けものフレンズR ~Rebirth~   作:悠希とふ

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アニメーション作品、けものフレンズ2の二次創作である『けものフレンズR』を元にした三次創作です。


1話 りばーす  【Bパート】

少女を送り出した後、イエイヌは逡巡していた。

本当にあの子一人で行かせてよかったのだろうか。

自分が付いていくべきだったのでは。そうした思いが頭を巡る。

 

慣れ親しんだイエから遠く離れた生活には不安が募る。

目の前に現れかけた大きな変化に尻込みをする自分が居た。

 

それでも、後悔のような念はなかなか消えはしなかった。

(この世界には危険だってないわけじゃない。

 セルリアンだって、居るのだし・・・)

「あっ!?」

とある記憶がイエイヌの脳裏をよぎる。

 

近頃、ここからそう遠くない森にセルリアンが出没している。

以前、旅のフレンズをもてなした際にそういう話を聞いたのだった。

自分には関係のない話。

どこかそういう思いが記憶を隅に追いやっていた。

 

 

 

「うわ~~~~~!!!」

森の中を走る少女。

後ろからは少女の背丈を少し超える、セルリアンと呼ばれる黒い物体が続く。

 

「なんなの~~!!!」

逃げても逃げても追いかけてくるセルリアン。

少女はわけも分からず逃げ惑うしかできない。

 

黒い物体から伸びている触手のような器官は、自身の進行に邪魔な木々を次々に叩き折っていく。

どう考えても友好的な雰囲気ではなさそうだった。

そして相手の力はとてつもなく、とてもじゃないが太刀打ちできそうにない。

 

「はぁはぁ・・あ痛っ!!」

逃げる最中、木の根に足を取られ倒れる少女。

セルリアンとの距離が徐々に縮まっていく。

 

「うぅぅ・・・」

うずくまる少女の頭上に触手の影が差す。そして。

 

触手は少女めがけて降り下ろされる。

「っっっっっ!!」

 

・・・

 

咄嗟に目を瞑り体を強張らせていた少女は、違和感に気付きうっすらと目を開ける。

 

「・・・あれ?」

 

目の前には、セルリアンの触手を受け止める、

先程別れたはずのフレンズの姿があった。

 

「よかった。間に合って・・」

 

「イエイヌ!?」

 

黒い触手は暴れ、イエイヌの手から強引に抜け出し引き戻されていく。

 

新たに現れた標的をセルリアンも認識したようだった。

二本の触手はイエイヌに向かってゆらめいている。

 

 

イエイヌにはフレンズはおろか、セルリアンとさえまともに争った経験がない。

自分の身長程のセルリアンなど、普段であれば当然立ち向かう対象ではないはずだった。

 

しかし、何故だろう。湧いてくるはずの恐怖はどこかへ消えてしまっていた。

この子を護りたい。その一心がイエイヌの全てを満たしていた。

(この子を連れて逃げ切れる保証はない・・)

ぎこちないながらも、覚悟を決めて構えを取る。

 

(この子を・・・護る!!)

イエイヌの瞳がかすかに発光する。

 

ゆらめく触手はその動きを止め、そしてイエイヌに向けて放たれた。

「バチィィッ!!」

 

凄まじい音が辺りにこだまする。

触手をかろうじて弾き返したイエイヌだったが、両腕は大きく痺れたままだ。

尚もセルリアンの攻撃は止まらない。

 

「バチィッ!」

 

触手をなんとか弾きはしたがイエイヌ自身も大きく身を揺るがせる。

そしてもう一本の触手がイエイヌを襲う。

 

「くっっ!!」

 

すんでの所で後ろに飛びのき難を逃れる。

触手は地面に突き刺さっていた。

 

「イエイヌもういいよ。私を置いて逃げて!」

 

少女の声が耳に入った。だが、それは聞けない相談だ。

 

(セルリアンの倒し方なら話に聞いて知っている・・。

体のどこかに存在するコアを破壊する。それだけだ)

 

接近しなくてはならない。

しかし、それを二本の触手が阻む。

 

近付いては離される。

そうした攻防が幾度か繰り返され、徐々にイエイヌの体力を奪っていく。

 

「ふぅっ、ふぅっ」

 

だが繰り返し続くやり取りの中、気付いた事もあるにはあった。

攻撃の威力は凄まじいが、その動作自体は単調で、

一定のリズムがある事に。

徐々にイエイヌが攻撃を躱す回数が増えていく。

 

肩で息をしながらも、

触手の動きに集中し、脚に力を蓄える。

 

(1,2の・・3!)

 

触手が放たれると同時に、身をかがめ前に駆け出した。

頭上スレスレを触手が通過する。掠めた髪の何本かが宙を舞う。

 

残った体力を振り絞り全速力で疾走する。

 

「ウゥゥゥゥ・・・でやぁっ!」

イエイヌの右手がセルリアンの「目」を掴む。

 

(ここで決めてみせる)

 

さらに左手を使って上下から押し潰す。

両手に自分のありったけを込める。

 

「ぐぅぅぅぅぅ!!」

 

ピシッ

 

目から亀裂の入った音がする。しかし破壊には到らない。

大慌てで踵を返した触手はイエイヌに向かって迫り来る。

 

(もうこんな機会は訪れないかもしれない。決めるんだ)

「うぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

「イエイヌ!しゃがんで!!」

声が耳に入ると同時に、さっきまでの力は嘘のように抜け、

イエイヌの体は自然に動いていた。

 

イエイヌを貫くはずだった触手は、標的の動きに反応できず、

セルリアン自身のコアを貫いていた。

 

「パッカァーーン」

大きな音を立て、セルリアンの体は粉々に砕け散る。

 

(終わった・・・)

(あの子の助けがなければ危ない所だった)

瞳の発光は消え、元のように戻っていく。

 

イエイヌは疲れ切りながらも、安堵の表情を浮かべ、少女の方へ振り返る。

その時、束の間の平穏は絶望に変わる。

 

 

少女の後ろから、もう2体の同型セルリアンがこちらに近づいて来るのが見える。

騒ぎを察知し集まって来たのだろう。

 

少女も、どうしていいか分からず呆然とそれを見つめている。

 

(やれ・・・るのか。いや、やるしかないんだ!)

折れかけた心を再び呼び起こす。

イエイヌが少女の方へ走り寄ろうとした瞬間、

 

二体のセルリアンの間を何かの影が奔り抜けた。

「パカパッカァーン!!」

 

突如爆散する2体のセルリアン。

 

それを成したであろう張本人は、振り返りもせず平然と立ち去っていく。

外套を頭まで被った出で立ちで、表情も何も窺い知る事は出来ない。

 

(ぽっかーん・・・) 

 

「助かった・・んだよね」

 

二人は呆然としたまま、小さくなっていく人影を見つめていた。

 

人影がついには見えなくなる程遠くへ行った頃、

脅威は去った。

やっとそういう認識が二人の間で起こり始めた。

 

「う・・うぇぇぇぇぇん!怖かったよ~~!!」

溜まっていた不安や恐怖が一気に噴出したのだろう。

少女はイエイヌに抱き着き安堵の涙を流す。

 

イエイヌはなだめるように少女を抱き寄せる

 

(なんとか護る事ができた・・。)

イエイヌは安堵すると同時に、今迄感じた事がない程の達成感を感じていた。

 

「イエイヌ!大丈夫だった。怪我してない!?」

 

「フフ・・大丈夫です。私達フレンズは頑丈にできてるんです」

空元気をみせつつ、少女のスケッチブックが落ちてる事に気付き、それを拾い上げる。

 

「はい、落とし物ですよ」

 

「あっ、ありがとう・・・・・って、あっ~~~~!!??」

スケッチブックを手渡された少女が今迄で一番大きな声を上げる。

 

「どっ、どうしました!?」

咄嗟の事に面食らうイエイヌ。

 

「ともえだ・・・」

 

「?・・とも・・え?」

 

「うん!ともえだ!わたしの名前!!」

少女は上気した顔で、スケッチブックの一点を指さして応えた。

 

落とした際にページが開いたスケッチブック。

顕わになったその背表紙には小さく「ともえ」と書かれていた。

 

恐怖のどん底から一転して、これ以上ない喜びが訪れる。

感情は爆発し、もう何が何やら分からない。

そして何故だか涙が溢れてくる。

 

「ともえだ!!ともえ!!」

 

イエイヌもつられ我が事のように喜ぶ。つられて涙もこぼれ出す。

 

「ともえ!ともえ!!」

名前を連呼しながら、泣き、喜ぶ奇妙な二人組。

その姿はそれから暫らくの間続いた。

気付けば辺りは夕暮れ時、そろそろ暗くなり始める頃合いだった。

 

 

夜が更け、二人は森の出口で眠りについていた。

 

ここからなら何かあってもすぐに森を抜けられる。

日の落ちたなか、家まで向かうよりは、身を潜めていた方が賢明に思えた。そして何より家に帰る気力が湧いてこない程疲れていた。

 

傍らで眠るともえを優しく見守るイエイヌ。

胸中にはとある思いが固まっていた。

 

 

 

夜が明け、目を覚ますともえ。イエイヌが声をかける。

「おはようございます」

 

「ふわ~~。おはよう。イエイヌ」

目を覚ましたともえは、この後イエイヌと再度の別れがある事を思い出す。寂しさからか不安からか表情に影が差す。

 

イエイヌは、立ち上がり、

 

「さあ!夜も明けたし、出発しますよ!

 ともえ!・・・・・さん」

 

先陣を切って森の出口へ歩み出す。

 

少女は一瞬呆然とし、そしてすぐさま満点の笑顔で駆け出した。

 

「ともえでいいよ!!」

 

目の前の背中に飛び付く。

 

天気は快晴。降り注ぐ陽の光の中、笑顔の二人は歩み出す。

記憶を失くした少女、ともえ、とイエイヌの旅が今ここに始まった。

 


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