甲板に出るとすでに小船が用意されていた。まさかイオンさんここまで予想して用意してくれた!?
あの人一体何者!!?
そんなことを思いながら小船に乗りサルド山へと向かうと途中で雨が降ってきた。
…運の悪い…。まぁいいや、いまさら引き返す気もない。
気を抜いたらすぐに意識が飛びそう。なにこれ、なんのゲームだ。
無理ゲーか、クソゲーか…。なんでもいいや、無理だろうが無茶だろうがやってやる!わたしだって、やればできるんだ!!
サルド山つき、船が流されないように近くの木に結びつける。
…これて、よしっ!っと
さて、千年草は頂上付近だったな。…登るか。
船を出た時は小降りだったけど、いつのまにか本降りになってる。
こりゃ急がないとヤバいな
ひたひたと降り注ぐ雨の中わたしはひたすら山を登った。
すると山賊と思われる人たちと出会ってしまった。
「お?こんなとこに子供がいる!へへっ。お嬢ちゃん、雨の山は危ないよ?おれらとおいで?」
構ってる暇はないから彼らを無視して歩みを進める。
「おいおい、無視か?結構優しく言ったんだけどなぁ…。なら死ぬか?」
そう言って彼らは刀を取り出す。ざっと10人ちょっとか。
熱と寒さとはっきりしない意識にわたしはイラついていたこともあり、山賊に対して「うざい」くらいにしか思わなかった。
彼らはわたしの心中など知るわけもなく刀を振り下ろしてきた。
まだ体力づくりと、筋トレくらいしかしてないのに何故か彼らの動きがわかる。体調悪い時に限って勘がいいときってあるよね。
軽々と彼らの攻撃をかわすがわたしは武器をまだ持っていない。つまり素手でやるしかない。…ん?そうだ、武器なら奪えばいいんだ。
なりふり構ってられるか。こっちは急いでるんだ。
「ッチ!ちょこまかと!!このっ!!………うおっ!!」
刀を振り下ろしてくる山賊の1人。
刀の側面に捻り切った拳を入れる、と同時に一気に捻りあげる
最速の払いと突きを同時にする技。
体術の本で読んだ覚えがある。これであってるのか知らないけど、攻撃が当たったから多分あってるだろう。
山賊が驚いて武器を落としたから相手より早くそれを拾い相手の方に向かう。
敵の前で飛び上がり頭上へと行く。体を捻り、旋回しながら相手の急所を確実に狙い剣を振るう。
相手の生死なんて気にしてる余裕はなかった
「いま、いそいでるんだ……。じゃまするな」
刃の先から滴る血。激しい動きをしたせいでフードが取れ姿があらわになる。
闇夜に光るオッドアイの瞳は彼らに恐怖を感じさせたようだ
「っ!!は、はいぃ!!ゆ、ゆるして!!」
戦意のなくなった彼らを見てわたしはフードをかぶり直し、血のついた刃を捨てて、残った山賊には見向きもせず先を急いだ。
***********
登れば登るほど寒くなってきた。上着、1枚くらい持ってきといた方がよかったかな…
頭痛いし、ぼーっとする…
足元もふわふわするし、これって結構まずいかな?
でもここで弱音を吐くわけにはいかない。諦めちゃだめだ
船で高熱にうなされてる家族を助けるためにここまで来たんだ…。もう少し、あと少し頑張ろう
早く薬草とって帰って…マルコさんに見つかって怒られて…それをハルタさんが宥めて、ビスタさんが微笑ましく見てて…
そんな光景を想像する
あぁ、幸せだなぁ。いつのまにかここの生活に馴染んでたんだなぁ。
目まぐるしく忙しい毎日だったから気づかなかったんだ。
「なっ!こ、こんなとこに子どもがいるぞ!!お嬢ちゃん!ここは危ないよ!1人かい?!」
今度は白いコートを羽織った人たちが駆け寄ってきた。背中に正義と書かれている。海軍将校か…、厄介な
こんなところで足止めを食らいたくない
「か、まわないで。いそいでるの」
駆け寄ってくる人の手を払い頂上を目指して歩く。
「ふらふらしてるじゃないか!だれか手を貸せ!この子を保護するぞ」
保護!?冗談じゃない!そんなことされたらみんなが危ない!
「かまうなっていってるだろ!どけっ!!」
わたしがそう叫ぶとコートの人たちが次々と気絶していった。わたしの1番近くにいた人は気絶はしなかったものの腰を抜かしてる。
なにが起きたのか自分でもわからないけど今のうちに…
わたしは駆け出し一気に山を登った。
「覇王色の……覇気……」
そう誰かが呟いた。
***********
-?サイド-
最近山賊がうろついているからなんとかしてくれと市民に言われサルド山に派遣された。
山に着くと雨が降っていて、捜索は後日にしようと思った。派遣された兵は7人。中尉が3人、少佐が2人、大佐が1人、そしてわたし、少将が1人だ。
わたしはしばらく暇だから駆り出されただけで、今回の山賊はそんなに強くはないらしい。だが、まぁ、念には念をだな。
雨よけの場所を探していたら小さな影が見えた。よく見ると4、5歳くらいのフードをかぶった小さな子どもだった。
迷子か?それとも遭難したのか…
駆け寄って手を伸ばすと急いでるから構うなと払われた。
だが、目の前の子どもは明らかに様子がおかしかった。足元がおぼつかず呼吸も荒い。
だが、何か興奮しているようで大人しく保護されてはくれないと思い、何人かに助けを求める。
「かまうなっていってるだろ!どけっ!!」
そう子どもが叫ぶと心臓を潰されるような圧力がかかり、わたしと大佐以外は気絶した。
わたしも大佐も気絶こそしなかったものの至近距離でその圧力を受け、腰を抜かしてしまった。
これは…覇王色の覇気!?
こんな子どもが…会得してるというのか?!
子どもは動かなくなったわたしたちを一瞥すると山頂を目指して消えていった。
しばらくの沈黙…。ようやく動けるようになった大佐が声をかけてきた。
「少将、今の子は…。」
「わからない…が、ただならぬものを感じた。アレが将来敵にならなきゃいいな…」
心臓を……全身を握りつぶされるような高圧的な圧力。
全身の血が見えない傷口から流れ出るような感覚に震え上がった。
わたしは気絶した部下を運びながら少女の消えていった方をしばらく見つめていた
-サイドエンド-
***********
もうすぐ山頂だ。この辺りにあるはず
えっと、気温が低くて湿度の高いところ。だっけ?…あの岩陰とかどうだろう
そう思い岩の裏を覗き込むと小さな空洞があり、その下に隠れるようにして花が咲いていた。
白く小さな花に、ギザギザした葉。上を向いた花弁。特徴は全て一致する
…あった!千年草…。
子どもであるわたしがやっと入れるくらいの小さな空洞…。そりゃ、なかなか見つからないわけだ。えっと、希少だから摘み取りすぎたらだめよね?…けど、こんなもんあれば十分だな。
優しく丁寧にいくつか摘み取ると、持ってきたオレンジ色の巾着に入れ紐を縛り落ちないようにした。
よしっ。あとは戻るだけだ。あのコートの人たちまだいるかな?
いないといいなぁ。なんかすごい驚いた顔してたけどわたしなんかしちゃったかな?何人か急に気絶したし、あれってもしかしなくてもわたしのせい?誰かが、はおうしょく?とか言ってたような…
あぁ、頭クラクラする。考えるのは後にしよ。なんにしろ早く戻らないと…。
今度は来た道を戻るためにひたすら坂を下る。
ガラガラガラ…
なんだろう、なんかすごい嫌な音が聞こえた気がする。
後ろを振り返ると土砂が流れてきていた。
ど、土砂崩れ!?やばい!
わたしは脇に逃げようとしたが限界が来たのか足が動かなかった。
「ーーーっ!!(帰るって、絶対帰るって約束したのに…。ごめん、イオンにぃちゃ…)」
「
聞き覚えのある声と共に土砂が凍りついた。
これはまさか……
「あお…き…じ…」
「久しぶりじゃないの、ニアちゃん。1人かい?って、ニアちゃん!?あらら…。随分と酷い熱じゃないの。ったく、白ひげは何やってんだ…」
顔見知りとあったせいか緊張の糸が切れ、簡単にわたしは倒れてしまった。ふわりと、体が宙に浮く感覚を覚える。青雉がわたしを担ぎ上げたんだろう。もう抵抗する力もない…か。薄れゆく意識の中で青雉が「しぬなよ、ニアちゃん」とか言ってたのは聞かなかったことにしたい。海軍が海賊にしぬなよ、って馬鹿じゃないのか、こいつ…
***********
-クザンサイド-
ーープルプルプル…ガチャ
「もしもし?」
《クザン大将!こちらレモネードです!今どちらにおられますか?》
あー、少将か。サボってばかりいるから仕事しろってきたかな?
「今、、、サルド山に向かう海域を抜けたところあたりかなー?どうしたの」
《!!なら、申し訳ありませんがサルド山に来ていただけませんか?山賊の討伐に派遣されたのですが謎の子どもにより部隊がほぼやられてしまって》
「謎の子ども?1人か?」
《はい。1人でした。フードをかぶっていて顔はわかりませんでしたが4、5歳の子どもです》
フードをかぶった謎の子ども。
俺はいつかあった1人の少女を思い出す。だが、あいつなら1人で山をうろつくなんてできるはずがない
あの過保護な奴らがそばにいるからな。
《明らかに様子がおかしかったので保護しようとしたのですが…その、子どもの覇王色に隊員がほとんど気絶してしまって、調査どころではなくなったのです。》
様子がおかしかった?
しかも、覇王色だと?
どう言うことだ?
…まぁ、気になるし行ってみるか。
「わかった。子どもの方は任せてちょうだいよ。ただ、センゴクさんには報告するな。俺の現在地がバレたら説教じゃすまねぇのよ。あとはなんとかしとくからとりあえず一回撤退して頂戴な」
《あなたまた仕事サボったんですか…。仕方ないですね。今回ばかりは黙っておきます。…了解しました。お手数おかけします!》
ーーーガチャ
伝電虫が切れたのを確認するとため息をつく
…はぁ、まじかよ。ニアちゃんだとするならほんとに何者よ…。
とりあえず行ってみるか…。
方向を変え海を凍らせながら自転車を漕ぐ
サルド山に着くと隠すように船が木に括り付けられていた。
まさかあんな小船できたってーのか?
どっからきたかしらねぇがよく迷わずにこれたな
航海術も使えるのか?あの子…
考え事をしながら少し登ると山賊たちがガタガタと震えながら隅っこで縮こまっていた。中には怪我人もいるようだ。こいつらが少将の言ってた山賊か?
「おい?」
「ひっ!ひぇっ!!ご、ごめんなさい!許してえぇぇえ!!」
なんだこいつら。
何かに襲われたのか?完全に戦意喪失してやがる
「おいおい、そんなに怯えることないじゃないの。俺何かしたかい?」
「え…。あ、大人?」
俺の声に反応し、命乞いをした奴が顔を上げるとそんなことを言った。
子どもと大人の違いくらい声でわかるでしょ
「ア、アニキたちが一瞬で血を流して倒れたんだ…。あんなにガキなのに…容赦も躊躇いもなく首を…喉を…あらゆるを急所を狙って一撃で!!」
両手で頭を抑えてガタガタと震える山賊。
「何人かがやられた。俺達は医学の知識を持ってねぇからかろうじて生きてる奴らも死を待つばかりだ。……まだ二桁にもなってないようなガキが…全身が震え上がるような殺気を出したんだ…!あんなの……化け物っ、じゃねぇか!!」
「ふーん。話は後でゆっくり聞いてやる。とりあえず捕まっとけ」
「?!まさか、かいへ…」((ピシピシピシ
とりあえず氷漬けにしとけばだれか回収しに来るでしょ。
あとで本部に連絡入れとくか
そのあと山を登り続ける。
…これ、ガキが登りきれるような山じゃないぞ?ほんとにニアちゃんここ登ってったのかな?いや、まだニアちゃんだと決まったわけじゃけど
ガラガラガラ…
…この音は、どこかで土砂が崩れたか。……ん?
目の前を見ると黒いフードをした子どもが土砂を見ながら呆然と立っていた。
え、逃げるそぶりもしない?!ちょっと!!死ぬぞ!?
というか、俺も土砂に巻き込まれる!!
「
土砂を凍らせると、フードの子がゆっくりこっちを向いた
「あお…き…じ…」
その声はとても弱々しくて確かに普通じゃなく、かなり弱っていることがすぐにわかった。
だが……間違いないな、ニアちゃんだ。
「久しぶりじゃないの、ニアちゃん。1人かい?って、ニアちゃん!?あらら…。随分と酷い熱じゃないの。ったく、白ひげは何やってんだ…」
ニアちゃんに話しかけると彼女は倒れてしまった。慌ててその体を受け止めるとかなり熱かった。
オイオイ、この高熱でこの雨の中でこの山を登ったのか?!
むしろこの熱でよくここまできたな!!
無茶にもほどがあるだろ!!
「死ぬなよ、ニアちゃん。」
なぜかそう口走ってた。聞こえないといいな。こいつのことだから「かいぐんがかいぞくのしんぱいしていいの?!」とか言いそうだ。
俺はニアちゃんを抱き上げると雨をしのげるところを探した。
-サイドエンド-
***********
……ハルにぃ、カルにぃ、早く良くなって…
パチっ
目を覚ますと見慣れないところだった。
体は相変わらずだるくて頭も痛い。
体を起こすと氷の溶けた氷のうが落ちてきた。ん?氷のう??
「…?……??………???」
あたりを見渡すと、パチパチと火が焚かれていてわたしの隣には千年草の入った巾着が置かれていた。一瞬焦ったが中身は無事だった。
わたしのパーカーは干されていて見おろすと「正義」と書かれたコートがかけられていた。
「?????」
何が起こったのかまるっきり記憶がない。
青雉とあって…どうしたんだっけ?
「……濡れた服が体温を奪うからよ、とりあえずパーカーだけはと思って脱がせたとき銀髪だったのには驚いたが、まさかオッドアイとはな…。こりゃ、隊長たちが過保護にもなるわけだ」
対面で青雉が胡座をかいて座っていた。
「あお…きじ?」
「あー、今はクザンでいいぜ?別にお前捕まえる気ないし。つか、お前に手出したら確実に戦争が起こるから止めとくぜ、面倒くさい」
「なら、わたしかえる」
そう言って立ち上がろうとするが視界が歪んでふらついてしまう。
対角に座ってたはずの青雉がいつのまにか私の隣にいて支えてくれた。
「そんな体でどうやって帰るんだ?またどっかでぶっ倒れるだけだぜ?せめて雨が上がるまで待て。」
「でも、あさまでにかえらないとみんなしんぱいする」
「あらら。何も言わずに出てきたの?ニアちゃん」
「おきてがみは…のこしてきた」
「……今頃船は大騒ぎだぞ、それ」
まぁ、落ち着け。と、クザンさんに諭される。彼はわたしの腕を掴んで座るとわたしを膝の上に座らせた。
「こおらせる?」
「そのつもりなら介抱なんてしないだろ」
「なんでかたいれするの?てきなのに」
「お前を気に入ったからだ。それにお前の存在を海軍では俺しか知らない。お前助けたところで海賊を助けた、にはならねぇのよ。いざとなったら揉み消せばいい」
「やっぱりしょっけんらんよう…。」
「あらら…相変わらず辛辣じゃないの」
心外な。と言う表情を浮かべる青雉だが間違いでは無いと思う
「どうしてそんな高熱で1人でここまできたんだ?」
「てきにおしえることはない」
「えーー。いーじゃん。教えて頂戴よ」
「こどもか」
「俺は大人よ?どこからどうみても立派な大人よ?」
「みためはおとな、なかみはこども」
「酷いっ!!熱があっても毒舌は変わらねぇのか!?ニアちゃん!じゃあ、教えてくれるまで離さないぞ!」
そう言って彼はわたしを後ろから抱きしめる
…すっっっごい癪だけどこの人冷たくて気持ちいい。
そんなことを思うのは熱があるからかな?いいや、氷のうがわりに使っとこ
「あおきじさん…つめたくてきもちいい」
彼の体に身を預けると目に見えてうろたえた
バッ!と効果音がつきそうな勢いで手を離す
「ちょっ!!えっ!?なにこれ夢!?こんなとこあいつらに見られたら俺確実に殺されるんだけど?!」
青雉の言葉でみんなのことを思い出す。
そうだ、早く帰らなきゃ
「にぃちゃ……。いま、かえる」
彼の膝から降りると巾着を持つ。
だが、「待て待て待て!」とすぐに止められた
彼はわたしが持った巾着の中身を見ると目を丸くする
「それ、千年草じゃねぇか。……なんだ?今、奴の船は風邪でも流行ってんのか?つか、よく見つけたな。その草希少なんだろ?」
「はなして」
「嫌だね。さっきもいったがそんな体でどうやって帰るつもりだ。今度こそ土砂崩れに巻き込まれて死ぬぞ?せっかくその草見つけたんなら生きて持って帰ってやれ。」
なんか…優しい?この人
「凍えねぇ程度に熱さまししてやるから大人しく寝てろ」
そう言って彼はわたしを横にする。ちゃっかり膝枕されてるんだけど
「こんなとこあいつらに見られたら俺確実に殺されるな」
「なら、やめれば」
「あらら、俺のこと心配してくれんの?」
「べつに」
「お前なら今どうするべきかわかるだろ?俺に敵意もお前を捕まえる気もない」
「………。」
「まぁ、警戒する気持ちは分からんでもないがな。だが、今のお前を逃す気もない」
確かに逃げれない。
今の状況でこの人の目を盗むのは不可能だ。
でも…絶対無事に帰るって約束したから何がなんでも帰るんだ。
…だから心配しないでね、イオンさん。
わたしもやればできることを証明しなきゃ!