昨日先輩たちに話した結果みんな俺たちよりも怒っていた。俺たちは事の顛末を簡潔に説明して先輩方に協力をお願いする。先輩方は快く引き受けてくれてコテンパンに叩き潰すとまで言ってくれた。
それと今回のことは内密にと頼み俺たちは休むことにした。
しかし俺と怜は眠ることはできなかった。不安と怒りが混ざり合いなんとも言えない気持ちが胸に残り、俺たちはその気持ちを払拭するために散歩へ出かけた。
宿舎の中を歩いて外へ向かおうとすると千歌ちゃんたちが目の前から歩いてきたので声をかける。
祐一「おーい千歌ちゃん。こんな時間にどうしたの?」
千歌「あっ祐一くん!折角沖縄来たんだし散歩でもしようかなって思って!」
祐一「そっか…。なら俺たちも一緒に行ってもいいかな?」
千歌「もちろん!二人もいいでしょ?」
千歌ちゃんが梨子ちゃんと曜ちゃんに聞くと二人も笑顔で頷いた。
そこから俺たちは一緒に宿舎を出て散歩へ向かった。
梨子「そう言えば二人はなんで散歩に?」
散歩をしていると梨子ちゃんから不意に質問され俺は一瞬戸惑った。
祐一「ええっと…。」
怜「俺たちは今日の反省と明後日の試合について話そうと思ってね!部屋でダラダラやるよりも外で歩きながらやろうとしてたんだよ!そしたら偶然3人と会ったって感じかな?」
怜は俺の代わりに説明してくれた。
祐一「そ、そうそう!」
俺も相槌を打ち怜の言葉に同調する。
梨子「そうなんだ!二人とも熱心ね!明後日も全力で応援するわ!!」
曜「明後日も勝って優勝しようね!まぁ二人と先輩たちがいるから私は絶対勝つと思ってるけどね!!」
千歌「うん!!でも無理しないで頑張ってね!」
三人は笑顔で俺たちの勝利を願っていた。それ故に俺たちの中には強い罪悪感が生まれた。勝手に決めてしまった賭け。負ければこの子達はアイツらに取られるどころか何をされるか分からない。
そんな遣る瀬無い感情が俺たちを支配する。
祐一「さぁ、もうかなり遅いしそろそろ宿舎に戻ろうか?」
俺はみんなにそう促す。
曜「そうだね。そろそろ帰ろっか!」
梨子「そうね。明日も早く起きなきゃいけないし。」
千歌「じゃ、帰ろっか!」
みんな納得してくれて俺たちは宿舎へ向かって歩き出した。
すると千歌ちゃんが俺の側へやってきて小さく呟いた。
千歌「祐一くん…何かあったの…?」
俺はその言葉にドキッとする。
祐一「い、いや何もないよ…。どうしてかな?」
俺は逆に質問を返す。質問に質問で返すのはどうかと思うが、俺の思考は完全に止まっていた。
千歌「なんかいつもと様子が違うし変な感じがしたんだよね?チカにも言えない事なのかな…?」
さらっと千歌ちゃんは言い、俺の雰囲気から察したようで俺は自分の性格を呪った。わかりやすい性格だとは言われ続けたから自覚してたつもりだったけど隠し事は本当に苦手だ。
祐一「そっか…。まぁ、今日は疲れちゃったしそれが原因かもしれない。何も悩んでないから大丈夫だよ?」
俺はなおも嘘を突き通した。心苦しいが今はそれしか俺にはできない。
千歌「…。そっか、それなら納得だよ!」
一瞬の間を開けて千歌ちゃんは笑顔で返してくれた。どうやら納得してくれたみたいだ。俺はホッと胸を撫で下ろし千歌ちゃんに伝える。
祐一「もし…もしだよ?俺が本当に悩んで苦しんでたら助けてね…?」
俺は力無く笑いながら千歌ちゃんに問う。
千歌「もちろん!!チカは祐一くんの味方だし、これから先も信じてるから絶対力になるからね!!」
千歌ちゃんは笑顔を見せて俺に力強く返事してくれた。
祐一「ありがとう…。頼むね。」
俺は千歌ちゃんの頭を優しく撫でる。気持ち良さそうに表情を綻ばせる千歌ちゃんを見て俺は心に誓った。
この笑顔は誰にも汚させない…。こんなにも純粋に好意を表してくれていて優しい笑顔は俺がきっと守ってみせる。
そして俺たちは千歌ちゃんたちを部屋まで送り届け、二人で外へ出て練習をして夜を明かした。
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翌々日の朝を迎え俺と怜は早めに起きて準備を整える。
祐一「とうとう来たか…。」
俺はポツリと呟く。その呟きは怜に聞こえていて反応してきた。
怜「ああ…。今日は絶対に負けられねぇ…。」
祐一「そうだな…。今回は無茶も厭わない。例え俺の肩がぶっ壊れてもいい。それくらいの覚悟で臨むつもりだ。」
怜「俺もだ。死んでも勝つぞ。」
祐一「あぁ。当たり前だ。」
俺と怜は軽く拳を合わせ誓い合う。大切な人たちを守るために。
怜「今日はお前も投げるのか?」
祐一「最悪の事態が起きなければ俺はバッターに専念したいけど、いざとなったら投げる。だからもしそんなことになったら怜が点を取ってくれ。」
怜「任せろ。俺はお前の女房役だ。何点でも取ってやる。」
祐一「頼むぜ、相棒。」
怜「任せろ、相棒。」
俺たちは準備を整え部屋を後にした。
ロビーに着くとすでに忍さんや他の先輩たちが来ていた。
忍「おはよう。よく眠れたか?」
祐一「はい。コンディションはバッチリです。」
忍「そうか。祐一、怜。今日はきっとお前たち頼りの試合になるかもしれない。相手もかなり強いからな。特に祐一。お前にはピッチャーをやってもらう事になると思う。俺も限界まで投げ抜く。だから俺がダメになったら頼む。」
忍さんからそう言われ俺と怜は更に気を引き締めた。
怜「俺も命がけで戦います。今回は絶対に負けるわけには行かないですから。」
祐一「俺もです。例え体が壊れたとしても戦い抜きます。」
すると先輩方も俺たちに同調してくれた。
「俺たちも忘れるなよ!」
「俺たちも命がけで戦う!」
「お前らだけには責任を持たせない。」
「絶対勝とうぜ!」
「俺たちの可愛い後輩たちを苦しめたんだ。」
「ただじゃ済まさないぜ。」
こんなに頼もしい先輩たちはいない。俺と怜は心の底から先輩たちに感謝した。
忍「みんな…。今日は多分このサークルで一番の正念場だ。絶対に勝つぞ!!」
全員「「「「「「「「おぉ!!」」」」」」」」
俺たちは決意を固め奮闘することを誓った。
忍「そろそろ女性陣も来るだろうから準備進めるか。車に荷物を積み込もう。」
俺たちは荷物を積み込み千歌ちゃんたちを待つ。しばらくして千歌ちゃんたちが来たため俺たちは車に乗り球場へ向かった。
車の中で俺は集中力を高めるため静かに過ごす。怜が運転をしてくれているので俺は助手席で静かに目を瞑る。
すると、千歌ちゃんが口を開いた。
千歌「ねぇ二人とも。何だか先輩たちもなんだけど…。ピリピリしてない?」
俺と怜は顔を見合わせる。怜が口を開き答える。
怜「優勝がかかった試合だからね。しょうがないよ。」
祐一「そうだね。」
俺と怜が淡白に答える。
梨子「ふ、二人も何だか様子がおかしいわよ…?」
曜「そうだね…。なんか、怖い…。」
祐一「怖い…か。俺らも怖いよ…。」
俺は静かに呟く。静かな車内ではその呟きも聞こえたのだろう千歌ちゃんが聞いてきた。
千歌「どうしたの?やっぱりおかしいよ!?絶対何か隠してるでしょ!?」
祐一「何も無いよ。」
俺は静かに答える。
千歌「で、でも!?」
祐一「何も無いって言ってるんだよ!!!」
俺は怒鳴り声が出てしまった。それと同時に。
怜「やめろ!!!」
怜が俺に向かって一喝してきた。
俺は怜の怒鳴り声で頭が冷え激しく後悔した。
祐一「悪い…。千歌ちゃんいきなり怒鳴って…ごめん。」
千歌「う、ううん…。チカもごめんね…。」
違う。千歌ちゃんは悪くない。悪いのは全部俺だ。心に余裕がなくて八つ当たりをした。
馬鹿野郎。
自分のことしか考えられない自己中心的な野郎。我ながらこんなにも余裕が無いことに驚きを隠せない。弱い人間だ。
怜「三人ともごめん…。俺らも緊張してるからそっとしておいてもらってもいい?」
怜は俺の代わりに三人に謝罪して頼み込む。
梨子「こっちこそごめん…。」
曜「ごめんね…。」
より一層空気が悪くなり俺は黙り込む。それからは一言も会話が無く、車での移動時間がとても長く感じた。
数十分経ち俺たちは球場へ着いた。永遠に感じられた空間から脱出したにも関わらず俺の気分は一向に変わらない。
荷物を降ろし各自アップをしていると怜に呼び出され俺たちは木陰へやってきた。
怜は木の下に腰掛け俺は気に寄りかかる形で立つ。
先に俺は口を開き怜に謝罪した。
祐一「さっきは…悪かった。ごめん…。」
怜「気にすんな。でも、千歌ちゃんたちには勝った後二人で改めて謝ろうぜ。なっ?」
祐一「そうだな…。自分でも余裕が無くてびっくりしてるよ。」
怜「俺もだ…。今もアイツらのことを思い出すだけで…。」
怜はそう言って自分の拳を強く握る。
すると、
運命とは残酷だ。今俺たちが最も憎んでいる奴らがこっちに向かって歩み寄ってきた。
宮本「おやおや。誰かと思えば沖田さんと相田さんでは無いですか?ご機嫌麗しゅうございます。」
藍原「ヒャヒャッ。アイツらはちゃんといるんだろうな?早くよこせよ!!」
開口一番これとは本当にゲスだ。
怜「今はお前らのこと相手にしてる暇は無いんだよ…。失せろ。」
語気を強め二人との会話を拒む。しかし奴らは話を続ける。
宮本「おやおや?随分野蛮ですね。負けるのが怖いからって私たちにあたるのはやめてください。私たちはですね。昨日はあなた方のマネージャーたちをどうやって遊ぼうか考えて夜も眠れなかったんですよ。私はあの赤髪の子をどうやって可愛がってあげようか考えていましてね。ふふ…。」
気持ち悪い笑みを浮かべ梨子ちゃんのことを言う宮本に怜は激昂した。
怜「てめー!!ふざけんじゃねえ!!」
勢いよく立ち上がり宮本に詰め寄ろうとする怜を俺は止める。
祐一「よせ。アイツらの思うツボだ。」
怜「ぐっ…。」
なんとか怜は止まってくれた。
藍原「俺はあのオレンジ髪とグレー髪の女をグチャグチャにしてやるよ。へへ…。」
藍原も気持ちの悪い笑みを浮かべ俺たちを挑発してくる。
怜「千歌ちゃんと曜ちゃんのことまで…。マジで許せない!!このクソ野郎どもが!!」
怜は再び詰め寄ろうとするが、
祐一「やめろ。」
俺の言葉で体を止めた。いや止めざるを得なかった。
この時の俺はプールの時に千歌ちゃんを叩いた不良に向けていた冷酷な視線を持ちながらも冷静だった。
怜「ゆう…いち…?」
怜は震える声で尋ねてきた。言わんとしていることはわかる。だから俺はあくまで冷静に答えた。
祐一「安心しろ。落ち着いている。コイツらに構ってる時間は無い。さっさとアップして戻ろう。」
怜「そうだな。わかった。」
俺は目を見開いたまま瞬きをせずに立ちすくんでいる藍原の横を通り過ぎて小声で呟く。
祐一「覚悟しろよ。」
そう呟き俺はみんなの場所へ戻っていった。
藍原「な、なんなんだアイツは!?」
藍原は自分へ向けられた言葉に狼狽わめく。そして怜も歩き始め宮本と藍原に向かって伝える。
怜「お前らは本気で俺たちを怒らせた。覚悟しとけ。」
そう言った怜も俺の後を追いかけて走り去る。
藍原「クソ、クソッ!?」
宮本「落ち着いて下さい。あんなのただの強がりです。気にすることありませんよ。」
藍原「でもよ!?」
宮本「私には考えがあります。私に任せなさい。フフフッ…。」
不敵な笑みを浮かべる宮本に藍原までもが恐怖していた。
藍原「お。おう…。」
宮本「フフフッ…。見ていなさい。あのマネージャーたちは全部私のモ・ノ…♪」
藍原にも聞こえないほど小さく呟き気持ち悪すぎる表情をしていた事を俺たちは知らない。
こうして最低最悪な決戦は始まろうとしていた。