もしガールズバンドのあの子がお酒を飲んだらどうなるの? 作:早宵
「ふぁー、やっと大学おわったわぁ」
俺は伸びをしながらそう言う。
ここで漫画とかならば超展開があるが、残念ながら俺には超人的な能力や才能があるわけではない。
だから普通に普通の人生のレールを歩んでいる。
よって俺は普通の大学生という事になる。
大学に入って思った事は時間が過ぎるのがゆっくりに感じる。だからその分疲れが溜まった気がする。
だから早く帰ってゴロゴロしよう。もう何もせずにぐだぐだするんだと覚悟を決め、教室を出ようとするといきなり後ろから肩を叩かれた。大体誰か分かるんだけどな、はぁ…面倒くさ…
「何だよ?」
「今日、飲みに行かないかしら?」
この何回目かもわからない同じ会話を持ち出してきたのは、
だが、この世界は漫画と違って中々大変だ。まぁ、これだけだと輝かしい栄光だけを掴んできたと思われてしまうが、実際は違うと思う。
アイドルバンドがデビューで大失敗して解散しかけたり、自分という存在の意義を見失ったり、幼い頃から芸能界と言う普通では無い世界に入り込んだ事でより現実的、現金的な思考になり感情より理屈で動いてしまう事に葛藤したり、折角、大役を貰ってもスランプが来て役に入り込めなかったりと彼女も彼女なりに人一倍苦悩してきたんだと解釈している。だから俺は一般人の立場から白鷺の助けに成れればいいなとは思ってる。が、しかし、
「残念ながら今日はバイトの予定だから無理だ。あ〜本当に残念だなぁ〜」
こいつと飲みに行く事はどうしても苦手なんだよ…
「嘘ね」
「はぁっ?何でそう言いきれるんだ?」
「あなたは嘘をつく時、目線が右上に浮くもの。わかりやすいわよ?」
この癖そんな出ないはずなのによく気づいたな、多分うちの親ですら気づいてないぞ。
「さすが元天才子役様ってだけあるな」
「何か言ったかしら?」
「いえ、何でもございません」
どうやったらこんな威圧的な笑顔が出来るんだよ…子供とか泣くぞ…
「お前なぁ…その威圧的な笑顔仕舞った方がいいと思うぞ…俺は普通に笑ってた方が可愛くて好きなんだけど?」
「か、かわ//って…じゃあ今日はあなたの家で飲むって事でいいわよね?」
「いやいや待て待て待て、何で俺の家なのさ、そこらにあるバーとかじゃ駄目なのか?」
「酔っ払ってお店の迷惑になるかもしれないじゃない。あなたが。」
「いやお前「文句があるのかしら?」…わかった、わかったからもう俺の家でいいよ。でも今、俺金欠で、もやしと塩辛しかねえから要るものあったら持参してくれよ」
「あなたって本当に塩辛大好きね…わかったわ、今晩行くから楽しみにしてなさい。」
心なしかいつもより楽しそうだな。楽しそうだからまぁいいや…
「楽しみに待っとくよ。じゃあまた後でな。」
「ええ。ふふっ誘えたわっ…(小声)」
「なんか言ったか?」
「何も?じゃあまた後でね。」
「おう。」
そう言えば何で今をときめく女優と飲みに行くのを渋るのかって?羨ましいなって?そうでもないぞ。それはな…
「ほんっとあの番組のプロデューサーは何もわかってないわ!何でワンテイク目よりツーテイク目の方が良いと言うのかしらね。目の機能を失っているのかしら?」
「あっちの番組はそもそも何でこんな企画を考え出したかが謎でしょうがないのよ。だって…………」
こんな感じで愚痴大会が始まるからな。最初の方は助けになってやろうと思って親身になって聞いていたが、もういいかなって思えて来た。
急に長いしえげつない事言い出すからね。
もし週刊誌の奴らがいたら一発でアウトな内容だから、いつか引っかかるんじゃないかと、というか大女優様がこんな酒癖悪くてに大丈夫なのかと本気で俺は心配している。普通にやばいよチサトサン。
まぁでも今回は外じゃ無いし情報が出回る事はないから若干安心もある。
どうこう言ってももう決まった事だし変わらないからとりあえず部屋の掃除からやっとこうか。
あ、ちなみにエロ本が出てくるとか言うテンプレは無いからな。
掃除がすぐ終わり、塩辛を適当に出して迎え入れる体制が整ってすぐにインターホンが鳴った。
「来てあげたわよ、開けなさい」
「なんで上から目線なんだよ…まぁいいけどさ」
「お邪魔するわね」
「はいよ、そこらへんで適当に寛いどいて」
「わかったわ。」
そして料理(って言っても塩辛やもやしを軽く炒めた物)を出して酒を準備する。
「お酒なさそうだから持って来てあげたわよ。あとおつまみもね。」
「サンキュー…ってこれ凄い高そうなんだが
貰っても良いのか?」
「一人で食べたり飲んだりする量じゃ無いもの。あと、別にこれくらいの物ならいつもお世話になってるって言う意味でも大丈夫よ。」
「白鷺……お前もう飲んだのか?」
「失礼ね」
「痛ったぁい!足がぁ!」
あ…ありのまま今何が起こったか説明するぜ…
足を思いっきり踏まれたんだ…何を言ってるかわからねーと思うがまるで象が乗ったかのような重みだったんだ…あと変な扉を開きかけたんだ…
「さぁ飲みましょう?」
「お前いつか絶対にやり返すから見とけよ」
「乾杯」
「くっ、乾杯」
そう言ってグラスを軽く当て、飲み始める。
「ああ、生き返るわね」
良い歳こいたリーマンみたいなこと言ってんなあ。と思ったが学習したから口には出さない
「今日の講義も疲れたなぁ…」
「そうね。あの教授達の言いたい事は何一つ分からないもの、疲れるのも当然ね」
「本当そうだよなぁ…少しで良いからこちらを思って分かりやすくやって欲しいところだよな」
何となく愚痴からスタートしてしまった。
俺も人の事は言えないな。
「あなたは経済学を取ってないでしょう?あれも中々悲惨よ。大半は寝てるか携帯を触っているかだもの」
「それは大変だな。でもそんな中でも真面目に受ける白鷺様は凄いと思うぞ」
「もっと褒めても良いのよ?」
「すごーいえらーいがんばったねー……
グラスが空のようなので注いで差し上げます。」
「あら、珍しく気が効くじゃない、その調子で頑張りなさい」
この女いつか泣かす、絶対泣かす。
「ていうかもう一杯目が終わるって早くないか?俺まだ半分も飲んでないぞ」
「あなたが遅いんじゃないの?」
「そうか?まあいいか」
良くない。絶対その内また酔い出すよこの人は…
というか毎回飲むペース早いけど今日は特に早いような?それは気の所為か。
「てか白鷺が持って来てくれたおつまみ美味しいな。そこらの安物とは味が全然違う」
「そう言ってくれるのならわざわざ貰って来た甲斐があるわ」
「え?わざわざ貰って来てくれたのか?なんか申し訳ないからお金払おうか?」
「え!?いや違うのよこれは彩ちゃんがわざわざ貰って来た物を貰ったという意味で私が貰ったんじゃなくてパスパレのみんなで分けてそのまま彩ちゃんの物を若干貰っただけであって別にあなたの為にわざわざ貰って来たわけではないのよ!」
「…ちょっと何言ってるかわかんないけどまあ食わせて貰ってるから取り敢えず感謝はするよ。ありがとな」
「べ、別にいいって言ってるでしょ…」
「そう言うんならいいんだけどな」
ちょっと酔い始めたのかな…?顔も赤いし…
「あなたも空じゃないの、注いであげるからもっと飲みなさいよ」
「すまんねー…ってなんだこれ!えげつない濃度してんぞ!ちょま、飲めねえって、俺そんな強くないんだって!」
「あら、私から、白鷺千聖から注いでもらったのに飲めないのかしら?」
「もうわかったって…飲むからさ…さっきから何でそんな期待を込めたような目線でこっちみてんの?」
「見てないわよ」
「そうですかい、あ、すっごい強いけど美味いなぁこれ。やっぱ高くなればいいって物ではないけど高い方がいいなぁ〜」
「そうよね!やっぱり美味しいと思うわよね!」
「お、おうそう思うぞ」
あー酔ってるサインが出始めたなぁ…
いつもは鉄仮面を被ってるかの様に感情の揺れ動きがよくわからないが、酔うと年相応の普通の女の子みたいになる。これが酔ってるサインだ。普段とのギャップでやられそうにもなるが何とか耐えるしかない。
それと、俺もそんな強くないからもうそろそろやばいかも知れない…
「このお酒はね、あの番組のプロデューサーから貰ったんだけど、あっ、あのプロデューサーは女優を見る目がイヤらしくてほんと参ってるのよ。もげてしまえばいいのにね」
あっ、変な所からスイッチ入って始まったよ…
「あっちの番組はスタッフの段取りが悪すぎて、ずっとイライラしてたわ。怒りたくても怒れない、まるで*****で初めて****をするカップルみたいなもどかしさがずっとあったわ。」
「ちょま、お前、そんな言葉使うな!コンプラ引っかかるって!」
白鷺千聖半端ないって!こんなんできひんて普通!だめだ、ボケが出来ないくらいえげつないよぉ…
さらに加えて今回はコンプラワードまで出すか…
某ダンジョンのコンプラ祭りだった時みたいになってるやん…
この酔っ払いどう鎮めればいいんだろうな…
これもうわっかn「ちょっと聞いてるの?」
「聞いてます。はい。」
「むぅ〜今、聞いてなかったでしょ!?私の話を聞いてってば!!」
そしてこれが酔った時限定のギャップ萌えである。リスみたいに頬を膨らませている。普段と全く違って可愛い。一回撮って弱味握ろうとしたけども、今の白鷺の純粋な目には勝てなかったよ…
「それで、あの俳優なんだけどね…ってあなたグラス空じゃない、夜は長いんだし、もっと私と飲みましょう?」
「いやこれ以上は本当にきついから本当に勘弁して下さいお願いします」
「私のお酒いらないの……?」
そんな目で見つめてくんな!あぁもうここからは未知の領域だ!どうやっても知らねえ!
「いらなくねえよ!貰うぞ!」
「うんっ!」
そこから先は記憶がない……
次の記憶が始まったのは翌朝、白鷺が横でスヤスヤと眠っている布団の中だった。
ここで読者の皆様に問いたい。酒に酔って、途中の記憶が全く無く、翌日自分では予想もつかない所や全く知らない所から活動が始まるという恐怖を感じた事はありますか?そうなったらやる事は…
「えぁぁあ!?何この状況!?何この状況!?は?全く覚えてないんだけど!何したんだ昨日の俺!」
向かいのマンションまでこの声は響いたという…
「煩いわね。頭痛いんだから静かにできないのかしら?」
「白鷺、俺お前に何かしたか?全く覚えてないんだけど何かしたか?」
「あれだけ情熱的な夜を過ごしたのに、覚えてないの?」
「はっ…?」
「あれだけお互いを貪りあったのに覚えてないの?」
「へぁ…」
もう声にならない声しか出てこない。冗談だと言ってくれ誰か…
「冗談よ」
「あぁあ良かった…本当良かったわ…」
「(良かったって言うのは本当は私の台詞なんだけどね)」
あの日のその後何があったか、確かこんな感じのはずだったわ。
「千聖ぉ」
「な、何よ?」
私はそこで酔いが醒めた。彼の顔を見てみるが、目はトロンとしており顔も赤く染まっており明らかに酔っている事がわかる。
彼、あまり酔わないから酔ったらどうなるのか楽しみであったりもするわ。そのために今日色々な手を使ったもの。
そして次の一言を受け止めようとしたその瞬間、彼が立ち上がって、後ろから抱きついてきた。
所謂、あすなろ抱きという物かしら?
冷静に語っているのだけれど、その時の気持ちは嬉しさと恥ずかしさで爆発しそうだったわ。だって、密かに想いを寄せている彼から急に抱きつかれるのだもの。ときめくのも仕方がないと思うわ。
そして、彼はこう言ったの、
「千聖はいつも頑張っているよなぁ〜。
みんなの見えない所で努力して、その跡を隠している所めっちゃ好きだよ。」
「え/// な、急にどうしたの!?」
「芸能界入って長いかりゃ色々アドバイスをしたり、メンバーを引っ張っていくパスパレの精神的な土台として支えている千聖の強さも俺は良いと思うよ。いつも頑張ってるね」
「ふぇ///ありがと…」
「いつも機敏に動き過ぎてるからさ、時々はこうやってガス抜いていこうよ。千聖のためにいつでも手伝うからね?いつもお疲れ様」
「そ、そうね/// あぁあああ…///」
もうここで私のキャパシティはオーバーしたわ///
私ももうこれ以上の事は覚えてないの…
気づいたら布団で寝かされていたわ。
そして今に至るってわけよ。
まさか彼が酔うとこうなるなんてね…
でもこれで私の気持ちを再確認出来たかもしれないわね…
「わかりました。はい。気をつけます。それじゃまた」
「誰と電話してたの?」
「ナイショよ」
「そうですか…」
ま、誰でも良いんだけどな
「それにしても頭痛いなぁ…」
「ならコンビニにお水と朝ごはんを買いに行かないかしら?」
「まぁいいよ、ちょっと着替えるから外で待っといて」
「ええわかったわ。」
ー5分後ー
「おまたせ、行こうか」
「ええ、行きましょう」
「なんか良い事でもあったか?」
「ふふふっ、まぁね」
やけに笑顔だなぁ…なんか裏ありそうだなぁ…
「折角だから手を繋がないかしら?」
「は?まぁいいけど」ギュー
「行きますかぁー」
片手で扉を回しながら、もう片手で千聖の手を握っている。なんかすっごい面倒くさいんだけど…
そして扉を開けた。するとそこには、カメラを構えたおっさんが数人いた。そして撮られた。
「……………」
ははっ。人間って極限まで追い込まれると冷静に物事を考えられるんだな。そう言う事だったんだな。だからあんな笑ってたんだな。
「そう言う事な」
「そう言う事よ」
謎の緊張が走る。
「退路は断ったわ。今から言う言葉は女優だけじゃなくて、大学生として、貴方に惚れたとしての白鷺千聖の言葉よ。」
「どうか私と付き合って頂けませんか?」
白鷺が俺に惚れているのは正直意外だったけどさ、
こんな極限の状況まで作り上げて、自分の気持ちに正直になって、賭けに出たんだ。
だったら今から俺が言う言葉は、
「千聖、こんな俺で良ければ、喜んで」
次の瞬間、俺たちは抱き合った。お互い満面の笑みで。
千聖が微笑みの鉄仮面という称号を返上する日も近いかもな。
お酒というよりラブコメ要素が強くなってしまいました…
とても文章力が欲しい(切実)
あとお酒の知識とか壊滅的なので間違った所とかあったら教えて頂ければ幸いです。
あと前回の話で評価をくださった
仮面ライダーウルム(ツイのルード)さんありがとうございます!
評価、感想、誤字報告いつでも受け付けてます。