「……ティーチが怖いって、どういう事だ?」
真剣な表情で聞いてくる。
うぅ…。今のビスタさんもちょっぴりこわい
まぁ、「怖い」の種類がちがうからいいんだけど
ビスタさんはちょっとおこってるから「怖い」
ティーチは得体が知れないから「恐い」
ビスタさんの方には温もりがある。心配してるからこそ怒ってくれているのがわかるから安心できる。
けど、ティーチは違う。ティーチの言葉には温かさがない。
「ティーチにいちゃ、"なにか"、たくらむ。め…。ひそむ…やしん。こわい」
「"何か"を企んだような目をしている、と言いたいのか?あいつに野心が潜んでいて…それが怖い。と?」
頷くと「ふむ…」と顎に手を当て考える素振りを見せる
「カルにぃ、ルカにぃ、けが。きえる。きく、した。わたし、どうぐ……。」
「カルガンとルーカスの怪我が治った理由をお前に聞いたんだな?その時、"人"ではなく"使えそうな道具"を見るような視線を送られたと。」
また頷く。
こんな単語繋げただけの言葉でよくわかるな、この人
「さっき過呼吸になってた理由はそれか?」
「それ、は…」
その理由を話したらどんな反応をするだろうか。
ここは海賊船でわたしもこの船の一員だ
人を殺したのを自覚したら吐き気がこみ上げてきたなんて言ったら追い出されてしまうだろうか?
「話してみろ、ニア。怒ったりしないから」
優しい。ほんとに優しい
この人たちの優しさに涙が出るぜ。
「ティーチにいちゃ、いう。ひところす。なにか、おもう、しない?ひと、ころす。じかく。きもちわるい」
「……………人を殺したことを自覚したら気分が悪くなったのか…。……そうか」
え?!一言!!?それだけ!?
海賊やってる以上避けては通れない道だからそんな小さいこと気にするなボケぇえぇぇ!!!ってことか!!
はっ!!もしやこれも調査か?!やっぱりわたしクビ!!?
「ニア。あのな…お前に言っておきたいことがある」
なんかすごい難しい顔してる。
ほんとにわたし何かした!?
「ここは海賊船で、俺たちは海賊だ。だけど、家族でもあるんだ。お前もこの船にいる以上家族だ。家族が傷つくのは誰だって嫌だろう。お前が命をかけてカルガンとルーカスを守ったように俺らもお前を守りたいんだ。年長者として、兄貴としてお前を守ってやりたいんだ。ほかのやつらも同じことを思ってるだろう。今回の一件、お前にそんな大きな怪我をさせたこと、みんなが後悔してると思う。本当はお前がもう少し大きくなってからにしようと考えてたんだが予定を早めてすぐにでも稽古をつけようと思っている。自分の身は自分で守れるようになってもらうぞ。その方が守る側としてもありがたいからな」
・・・・・・・。わっつ?
あれ?わたしクビじゃないの?この言い方、わたしに修行させるってことだよね?
「イゾウが言ってた。お前、昔…と言っても数年前だが暗いのと1人が怖いって泣いていたと。それで、刀とか銃とかも怖くないわけがないって言って武器を持たせるのを反対していたんだ。だから今聞こう、ニア。お前は武器を持つのが怖いか?」
……怖いに決まってるだろそんなの。
わたしは小さくうなずいた。
「…そうか。」
「きずつける、こわい。でも、かぞく。きずつく、もっと…こわい。だったら、たたかう、する。みんな、まもる。」
「…………………合格だ。」
ビスタさんがボソッと呟く
へ?合格?
なにが?なんの話?
「ったく。ガキのくせに決意はいっちょまえかよい。これからかなりハードになるぞ。覚悟しとけよい」
どっから出てきた、
そういやこの人、よく船の中でいなくなったわたしをいつも1番に見つけてくれてたよな?!
何!?レーダーか何かついてるの!?なんで場所がわかるんだ!!
「…どこから入ってきた、マルコ。」
「ドア以外にどこがあるってんだよい?」
真顔で言うな!!
というか全然気づかなかった!
「たまたま、お前がニア抱えて部屋に入っていくのが見えたんだよい。気になったからすこし聞き耳たててただけだ。」
堂々と盗聴宣言!!
ここまでくると清々しい!
「この船一番のシスコンだな、お前…。ニアの居場所がわかるレーダーか何かついてるのか?」
「そんなレーダー付いてたらあんなに肝冷やして探し回らねぇよい。見聞色に引っかからねぇから船内走り回って迷子のこいつ探してたってのに…。それにシスコン具合ならみんなかわらねぇと思うぜ。まぁ、いいよい。ニア、とりあえずお前は怪我が治るまでにちゃんと言葉を覚えろよい。それはそれで可愛いから放置してたが意思の疎通に時間がかかりすぎるよい」
けんぶんしょく?
なんだそれ
「うちの長男のシスコン具合が日に日に増していく…。これでいいのか、この船」
ビスタさんがなんかボヤいてる
可愛いから放置って…
そこは注意しろよ!!あなた兄でしょ!?
そして怪我が治るまでにって、身についてきた喋り方ってそんな簡単に矯正できるものなの?!
全治どのくらいか知らないけど!!要は船医さんの許可が出るまでにってことでしょ!?
ハードっていうか鬼畜だろ!
言うなればイージーからアンノウンにまで難易度跳ね上がったものだよ!!?
ちくしょう!やってやるー!やればいいんでしょ!?
「とりあえずティーチの件は厳重注意だよい。オヤジにも報告して様子見だな」
「………初めから盗み聞きしてたなら入ってこればよかったじゃないか。まぁ、賞金首に立ち向かうくらいのニアがかなり怯えたんだ。何かあるのは間違いない」
本当にその通りです。全部聞いてたんかい!
そしてそんな簡単にわたしの話信じてくれるの!?なんの確証も根拠もないのに!!
「で、誤解は解けたかよい?ニア」
「ごかい…?」
ゴカイ?あ、それは魚釣る時のエサか。
「なにか勘違いしてただろう?俺たちが家族をいらないなんていうわけないじゃないか」
・・・・・・・・・。
か ん ち が い………だと!?
わたし1人でクビとか置いてけぼりとか考えてたってこと!?なにそれすっごい恥ずかしい!!泣き損じゃん!
え、気づいてたなら早く言ってよ!!あれ?いうタイミングがなかったか?
え?じゃあオヤジさんが難しい顔して途中ででてったのは別の理由?!わたし処刑じゃなかったの!!?
「ははは!!そんな
人の顔見て笑うなよ!失礼だな!!そしてそんな
***********
-マルコサイド-
廊下を歩いているとビスタがニアを抱っこして部屋に入っていった。
一瞬しか見えなかったけどニアの顔が少し陰っていた気がした。
「(…またなんかあったのかよい?)」
そう思った俺はビスタが入っていった部屋の近くまで行き、壁にもたれかかった。
「ティーチにいちゃ、こわい」
ニアの声は少し震えていた。
あの気丈な娘がここまで怯えるってことは相当怖かったのだろう。なにがあったのか知らないが…。あとでビスタから聞き出すかよい
「さっき過呼吸になってたのはそのせいか?」
過呼吸?おいおいおい…。
あいつ相当参ってんじゃねぇの?ちょっとケアしてやるか
次、停船したところで少しだけ外に出してやろう。もちろん十分注意はするが…
「ひと、ころす。じかく、きもちわるい」
えーっと、人を殺したって自覚したら気持ち悪くなったってことかよい。
それは海賊やってる以上避けては通れない道だからな。仕方ねぇ事だよい。
ニアの喋り方はたどたどしくて可愛いが理解がワンテンポ遅れるな…。言葉もしっかり教えるかよい
あれ?俺ってやっぱり過保護かよい?
ビスタが俺らの気持ちを総じてニアに伝えてくれた。ニアも自分の思いを教えてくれたよい。
「わたし、まもる…したい」
まだガキもいいところなのに意思が固いな。
嬉しいような、寂しいような…。
俺が部屋に入って声をかけると2人して驚いた顔をした。
そんなに驚かなくてもいいじゃねぇかよい…
「どこから入ってきた、マルコ」
「ドアから以外にどこがあるってんだよい?」
あぁ、ふつうに気づかなかったのか。
「で、誤解は解けたかよい?ニア」
ニアは最初、きょとん。としたあと、その意味を理解したのか顔を真っ赤にした
えっ…。こいつこんな顔するのかよい!?
「ははは!そんな表情もするんだな!ニア!」
ビスタがそう笑う。
俺も同意見だ。はじめはどうなる事かと思ったがこいつが来てくれてよかったかもしれねぇよい
-サイドエンド-
***********
色々話したら楽になった
頼れる大人がいるっていいね!
「さて、お前は早く怪我を治…………ちょっとまて」
「マルコ?どうしたんだ?」
「ニア、お前カルガンの怪我も治したかよい?数時間前、船医がカルガンの怪我の具合を見ようとしたら綺麗に無くなってたって」
あー。迂闊に使わなきゃよかったかな?
それでティーチも知ってたのか。どうやってかして情報を聞き出したんだろうな。その執念怖すぎる
喋るの疲れてきたから頷いとこ。たしかにカルガンの怪我も拒絶したし
「自分の怪我は…治せねぇのかよい?」
…………っ!!!
そうだ!そりゃそうだ!普通そこ疑問に思うところだよね!しくじった!やっぱり話すべきじゃなかったんだ!!
って、ちょっとまって。落ち着けわたし
あの
『自分以外の人に起こった出来事は全否定できる』
『自分に起こった出来事は感覚に携わる程度にしか否定できない』
…それって………それってまさか!!
うわぁ…………。気づきたくなかった。
一度思考してしまったら止まらず、パズルのようにピースがハマっていく
つまり、だ。
例えば誰かが腕をなんらかの原因で無くしたとする。けどその事実を"拒絶"すると、腕がない事を無かったことにできるんだ。
つまり、腕を無くした"事実"を"無かったこと"にする
…人が目の前で死んでも"死んだ"という『事実』を"拒絶"することによって、
そして、自分に起こった出来事は感覚に携わる程度しか拒絶できないというのは感覚機能なら拒絶できるってことかな。
例えば、痛覚の拒絶。
痛覚を拒絶すればきっと痛みを感じなくなる
痛みを感じないってことは致命傷でも気づかない。下手したら死ぬ
怪我も病気も"人"は治せるけど"自分"は治せない。
そして、拒絶って言うのは、否定とほぼ同じ。
わたしが"否定"した事実は全てなかったことになる。
敵の攻撃も無機物ならなんでも生まれてこなかったことに出来ると思う
けど、生き物は別だ。生命には記憶がある。
わたしが【人の存在】を拒絶しても誰かの記憶に拒絶した人の存在があれば矛盾が生まれる。
だから
くそっ。なんて力渡してくれたんだ、あの自称天使!!
来世の果てのそのまた先まで呪うぞばかやろう!!
「じぶん、けが。きょぜつ…できる。しない」
これはどうしても知られちゃいけない。マルコさんといえど、オヤジさんといえど、知られるわけにはいかない事だ
「拒絶…?まてニア。お前、自分の力がどういうものかわかってるのか?」
「これいじょう、はなす。できない。まだ、かくしょう…ない」
確証はない。わたしの考えが正しいかどうかを証明できる事実も物もなにもない
けど、その考えはほぼ確信に近かった
「………わかったよい。じゃあ、お前の中で答えが出たらまた話してくれよい」
ちゃんと話せばわかってくれる人たち。
その優しさに時々胸が痛くなる……。
守ってみせる、この優しい人たちを
この力のせいでたとえ嫌われても、恐れられても絶対に…