鎮守府外出録テイトク   作:ていん?が〜

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1ヶ月ぶりの本編です。
途中で入る料理描写は原作第8話をモチーフにしていますが、それ以外は全てオリジナルです。


第8話「提機」

「なに…?高雄の様子がおかしいだと?」

 

鎮守府の執務室。大槻が執務作業後に小休憩をはさんでいた時、突然執務室に入ってきた鹿島が開口一番にそう告げたのだ。

 

「は、はい…高雄さん今週に入ってから元気が無いというか、いつもの高雄さんらしくないんです…!」

 

「ふぅむ、言われてみれば仕事中に沈んだ顔をしているのをたびたび見かけるな」

 

秘書艦である高雄は提督である大槻と一緒に仕事をする機会が多い。本人は悟られないように平静を装っているが、ふとした時に暗い表情になっているところを大槻は何度も目撃している。大槻が気になって声を掛けても、何でもないと言わんばかりにはぐらかそうとするためそれ以上は聞けずにいた。

 

「提督、もしかしたら高雄さんは先週終了した大規模作戦のことで悩んでるのかもしれませんよ」

 

横から口を出したのは大槻とともに書類作業をしている大淀だ。

 

「あぁ、ワシが体調を崩して1週間高雄に代わってもらったんだった。報告ではその間、あまり戦果を稼げなかったらしいな」

 

「えぇ、高雄さんはそれに焦ったのか無茶とまではいかないものの進撃を繰り返し、結果艦隊は連日疲弊していました。そうしてしまったことにも負い目を感じてるかもしれません」

 

「なるほどなぁ……」

 

大槻は手を組み考え出す。大槻がこの鎮守府に赴任はや半年、その間に何度か高雄に提督代理を頼んでいるがそれはあくまで通常業務での話である。今回のような大規模作戦はさすがに荷が重いと考え作戦が終わるまでは自身が指揮を続ける予定だったが、作戦終盤で突如体調を崩してしまい(原因については第4話「舌外」を参照)、高雄に提督代理を任せざるを得なくなってしまった。また、大槻はこの鎮守府の戦果上昇を目的に異動させられたため、よりにもよって大規模作戦で戦果が伴わなかったことで大本営の上層部から減俸という形で処罰を食らったのだ。

 

(元々ワシを気に食わんかった一部の連中がここぞとばかりに処罰を与えたことは別に気にしちゃおらんが、問題は高雄だ。この一連の流れであいつは相当落ち込んでいることだろう…。とりあえずはあいつと話をする場を設けるか……)

 

大槻はグイッとカップに残っていたコーヒーを飲み干すと微笑を浮かべる。その横では鹿島が話の流れがわからずに?を頭に浮かべており、大淀は小休憩としてYouTubeでハリウッドザコシショウの誇張しすぎたシリーズを見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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東京都目黒区中目黒。

 

この街のとある個室居酒屋に大槻と高雄はいた。

仕事では一緒にいるものの、大槻から飲みに誘われるのは初めてであるため高雄は少し緊張していた。

 

「高雄、この前の大規模作戦はご苦労だったな。終盤でいきなりお前に代理を押し付けてしまったが、それにも関わらず作戦をやり遂げたことは本当に感謝している、ありがとうな」

 

「い、いえっ!そんなこと……提督がお身体を壊してしまったのはどうしようもないことでしたし………だけど…私……提督が順調に進めていたこの作戦で艦娘の娘達を無駄に疲れさせただけじゃなく……失敗に終わらせてしまいました……本当に申し訳ありません………」

 

高雄は声を震わせながら頭を下げる。大槻からは見えないがその顔からはポロポロと涙が流れていた。だが大槻は戸惑うことなくあっけらかんと返す。

 

「クク…なんだ、そんなことか。もう終わったことだ…今日は楽しく飲もうじゃないか」

 

「で、でもっ…!今回の作戦が失敗したせいで……私のせいで……提督は大本営から処罰を受けたって……!!」

 

「たかが向こう1年の減俸さ。別に軍を辞めさせられるとかよりもはるかに軽い。こう見えてワシには結構蓄えがあるからこれくらいどうってことはない。そんなことよりもだ……」

 

大槻は高雄の顔をジッと見据え、高雄はビクッと体を強張らせる。

 

「高雄……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この鮭とばをライターで炙ってかじりなさい」

 

「へっ?」

 

神妙な面持ちの大槻から出た言葉は意外なものだった。てっきり真剣な話が始まると思っていた高雄は肩透かしを食らったものの、とりあえずは大槻の言う通り目の前に置かれた鮭とばをライターで軽く炙ってからかぶりつく。

 

「そうそう、そしてこの焼酎の水割りですかさず流し込んで…!」

 

「ひゃ、ひゃい……」

 

大槻から受け取った焼酎を一気に飲み干す。

その瞬間、炙ったことにより香ばしさを増したさけとばの塩気が焼酎により洗い流され、その後味は………

 

「んぅ〜〜〜〜〜!!!こ、これ!めちゃくちゃ合います!!」

 

まさに最高…!

高雄は今まで味わったことのない味わいに興奮が冷めやらない。

 

「ふふ…そうだろう。だが料理はまだまだ運ばれてくるぞ」

 

そして始まる大槻流大人の飲み方…!

ふんわりと出汁香るだし巻き卵に、カラッと揚がった大ぶりのカキフライ、綺麗に盛られた身が輝くブリの刺身に、海鮮の旨さ香る海鮮鍋…!そうそうたる一品もののメンバーがテーブルに運ばれてくる…!

 

「さぁさぁどんどん食べなさい、どれも美味しいから…!」

 

「そ、それじゃあ、ブリの刺身から………」

 

高雄はブリの刺身を箸でひとつまみし、ササッと小皿の醤油につけてから口に運ぶ。

 

「わっ…このブリ、プリプリです……!!」

 

「フフ……この時期のブリは脂がのってて醤油を弾いてしまうから入れてある……隠し包丁を…!」

 

「な、なるほどぉ……」

 

「ククク……そういう細かい一手間が……案外クズにはできぬものだ……!」

 

ちょうどよく醤油の染み込んだ脂ののったブリに舌鼓をうちながら高雄はパクパクと食べ進めるが、突如大槻から制止がかかる。

 

「ストップ…!刺身の最後の一切れはこの…鍋にくぐらせて、ほら……即席ブリしゃぶ……!」

 

大槻が目の前でやって見せたように高雄もブリをササッと鍋にくぐらせてからパクリと食べる。

 

「わっ…!?美味しいです……!!」

 

「フフフ……ほれ、グラスが空いてるぞ…」

 

ホッとする料理に、優しく頼りになる上司の大槻…。

大規模作戦での失態の矢先に大槻に呼びつけられたので、怒られるものだと思い、身構え緊張していたが

待っていたのは、望外な楽しい時間……!!

緊張からの緩和…!

気づけば酒は進み…!数十分もすれば真面目な高雄は酔いどれ…!

普段は大人しい彼女とは打って変わって、テンションは上がり…気も大きくなっていた……!!

 

(ふむ…そろそろ頃合いかな……)

 

高らかに笑いながら焼酎を煽る高雄を見て、大槻は

 

「茶碗蒸し……」

 

と、ボソッと呟いた。

向かいで茶碗蒸しを食べていた高雄は

 

「あれぇ…提督ぅ、茶碗蒸し食べたいんですかぁ…?」

 

と、食べていた茶碗蒸しを差し出そうとするが大槻はフフ、と笑い

 

「……この店はワシの行きつけの居酒屋の女将の親戚がやっとる店でな。全ての料理が絶品なのだが、特にこの茶碗蒸しは味の要である出汁を取る際は味に濁りが出ないように一切の不純物を取り除いている。それこそ膨大な手間と時間がかかるが、それによって真の旨さが実現できている。逆を言えば少しでも不純物が混ざれば味は一気に落ちるということだ」

 

「???……提督、何を言って………」

 

「そうさな……では、言葉を変えようか…。高雄……お前は今…2つの間で揺れ動いているだろう…?」

 

「ッ…!?」

 

その言葉を聞いた瞬間、高雄は酔いが覚めたのか驚愕した顔で大槻を見つめる。

 

「……お前に提督代理を頼む毎に大淀から報告を受けているが、その時のお前はどこか充実した顔で提督業務に励んでいるそうじゃないか。それにお前は優秀だからワシの代理を任せても失敗はしていない……が、先日の大規模作戦では通常とは勝手の違う業務に慌て戸惑ってしまい、結果失敗とともに大きく落ち込んでしまった…。違うか…?」

 

「………………………………」

 

大槻の言葉に高雄はうなだれたまま押し黙ってしまう。

 

「もしもだ……もしもお前さんが今回の失敗で嫌になったのなら、今後の提督代理は他の艦娘にするがーーー」

 

「嫌ですっ……!!!!!」

 

バン!とテーブルを叩き高雄が大槻の言葉を制止する。

 

「お願いします…!今後も……今後も提督代理を…やらせてください……!!」

 

高雄はボロボロと涙を流しながら訴える。

 

「ほう…なぜだ?なぜそこまで提督代理をやりたがる…?」

 

「最初は……提督に代理を頼まれた時は、なんで私が……と思っていました。ですが、続けていくうちに次第にやりがいというか…充実感が芽生えてきました。叶わないことですが、提督として海域を奪還してみんなを守りたいんです……!!」

 

「………………………………」

 

まくし立てる高雄に対して、大槻は黙って聞いていたがやがて口を開く。

 

「……それじゃあ、もしも…この場で艦娘か提督のどちらかを選べと言われたらどうする…?」

 

「そ…それは………」

 

「どちらかを選べば、もう片方は捨て去らなければならない…。どっちもというのは無しだ…!さっきの茶碗蒸しと同じ…!二足の草履はよっぽどでない限りは、どちらの質も落としてしまい、必ず後悔してしまう…!どちらか1つだ…!片方を選び…もう片方を捨てなければならないならお前はどうする、高雄……!!」

 

いつになく強い口調で迫る大槻に高雄はたじろぎ、しばらく言葉を出せなかった。その様子を見て大槻は冗談だと声をかけようとした、その時…!

 

「………提督です…!」

 

「……あ?」

 

「私は…提督業務を……選びます……!!」

 

そこまで声量は高くなかったが、決意のこもった力強い言葉だった。

高雄の目は茶碗蒸しのように一切の濁りも迷いもなく芯が通っていた。

 

「……それは…艦娘を捨てる…ということだな…?いいのか…本当にそれで…?」

 

「……はい…!元々艦娘業務はスカウトされて入ったとはいえ、思い入れはあります…。だけど……代理で入った提督業務は私が本当にやりたいと思えた仕事です!!私は提督業務を選びます……!!」

 

「そうか……」

 

大槻は高雄の決意を聞き、日本酒を煽りながら険しい顔で考え込む。

高雄はその様子に不安を駆り立てられるが、すぐに笑顔に戻った大槻に

 

「意地悪なことを聞いて悪かったな。さぁ、飲み直そうか…!」

 

と、焼酎を注がれ、なし崩し的に飲み直すことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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数日後、鎮守府の執務室で高雄は頭を抱えていた。

 

(あ〜〜〜!!やっちゃったよぉ〜〜!!酔っていたとはいえ、提督に艦娘より提督がしたいですなんて……自主退職を表意してるようなものじゃないのよ……!!提督は昨日から大本営に行ってて、その間は私が代理をやってるけど、絶対に私の処分のことだよぉ〜〜!!提督が帰ってきたらその瞬間にクビって宣言されるんだろうなぁ……。はぁ………)

 

溜め息を吐きながら書類作業を進める高雄。気が気じゃないのだろう、手は震え書類の作成スピードもゆっくりとしたものだった。

その様子に隣で執務補助を行う大淀は眉をひそめている。

 

「……高雄さん、どこか具合が悪いの?今の状態で仕事をされてもあまり進まないと思うのだけど」

 

「えっ…!?あっ!ごめんなさい…!ちゃんとやります……!!」

 

大淀に軽く叱られ、これはいけないと書類作業に再び取り掛かる。自分の処分がどうあれ、まずは目の前の仕事をこなそうと集中し、ペンを走らせる。その時だった…!

 

「いやぁ〜、急に鎮守府を空けて悪かったな高雄」

 

執務室の扉を開けて入ってきたのは大槻だ。

大槻の姿を見て、高雄はビクリと肩を震わせるが平静を装い

 

「おかえりなさい、提督」

 

と笑顔で声をかける。

 

「おぉ、ただいま。高雄、お前に渡したいものがあるんだ」

 

そう言って大槻が懐から取り出したのは1通の封筒だった。

高雄は、やはり自分の処分についての書類か、と絶望のあまり立ちくらみを覚える。

だがどうせ決まったことだ、潔く受け入れようと大槻から渡された封筒から1枚の書類を取り出して書面を読む。

 

「……へ?」

 

だがそこには高雄の予想を裏切るように次のことが書かれていた。

 

 

『重巡洋艦高雄型1番艦高雄及び芦名楓殿。

大槻少将の推薦並びに大本営での会議の結果、

貴殿は海軍提督昇進試験の資格を有するものとする。

3ヶ月後の試験に見事合格した暁には

貴殿を艦娘から提督への昇進を認めるものとする。』




次回、後半に続きます。

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