俺たちは開会式を終えて車で宿舎へ向かっている。試合が終わった後宮本たちは一度俺と怜の前に現れたが、形式上平謝りをし去って行った。きっと約束通りもう俺たちの前には現れないだろう。二人の目を見た俺たちは二人はもう変なことはしないだろうと感じ何も言わなかった。
あの二人は決して許され無いことをしたが、反省してくれたのならそれでいい。今後も千歌ちゃんたちに接触する事は無いだろう。そして俺たちはとうとう打ち明けようとする。
祐一「ち、千歌ちゃん、曜ちゃん、梨子ちゃん…。話があるんだけど…。よろしいですか…?」
怜が運転している中俺は話を切り出す。
千歌「なーに?」
曜「どうしたの、改まって?」
梨子「そんなかしこまらなくてもいいのに?」
祐一「ちょっと大事な話があるんだ…。だから宿舎着いたら俺たちの部屋に来てもらってもいいかな?あとゆめさんも一緒に呼んでもらってもいい…?」
千歌・曜・梨子「「「わかった???」」」
千歌ちゃんたちは首を傾げ了承してくれたが、当然と言えば当然だが俺の心臓の鼓動がどんどん速くなっていくのがわかる。
宿舎に戻ってきた俺たちは集まってくれた千歌ちゃんたちに誠心誠意頭を下げて開口一番謝る。
祐一・怜「「ごめんなさい。」」
ゆめ「ごめん。状況が読めないんだけど…説明してくれる?」
俺たちは事の顛末を淡々と語った。宮本と藍原に最悪の賭けを持ちかけられた事、それを俺たちは乗っかりあの試合で千歌ちゃんたちに何も告げずに勝手に勝負していた事。全てを話した。
祐一「勝ったからいいものの…もし負けてれば…。本当にごめんなさい…。謝って済むものじゃ無いけど謝らせてください…。」
怜「祐一だけのせいじゃ無いです…。俺にも原因がある。俺があんなに売り言葉に買い言葉にならなければ…。本当にごめんなさい…。」
俺たちの謝罪を聞いて最初に口を開いたのはゆめさんだった。
ゆめ「ハァ…。もう過ぎた事は気にしてもしょうがないでしょ?でもありがとう…守ってくれて。嬉しいよ…だからそんな泣きそうな顔しないの?男の子でしょ?」
祐一・怜「「でも…。」」
俯く俺たちだったが俺たちは優しく暖かい何かに包まれた。
その正体はゆめさんだった。
ゆめ「だいじょうぶ…。大丈夫だから…ねっ?私たちのこと守ろうとしてくれた事は伝わってる…。怖かったでしょ…辛かったでしょ…。でも今度は何かあったらちゃんと話しなさい。今回は幸運にもこんな結果になったけど、今度はそうは行かないかもしれない。もっと私たちにも頼りなさい。女だからって気にしなくていい。辛かったり、怖かったりしたら私たちだって力になれる、少しでも重荷を背負う事はできる。」
ゆめ「だから…。」
ゆめ「今は不安な気持ちを吐き出していいんだよ…。」
その言葉に俺と怜が貯めていた不安と恐怖の感情が決壊した。
祐一「怖…がっだ…。千歌ちゃん…だぢが…あいづらに取られる…っで…がんがえだら…怖…がっだ…。」
怜「俺だぢ…のぜいで…怖い…思いざぜだぐ…ながっだ…。」
俺たちはボロボロに泣きながらゆめさんに抱きついて自分たちが抱えてた気持ちを吐き出す。
ゆめ「うん…うん…。」
ゆめさんはボロボロと泣く俺たちを優しく抱きしめながら少しだけ抱きしめる力を強くした。
俺たちはゆめさんに抱きしめられながらゆめさんの胸を借りておもいっきり泣いた。涙が枯れ果てるくらい泣いた。
しばらくして俺たちは落ち着きを取り戻してゆめさんから離れる。
祐一「すびません…。お見苦しい姿を見せて…。」
怜「落ち着きました…。ごめんなさい…。」
俺たちはゆめさんにそう伝えるとゆめさんは豪快に笑い俺たちの頭をクシャクシャと撫でてから言ってきた。
ゆめ「男の子なんだからもう気にしちゃダメだぞ?私たちを守ってくれたのは紛れも無く事実なんだから。それじゃ、私は忍たちのところ行って説教かましてくるから失礼するよ!」
祐一「あ、あの…俺たちが言える事じゃ無いんですけど…忍さんたちは悪く無いんです…。だから…。」
怜「俺たちが悪いんで…どうか…あまり怒らないで下さい…。」
俺たちの言葉にゆめさんは優しく微笑みながら。
ゆめ「二人は優しいんだね…。わかった、少し文句は言うけど大目に見てね?あと三人にはしっかり謝るんだよ?」
祐一・怜「「はい…。」」
ゆめさんは手をヒラヒラ振りながら出て行った。ゆめさんには許してもらったが、まだ三人には許してもらってない。
謝ろう。誠心誠意。
俺たちはまだ涙が溜まっている目を袖で拭い千歌ちゃんたちの方を向き土下座をする。
祐一「三人とも…本当にごめんなさい…。」
怜「本当にごめんなさい…。勝手にこんな真似して…。」
俺たちは額を地面に擦り付けしっかり頭を下げる。
三人からは何も言葉は返ってこなかった。
ダメ…か。
千歌「顔…あげて…。」
尚も俺たちは頭を下げ続ける。
千歌「顔上げて!!」
怒鳴り声に近い感じの声が千歌ちゃんの口から発せられ俺たちは恐る恐る顔を上げる。
顔を上げて俺と怜はハッとした。
何故かって…。
三人は瞳に零れんばかりの涙を溜めていたのだ。
千歌「なんで…言ってくれなかったの…?」
震える声で千歌ちゃんは問いただしてくる。俺も震える声で答えた。
祐一「怖い…思いさせたく無かった…から…。」
千歌「私たちに怖い思いさせたく無くて、自分たちは怖い思いしてたの?」
祐一・怜「「はい…。」」
梨子「ふざけないで!!!」
祐一・怜「「っ!?」」
俺と怜は突然の怒鳴り声にビクッと肩を震わせる。
梨子「私たちのこと甘く見ないで!!私たちがどれだけ二人のこと信じてるか知らないでしょ!!二人が私たちを大切にしてくれてるように、私たちだって二人のこと大切に思ってるの!!なのに…なんで私たちのこと信じてくれないのよ!!」
涙を流し肩で息をしながら梨子ちゃんが怒鳴り声で言ってくる。正直驚いた。普段は取り乱すことのない梨子ちゃんをここまでするなんで俺たちはとんでもないクソ野郎だ。
梨子「私たちだってやわじゃない!!二人のこと…心の底から信頼してるから耐えることだってできる!!なのに…なんで…二人がそんな辛い思い…してるのよ…!?うっうぅ…。」
梨子ちゃんは膝をつき泣き崩れる。千歌ちゃんと曜ちゃんが梨子ちゃんを宥めながら俺たちに語り始める。
曜「私たちもね…二人の背負ってるものを一緒に持ちたいの…。今回のことも正直ちょっと頭にきてる。なんで言ってくれないの?そんなに私たちって頼りない?って感じちゃう…。だからこそ梨子ちゃんが今の私たちの気持ちを代わりに言ってくれた。」
千歌「そうだよ…。私たちも二人のためなら自分たちが怖い思いをすることを選んでたと思う…。でもね…だからこそ今回経験してわかったの…。心配する方の気持ちが…。自分たちを犠牲にするとその分相手を不安な気持ちにさせる。これは自分も相手も悲しい気持ちになるだけ…。」
千歌「だから…もうこんな事はしないで…。」
千歌ちゃんの強い眼差しが俺たちを貫いた。怒っているのだが、どこか悲しさを帯びている目に俺たちは何も言えなかった。
曜ちゃんと千歌ちゃんに宥められた梨子ちゃんが顔を上げ、未だ涙流れる瞳で俺たちを真っ直ぐに見つめ
梨子「ごめんね…。いきなり怒鳴っちゃったりして…。二人の優しさに甘えてた…。本当は感謝の気持ちで一杯なの…でも二人の気持ちを考えたら自分のことが許せなくって…。ごめんね…ごめんね…。」
優しく俺と怜を抱きしめてきた。
同じく千歌ちゃんと曜ちゃんも俺たちを抱きしめてくれた。
千歌「ごめんね…二人とも…。ありがとう…。」
曜「ありがとう…。今度は私たちもちゃんと二人の重荷を背負うからね?だから私たちのことも信じてね…?」
祐一「ありがとう…。ごめん…ごめんね…。」
怜「梨子ちゃん…ありがとう…。俺たちのために怒ってくれて…ごめんね…。」
俺たちは五人で抱きしめ合いながら静かに涙を零した。
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ひとしきり泣いた後俺たちは千歌ちゃんたちに隠し事はしないと固く誓った。口に出して三人に伝えた。三人は笑って俺たちを許してくれ今回の件はこれで終わった。
そして部屋を出て行こうとする千歌ちゃんに俺は声をかけた。
祐一「千歌ちゃん後で二人で話したいんだけど…いいかな?」
千歌「うん?いいけど…どこで話す?」
祐一「じゃあ、宿舎の前の海岸でどうかな?ゆっくり話したいから準備できたら海岸に来てくれる?」
千歌「わかった。じゃあ少ししたら行くからちょっと待っててね?」
祐一「うん、わかったよ。」
俺たちはそう約束して別れた。
俺はすぐ支度を整えて海岸へ向かう。今更なんだが、試合が終わってから肩が上がらない。どうやら無理をしすぎたみたいだ。しばらくは利き手を使う事は出来ないだろう。着替えも怜に手伝ってもらいなんとか出来た。
そして海岸に到着して砂浜に腰掛けて呟く。
祐一「迷惑かけてばっかだな…。」
すると俺の目を誰かが覆ってきた。
??「だ〜れだ♪」
もちろんわかるよ。わからないわけがない。だが、俺はとぼけてみる。
祐一「誰だろ〜?わからないなー?」
??「もう!!なんでわからないの!!」
俺は微かに笑いながらこんなやりとりも前にしたな…と一人考えている。
祐一「嘘だよ。本当は千歌ちゃんってわかってるから。」
千歌「もう!!最初っから答えてよ!!」
俺の目から手を離し千歌ちゃんが俺の目の前で頬をムゥっと膨らましながら現れる。でも、すぐに笑顔になり俺の隣に腰掛ける。
千歌「それで、話って何?」
祐一「まずはちゃんと千歌ちゃんに謝ろうと思ってね。今回は本当にごめんなさい…。」
俺は千歌ちゃんに頭を下げて改めて謝罪する。
千歌「別にもう怒ってないから気にしないで!!」
祐一「そっか…。ありがと…。」
千歌「それだけ…?」
祐一「いや…こっちが本題かな?」
千歌ちゃんは真剣な眼差しで見つめてくる。
祐一「実はさ…試合終わった後からなんだけど、肩が上がらないんだ…。それに感覚もあんまり無いんだよね…。」
千歌「えっ…。」
祐一「これも神様が与えた俺への罰なのかもね…ははっ。一応明日帰ったら病院行こうと思ってるんだけど…言っておこうと思って。」
俺は渇いた笑みで千歌ちゃんにそう告げる。
千歌「もしかして…チカたちのせいで無理したから…。」
祐一「そんな事ないよ?これは俺が勝手にやって起こしたこと。千歌ちゃんたちが気にする事じゃない。俺は後悔してないし、誇りに思ってる。」
祐一「だって…。」
俺は千歌ちゃんの肩を左腕で抱き寄せて
祐一「大好きな人を守れたんだから。」
そう伝えた。
祐一「何も後悔は無い。それに…もう隠し事はしないって決めたからね?」
俺は笑いながら千歌ちゃんに言った。
千歌「バカ…。」
祐一「えっ…。」
千歌「バカ…バカ!?頑張り過ぎ…だよ…。もっと自分を大切にして…。約束できる…?」
祐一「…わかった。」
千歌「チカも病院着いて行くからね?」
祐一「お願い…しようかな。」
千歌「もし…普段の生活が出来なかったら私が責任持ってお世話するからね。これは決定事項だから!」
千歌ちゃんは俺から離れ夕日を背にそう告げる。
その時の表情は夕日に照らされてよく見えなかったが、きっと固い決意をしていたのだろう。
だから俺は
祐一「その時はお願いね。」
小さく声に出しその申し出を受けた。
千歌「わかればよろしい!!じゃあ戻ろうか?」
千歌ちゃんは俺に手を差し伸べその手を取り立ち上がった俺をグッと引き寄せる。そして
チュッ
華麗に俺の唇を奪った。
祐一「っ///」
千歌「期待しておいて♪」
ウインクをして俺の手を引き宿舎へ向かって走り出した。
その表情に悪戯心を感じた俺は心の中で本当にこの子には敵わないな…。と思い彼女と共に走り出す。
その時の俺は高鳴る心臓の音を抑える暇もなく、彼女に手を引かれるまま宿舎へ向かって駆け出していた。
ご愛読ありがとうございました!!
感想等ありましたら、よろしくお願いします!