もしガールズバンドのあの子がお酒を飲んだらどうなるの?   作:早宵

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大変遅れました…


パン大好きダウナー系な彼女

「ふぁぁ〜…眠っむ…」

 

 時計の短い針は12を超え、長い針は6を指す。

 この時間帯にもなってくると眠いだけじゃなく空腹も相まってより一層授業を聞く気が無くなってくる頃だ。

 

 真面目に授業を聞く者は段々と少なくなっていき、友達と談笑をする者や机に突っ伏して寝る者、あろう事かイヤフォンをしてゲームに励む者までいる。中学や高校ではまったく考えられない風景だろうな。だが残念ながらこれが大学だ。

 

 こんな偉そうに言っている俺ではあるが、ノートの横には携帯があり片手間で話を聞いているから、先生が壇上で必死になって説明している事なんて1割も頭に入っていないんだろうな。

 

 ずっと下を向いていたら首が痛くなってきたので首を一回転させた。その時、そばに置いてあったシャーペンが目に付いた。つい数日前に迎えた誕生日のプレゼントで友達からもらったのだが、持ち主がこんな調子ならば他のやる気のある奴の手元に行きたかったんだろうなと勝手に妄想してしまう。申し訳ねえ。

 

 そんな事を考えながら見ていた動画の再生が終わるのと共に授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。今から昼休みの時間だから、適当に腰掛ける場所を探してそこでのんびりと時間を過ごそうかなと思いつつ講義室を出た。

 

 普段は友人がいる為に一人では無いが今日はその友人が休んでしまった為に一人だ。ボッチで昼を過ごすのって中々心にくるんだよなぁ…

 

 だがその心配は杞憂で終わる事になる。何故なら講義室を出た次の瞬間に、聞き覚えのある間の抜けた声が聞こえて来たからだ。

 

「おーい待ってよ〜」

「何か用?」

「呼んでみただけ〜」

 

 

 

 

 この何とも間の抜けた声を発しているのは青葉モカと言う。彼女は俺と同じ学部に所属していて、いつの間にか仲良くなっていた。正直に言ってどうやって仲良くなったのか全く覚えていない。

 

 青葉を例えるならば猫みたいな感じだ。

 自分の気の向くままに行動する所が正に猫そのものだ。あと本人には絶対に言わないけども普通に可愛いとも思う。まぁそういった所から猫っぽい。

 

 そしてそんな姿からは考えられないのだが、彼女はバンドをやっていたりもする。

 

 Afterglowと言う幼馴染の五人で結成されたバンドでギターを担当している。それは一部の高校生や大学生が趣味でやっているお遊びバンドなんかでは一切無く、正に王道のロックでガールズバンドに詳しい人もそうで無い人でさえも聞いた事があるくらいの人気と実力を持っている。

 

 この間ライブのチケットを本人から手渡され見に行ったのだが、はっきり言って圧倒された。

 自分達の叫びをそのまま歌った様な激しい歌詞であったり、一人一人が楽器をかき鳴らして上手いくらいに混ざり合ったメロディーであったりと本当に凄かった。この良さを語りたいのだが生憎、俺は語彙力が無いので凄いくらいしか出てこない。

 

 あとライブの時の青葉は普段のダウナーな感じは消え去り、Afterglowのギタリストとして全力で思いをぶつけるかの様に弾いていてギャップを感じた。本人には99%言わないがその姿に惚れそうにもなった。何なら惚れたまである。告白とかはしないけどな。まぁざっと俺の知ってる青葉モカはこんな感じである。

 

 

 

「まぁいいけど。そう言えば青葉は今日の昼どうするんだ?」

「みんな今日いないんだよーモカちゃんショック〜」

「じゃあ俺と昼食べないか?」

「いいよー」

 

 いいらしいので近くにあったベンチに座って食べる事にした。

 

「その卵焼き、美味しそ〜」

「これか?なら一個あげるわ」

「わーいありがと〜」

「味付け大丈夫か?」

「んーほいひいーほっぺた落ちそうだよ〜」

「なら良かったよ」

 

 他人に褒められるって良いなって思いました。(小並感)

 

「そういや青葉って午後の授業は取ってるのか?」

「取ってるよー」

「俺も取ってるんだけど今日友達いなくてさ、何なら一緒に受けないか?」

「いいよ〜」

 

 青葉モカが 仲間に加わった!と某RPGならこういうナレーションが流れているんだろうな。まぁでもこれで一人で寂しく端っこに佇まなくても済むようだ。

 

「じゃあもう一個卵焼きもらうね」

「別にいいよ…ってもう残り一個しか残ってないじゃねえか!」

「美味しくいただきました〜」

「まぁ良いんだけどもな…」

 

 そんなこんなでそれからも色々な具材を奪われながらも楽しい昼休みを過ごす事が出来た。

 

 色々やってるうちに授業開始五分前を表す鐘の音が聞こえて来たので急いで弁当箱を片付けて、次の授業の教室へ行き二人分の空いている席に座った。そして教授が起立の声をかけて授業が始まった。五分くらいして青葉にでも声をかけようか迷っている時に、横にいる青葉から声を掛けられた。

 

「何かやろうよ〜」

「えぇ…何をやるんだ?」

「絵しりとりとか、どー?」

「まぁ良いよ、じゃあ俺からな」

 

 ノートの切れ端を千切って、リから始まる赤くて丸い果物の絵を描いて青葉に渡す。渡して時間を置かずすぐに紙が返ってくる。

 

 どれどれ、これは…コロネじゃねえか!しかもまあまあ上手いんだけど!てか濁点どこ行った…。でも時々濁点だったら取るからまだセーフかぁ…?

 何て色々思いながらネで続く言葉を考える。考えた結果、ネットが最初に出てきたのでそれを描いて青葉に渡す。

 

 そして青葉は悩む仕草をして少し時間を置いてからこちらに紙を回した。

 

 何だこれ?クッキーか?全くわからん…でもこのまま悩んでいても埒があかないと思い答えを聞く事にした。

 

「このクッキーみたいなの何?俺ネットで回したぞ?」

「それはトリハスだよ〜」

「は?何だそれちょっとググるから待って」

 

 初めて聞く単語だったのでとりあえずwik○を開いてみる。何々、トリハスとは、スペインの揚げ菓子で薄い輪切りにして甘く味付けしたミルクや白ワインに浸した噛みごたえのあるパンにとき卵をつけて揚げるもの、らしい。

 

 いや本当にこんな食べ物あるんだな…。また一つ無駄な知識を得てしまったわ。

 

「本当にあるんだな…」

「モカちゃんは物知りなのだ〜」

「お前はパンの事なら何でも知ってるんじゃないか?」

「そうかも〜」

 

 と、こんな感じで青葉と大して授業も聞かずにじゃれ合っていたらいつの間にか授業の終わりを告げる鐘がなった。

 一人でいる時より何倍も早く終わった感じがあったからとても楽しんでいたんだろうな。

 

「午後の授業付き合ってくれてありがとな青葉」

「どーいたしまして」

「楽しかったよ、じゃあまた明日な」

「あ〜待って待って」

「何かあるのか?」

「えっとね今日何かー無性にお酒が飲みたい気分なのだよ〜」

「付き合えと?」

「そーゆーこと」

「別に今日はバイトもサークルも無いしいいよ」

 

 午後の授業付き合わせてしまったしな。

 

「やった〜じゃあしゅっぱーつ」

「おー」

 

 そう意気込んで出発したものの、いざ店に着いてみると本日定休日と書かれた張り紙が貼ってあった。さてどうしたものかね…

 

「やってないな」

「やってないねー」

「他の店探すか?」

「ふっふっふっ、その必要は無いよ〜」

「どこかやってる所でも知ってるのか?」

「君の家〜」

「は?」

「君の家だよ〜」

「流石にダメだわ」

 

 食い気味に即答したわ。

 

「えーいいじゃーん」

「ダメでしかないわ」

「そこをどうかー」

「ダメなものはダメなの」

「本当にだめ?」

「うっ…」

 

 上目遣いは卑怯だって…

 

「しょうがないな、今日だけだからな」

「いえーい」

 

 ちょろいって思うかもしれないが、上目遣いの魔法からは逃げられなかったよ…。そしてそれから二人で近くにあったスーパーでお酒と夕飯とおつまみを買って帰ったのであった。

 

 

 ☆★☆★☆★☆★

 

 

「お邪魔しまーす」

「おう、まず手を洗ってな」

 

 何か言ってる事が母親に似て来た気もするけどもそこは気にしないでおこう。

 

「ちゃちゃっと作るからそこら辺で寛いどいて」

「りょうかーい」

 

 俺はさっき買ってきた食材を使って夕飯を作る事にした。ちなみに作るのはハンバーグと卵焼きと野菜炒めだ。そして俺が作っている間、青葉はまるで我が家にいるかの様にソファーの上で寛いでいた。適応力高すぎだろ…

 

 その後は大して問題も無く料理が完成した。青葉に運ぶのを手伝ってもらい、運びきったところで食べ始めた。

 

「うーんおいし〜」

「なら良かった」

 

 青葉は作ったご飯をめちゃくちゃ美味しそうに食べてくれていて、もうその様子を見てるだけでも楽しい。

 

「そう言えばお酒出し忘れてたな。若干度数高いけど大丈夫だったか?」

「大丈夫だよ〜」

「わかった。じゃあこれ注いでやるよ」

「ありがと〜。ならあたしも注いでしんぜよう〜」

「ありがとな、んじゃ乾杯」

「かんぱーい」

 

 そう言って二人同時にグラスを傾ける。あぁ、こうやってお酒を飲む事って何か1日生きてきた感があって良いんだよな。

 

 あと度数が高いとは言ったものの俺はどうやら酔いにくい体質らしいので大した影響はない。

 

「青葉、度数高いけど大丈夫か?」

「だいじょーぶだよ〜」

 

 青葉に声を掛けて様子を見たがいつもと大して口調は変わらないし、強いて言うなら若干顔が赤くなっているくらいだった。これなら大丈夫そうだな。

 

「無理しないで飲み食いしろよ」

「わかったー」

 

 だがその後、俺の忠告とは反対に結構早いペースで飲み食いをしていた。最初の方は何ともなさそうだったが段々顔も赤に染まっていき、行動と言動も危うくなってきた。これなら大丈夫そうとか言って安心していた数刻前の自分を殴りたい気分だ。

 

「おしゃけおかわり〜」

「本当に大丈夫か?」

「だいじょ〜ぶだいじょ〜ぶ」

「大丈夫なのかよ…」

 

 半分呆れながらもグラスが空であったので注いだ。そうしたら青葉はすぐに飲み干してこう言った。

 

「もういっぱい〜」

「いやもうやめとけ」

 

 顔も真っ赤になってるし雰囲気もいつもと違うからな。

 

「え〜」

「え〜じゃないの。このままだと何しでかすかわからないからもうやめとこうな」

「しゅーん。ていうか君ももっと飲もうよー」

「まぁ…飲むか」

「注いであげるねー」

「ありがと」

 

 ぐいっとグラスを呷ろうとした。だがその時、青葉が何かに気づいた声を発した。

 

「んー、あっ」

「どうした?」

「君って今日、誕生日だよね?」

「いや誕生日は一昨日だわ」

 

 確か青葉からもプレゼントを貰ったんだけど…

 

「もう一個プレゼントあったの忘れてた〜」

「そうなの?何?」

「目瞑って〜」

「わかった」

 

 突然のサプライズとかめっちゃ好きなんだけどこう言うのって本当に心躍るよな。このワクワク感大好き。

 そして何が来るのかドキドキしていたら急に腕に柔らかい感触を感じた。一体何なんだ…

 

「開けてもいいよ〜」

「おー、ってどういう状況!?」

 

 簡単に言えば俺の腕に青葉が抱きつく形となっていた。

 あと腕に感触を感じたと言ったな。それは青葉の青葉が押し当てられたからだ。

 

「誕生日プレゼントは〜あたしで〜す」

「ふぁっ!?お前何してんの!?」

 

 多分、人生でトップ3に入るくらい心臓がドキドキしていると思う。

 

「今どんな気持ち?」

「色々あるけどめっちゃドキドキしてるわ」

「もっとドキドキしよ〜?」

「お前何言ってんの?何やってんの?」

「えーい」

 

 青葉は 密着する力をより強めた!

 俺の理性は さらに弱まった!

 ⠀⠀⠀⠀

「だから!お前!何やってんの!?」

「誕生日プレゼントだよ〜?」

「そんなん要らんから!とりあえず離れろ!」

「いやで〜しゅ」

 

 青葉は酔ったらスキンシップ激しくなるのか…

 てかこの収拾つかない状況どうしよう…

 

「どう〜?ドキッとした〜?」

「死ぬほどドキドキしたわ!」

「なら良かったよー」

「良くねえよ!」

「じゃあもっとドキドキさせたげようか〜?」

「もうやめて…」

「いやで〜しゅ」

 

 なら元々俺には拒否権は無いって事かよ。悲しいわ。

 てかまだ何かやろうとしてるのか?こんだけの事があったんだからもう何が来ても驚かない自信あるわ。

 

「君ってすごくかっこいいよね〜」

「へぁっ!?」

 

 前言撤回。いきなり驚かされたわ。

 

「顔真っ赤っ赤だよ〜もしかして照れてる?」

「それは多分気の所為だ」

「そうかな〜?」

 

 嘘だ。全力で照れてるわ。多分だけど今の俺の顔は林檎くらい赤くて、湯気が出るくらい熱くなってるんだろうな。

 

 あと青葉がさっきから本当にいいニヤケ面してやがるよ。何でそんなニヤケれるのってくらい笑ってやがる。

 何かその面を見てたらやり返してやりたいって言う気持ちが大きくなってきた。

 

 仕方ない、全てを酒の所為にしてやり返してしまうか。

 

「そう言う青葉だってめちゃくちゃ可愛いだろ」

「え?」

「だってそのさらさらの白銀色の髪とか最高でしかないだろ」

「ふぇ…///」

「それに加えてバンドもやってて格好いいとかもう惚れそうだわ」

 

 99%言わないと思っていたけど言ってしまうとはね。

 何より全ては酒の所為だ。もっとやり返してしまえ(暴論)

 

「会話してても疲れないし、むしろ楽しいしさ。青葉と居る時間が本当好きだわ」

「あ、あたしも君と会話するの楽しいよ〜」

「本当にいつもありがとな、青葉」

 

 そう言って後ろから抱きついてみる。所謂あすなろ抱きというやつだ。何となく流れでやってしまったが今、途轍もない羞恥心に襲われている。録画とかされてたら間違いなく悶え死ぬ。

 

 こんな大胆な事をしたにも関わらず、青葉は何も反応を示さないので気になって見てみるとちゃんと耳が赤くなっていた。ちゃんと照れていてくれていてよかった。そしてこの体勢のまま幾ばくかの時が流れていった。だがその後に青葉は俺の腕を払い、こっちを向いて抱きついてきた。

 

「ふふふ、ぎゅ〜」

「青葉?」

「えへへ〜あったかーい」

「青葉さん?」

「もうちょっとだけぎゅってして〜」

「……はぁ、しょうがないな」

 

 酔ったらスキンシップが激しくなるだけだと思っていたが、それだけじゃなくて甘えん坊になるんだな。可愛い。

 

「なでなでして」

「はいはい」

 

 そっと頭を撫でてあげると嬉しそうに笑った。

 その笑顔は写真に収めて飾っておきたいくらい可愛い。

 

「よしよし、可愛い可愛い」

「もっと〜」

「もっとって何だよ…」

「もう一声」

「ええ……よしよし、好きだよ」

 

 あっ、これ気付くの遅れたけど告白じゃねえか!?

 

「ほ…本気で言ってるの?」

 

 なし崩し的になったけども青葉に好意を持っているのは確かだ。多分ここで言わないと男じゃないな。

 

「こんな形になったけども本気だ」

「付き合ってください」

 

 俺の急すぎる告白に対して青葉はこう返事した。

 

「あたしで良ければお願いします」

 

 この返事によって晴れてカップルとなった。正直言ってめっちゃ嬉しい。嬉しくてたまらない。その気持ちは青葉も同じらしく普段のクールな顔つきからは考えられないくらい今の顔は笑顔で弛緩している。

 

「急に来たからモカちゃんびっくりしたよ〜」

「急で悪かったな。でも言えて良かったよ」

「これからもよろしくね〜?」

「こちらこそな」

 

 何度目かわからないハグをした後、お互い冷静になり、食器などを片付けた。

 その後駄弁ったりゲームをしていたらいつのまにかいい時間になっており二人で仲良く床に就いた。

 

 そして次の日、二人で仲良く登校していたらAfterglowの面子とばったりあってしまい、丸一日問い詰められて精神的にも肉体的にも疲労した。

 




ここまで読んでいただきありがとうございます。
遅れた理由はリアルの事情とスランプ入ってました。今回スランプの中絞り出した物なのでいつもより出来が悪かったら申し訳ないです。

そしてこの場を借りて評価を下さった、渡る泳ぎ手さん、amami0713さん、ボルンガさん、KRリバイブさん、ベルファールさん、KIRAMEROさん、MasterTreeさん、政影さん、普通の石ころさん、pigeon-dragonさん、syouyanさん、ジェニミさん、黒澤秋桜さん、絢瀬白さん、ワッタンさん、伊織庵さん、白スバルさん、マヨネーズ撲滅委員長さんありがとうございました!励みになりました!
感想や評価やリクエスト(書けるとは言ってない)をいつでもお待ちしてます!

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