ーガチャ
部屋から出るとイゾウがドアの近くの壁にもたれかかって腕組みをして立っていた。
「籠の中の鳥のように船からあまりだせず、人との関わりがない中でお前は誰よりも人の感情に敏感だ。」
…ん?!いきなり何?!どうしたの?!!
「…何をポカンとしてるんだ?俺たちがお前を信じる理由だ。エースだってそうだろう?お前が辛そうだっていって声をかけ続けたお陰でこうして今がある」
「なんだ、聞いてたのか、イゾウ」
「サッチがニアを連れて部屋に入っていくのが見えてな、何事かと思ったんだ。」
マルコといい……盗み聞き好きか!
「ごめんね、わたしのせいで…。なかまはうたがいたくないよね」
そう言うとイゾウにデコピンされた。
「あたっ!」
驚いて顔を上げて額を抑える。
「気にするな。俺らは俺らの信じたいものを信じるだけだ。お前もそうだろ?」
…うん、その通りだ。
カッコいいなぁ、お兄ちゃんは
「うん!ありがとう、イゾウ、サッチ!」
そう言うと彼らは口角を上げる
「ふむ、やっぱりいいな。」
「ちょっと照れくさいけど」
ちょっとか!
こっちはかなり抵抗あるよ!呼び捨てにするの!
***********
ーエースサイドー
マルコに人のいない部屋に連れられてニアの話を聞く。
「あいつはな、非能力者で拒絶の力が使えるんだよい。ありとあらゆる物事を"否定"する。そんな力だ。簡単に言えば無くなった腕もその事実を拒絶すれば元に戻しちまうってことだな。」
…なんだ、それ。
無くなった腕も元に戻す?!そんなの回復とかそんなレベルじゃないぞ!?そんな力持ってんのか、あいつ
ん?ちょっとまて。否定する力…無くなった腕も元に戻す…
まさか!
「それって、死んだ人間ですらその事実を"否定"したら生き返るってことか?!」
「………察しが良くて助かるよい」
…………っ!!
それをニアは自覚してるのか?!いや、きっとわかってる。だから自分からもあまり外に出たがらないんだ。何があるか分からないから
「それでこの前、魔法?ってのが使えるようになったのに気づいたらしい。お前も見たんじゃねぇかよい?」
あの水のビームみたいなやつか。
サッチも能力者じゃないって言ってたな。
「だからお前らはニアを外に出さないのか?出しても甲板だろ?」
「まぁ、そう言うことだよい。ニア本人もちゃんと理解してるし、あの容姿だ。外に出ても満足に歩けやしないだろう」
たしかに。おれたちはいいが、よくよく考えたらあの見た目は普通じゃない。そういや、ニアも言ってたな。「ここから一歩でも出ればきっと差別の対象になる」って…。
あいつがあんなに明るくて真っ直ぐ育ったのはこいつらが側にいたからか…
「なのに人の感情にはすごく敏感でな、お前もそうだろ?ニアの奴、お前が辛そうな顔してるって言ってずっと話しかけてた」
そうだ。事あるごとに話しかけてきた。何度「構うな」と突き放しても大丈夫?って聞いてきてくれた。
「だから俺たちはあいつの味方をしてやりたいんだ。…ニアはティーチを警戒している。結構前からだが、ティーチが怖いって距離を置いてるんだ。」
…だからさっきあんなに怯えてたのか。
「それで最近になってティーチがニアの情報を集め出した。これはきっと何かある。だからエースも少し気にかけておいてくれよい。俺たちはニアを好きで閉じ込めてるわけじゃないんだ。あいつは知られちゃいけない存在なんだよい」
「わかった。気をつけるよ。話してくれてありがとな!」
あいつも苦労してんだな…。
聞かねえと何も喋ってくれないくせして人のことは知りたがる。あの小さな子を支えてやりたい。そう思った。
ーサイドエンドー
***********
マルコ、エースに何話したんだろう。
あれ以来、前以上にエースがくっついてくるようになった。そのかわりあまり連れ出そうとはしなくなった。
行動力がかなりあるからいろんなところ飛び回ってるみたいだけど暇な時とか船にいるときはほとんど側にいる。
「なぁ、見てくれニア!これ、俺の弟なんだ!」
エースがある手配書を持って指をさした。
麦わら帽子を被って満面の笑みを浮かべた顔写真。目の下にはキズがある
「モンキー・D・ルフィ?へぇ〜、エース、おとうといたんだ。」
「あぁ!オヤジたちにもみせてくる!」
嬉しそうにそういうと早足で甲板へと走っていった。
弟か。あの麦わら帽子…シャンクスさんのかな?
あの人、今麦わら帽子してないもんね、前はしてたのに。
にしても、初期手配額が3千万ベリーか。曲者だな〜
さすがエースの弟。
「やぁ、ニア。珍しいね、1人かい?」
「あ、イオンにぃちゃ!」
「隊長たちに便乗してイオンでいいと言ったでしょ?ふふっ。まだ慣れないかい?」
「…うん。くせみたいなものだよ。そのうちなれるかな、ね!イオン!」
「そうだね。…おっと」
イオンが珍しくロビーにきた。
彼は何かに気づくと自然な動作でわたしを背に庇った
「何の用だい?ティーチ」
「ゼハハハ!イオンじゃねぇか!お前がここにいるのは珍しいな!」
「そうだね、ボクはあまり図書室からでないから。」
「よぉ、ニア!最近エース隊長に連れ回されてるみてえじゃねぇか!疲れねえのか?」
正直疲れるよ!あんなに体力馬鹿じゃない!!
けど、それ以上に楽しいからいいんだ。というかこの人なんで隊長がいないタイミング見計らってくるの?!ストーカーなの!?
「うん、めがまわりそうなくらいだけどたのしいよ!」
「…相変わらず、籠の鳥やってんなぁ。」
「ふふっ、健気じゃないか」
イオンがわたしをかばいながらも、ティーチに勘付かれないように自然に会話する。
この人やっぱりすごい。
彼が懐から懐中時計を出すと「おっと…」と言ってティーチを見た
「もうこんな時間だ。ボクたちはこれから用事があるんだ。ごめんね?行こうか、ニア」
そう言ってイオンがわたしの手を引き図書室の方へと向かった。
…用事なんてあったっけ?いや、きっとイオンが気を回してわたしをティーチから離してくれたんだ
しばらく歩くとイオンが話しかけてくる
「大丈夫かい?ニア。青い顔をしているよ?そんなに彼が苦手?」
「…うん。」
「まぁ、彼はボクも好きじゃない。あの笑い声…耳障りだ」
イオンが少し腹立たしげに言った。
えっ!?イオンの口調が乱れたところ初めて聞いたかも!!
このひと、めちゃくちゃかっこいい!?
図書室に行くと本が積まれていた。
「…いい機会だね、久しぶりに勉強していくかい?」
「うん!やる!」
その日はイオンと一緒にまた昔のように本を読んでいた。
***********
「「「ニア!」」」
「ルーカス、ロキアス、カルガン?どうしたの?」
ロビーのソファに座っていると三人衆が声をかけてきた。
「居たから声をかけただけだ!」
「天使がいるのに声をかけない術はない!」
「そうだな」
どういう事だ…。しかも天使って
「ニアはよ、その。外に出たいって思わないのか?」
「隊長たちだって好きでニアを閉じ込めてるわけじゃない。頼んだら少しくらいは出してもらえるだろう?」
「ニアがいいならいいんだけどよ、ときどき思うんだ。…天使みたいな翼があったらニアはここからでてっちまうんじゃないかって」
窮屈してないか?と、そう言った。
「ふふっ!しんぱいしすぎだよ!わたしはすきでここにいるの。はねがあったからっていってどこかにいくことはないよ。わたしのいえはここだからね!」
「「「!!!」」」
そういうと三人衆は嬉しそうな顔をし、抱きついてきた。
「やっぱり天使!」
「うちの妹天使!」
「ニアエル万歳!」
最後のは何か違う気がする…
そう、わたしの家はここなんだ。
外の世界を知らなくてもいい。外に出れなくてもいい。
わたしはただここの人たちと一緒にいたい。それ以上は何も望まないよ
だから、安心してよね。
***********
ある日甲板でエースと喋っているとサッチが歩いてきた。
「おっ!相変わらずニアにべったりだな、エース!マルコに劣らないシスコン具合だ!」
「ハハハハハ!そうだな!ニアといると安心するんだ!」
人を安心させる力なんて持ち合わせてないけどなー
まぁ、いいか。それが本当なら嬉しい
「あぁ、そうだ。2人とも!いいもの見せてやるよ」
そう言ってサッチは変な模様の木の実を取り出した。
「あ、それ悪魔の実か!」
「あぁ、まだなんの実かはわからないけどな」
悪魔の実か。能力者になったら泳げないんだっけ?
じゃあ、なんの実かわかるまでは食べない方がいいのかな?
能力を得たからっていって絶対に強くなるとは限らないんだろうか?
まぁ、わたしには必要ないけど。
サッチはあれどうするんだろうなぁ
ー時は迫り、幸せは壊れるー
月明かりが妖しく光る夜…。暗闇の中で鈍く光る爪から滴る血…
血を流して床に倒れ伏すサッチと耳障りな高笑いをするティーチ
ーーーーえ……?
なに………これ………?
……なんで、、、
なんでサッチが倒れてるの?
ティーチの持ってる鉤爪についてる血は誰のもの?
や、やだ……
やだやだやだ!!
夢?!
夢なら覚めてよ!!
「やぁっ!!!ーーーーっ!はぁっ!はぁ……。ゆ、ゆめ?」
自分の叫び声で飛び起き、さっきの光景は夢だった事を確認する。
嫌な汗が額から流れる
夢だとしてもわたしはいてもたってもいられなかった。
飛び起きた状態でそのまま部屋を飛び出し甲板まで一直線に走る
夢……だよね?
甲板に行ったらきっとサッチが笑顔で「どうした?」って聞いてくれるんだ。そうだよ、そうであって…
それはただの"願望"
けど、願わずにはいられなかった。
甲板へ繋がるドアを乱暴に開けると体を海の方へむけ悪魔の実を見ながらなにか考えている様子のサッチがいた。
「サッチ?…サッチ!」
「ん?ニア?どうしたんだこんな時間に。怖い夢でも見たのか?」
わたしが声をかけるとこちらを向いて笑いかけてくる。
……やっぱりただの夢だった?……ならよかった…。
サッチの方にゆっくりと近づく。
「サッチ…。」
「本当にどうした?様子が…」
安心したのも束の間。彼の背後で影が動いた。
彼の後ろにはティーチの姿が…
「ーーーーーっ!!!サッチ!あぶないっ!!」
「っ!?うわっ!!」
わたしは駆け出しサッチの腕を掴むと横へと放り投げる。
その時に彼は悪魔の実を落とした。
精神が安定してなかったせいか冷静な判断ができず、わたしは防ぐ術もなしにティーチに貫かれた。
「ゼハハハ!お前の方から飛び込んできてくれるとはな!ニア!!おかげで簡単に欲しいもんが全部手に入りそうだぜ!」
「ーーっ!?はぁっ!あっ!!はなっ…せっ!!」
「ゼハハハ!悪りぃな、ニア!7秒程我慢してくれや」
ティーチはすぐさまわたしから鉤爪を抜くと首を締め上げ呼吸が出来なくなる
「ニア…。一体どうし……ニ、ニア!?」
「ゼハハハ!命拾いしたなァ!サッチ隊長よォ!!」
「ティーチ!!?てめぇ…ニアを離しやがれ!!」
そう言ってサッチは剣を抜きティーチに斬りかかるがわたしを盾にする
「ーーーっ!」
「ゼハハハ!こうすれば手ェだせねぇよなァ!」
「ぐはっ!!」
サッチの動きが一瞬止まりその隙をつきティーチが蹴り飛ばすとサッチは壁に背中を打ちつけ倒れる
「ーーっ……!!(サッ……チ……)」
サッチの名前すら呼べず、わたしは意識を手放した。
***********
ーサッチサイドー
俺が悪魔の実を手に入れた日の夜。
それを見つめながらどうしようかと悩んでいると甲板へと繋がるドアが乱暴に開いた。
何事かと顔を向けるとニアが肩で息をしながら俺を見ていた。
「サッチ?…サッチ!」
「ん?どうしたんだニア?こんな時間に…」
明らかに様子がおかしい。
怖い夢でも見たのか?
ニアはふらふらとしながら俺の方に近づいてくる。
何かあったのだろうか?
そう思っているとニアの表情が変わった。
「サッチ!あぶない!!」
「っ!?うわっ!!」
いきなりニアが駆け出したと思ったら俺を横へと投げ飛ばした。
こいつ見かけによらず力あるな!!
一体どうしたのかと思い顔を上げると信じられない光景が目に映った。
ティーチが鉤爪を持っていてその爪には血がついている。
そして奴に首を締め上げられているニアが苦しそうな声をあげていた。
ニアの下には血が滴っている。そこはさっきまで俺がいた場所だった。
……っ!!俺の代わりに刺されたのか!!
「ゼハハハ!命拾いしたなァ!サッチ隊長よォ!!」
「ティーチ!?てめぇ…ニアを離しやがれ!!」
俺はすぐに剣を抜きティーチに攻撃するが奴はニアを盾にする。
なっ!!あっぶな!!もう少しでニアを斬るところだった。
そんなことしたら後悔なんてもんじゃ済まねぇ!!
俺の動きが止まった一瞬の隙に奴は俺の鳩尾に蹴りを入れ、船の壁に背中を打ちつけ一瞬呼吸が出来なくなる。
くそっ。ニアは…ニアは無事なのか?!
痛む体を無理やり動かして必死に顔を上げニアを見ると気を失っているのか全身が脱力し、ピクリとも動かなかった。
そんなニアをティーチは肩に担ぎ俺が落とした悪魔の実を食べる。
「ーーっはぁ!まっじーなァ!!ゼハハハ!ついに手に入れた、ヤミヤミの実を!!ついでにニアもなァ!ゼハッ!ゼーハハハッ!」
耳障りな高笑いに殺意を覚えるが、逃げるティーチを見ていることしかできなかった。
「ニアッ!!ニアーーッ!」
俺は痛む鳩尾を押さえニアの名を叫ぶがそれで彼女が戻ってくるわけじゃない。
でも、そうすることしかできなかった。
悪魔の実なんかどうでもいい!!
ニアを…妹を守れなかった!
それどころか庇われて…あいつの言う通りだ。
ニアのお陰で俺は今、生きている。
「「「何の騒ぎだ?!!」」」
俺の叫びが聞こえたのか船内から人が集まってきた。
「サッチ?!どうしたんだよい!何かあったのか?!」
壁に寄りかかってぐったりしてる俺を見てマルコが心配する。
「おい、これは誰の血だ?」
イゾウが甲板の床についてる血に気づいた。
俺は何も答えなかった。いや、答えられなかった。
ショックが大きすぎて、顔を伏せたまま微動だにもしなかった。
「何とか言え!どうしたんだ、サッチ!!」
ビスタが俺の胸ぐらを掴んで問い詰める。
そこでやっと口を開くことができた。
自分でも驚くくらいの掠れた声が出た。
「…ニアが………攫われた。」
「「「「え?」」」
その一言で静寂が広がった。誰もが信じられないとでも言うように
「その血はニアのだ。俺をかばって刺された。そのあと首を絞められて気絶させられて、そのまま攫われた。…なにも、できなかった」
俺がそう言うと、その言葉に返したのはハルタ
冷静だけどその声は怒っていた。
「誰に、攫われたの?」
「…………ニアがこの船で唯一警戒していた奴だ」
「「「!!!!」」」
名前は出さなかった。それで通じるから。
「くそっ!まさか裏切るとは…!」
イゾウが右手で拳を作り左手の掌に当てる。
「チィッ。まずは行方を追うぞ!……立て!サッチ!!」
マルコが一喝し俺の襟を掴むと無理やり立たせる。
「裏切ってニアを攫って逃げ出すとは……よほど殺して欲しいみたいだな」
ビスタが静かに殺気立つ
「ニアは絶対に取り返す。許さない…!ティーチ!」
ハルタが怒りを露わにする。
だが、誰も俺を責めはしなかった。それが責められているようで苦しかった。
いっそのことお前のせいだと、お前が守れなかったからと、責めてくれれば楽なのに…!!
「なんでっ…、なんで誰も責めねえんだ!!俺のせいで攫われちまったのに!あいつにまた、怪我っ……させちまったのに…!」
「……なぜお前を責める必要がある?悪いのは裏切ったティーチだ。サッチを責める理由はない」
「泣き事言ってる余裕があるなら大丈夫だよい。とりあえず夜が明けるまで待つぞ。話はそれからだ」
…イゾウ……マルコ…。
そうだ、落ち込んでる暇なんてない!早くニアを助けねぇと!!
「あいつ、まず飛び込む癖を直させた方が良さそうだな」
「本当それだね。毎回毎回…自分の体を盾にするのはやめて欲しいよ」
「全くだ。あいつの体が鉄でできてるわけじゃあるまいし」
「鉄でできてたらただのロボットだろい」
…イゾウ、ハルタ、ビスタ、マルコ
…ありがとう、落ち着いたぜ。…ってあれ?
「エースは?」
「あぁ、あいつなら寝てる」
「「「寝てる?!?!」」」
これだけ騒ぎで起きねえってどれだけ爆睡してんだ!!
「俺でもサッチの叫び声で飛び起きたのに。ある意味すごいね、エース」
ハハハ…
みんな起こしちまったのか。悪いな
…ニア、絶対助けに行くから…無事でいてくれ
ーサイドエンドー