オサレ腹黒ヨン様忍者   作:パンツ大好きマン

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 展開予想は控えて頂けると助かります。作者のモチベ的に感想は全て目を通しているのですが、今は執筆を優先している為全てに返信できません。申し訳ないです。


オサレ死神ヨン様

 

 

 

 木の葉の街は過去類のないほどの賑わいを見せていた。街は人で溢れ、どの店も盛況。男も女も子も老人も、そして忍さえも戦時のような暗い表情はなく、笑みがこぼれていた。

 

 それを木の葉の顔岩から見下ろす男が一人。高所から彼という巨大な引力に惹かれて大気が渦状に巻いて吹き降ろす。流れる風は髪から顔へ。そして火影の名を背に冠したマントへと流れて、波風 ミナトの後背部ではためいた。その感覚に自身の立場と、憧れの存在になれた実感が湧いてきて、笑みを我慢できなくなり、口の端だけではにかんだ。彼に憧れる者も多い木の葉のくノ一が見れば、歓喜の声が周囲に響くことだろう。

 

 長きにわたる戦争は終わった。

 

 その終止符を打ったミナトが火影になることに周囲は諸手を挙げて喜んだ。まだ若いこともあり影で三忍の大蛇丸や、師の自来也に先に声がかかったことを後で知ったが、両者とも辞退してしまったらしい。ミナトとしても火影であることに何の不足もない二人だったが、ミナトが現在火影として選ばれている以上、二人の功績に負けないよう最大限努力するつもりだ。

 

 火影になること自体が夢ではない。火影になって忍の世を変えることがミナトの夢なのだから。

 

「そうだよな藍染」

 

 

 

 

 

 

 藍染は木の葉病院にいた。戦時中の怪我で未だにリハビリを続けている患者やPTSDの症状に苦しんでいる者が多くいる。そしてその分だけ特殊な術やチャクラの影響を受けた被検体や死体がたくさん病院には転がっているということだ。

 

第三次忍界大戦で藍染の功績は僅かなものだった。代理指揮官という立場もあり、藍染指揮で倒した岩忍たちは、敵の強襲で受けた被害や千手 長押(ナゲシ)の命令違反未遂の補填で全体の功績から天引きされる結果となった。そもそも木の葉は復興への資金繰りから、功労者全員に支払うに充分な金子を用意できなかったというのが事実である。

 

 岩の国や、その他の国から賠償金を受け取り次第順次支払っていくと公言しているが、各国も戦争で疲弊している為、そこまでの賠償金を受けとることは不可能に近い。下手に他国へふっかけても、支払い能力のない国はそれが原因で新たな争いが起きかねない。そうなればせっかく鎮火したはずの大火が、木の葉という火種で再燃してしまう。

 

そういった事情もあり、まとまった報酬はしばらく見込めない。無論一時金としてしばらくは余裕で過ごせるぐらいの金額は支給されたのだが、藍染が自身を強化するための軍資金には足りない。千手の本家からどういうつもりなのか、かなりの金子が送られてきたが、額が一個人で消費するには多すぎる量だったので、下手に利用しても足がついていらぬ疑いをかけられるのも気が進まず、此度の戦争で生じた戦争孤児の為の孤児院を火の国の山奥に建てることとなった。

 

 煩わしい噂話も聞く。かつての部隊員が積年の恨みを晴らす機会を奪った司令官を無能だと、二代目火影の残した血筋の最後があの始末だとは千手も落ちぶれたものだと、淫売女の血が濃く、本当に二代目の子との間に出来た子ではないだろうとも言われているらしい。奈良中忍や油女中忍、山中中忍らや一部の忍はその噂を否定してくれているが、話の真偽は噂話に必要とされていない。口さがない人々は、それがもっともらしく若い上忍の活躍を僻むことの出来る機会を狙っていたに過ぎないのだ。

 

 正式に火影に任命された波風 ミナト。四代目火影との接触は彼の品位を下げることになりかねないので、しばらく会うのは控えるよう御意見番に窘められたので、噂もかなり広まっているようだ。尤も御意見番ら里の上位陣は、忍鳥や信頼できる部隊の人員から話を聞いているようで、噂話は信じていないようだが、新任の火影に余計な話が伝わって只でさえ心労が絶えない責務に余計な厄介事を増やさないようにという厚意からのことだった。自他ともに認める真面目なミナトだ。友人の悪い噂話がささやかれているのを知っていて、放っておくことが出来ようはずもない。

 

 当の藍染にも彼らに構う暇はない。これまで以上に貪欲に力を求める必要がある。有象無象に些事で煩わせることのない高みへ。

 

黄緑(キミドリ)。その被検体の腑分けは慎重に」

 

「はい。藍染様」

 

 白衣に身を包んだ女性は神妙に頷く。肩まで伸ばした白髪に吸い込まれるような翡翠色の瞳。ほとんど体を隠しているにも関わらず、彼女の動作の一つ一つは洗練されていて、隠しきれない艶があった。生まれの名前をもう捨てた彼女はなり替わった木の葉の忍キミから名を借用して黄緑と今は名乗っている。幸いなことにキミは孤高の身だったようで、文句を言う相手はいないものの、知り合いに感づかれるのを恐れてのことだ。

 

 捕虜としてとらえた彼女は岩隠れも、霧隠れも認知せず、解放されようにも行き場のない彼女をダンゾウが目を付けた。木の葉の暗部の作戦進行に彼女の能力はうってつけで、直ぐに『根』へと引き渡された。『根』の特殊な呪印で裏切りの際の口封じと、嘘をつくと激しい痛みに襲われるように、そして位置を常に把握されることを条件に彼女は木の葉の里に住む権利を与えられた。その他も行動できる範囲や、細かい制限はある。

 

 そんな条件を潜り抜けて彼女はここにいる。死体から皮を被って変装する彼女に、死体が常にある病院の出入りが許されるはずもない。

 

 彼女の方から里に帰った時、藍染に話を持ち掛けてきたのだ。

 

『あなたの配下にさせて頂きたい』と神妙な面持ちで告げられた。自身の正体を看破されて、最後の抵抗さえも利用されたと気づいた時、心底感服したらしい。元々偽りのものばかりを身につけてきた彼女には、物の本質を見抜く能力に秀でている。単純な観察眼だけでははかり知ることの出来ない何かを感じて、キミを演じている間も観察していたらしい。彼女にとって藍染は偽りの世界の中で見た唯一の『真実』だと確信している。藍染からしてみれば質の悪い冗談にしか思えないだろう。藍染という存在自体が全くの偽りに過ぎないのだから。――あるいはだからこそ彼女は惹かれたのかもしれない。男は偽りの世界の中で己すら偽り続け、その偽りこそを世界の真実にしようとしている。そんな酔狂な話はないだろう。

 

一人で出来ることにも限界はあるので、藍染にとっても彼女の話は好都合だった。幸い死体の皮を被る彼女には医療忍術の心得もあるようで、こうして被検体の解剖を手伝って貰っている。この光景も、彼女の姿も到底許されることではない。腰に帯びた『鏡花水月』で木の葉病院はおろか、里のほぼ全ての忍に催眠をかけている。特にアカデミーの生徒は定期的な書道教室で赴く際に、余興の刀剣の演武という形で完全催眠の前提条件を満たしている。いまや、書道教室よりそちらの用件で呼ばれるほうが多いほどだ。

 

 閑話休題。研究は進んでいる。特にある種の死体には興味深いチャクラの残滓が残っていた。『尾獣』と呼ばれる莫大なチャクラの塊のものだ。死後しばらくたっているにも関わらず、死体にはおぞましい損傷と傷口にしみ込んだ、チャクラを扱いなれている忍にとってすら毒になるほどの高密度のチャクラが残っていた。しかし、彼らを御す方法は確かにある。人柱力だ。尾獣を適性のある人の体に封印し、チャクラを制御し、人智を超えた力を手にすることのできる唯一の方法といってよい。

 

 だがそう旨い話はない。尾獣によっては人柱力を苛み、人格を壊されたり、巨大すぎるチャクラに耐えかねて死んでしまう。藍染はチャクラ量も増えて仙術チャクラと陰陽チャクラを練り分けるほどの緻密なコントロールを掌中においている。そして尾獣を『鏡花水月』の完全催眠にかけることで乗っ取られる心配もなく、完全催眠と併用した幻術でチャクラを自在に引き出すことが出来るだろう。

 

(やはり一番手っ取り早いのは尾獣か……)

 

 木の葉にも人柱力はいる。火影の妻である波風 クシナだ。もともと火の国の同盟国である『渦の国』の渦隠れの里の忍である彼女は尾獣の中でも強力な九尾を封印している人柱力だ。九尾のチャクラを引き出すことに長ける彼女は、ミナトの言葉を信じるなら夫婦喧嘩で一度も彼女に勝ったことがないらしい。まさか夫婦喧嘩で火影が本気を出すことはないだろうが、九尾のチャクラで強化されたフィジカルは普通の人間では太刀打ちできない。彼女を単純な体術で抑えることを夫婦喧嘩の勝利とするなら、ミナトが一度も勝ったことがないというのも藍染には納得のいく話だった。

 

「何かお悩みでしょうか?」

 

 気づくと心配そうにこちらを見つめる黄緑がいた。考えながらも動いていた手を止め、手袋を外すとトレーに投げ入れた。それを見やると黄緑も続いて手袋を外す。

 

「……一度休憩をしようか。美味しいコーヒー豆を貰ったんだ」

 

 藍染は普段は緑茶派だったのだが、大戦中に医療忍者として従事している間コーヒーを飲み過ぎて以来すっかり嵌ってしまった。

 

「私が淹れましょう」

 

「お願いするよ」

 

 カップのコーヒーに浮かんだミルクが何か意味のある紋様らしきものを描いて消えた。そこに意味のないものに対して、勝手に意味を感じ、求めるのは人の性なのだろうか。直ぐにカップが空になる。黄緑によって再び満たされていくそれを眺めながら藍染は口を開いた。

 

「例えば、大事な家族が人質にとられたとしよう」

 

「……血の繋がった家族はもういないのですが、そういうことではないようですね」

 

「その通りだ。黄緑。あなたならどうする?」

 

「まず犯人の目的を突き止めますね。人質にするということは何らかの交渉を相手が求めているということです。目的を知れば別条件で人質の解放を促すことも出来ますし、少なくともこちらが偽の情報で踊らされる可能性も少なくなります」

 

「結局それは手段の一つでしかないだろう。問題は最後の刻だ。人質が生死に迫られたその時、どう行動するかだよ。大人しく指示に従うか、最後まで抗うか、保身の為人質を諦めるか」

 

「さぁ答えは……」

 

「……私なら」

 

 

 

 突然。あまりにも何の前兆もなく――藍染の背筋に鳥肌が立った。感知タイプの常として今まであらゆるチャクラを感知していた藍染にとって未知の体験。里から離れた場所から陳腐な表現だが、嫌な雰囲気の強いチャクラを感じた。詳しく精査する為に落ち着いて感知をしてみると全くの未知のチャクラでないことがわかる。

 

(むしろ、これは……)

 

 対応を考えていると、しばらくして恐ろしいほどのチャクラが轟々とその場を、いや里全体を包み込んだ。

 

 感知タイプの藍染はより強く。そうでないキミでさえも、あるいは一般人すらもハッキリと感じ取れる力の奔流が押し寄せた。息が詰まる。呼吸ごとに肺の奥から禍々しいチャクラに毒されている錯覚に襲われる。藍染は一度チャクラ感知の精度を意図的に下げ、体内のチャクラを練り直し深呼吸した。最初に感じたチャクラを頬に感じるそよ風とするならば、今回は爆心地の周囲とでも表現できる。最初に心構えが出来ていなければ、藍染すら驚愕の表情を隠しきれなかっただろう。

 

(噂をすれば影といったところか……)

 

 この莫大なチャクラ。自然の脅威、災害を想起させる。地域によっては神と同一視されている人智を超えた存在。

 

「――尾獣だ」

 

「これは、尾獣のチャクラですか!? 木の葉の尾獣というと……」

 

 九尾。人柱力・波風 クシナによって封じられた尾獣。……その筈だった。

 

 

 しかし、藍染が感じ取っていた彼女自身のチャクラと大分様子が違っているようだ。普段のクシナのチャクラは端から九尾のチャクラを感じ取ることは可能だが、それ以上に彼女自身の強いチャクラで九尾のチャクラを制御している。

 

 里を包むこの巨大なチャクラはとても人柱力で制御している力とは藍染には思えなかった。おそらく封印が解けたのだろう。火影の妻ともあろうものが里の不利益に貢献するとは考え辛い。何者かの手によるものだと考えるのが自然。

 

(……いや、確か初代火影の妻も人柱力で封印が解けかけた事例があったはず。ちょうど初代の子が生まれた年のこと。クシナも同様に身重の身であることを鑑みるに――出産時に人柱力の封印が緩むということか。ならば里の上層部もその為の準備もしているはず……単なる事故ならまだしも、封印が緩むのを利用した何者かの手によるものだとしたら)

 

 地が揺れる。コーヒーカップが衝撃で倒れ、手術台の上から死体と器具がけたたましい音を立てて転がり落ちた。考え事をしている余裕はない。

 

「黄緑。君は『根』に戻ってダンゾウから指示を仰いだほうが良い。里を抜けて早々の君は今回の件でも真っ先に疑われているはずだ。安全を保障するには『根』で拘束されていたほうが都合いいはず」

 

「藍染様は?」

 

「見物させて貰おうかな」

 

「いったい何を?」

 

「尾獣の力を」

 

 ずれ落ちかけた眼鏡のブリッジを指で押し上げた。

 

 

 

 

 

 木の葉の里の比較的高い建物の屋上。空には満月。最近冷え込んできたせいかくっきりと夜空に映えていた。その下で九つの不規則な動きをする巨大な尾が軌跡を描いている。離れて見ると優雅に見えるが、あの一つ一つが里の建物を簡単に破壊してしまう力を内包している。藍染は思わず身震いした。

 

「想像以上じゃないか……」

 

 自身の求めていた力の塊。藍染も期待で胸躍るの意味がようやく分かった気がした。

 

 直ぐにチャクラ感知に反応があった。

 

 火影の顔岩の上に一人、前触れもなく急に現れた。瞬身の術には必ずその前兆がある。忍が移動する際に漏れるチャクラが道しるべのように繋がっているのが普通だ。今回はそれが無い。それが意味するのは時空間忍術による移動ということ。

 

 つまり四代目火影、波風 ミナトだ。

 

 気づいたのは藍染だけではない。九尾もクシナの中からミナトの力を見ていたのか、真っ先に警戒して攻撃準備に入る。咥内で可視化できるほどの高濃度のチャクラを球状に集中させ、ミナトへと放った。直撃すれば里の半壊は免れない。圧倒的な破壊力がミナトにぶつかる直前、空間が歪んだように揺れて破壊の象徴が忽然と消え去る。

 

 同時に遠方の山肌が破壊の衝撃で削り取られ、少し遅れて爆音が轟々と響いた。

 

 時空間結界でチャクラの塊を遠方に飛ばしたのだ。ただでさえ時空間忍術は制御と範囲、転移先の空間を指定する空間認識能力と通常の人間では過負荷で脳に障害が出るほどの演算能力が必要となる。それを結界で範囲も広げて、あの量のチャクラを正確に飛ばす技術と精神力には脱帽の一言あるのみだった。一歩間違えれば死の極限状態で……さすが火影に選ばれた存在と言えよう。

 

 

「ん?」

 

 チャクラ感知に再び反応がある。同じく火影の顔岩の上に前触れもなく現れる。ミナトのチャクラはそこにあるままだ。時空間忍術による移動であることは明白。しかし、木の葉で時空間忍術を自在に操るのは二代目火影とミナトぐらいのはずだ。

 

「二人は……戦闘しているようだね。――ミナトが飛んだ……何者かも続いて消えてゆく。尾獣と無関係とは思えないな」

 

 今回の事件について何か知っている可能性が高い。生け捕りが望ましいが、時空間忍術の使い手となるとそう簡単にはいかないだろう。

 

 三代目火影を筆頭に九尾に殺到する忍。どうやら向こうは向こうで手一杯のよう。ミナトが襲われていることにすら気づいていないが、九尾を相手に一瞬でも気を捕られると前線が里の市街部に押し込まれてしまいかねない。

 

 藍染にも出動任務が下っていた。里の被害状況から前線に立つ戦闘任務ではなく、医療忍者としての出動だ。九尾を相手に前線で戦闘を避けながら怪我人の治療に充てられる医療忍者はそう多くない。三忍も任務で里から離れている現状で圧倒的に人が不足している。

 

 しかし、もはやそれは藍染にとっての些事であった。

 

 目の前に渇望していた九尾のチャクラがある。藍染が藍染になる為の力だ。その為に努力をしてきた。不完全な自身を完全なものへと変える為ならどんな犠牲をも差し出してきた。愚かな振りをして大衆に馴染み、力を隠してきた。実の肉親からすらも隠し通し、そしてその肉親すらも死んで……孤独になった。見知らぬ世界で、真の意味で――

 

 

 藍染の眼が光も反射させないほどに、黒く、深く沈んでゆく。それに伴いチャクラが周囲に渦巻く。

 

(あれは私の物だ)

 

 腰の鏡花水月を抜き放ち、とりあえず完全催眠の前提条件を満たすために九尾の元へ瞬歩で駆け付けようと足元にチャクラを集める。

 

 今、正に地を蹴ろうとしたその時、

 

「藍染! 事情を説明している暇はないから、クシナとナルトを頼んだよっ」

 

 目の前に一瞬だけ、ミナトが現れて言いたいことだけを言い残して時空間忍術で去ってしまった。残されたのは九尾を抜かれて命絶えそうなクシナと、生まれたばかりで眠っている赤子。今まで九尾をずっと狙っていた男に、火影ともあろうものが妻と子を預けるとは不用心にもほどがある。なにやら藍染もすっかり毒気が抜かれたようで、身に纏った周囲を圧倒するチャクラを四散させる。瞬時に藍染のもとに飛べたのは以前、友の証として預かったマーキング付きの苦無のおかげだろう。懐から取り出した苦無を眺めほうっと溜息を吐く。

 

 クシナの容態は深刻だ。直ぐに処置する必要がある。触診とチャクラ感知を併用して藍染は状況を確認する。患者は出産直後で体力の消耗も大きい。体内の九尾のチャクラが抜かれたことで、それを抑え込んでいた彼女自身のチャクラも引っ張られる形で流出してしまっている。チャクラは生命力より抽出されるもの。生命力そのものが失われかけている現状は、例えうずまき一族といえどもそう長くはもたない。

 

 単なる医療忍術ではもはや延命行為にすらならないだろう。

 

 藍染は陰陽のチャクラを練り、両手をクシナの腹部に当ててチャクラを流し込んだ。陰陽チャクラは術として使用する際の扱いは難しいが、そのものは通常のチャクラを陰と陽とにより分けて純化したものだ。生命エネルギーとしてのチャクラの譲渡としてはこれ以上のものはない。人によっては劇薬にすらなりかねないが、普段それ以上に害のある九尾のチャクラに耐えているクシナでは問題にならない。それにそのぐらいでないと今の彼女にとって効果はない。

 

 チャクラを少しずつ流し込んでやると、クシナの息切れこそ治まらないものの、頻度は少なくなり、周囲を見渡して現状を確認できるほどの余裕は出来た。

 

 しかし、そこまでだ。もはや藍染に、他の医療忍者に出来ることはもうない。死に逝く時間を少し先延ばししただけだ。

 

 クシナはぼんやりと霞む視界の中で、見知った顔に気づいた。

 

「…………藍……染、だってばね?」

 

「ああ。無理に喋らないほうがいい……その子も起きてしまう」

 

 クシナにとって藍染は胡散臭い奴でしかなかった。医療忍術や幻術に長け、性格も温厚で顔も悪くない。憧れるくノ一も少なくないと聞く。夫の波風 ミナトとも親友だ。

 

 普通なら嫌う要素はない。だからこれはクシナの勘だ。うずまき一族特有の長寿は、人の悪意を感じやすいその性質も理由の一つとしてある。藍染は表面上は害のなさそうな顔をしているが、その内面は酷く威圧的で自身以外のそれを見下していると、女の勘もそう言っている。特にクシナに向ける目は獲物を見る目だ。ミナトにも同じように伝えはしたものの、苦笑いでまともに受け止めてはくれなかった。

 

 そんな藍染が今クシナに向ける目は、酷く穏やかで寂しい色を浮かべていた。

 

 だからクシナもつい勘違いしてしまう。今際の際で彼の男が最後の心残りを叶えてくれるのではないかと淡い希望を抱いてしまった。

 

「藍染……私を、ミナトの元へ――連れて行って」

 

「――無茶だっ。君はもう生きているのがやっとの状態だ。それに私はミナトにあなたたちを頼まれた。行かせるわけにはいかないな」

 

 強い意志を感じる瞳。それを見てクシナは軽く微笑んだ。

 

「どうせ……もう直ぐ死ぬ運命ならッ、最後にミナトと……この子に何か遺してやりたいんだってば……ね。それには……九尾を引きずり込むことが出来るツッ……私が一番……」

 

 藍染にクシナが寄りかかる。無理をして話したせいか酷くせき込む。藍染の着物にはクシナの吐血でべったりと錆臭さが染みついていた。このまま暴れさせてはクシナの命が直ぐに尽きてしまうのは明白だった。拘束しようと藍染が試みた時には彼女の首元には金属の光が。クシナは藍染に倒れこむ際に胸元に忍ばせておいたミナトの苦無を奪って、自らの首にそれを突き付けていたのだ。

 

「……藍染。最後の……お願い。聞いてくれる?」

 

 もはや藍染に彼女を止める言葉は浮かばない。息も絶え絶えの彼女から武器を奪うことは容易いが、彼女に残された時間があと少しなのも確かな話なのだ。この夫婦は些か強情すぎる節があった。

 

 

 

 

 

 

 

 ミナトは巨大な九尾を前に一歩も引かず立ち向かっていた。クシナの出産で封印が緩みかかっている九尾を封印で抑え込み、やっとの思いでナルトが生まれたかと思えば謎の襲撃者。続けて九尾の攻撃を一度、九尾本体の巨大な質量とチャクラを時空間忍術で飛ばし、流石に疲労は隠しきれなかった。

 

 それでも、九尾の攻撃を時空間忍術で避け続ける。幸いなことに九尾はミナトにマーキングされることを恐れて、尾による遠距離攻撃で近づかせないことに専念している。空間を埋め尽くしかねない密度の攻撃。風圧を伴った残像で牽制という名の時間稼ぎに費やし、ミナトが時空間忍術の移動先を、移動タイミングを失するその時まで。

 

 九尾の動きが鈍る。それすらブラフで油断させる為かとミナトは警戒を強めた。

 

「あれは……クシナのっ!?」

 

 九尾の背後から巨大な鎖を模した封印術が現れて、意思を持って九尾を抑えにかかった。藍染に預けたはずのクシナが何故いるかミナトには分からない。信頼している藍染がわざわざ危険な戦闘地域に連れてくるとは考えづらい。おそらくクシナに無理強いされた結果だろうと、憤りの気持ちはあるものの、同時に疲労が蓄積していた体に力が漲ってくる。何歳になろうと、火影という責任ある立場に就こうと、男は自身の愛する女の前でかっこ悪いところを見せられない単純な生き物だ。

 

 

 直ぐに時空間忍術でクシナの元へ飛んだ。

 

 飛んだ先で、クシナとナルトを守るように前へ立つ男がいた。男はいつもの困ったような笑い顔を浮かべながらも、九尾からの視線を離さない。

 

「すまないミナト。クシナに一生に一度のお願いをされてしまってね」

 

「……そうじゃないかと思ったよ。――クシナがこうと決めたらテコでも動かないのは僕が一番知っているからね」

 

「ミナト……ごほっ」

 

 クシナが背後でせき込むのを藍染は感じた。只でさえ九尾を抜き取られているにも関わらず、封印術を使用して寿命を削り続けている。もう残された時間は短い。九尾は封印から逃れようと体を捩らせ、こちらの一挙手一投足を油断なく凝視している。封印が僅かにでも緩めば、その瞬間こちらの命をその鋭い爪牙で刈り取りに来るだろう。

 

「連れてきたのは私だ。二人は私が命を懸けて守る。ゆっくり話していてくれ」

 

「……ありがとう藍染」

 

藍染は三人を背に九尾を見つめた。近くでみると、息遣いや細かな動きの迫力がより強く感じる。なによりピリピリと肌を刺激するようなチャクラが感知器官に流れ込む。藍染は思う。やはり惜しいと。

 

 ミナトという友人に押し付けられた信頼という鎖が藍染を縛っていた。

 

 今すぐにでも九尾を支配して、その全ての力を奪い取り、人柱力となることで目標に一歩進むことができる絶好の機会。火影や、他の木の葉の忍に邪魔されることもない今回の事案が二度とあるとは到底思えない。

 

 背後では二人が九尾を封印するための封印術の準備をしている。クシナが九尾を引きずりこんで死ぬことを提案するが、ミナトはクシナの残りのチャクラを封印式に組み込んで息子との再会の時間に当てて欲しいと、そして自身は命と引き換えに封印する“屍鬼封尽”という特殊な封印術を使って九尾の半身を封印すると説得している。機密情報のほとんどを鏡花水月で知りえている藍染ですら聞いたことのない封印術だった。

 

 おそらくうずまき一族の秘伝忍術。どのような術か藍染に知りようはないが、封印の内容によっては九尾のチャクラを手に入れることが難しくなりかねない。

 

 

 

 

 

 一方、ミナトが九尾を連れて里の外れに飛んだ後、それを追いかける者が数名いた。既に引退はしたもののいまだ現役、他国の隠里が木の葉の里まで攻めきれなかった要因の一番大きなものとしてあった三代目火影、猿飛 ヒルゼンと暗部数名だ。

 

 伝説となっている初代火影とその弟である二代目。二人からの薫陶を受け、偉大な父猿飛 サスケの息子でもあるヒルゼンはその立場に甘んじず、内罰的にまで肉体を苛め抜いて鍛え上げてきた。

 

 その足も速く、精悍な暗部のトップであっても置いて行かれそうになりながらも必死にその影を追っていくほどだ。

 

 九尾の攻撃で拓けた現場に一番早く到着したのはやはりヒルゼンだった。人影はミナト夫妻(・・・・・)とその子のように見える。クシナの封印術で捕えられている九尾に向かってミナトが印を結びだす。

 

巳・卯・酉・亥・戌・午・未・子・巳

 

「あの印……まさかもう…屍鬼封尽だ!」

 

 遅れて暗部が駆け付ける。屍鬼封尽は術者の命を死神に明け渡すことと引き換えに、魂すらも封印できる強力な封印術。しかし、四代目火影はまだ若い。これからの里を引っ張っていく火の意志だ。

 

 扉間様と共に雲の金角・銀角兄弟の手練れ部隊に追い詰められた際を思い出す。あの時扉間様は囮に名乗り出たヒルゼンを抑えて、里の未来ある若者達の為に命を懸けて戦われた。

 

 あの時、扉間様が若き火の意志を信じて後世に託したように、ヒルゼンにとって今この瞬間が自身の命を捨てる時だと確信した。術の発動はまだなので今なら中断させられる可能性は高い。急いで近づこうとするヒルゼンの行く手を阻むのは、クシナが張った九尾の移動を制限するための結界だった。里の被害を防ぐための結界が助けさえも拒むとは、強度も強く直ぐには壊せそうにもない。

 

 ヒルゼンが何も出来ない自身にいら立っている間に既に術の発動は始まった。発動してしまった。それでもヒルゼンは諦めない。一度に結界を破壊してしまっては、もしも九尾が暴れだした際に里にまで被害が及んでしまう。結界は維持したまま、破壊する箇所は人が通り抜けるほどの狭い範囲に留めることで、最小限の力で素早く結界内に侵入できる。教授と呼ばれるほどの幅広い知識で、結界の強度に干渉して、一部分を脆くさせて想定される破壊範囲の縁に極めて狭い範囲の結界を設置する。術者であるクシナへの負担と、結界の破壊による周囲の影響を考えてのことだ。

 

 人知れず、努力するヒルゼンであった。

 

 

 

 

 

 

 

 ミナトが屍鬼封尽を発動した。

 

 

 瞬間。藍染は自身のチャクラ感知能力が不具合を起こしたのだろうと考える。

 

 違和感。未知。疑問。

 

 

 ミナトの背後には何もいない。藍染が分かる限りでは視界にもその姿は捕えられないし、嗅覚、聴覚もその判断が間違っていないと後押しするものでしかなかった。

 

 唯一、第六感とも言えるチャクラ感知能力こそがそこになにかいるということを伝えていた。透明な何かがいるというわけではない。そこにいながら、位階がずれているというべきなのだろうか、確かにそこに何かがいるということだけしか藍染には分からなかった。尾獣はまだ巨大な力を持つ妖獣ということで理解できるが、目の前のものは意思を持つかどうかすらも定かではない、世界の理に近しい人知の及ばぬところという推測とも言えない結果が藍染にのしかかる。

 

 

 

「死……神……」

 

 

 

 現状をある程度理解できている様子のクシナが小さく呟く。

 

 

 

「死神……!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まるで、それは――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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