったが、翌日のキャンプに高揚していた大槻はアッサリと承諾。そして今に至るのである。
(確かコイツのカレーはマズイことで知られとったな……まぁ、今回ワシ特製カレーを食えば少しは勉強になるだろう……)
「あっ提督!聞こえますか!あそこでカワセミが鳴いてますよ!」
比叡が指差す鳥はメジロであるが、大槻は比叡にテントの設営を命じるとその間にカレーの準備に取り掛かった。
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2時間後、テントが完成した頃には大槻は本場インドのバターチキンカレーと日本風カレーの2種類を完成させていた。
(ククク、完成…と言いたいところだがまだ調整が必要…!まずはバターチキンカレーにガラムマサラを少々………)
大槻はひとつまみのガラムマサラの粉末をバターチキンカレーに入れ、味見。
(ムッ…!近づいてきたぞ、本場インドの味が…!)
大槻の脳裏には夜の砂漠、そして遠くにいる本場インドの味の象徴であるインド人が大槻に数歩近く。
(よし…もう少しターメリックを加えて、それをサフランライスにかければ………)
スプーンでルーとライスをひとすくいし、それを口に運ぶ大槻。
その瞬間、脳裏のインド人は大槻の目の前まで急接近し、大槻と握手を結ぶ。
(キタキタ…!そしてすかさずハチミツと生姜とシナモンがたっぷり入ったアイスチャイを流し込む……!!)
バターチキンカレーとアイスチャイの出会い、それは運命であり必然。脳裏のインド人に歓迎されるには当然のベストマッチであり、ここに日印同盟が結ばれた瞬間だった。
(くぅ〜〜!!決まった……!!これぞワシ流本場インドのバターチキンカレーの完成だ……!!)
調整を終えて見事にカレーを完成させた大槻。
皿にルーとサフランライスを盛り付けたところで比叡を呼び、食事を始めた。
「へぇ〜!これがインドのカレーですか〜!日本のとは色が違うんですね!」
「ククク…食ってみれば色以外の違いも分かるさ。さぁ、遠慮しないで食べてみなさい」
「はい!それではいただきまっす!!」
元気良く返事した比叡は大槻特製バターチキンカレーをスプーンでひとすくいし、口の中に放り込む。
(ククク……こう言うのもなんだが、今回のはワシ渾身の出来!下手すれば店に並んでもおかしくない程だ…!さぁ…本場の味の美味さに驚きおののくがいい……!!)
大槻は比叡のリアクションを想像しながら心の中でニヤニヤと笑う。
だが……!!
「……へぇ…インドの味って、こんな感じなんですねぇ……」
大槻の想像の斜め下に降下した比叡の薄い反応。
心なしかテンションまで下がっているようにも見える。
「なっ…!?ひ、比叡…口に合わんかったのか…?」
「いや……そういうのじゃないんですけど………ふーん……」
真顔で吟味するようにカレーを食べる比叡に大槻は驚愕を通り越して恐怖すら覚えていた。
そして2品目の日本風カレーを食べても
「ふーん……なるほどねぇ………」
と、またもや薄いリアクションの比叡。
大槻渾身のカレーが比叡を満足させられなかったという敗北感に大槻は焦燥する。
(バカな……ワシの調合は完璧だったはずなのに、なぜコイツは眉ひとつ動かさない…!しかも不味いカレーを作る奴だから何かムカつく……)
大槻、心の中で負け惜しみ。しかも不味いカレーを作る相手から微妙なリアクションを返されて謎のイラつきもプラス…!
(チッ……もしやコイツもグルメ舌なのか…?そう考えればまぁ、納得できる。インドはまだしも日本のは市販のルーを使っただけ。インドのはもしかしてまだ向上の余地があったからこそのリアクションだったのかもしれん。料理は不味いくせにな)
大槻は考える、比叡のリアクションの理由。
それは比叡の舌が肥えていることである。
いくら大槻のカレーが美味くとも美食家からすれば素人料理のまだまだ至らぬもの。もし比叡がそんなグルメ舌を持っているならば、薄いリアクションをとっても別段おかしくない。
(だがインドカレーはともかく日本のカレーは一晩寝かせてからが本番…!貴様に吠え面をかかせてやるぞ……翌朝の大槻スペシャルカレーで……!!)
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翌朝、小鳥のさえずりで大槻は起床。
(ふむ…今は朝の7時30分か…?いい具合にカレーも寝かせられとるだろうし、取り掛かるか……大槻スペシャルカレーの調整に……!!)
ニヤリと笑いながら大槻はテントの幕を開けた。
その時である……!!
「がっ……!?」
突如襲いかかる異臭…!
わずかに残っていた眠気は完全に吹き飛び、代わりに不快感が大槻に襲いかかる……!!
突然のことに混乱している大槻の横からひょっこりと比叡が現れた。
「あっ、おはようございます提督!いやぁ〜!私、キャンプなんてしたことなかったんですけどいいもんですねぇ〜!大自然の中で迎える朝はホント最高!比叡、キャンプにハマりましたです!!」
「えっ……お前、この匂い……えっ…?」
「匂い?……あぁ、アレのことですね!」
比叡が指差す先に目を向ける大槻。そこには大槻が昨晩作っておいたカレーが入った鍋。異臭はその鍋から漂っていた。
「お前…あのカレーに、何をした……」
「いやぁ〜、昨日食べた提督のカレーって、悪くはなかったんですけど何か物足りなかったんですよね〜。それで入れてみた訳ですよ、『
嬉しそうに喋る比叡とは裏腹に呆然とする大槻。
同時に大槻は確信した。
(なにがグルメ舌だ……!!コイツ……『
そう…実は比叡の味覚は常人とかけ離れている。
世間一般で美味しいとされる料理を食べても普通もしくは物足りないとしか感じず、自身が独自にアレンジしためちゃくちゃな味付けで初めて美味と感じる舌の持ち主なのだ。
(じゃないと作れるか…!あまりの不味さに艦娘達から拒絶されるカレーなんぞ……!!)
大槻、愕然とその場に膝をつくも比叡は構わず喋り倒す。
「なぜかみんな、私のカレーを食べないんですけど、金剛お姉様達は美味しい美味しいと言って食べてくれるんですよねぇ〜!しかも毎回おかわりまでしてくれるものですから、腕がなるってもんですよ!」
(バカ…!食わせてるの間違いだろうが……!!鎮守府屈指の姉妹思いの奴らに断れるわけなかろうが……!!)
大槻は比叡カレーの被害者となっている金剛姉妹に心の中で同情せざるを得なかった。
「あっ、いっけない!まだ料理の途中だった!提督はここで待っててくださいね!」
そして始まる比叡の地獄のクッキング…!
サルミアッキと酒盗で強烈な苦味と塩辛さ、そして刺激的なアンモニア臭を加えたカレーに、生のわらびを加えてパンチのあるエグ味を、ガムシロップでいつまでも残る甘ったるさを、輪切りのカボスでストレートな酸っぱさを、練りわさびで誤魔化しきれない辛さを加えたそれは見た目は普通のカレーと変わらないが、漂う匂いは例えようのない不快さ。手塩にかけたカレーが目の前で凌辱される様を大槻は呆然と見るしかなかった。
「さぁ!比叡スペシャルカレーの完成です!提督、めしあがれ!!」
「…………………………………」
「あれ、提督どうしたんですか?」
「………ちょっと体調が悪いみたいでな。食欲も無いし悪いが、それはお前だけで食っといてくれ」
「はぁ…それは残念ですが、体調が悪いなら仕方ありません。提督はテントの中で休んでてくださいね」
「……あぁ…そうするよ………」
フラフラとテントに戻る大槻。そして比叡がカレーを食べ終えるまでテントで休んだ大槻は体調不良を理由に比叡とともにテントを片付け、下山。鎮守府に帰った後は自身の部屋で一日中寝込んだのだった。
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翌日の月曜日。
執務室で大槻は執務作業を進めていた。
(全く……昨日は散々な1日だった…。二度と奴とキャンプなぞ行くものか……!!)
げんなりとした気持ちを残したまま仕事を進める大槻。その時、壁に掛けてある鳩時計が飛び出して時間を知らせる。
「あぁ、もう15時か。さて、コーヒーと菓子でも食って休憩とするか」
大槻はググッと体を伸ばすと、コーヒーを入れるために戸棚のコーヒー豆を取り出した。
その時である。
「ヘーイ!テイトクーー!!」
執務室の扉を勢いよく開けて入ってきたのは金剛、榛名、霧島の比叡を除いた金剛姉妹。
「おぉ、金剛達か。どうしたんだ?」
「突然お邪魔して申し訳ありません……実は提督にお礼を言いに来たんです」
「お礼?」
榛名の言葉に首をかしげる大槻。
「えぇ、先日提督は比叡姉様を連れてキャンプに出かけたそうですね?」
「あぁ、といっても突然アイツがついてきただけだが」
「比叡姉様は大変楽しんでおられたようで、また提督とキャンプに行きたいと仰っていました。比叡姉様を楽しませていただきありがとうございます」
「お、おぉ……そうか………」
ペコリと頭を下げる霧島に大槻は困惑する。
「それだけじゃないのネー!昨日比叡が持ち帰ったカレーをみんなで『
「……ん?」
大槻、ここで違和感を感じる。
「そういえば比叡姉様のカレー、いつもより美味しかったですよね!特にあの苦味とエグ味がたまらなかったです!」
「それに甘味と酸味と辛味が良い具合に混ざり合っててハーモニー?というのかしら。味がまとまってましたね」
「あんなに美味しいカレーを食べられなかった提督は可哀想デース!そこで私達のティーパーティーに招待してあげマース!」
大槻は気づく。いや、気づいてしまった。
金剛達は比叡カレーの被害者などではない。
比叡と同じ舌ズレ仲間ならぬ舌ズレ姉妹だったのだ…!
「今、比叡がティーパーティーの準備をしてるノーデ、これから私達の部屋に直行ネー!」
「い、いや…ワシは………」
「ふふ、提督。遠慮しなくてもいいですよ?比叡姉様がいつもより気合を入れてるみたいで榛名、楽しみです!」
「では提督、行きましょうか」
大槻は急用を思い出したと執務室を飛び出ようとするも金剛達に捉えられる。戦艦級3人の腕力に中年男性の力ではどうすることもできず、大槻は3人に抱えられ比叡が待つ地獄のお茶会部屋まで連れていかれた。
そして大槻はこの日から1週間、頭痛、腹痛、下痢、高熱といった症状に苦しめられ貴重な有給を病気療養に使う羽目になった。
比叡カレーは本人の味見の元で作られてるのかもしれません。
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