恋をした少年のShiny Days   作:甘党ゴンザレス

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連続投稿です!!




Day31 決着

Side千歌

 

みんなが守備につきにいった後、私は小さく呟く。

 

千歌「祐一くん…大丈夫かな…。」

 

曜「さっきベンチに帰ってきた時も辛そうだったもんね…。」

 

梨子「心配よね…。」

 

私たちは心配そうに祐一くんが投げている姿を見ているとゆめさんが私たちに行ってきた。

 

ゆめ「祐一も男の子よ?女は黙って男の頑張ってる姿をみて勝利を願うだけ…。それが私たちにできることよ。」

 

千歌「そう…ですね。」

 

私は何もできない自分がもどかしいけどゆめさんの言葉には納得がいった。私たちはグラウンドでプレーしてるわけじゃない。だから私たちはただ勝利を願うだけ。それ以上でもそれ以下でもない。

 

曜「みんなが最高の状態でプレーできるように私たちにできるのは応援だけ。」

 

梨子「だったら私たちがしっかり応援しないとね!」

 

ゆめ「そういうこと♪男は度胸、女は愛嬌よ!」

 

ゆめさんはウインクして私たちを見てくる。

 

千歌「今できるのは精一杯の応援。今できる最高の応援をみんなに届けよう!」

 

曜・梨子「「うん!!」」

 

私たちはさっきよりも大きい声で応援をし始めた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――

Side祐一

 

さっきよりも少しだけ肩が軽くなった。さっきよりもひときわ大きい声援がベンチから聞こえる。俺はその声援を力に投げ込む。

 

一人目を抑える、だが二人目のバッターに俺はセンター前ヒットを許してしまう。

 

祐一「くそっ…。」

 

周りから大丈夫という声が聞こえる。俺はその言葉に反応して次のバッターに再び集中する。

 

俺が怜のミットに投げ込もうとした瞬間、

 

「走ったー!!」

 

ファーストを守っている鈴木さんからその言葉が発せられて俺は

 

しまった!?

 

と思ったが投球モーションに入ってしまっているので動きを止めることができない。咄嗟に俺はストライクゾーンからボール球になるように投げ込む。

 

だが、相手のバッターはそのボールを振ってきた。エンドランだ。相手バッターもかろうじて当てて前にボールを転がす。ピッチャー前に来たボールを処理してセカンドを見るが間に合わない。俺はファーストに送球してアウトを確実に取った。

 

ツーアウト、二塁。得点圏にランナーを進めてしまった。タイムをとった怜がマウンドに寄ってくる。

 

怜「すまん…。全く警戒してなかった。」

 

祐一「気にすんな。俺も全然警戒してなかったし、次のバッターを切ろう!!」

 

怜「そうだな!!バッター集中で行くぞ!」

 

俺たちは確認し合い怜が戻ってミットを構える。主審のプレイの合図に俺は怜のミットに投げ込む。しかし…。

 

カキーン

 

甘く入ったストレートを相手バッターはセンター前に弾き返した。

 

勢いよくスタートを切っていたランナーは迷わずにホームへ突っ込んでくる。

 

祐一・怜「「バックホーム!!!!」」

 

センターの秋山さんの守備速度も早かったが、それよりも相手ランナーの方が早く失点を許してしまった。

 

打ったバッターはなんとかファーストで止めることができたが、正直この失点は致命傷になるかも知れない。

 

怜はタイムを取り内野全員が集まる。

 

祐一「すいません…。俺のせいで…。」

 

俺は唇を噛み俯きながらみんなに謝罪すると、

みんなの反応は俺を咎めるものでは無かった。

 

「気にすんな!絶対点取ってやるから後一人きっちり抑えよう!」

 

祐一「坂本さん…。」

 

「そうだぞ!俺たちが体張ってどんな打球でも止めてやる!」

 

祐一「松田さん…。」

 

「だから、安心して投げろ!!」

 

祐一「山田さん…。」

 

「それに頼もしいバッターがこの後控えてるだろ?」

 

祐一「鈴木さん…。」

 

俺は視線を鈴木さんが見る方へ移す。そこには何年もバッテリーを組んでお互いのことはなんでもわかる。俺の女房役の怜が立っていた。

 

怜「祐一、まだ試合は終わってない。それに一人で野球をするな。お前の後ろにはこんな頼もしい仲間がついてるんだ、一人で頑張ろうとするな。」

 

俺は怜の言葉に外野の先輩たちを見る。

 

先輩たちは笑いながら俺に向かって、

 

忍「祐一、気にするなー!!絶対点取ってやるからなー!!」

 

「次は絶対にランナー返さないから思いっきり投げろー!!」

 

「まだ試合は終わってない!!諦めないで行くぞー!!」

 

忍さん、秋山さん、吉田さん…。

 

俺はなんで周りを見渡さなかったのだろう。こんなにも頼もしい先輩たちを知っていたはずなのに…。俺は自分の頬を両手ではたいた。

 

怜「目、覚めたか?」

 

祐一「あぁ…。ああ!!俺にはみんながいる!まだやれる!」

 

俺はみんなの顔を見渡し告げる。

 

祐一「すみません。打たれたら頼みます!!」

 

「「「「「「「任せろ!!」」」」」」」

 

最後に俺はベンチを見る。心配そうに俺を見つめている千歌ちゃん、曜ちゃん、梨子ちゃん。その中でゆめさんは大きな声で俺に激励の言葉を飛ばしてきた。

 

ゆめ「祐一!!男なら投げ勝てー!!」

 

俺は静かに笑いベンチに拳を向ける。ゆめさんも笑いながら拳を俺に向かって突き出した。それを見た千歌ちゃん、曜ちゃん、梨子ちゃんも同様に俺に向かって拳を突き出してきた。俺は思わず笑ってしまう。

 

怜「なっ?お前だけじゃない。みんな勝ちたいんだ。だからこの回、後一人気張って抑えるぞ!!」

 

祐一「おう!!」

 

俺の掛け声にみんな反応して守備位置へ戻っていった。

 

俺の後ろには頼もしい仲間がいる。俺は安心して怜のミットへ投げ込んだ。初球ストライク。

 

怜「ナイスボール!!球走ってるぞ!」

 

「いいぞ!!」

 

「ドンドン行ったれ!!」

 

俺はその言葉に頷きながら次の球を投げる。その球は弾き返されサード線を抜けようとしていた。

 

「うぉおおおお!!!」

 

松田さんが飛びつきキャッチしてすぐに体制を立て直してファーストに送球する。結果はアウト。俺はなんとか抑えてホッと息を吐き松田さんに向かって言葉を発する。

 

祐一「ナイスプレー!!助かりました!!」

 

「気にすんな!!」

 

松田さんは俺の背中を叩きそう返してくれた。

 

ゆめ「祐一よくやった!!ナイスピッチ!!松田もナイスプレー!!」

 

曜「祐一くんナイスピッチ!!切り替えていこ!!」

 

梨子「まだまだ試合は終わってないわ!!」

 

みんなから励まされ俺は気合を入れなおす。

 

千歌「祐一くん、はい!飲み物飲んで休んでな!」

 

千歌ちゃんから飲み物を渡してくれて俺はその飲み物を飲み干す。

 

祐一「ありがとう、千歌ちゃん!!元気でた!!」

 

千歌「うん!!最後まで頑張って!!」

 

祐一「うん、頑張る!!坂本さん、忍さん、怜!」

 

三人が俺の方を振り向く。

 

祐一「必ず点を取ってください…。一点取ってくれれば、最後全身全霊で投げて抑えます!!」

 

「任せろ!!」

 

忍「おう。楽に投げさせてやるからな。」

 

怜「女房役としてお前のために必ず点を取ってくる。」

 

俺たちは拳を合わせた。これは単なる約束に過ぎない。だが、確かな信頼がそこにはあった。

 

坂本さんは初球レフト前にヒットを放った。その時点で俺は確信した。この回必ず点は入る。次の忍さんがバントを決めてくれて得点のチャンスで怜に打席が回ってきた。

 

祐一「怜!!頼むぞ!!」

 

千歌「怜くん頑張れー!!」

 

曜「打てるよー!!」

 

梨子「お願い…。」

 

祈るような思いで俺たちは怜の打席を見つめる。ベンチからでもわかる怜の集中している姿に俺もこいつの仲間でよかったと思うほど今の怜は強打者の雰囲気を醸し出していた。

 

追い込まれるものの怜は一向に取り乱さない。そして甘めにきたインハイのボールを怜は豪快なスイングをして弾き返した。怜はその打球を見ずにバットを投げ一塁ベースへ向かって歩きはじめる。

 

レフトへの大飛球を追ってレフトはゆっくりゆっくり後ろへ下がる。下がり続けたレフトは何かにぶつかり後ろを見る。レフトがぶつかったのは壁だった。

 

 

すなわち…。

 

 

その瞬間怜は右手を高々と上げて握りこぶしを掲げる。

 

そう、怜が打った打球はレフトスタンドへと吸い込まれ場外へ消えていった。

 

その光景を目の当たりにしたベンチから大歓声が上がった。

 

怜はゆっくりとホームベースを踏みベンチへ帰ってくる際。

 

怜「わり、美味しいとこ持って行ったわ♪」

と舌を出して笑いながら帰ってきた。

 

祐一「ったく…。カッコよすぎ…。」

 

俺は怜と静かに拳を合わせた。

 

千歌「怜くんすごーい!!逆転だよ、逆転!!」

 

曜「かっこよかったであります!!」

 

梨子「怜くん…怜くん。」

 

梨子ちゃんが涙を流しながら怜のホームランを噛みしめている。

 

怜のホームランのお陰で2対3になり俺たちは逆転した。この回の攻撃は結局怜のホームランの二点のみ。だけど、逆転してくれた。それだけで十分だ。

 

何も恐れる必要はない。この回を締めて勝利を掴み取る。怜が逆転してくれたチャンス無駄にしない。

 

俺は静かにマウンドへ向かう。相変わらず肩は重く怠い。呼吸もし辛くボーッとしてきた。

 

怜「祐一最後だけど行けるか?」

 

怜は心配そうに聞いてくるが俺の答えは当然、

祐一「当たり前だろ…?お前が作ってくれたチャンス無駄にしたくない。この回で決めるぞ。」

 

俺は怜に静かに宣言した。

 

怜「わかった。これで最後だ、踏ん張れよ。」

 

俺の胸をグローブで叩き怜は戻って行く。

 

 

 

これで最後だ…もう…終わってもいい…。だから…気張れよ、俺…。

 

 

 

俺は最後の最後でゾーンに入った。打席に入ったバッターが微かだが震えている様に見えた。怜はアウトコースにスライダーを要求してきた。俺はサインに頷き怜のミット目掛け投げ込む。

 

先程とは比べ物にならないくらいキレたスライダーが怜のミットに収まる。主審のストライクの声が微かに聞こえた。でも、俺は表情を変えず怜からボールを受け取る。そのバッターを三振に抑え、次のバッターである藍原が打席に入った。

 

藍原「クソッ、クソッ!?」

 

強張った表情から焦りを感じていることがわかる。先程と同様に俺は遊び玉無しで藍原を追い込む。

 

藍原「なんで、なんでなんだ!?どうして、こんな球のキレ、ノビが上がってるんだ!?」

 

藍原はバットを地面に叩きつけている。

 

怜「アイツの思いの力がお前らよりもずっと強いってことだよ。お前らはただ自分の欲を満たすためだけにやってるかもしれないけど、アイツは大切なものを守る為に戦ってるんだ。もちろん、俺だってそうだ。お前らに負けるはずがない。」

 

藍原「クソォォォ!!」

 

俺の投げ込んだ渾身のストレートを空振り、三振を取られた藍原は大声で叫ぶ。

 

 

あと一人…。

 

 

コイツを抑えたら俺たちの勝ち。

 

 

最後のバッターは…

 

 

 

宮本

 

 

 

打席に入る宮本は凄い集中力だった。宮本にも強者が持つ独特のオーラを感じた。

 

俺の投げ込む球にも反応してくる。ボール球はしっかりと見極め、ストライクゾーンの球はアジャストしてくる。人間としては優れた人間では無いけど、野球人としてのポテンシャルは計り知れない。

 

もし…もし、コイツの人間性が少しでも良くてもっと早く出会っていればいいライバルになれたのかもしれない。

 

俺は宮本を追い込み、カウントスリーボール、ツーストライク。怜のミットはど真ん中に構えられる。サインは全力のストレート。

 

俺は振りかぶり投球モーションに入る。恐らくこれが最後の一球になるだろう。

 

 

祐一「うぉぉおおおお!!!!!!」

 

 

俺は怜のミットに全力で渾身のストレートを投げ込んだ。

 

―――――――――――――――――――――――――

Side 千歌

 

祐一くんは最後の一球を投げたと同時に雄叫びをあげていた。祐一くんには投げた瞬間わかってたのかもしれない。投げられた球は怜くんのミットに収まり主審の声が響き渡った。

 

私は電光掲示板に視線を移して球速を見て驚いた。

 

 

 

160キロ

 

 

 

 

今日の最速をマークしていて文字通り祐一くんの全身全霊渾身のストレートだったのだろう。

 

グラウンドのみんなが祐一くんのいるマウンドに駆け寄る。

 

私たちも居ても立っても居られず駆け出した。急いで駆け出した。祐一くんたちのいるマウンドへ…。

 

ゆめ「みんなよくやったー!!おめでとー!!」

 

曜「すごい、すごい!!優勝だー!!」

 

梨子「お疲れ様です!!みんなカッコ良かったです!!」

 

千歌「祐一くんおめでとう!!みんなで掴んだ優勝嬉しい!!」

 

私たちは惜しみなく優勝を喜んだ。

 

忍「祐一よくやった!!今日の勝利はお前と怜のお陰だ!!」

 

「よーし!!勝利投手を胴上げだ!!」

 

先輩たちが祐一くんを持ち上げて胴上げをしている。

 

祐一「わ、わっ!?ちょっと皆さん危ないですよ!?」

 

慌てた表情を祐一くんはしてたけど、すぐに最高の笑顔に代わっていった。その表情がたまらなく愛おしかった。

 

千歌「おめでとう…。最高にかっこよかったよ…///」

 

私の小さな呟きは胴上げの歓声にかき消され真夏の青空へ消えていった。だけど、不思議と胴上げされている祐一くんに聞こえていたのか目が合い祐一くんは照れたよう笑った。その表情を見た私も胴上げに混ざり今はただ勝利の美酒を分かち合った。

 




ご愛読ありがとうございました!!

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