オサレ腹黒ヨン様忍者   作:パンツ大好きマン

18 / 28
三忍その名ゆえに

 

 

 

 コンクリートよりも強度があり、土遁でも潜り込めないように特別な素材が練りこまれている床や壁は伝わったカカシの体温をゆっくりと奪ってゆく。後ろ手で手枷を付けられている為、印どころか用を足すのさえ一苦労だ。

 

 裁判の後、拘束されて禁固されてどのくらいの時間が過ぎたのか。日の光も届かない地下では時間の感覚が薄い。最初の内は白粥と新香、水ぐらいは出ていたがそれも裁判の後にはなくなった。処刑の際には逃亡する気力が無くなるよう調整しているのだろう。

 

 実際、カカシの体力はジリジリと目減りしている。

 

 しかし、それ以上に精神に大きなダメージを受けた体は動こうという気力さえ奪ってしまった。虚ろな瞳はぼんやりと監獄の隅を映して、おおよそ感情という物が感じ取れない。時折守衛がやってきてカカシの姿を確認すると、興味を失ったように離れていく。

 

 また物音ひとつしなくなると、自身の心音がうるさいほどの静寂がカカシの手を引いて暗いほう暗いほうへと誘うのだ。

 

 己と向き合う時間は膨大に用意されている。何の娯楽も外からの刺激もないこの空間は嫌でもカカシに己と向き合わさせる。残酷な優しさが今は何より心を苛む。

 

 それが恐ろしくて、心内で数を数え続ける。

 

 鼓動の音はゆっくり進んでいるようで、急な不安に襲われた際には刻む間隔が速くなり不安定だった。

 

一つ、二つ、三つ、四つ

 

 十まで数えるとまた一からやり直しだ。

 

一つ

 

二つ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 思考するのが億劫になるほどの時間が流れる。体に残された力も僅かでほとんど夢うつつの中、意識の空白の部分を埋めるように数を数えなおす。

 

 

 十まで数えることが困難になって……きた。

 

ぐらり、ぐらり

 

 

 落ちかけて覚醒しているのだろう。頭が納まる居場所を見失って、視界が揺らぐ。

 

 薄氷の上を歩いているような錯覚。一歩進むごとに不意に氷をぶち抜いてしまったかに思える。

 

 

グラリ グラリ

 

 

 どこか遠くで犬の鳴き声が聞こえた気がした。夢を見ているのだろう。

 

 

 カカシが冷たい床の感触さえも感じなくなり、夢の世界に入る間際のことだった。

 

ワンッ ウォーーン

 

 

 今度は間違いなく犬の鳴き声が耳に届いた。少し意識が覚醒する。

 

 聞き間違うはずもない。カカシの忍犬の声だ。

 

(何故……?)

 

 考えを巡らせようにも未だ意識がハッキリしないせいか、それ以上の思考が困難だ。倦怠感で体の端々まで脳の信号が届いていないので、気付けに自傷行為をすることすら難しい。

 

 カカシは牢獄の角に寄りかかっていた体を少しずつ動かして自重のままに身を横に投げ出した。ゴツッと生々しい音がして、どこか体の内側から離れていた意識が急速に戻って来る。額の横が床の突起で流血してしまったのだろう。視界の片方が制限されて痛みは覚えているが、意識は先程よりもハッキリしている。

 

 

 人の騒ぐ声が廊下の奥から響いてくる。今はまだ遠いが、普段音の聞こえない地下だからこそ聞き間違いのはずがない。

 

(……どこか襲撃でも受けているのか? それに何故俺の忍犬の鳴き声がこんなところまで……口寄せ契約の忍犬まで連帯責任を受けることはないはず)

 

 基本、口寄せ契約は人間でいう傭兵契約のようなものか、忍具の一種という認識が強い。勿論例外はあるが、犯罪者の忍犬までもが処刑されるようなことは聞いたことがない。

 

カンカンカン

 

 廊下の先から足音がどんどん近づいてきた。多数が刻む不規則なものではない。おそらく一人。

 

 カンカンカン

 

 牢獄の直ぐ近くまで足音の主がやって来ると、どうやら檻の中に収容されている人物を確認しているような素振りで一つ一つ見て回っている。ついにカカシの入れられている檻を見ると、

 

「ん! ここにいたのかカカシ」

 

「……ガイか」

 

 太い眉をいつになく角度をつけて真剣な表情のライバルがそこにいた。どこから盗って来たのか鍵束を一つずつ檻の鍵穴に入れて確かめ始めた。

 

「今、アスマと紅が表で騒ぎを起こして注意を引いてくれている。お前の忍犬もな」

 

 簡単に事情を説明しつつ、正しい鍵を探り当てると重い監獄の扉を外側から開いた。『さぁ』と外へ誘うガイの意向とは裏腹にカカシは動く気配がない。

 

「どうしたカカシ!? もしかして動けないのかっ?」

 

「…………」

 

 無言でガイの視線から目を逸らすカカシには動こうという気力さえ感じなかった。今も必死に時間稼ぎをしてくれている同期メンバーたちがいるというのに、じれったいばかりだ。ガイはカカシの腕を肩にかけて運ぼうとしたが、本人が出ようという意思がないので上手く誘導することが出来ない。

 

「カカシッ!」

 

「……俺は放っておいてくれ」

 

「――何を言っているんだ! お前は明日にも処刑されてしまうんだぞ!」

 

「……それが里の決めたことなら……従うさ」

 

 もはやカカシは覚悟を決めていた。それでも、最後に同期のメンバーが自分を助けに来てくれたことで一瞬でも助かると考えてしまった己の心の弱さに苦笑する。彼ら彼女らの気持ちは弱り切ったカカシの心を癒して、そして同時に巻き込んでしまいたくないというより強い気持ちを目覚めさせたのだ。大切だからこそ……かつての父も同じような思いだったのかもしれない。

 

「ふざけるなっ! カカシよ。お前のライバルとして一戦負け越しのまま勝ち逃げされてやるつもりはないぞ」

 

 腑抜けた横っ面をガイの平手が叩いた。

 

「お前が勝手に己の最後を決めるのなら、こちらも勝手にさせてもらうぞ」

 

 素早くカカシの首を打って気絶させると、ガイはそのままカカシを背負って牢からとびだした。担いだ体は脱力しきっているにも関わらず軽く、カカシの消耗を思い知らされる。

 

(精神も体もやられたのだろう。普段のカカシなら助けに来るのが遅かったと皮肉の一つぐらいは言ってもおかしくない)

 

 冤罪で処刑までされるとは、木の葉の上層部の焦りが見える。

 

 通路は狭く複雑に交差していた。行きは大体の場所は把握していたのでなんとかたどり着くことが出来たが、帰りは背中のカカシを気遣うのと増援の焦りから、一度通った道から逸れてしまった。

 

 

「くそっ! 道が分からん」

 

 一つ先の廊下では武装した忍の小隊が、先程カカシがいた牢へと向かっていくのが見える。なんとか身を隠すのに間に合ったが、直ぐに空っぽの檻に気づいて戻って来るだろう。

 

ワォーーン

 

 カカシの忍犬が遠くで吠えて脱出先を教えようとしてくれている。しかし、狭い通路内で響いてその出どころを探るのは困難だった。出口を探して長い通路を走っている途中のことだ。

 

 通路の奥の三叉路。その右側から足音が聞こえてくる。こちらが今走る通路は長く隠れる場所もない。足音の距離感だと戻って身を隠す時間もないだろう。

 

 ならば先手必勝。

 

 あまり怪我人は出したくないが、カカシが処刑されるよりはマシだ。

 

 緩めようとした歩調を、戦闘用に一歩一歩力強く調整する。背中のライバルを気遣って本気ではないが確実に一撃で戦闘不能になるだけの勢いで――

 

――繰り出された拳は、見事に空をきった。

 

 反応が良い。不意の一撃すら対応できる実力者に身構えると、

 

 

「危ねっ!? っとガイじゃねぇかっ。焦らしやがって!」

 

「――アスマかっ!? つい敵だと思ってな! ……すまん」

 

 呆れた様子の同期に、冷汗をかきながらも応じる。同じく下忍の担当上忍である猿飛アスマは一瞬納得のいかない表情を浮かべたが、事態の深刻さにそれを呑み込んだ。

 

「……紅が表で幻術をかけて時間稼ぎしてくれている。急ぐぞ、ついてこい」

 

 既にここの一画は里内で今一番注目を集めていた。追手には感知部隊と日向一族もいる。ここから無事脱出できたとしてもガイたちの関与はいずれ明らかになるだろう。

 

 これから先の未来に不安があるのも事実。しかし、もはや後悔はない。それだけの覚悟を決めて同期は作戦を決行したのだ。これからの木の葉の未来を担う優秀な上忍たちがこれだけ一人の男の為に力を注いだなら、上層部も人材損失を考慮して減刑の可能性も…………それ以上の無駄な思考は新たな妨害者に遮られた。

 

「……まさか、あんたが直接出てくるとはなぁ」

 

 アスマの表情は堅く険しい。それもそのはず。相手が誰であれ、ガイは打ち倒す覚悟を決めていた。それが目の前の男に挫かれそうになっていた。

 

 老いてなお上忍二人を圧す迫力。帽子に隠れて表情は定かではないが、視線は確かにこちらを見透かしていた。

 

「ここで何をしておる?」

 

 発する言葉がビシビシと不可視の熱波のように二人を打ち付けた。さすがは現役の火影。

 

 猿飛ヒルゼンは不動で行く手を塞ぐと、小柄ながらもアスマからは巨大な壁で出口を閉ざされたようにも思える。

 

 カカシを背負うガイは庇うように一歩後ずさり。それを見逃すヒルゼンではない。ジロッとすかさず背負う人影の正体に思い当たったようで、口の端から漏らすように長い息を吐いた。

 

 背後の方から大勢の足音が近づいてくる気配がした。もはや一秒たりとて惜しい。

 

 

「……通してもらうぜ。無理やりな」

 

 メリケンサックに刃が取り付けられたような自慢の得物で交戦の意を顕にする。ヒルゼンはゆっくりと袖の下でこちらからは窺わせない挙動をし始めた。印でも結んでいるのかと警戒を高める二人と裏腹にヒルゼンは何とも思わない顔で二人の死線を踏み越えて来た。それがあまりに自然に行われたので反応すら難しい。

 

「儂の背後の壁は仕掛け扉になっておる。五番目の曲がり角を左に行けば有事の際のセーフゾーンがあるからそこで夕日たちと合流せい。……後始末は任せておけ」

 

 呆然とするアスマの目の前で小声でつぶやいた。そのまま驚きのあまり反応できないでいるアスマに『急げ』と軽く小突いて再起動させると、未だ事情を理解できないままでいるガイにも同様にした。

 

 二人は納得のいかないまま、隠し扉へと入る。絶体絶命の中更に罠に嵌めるメリットもないので、ヒルゼンを信じて飛び込んだ。

 

「……どうやら俺たちは火影様に救われたらしい」

 

「…………親父」

 

 アスマの呟きは闇の中に静かに消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

木の葉病院。

かつての名残を感じながらも一人、絶望に喉元を掴まれた女がそこにいた。

 

 霊安室は解剖用の器具の冷たい金属の輝きが、蛍光灯の白い光を反射して不気味に光っている。死体の鮮度維持の為冷え切っている室内は彼女の僅かに灯された希望の火さえも奪おうとしているように感じられた。

 

 トレッチャーに乗せられた死体の鮮度はまだ良好だった。特殊な封印術のおかげだ。

 

 藍染の死体は事件性から直ぐに解剖を望まれたが、それは女、綱手の手によって止められた。幸いなことに腹部の刀が直接の死因であることは間違いなさそうだったので、三忍の権力でそれ以上追及はなかったのだ。

 

 藍染の葬式で死体がなかったのは、火葬という形で逃れられない真実とするのを恐れたからだ。そして今も綱手はその真実と向き合うのをどうしようもなく恐れている。

 

 トレッチャーから数メートルの距離をおいたまま動けないままでいた。

 

 一歩勇気を出して近寄れば、あの生前の面影がかつての記憶とともに蘇る。

 

 そうして一時間。二時間と時間は残酷なまでに過ぎてしまうのだ。

 

 手は冷たく、体の震えは外側からの問題なのか、内側からの問題なのか区別できない。

 

 

「真実と向き合う気になったのか……?」

 

 心が麻痺して、入り口でこちらを様子見る自来也の出現にさえ大きな驚きがなかった。綱手の緊迫とは別に僅かに感じる期待で直ぐにそうではないと自来也は気付かされる。

 

 付き人のシズネから綱手が居なくなったと聞いて十数時間。木の葉病院での目撃情報があったと聞いて飛んでやって来たのだ。来てみれば思いつめた表情で藍染の死体を見つめる綱手の姿に何らかの変化があったことを確信した。

 

「お前……大蛇丸に会って何か唆されたのか?」

 

「…………」

 

 綱手は弾かれたように首を動かした。

 

 軽く鎌をかけてみたところ、思いがけず正解に行きついてしまった。

 

「止めておけ。死者の蘇生など不可能だ。例え蘇ったところでお互いの為にならん」

 

「――部外者は黙ってろっ!! 大切な者を亡くしたこともないくせにっ!! お前に私の気持ちが分かってたまるかっ! それに」

 

「それに?」

 

 激高で余計な口を滑らしてしまった綱手に、自来也は問いかける。本人も自らの失言に気づいて逡巡したが、一度口に出てしまったことを取り消すことは出来ない。それでも綱手は自来也の(さか)しい忠告を覆してやりたかった。

 

「この死体が本物だと決まったわけでは……」

 

 思惑とは反対に綱手自身の口から出た声音は弱々しく、最後まで言い切ることができなかった。大蛇丸から唆され一縷の望みを抱えて木の葉病院まで来たものの、いざ死体を目にするともう本物にしか見えない。

 

『何故そんなことが言える?』

 

 大蛇丸は鬼気迫る綱手に動じず笑った。

 

『信じられないのも無理ないわ。一つ言えるのは禁術を使ったからそう推測できたの。私から言えるのはそれだけ……。あなたが私の話を聞いてどう行動するかは自由。ただもし私の言葉が正しかったのなら木の葉崩しの邪魔はしないでね。それが危険を承知で出てきた義理というやつよ』

 

 

 それが大蛇丸の嘘の可能性は高い。結局のところ大蛇丸は綱手の三忍としての実力を封じることが出来ればいいのだ。綱手に希望を見せて、確かな藍染の死体という絶望で叩き付けて無力化しようとしていてもおかしくない。それが真実であろうと嘘であろうと大蛇丸からしたら綱手の行動を制御することが可能。

 

 しかしそんな薄っぺらい言葉に縋らざるを得なかった。

 

 綱手の付き人のシズネが生存確認を行っているのだ。可能性はほとんどない。

 

 

 床に沈み込むような綱手に、自来也は慰めるような言葉は使わなかった。綱手はもう十分辛い思いをしてきた。そんな彼女は血液恐怖症で更に酷いトラウマを抱えようとしている。もう彼女のような辛い境遇を負う者を生み出してはいけない。

 

 

「……お前はもう忍の技術を使うべきではない。きっと次こんなことがあれば、技術を持ちつつも満足にそれを活かせない自身を許せなくなる」

 

「――そんなことはっ」

 

「ないと言えるのかのォ」

 

「…………」

 

 自来也は日向一族に知り合いもいる。点穴に封印術を使えばチャクラを練ることも出来なくなるだろう。綱手の前で腰を屈めて、床を眺める彼女と無理やり視線を合わせる。

 

「ワシは火影に立候補しようと思っとる。三忍の一人である大蛇丸が裏切った以上、同じ三忍以外の候補者はネームバリューが弱い。各国の戦力バランスからしてワシとお前ぐらいしかあり得ないだろう」

 

「…………そうか」

 

 興味なさそうに頷いた綱手に喝を入れるように肩を叩いた。

 

「それになにより、老いてなお格好いい先生が羨ましくなってのォ。……どうするかはお前自身が決めることだ。せめて悔いのないようにな……」

 

 瞳の奥に僅かな光が灯った綱手を確認して部屋から出て行った。既に人を待たせている。少しばかり霊安室で冷えた体を身震いさせながら木の葉病院を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ようやく肩の荷が下りた。

 

「いやぁ。本当に喜ばしいことじゃ。これで安心して次を任せられるわい」

 

 

 火影の執務室のある建物。その地下に続く階段をヒルゼンは可愛い弟子と連れ添っていた。自来也自ら火影へ立候補してくれるとはヒルゼンに望外の喜びが舞い降りて、最近の不穏な事件で病みかけていた気が晴れる。

 

 その様子に若干退き気味の自来也に慌てて咳払いした。

 

「実のところ、お主がそう言ってくれたのはかなりいいタイミングじゃった」

 

「どういう意味だ?」

 

「話したとは思うが、カカシを助ける為に忍びこんだのじゃが。その先でカカシを救う先客がおってのぅ。既に顔も割れているようで、ワシの指示で行動したということにしておいた」

 

「それはっ……」

 

 

「おそらく満足に動けるのは今日、明日が最後じゃ。その前に連れて行きたいところがある」

 

 地下へと続いていく階段は先程から下り続けているにも関わらず、まだ先が見えてこない。木の葉の地下深くにそのような場所があるとは三忍の一人である自来也さえも知らなかった。火影になると聞いて直ぐにその場所に案内されるということは火影しか伝わっていない極秘事項であるとはまず間違いない。

 

 ようやっと下りきった地面は堅い岩石の層のようで、大きな地震でも崩れそうにない安定した地質だ。ちょうど大人一人が通れるほどの大きさの通路がまだ先に続いているようだった。いくら鍛えられた忍とはいえまったく光源のない道を歩くには不安がある。明かりを灯そうと考え始めたところをヒルゼンに窘められた。

 

「ここから先灯りは無しじゃ。よいな」

 

 ヒルゼンは先んじて暗闇へと溶けていった。

 

 

「この先の封印術に影響があるのじゃよ」

 

 またしばらく、一時間は歩いただろうか。急にヒルゼンが止まりそれに倣う。

 

 小声で合言葉らしきものを唱えた後に、暗闇の中でギシギシと何かが蠢く気配を感じた。生物の気配ではない。それよりもっと無機質な何かがまるで生きているかのように正面から左右へと別れて大きな空洞をつくり上げているのだ。

 

 あきらかな異常に怯むことなくヒルゼンはその中に入っていってしまう。

 

 

 中に二人が入って、今度はまた蠢いた気配が先程とは逆に閉まった。『もう平気じゃろう』とヒルゼンが室内の明かりを灯すと、暗かった室内がほのかに照らされる。天井までの距離は十メートル程で滑らかな円錐のような空間がそこには広がっていた。そして特筆すべきはその空間は植物の根によってまるで繭のように包まれていることだ。先程蠢いていた正体はつまり植物の根だった。

 

「ここは初代様の特殊な木遁忍術で封印されていてな。ちょうど火影の執務室がある建物の真下に位置しておる」

 

 建物の周囲にある地上部分の木々はさほど大きくはないが、根は地下深くのこの場所まで伸びており、空間を形成しているのだ。地中の根は火の眩しさを嫌い、それを持って近づく侵入者に纏わりつくとチャクラを吸い取ってしまう。ヒルゼンが火を使わなかったのはその為である。

 

 そうまでして初代が、歴代火影が守りたかったものがそこにあった。

 

 木の葉を形成した一族の連判状。そして秘宝。各国から集めてきた特殊な忍具、重要書類。そしてそれらの奥に石碑が据えてあった。

 

 初代が遺した火の意志が彫られたそれは、火影継承の際に自らの血で上書きをすることでその意思を継いでゆく流れとなっている。本来ならヒルゼンも時間をかけて立ち会いたいところだったが、この先のことを考えると立ち会えるかどうか定かではない。正式な引継ぎはまた後でやれば問題ないだろう。

 

「自来也よ。本来ならばワシがお前に引き継ぐはずじゃったが、今後それが可能になるかどうか分からん。だからこの場で仮の火影承認の儀とする。本来ならばあり得ないことだからここに連れてきたことはなかったことにしてくれ」

 

 真顔の自来也を見てヒルゼンは苦笑した。そういえば道中もやけに静かだった。未だハッキリとした実感が湧いてないのだろう。かく言うヒルゼンもここに初めて来た時はガチガチに緊張していたものだ。

 

 一連の儀を終えると、地上へと再び舞い戻る。

 

 一度、用があると離れた自来也に、夕餉がまだだったと気づいたヒルゼンは食事の後に執務室で落ち合うことを約束して別れる。

 

 そうして再度顔を合わせた際に見た自来也の顔は、覚悟の決まった一人前の良い(おとこ)の表情だった。彼なりに考えて迷いが無くなったのだろう。本来ならもう少し考える時間をやりたかったが、緊急事態で無理やり覚悟を決めさせたようで悪い気もする。それでも前任の火影として伝えるべきことは伝えなければならない。

 

 

 

「もはや本戦で大蛇丸が何かしでかすのは決まりじゃろう。本戦まではワシが火影の任を務めるが、実質お主が火影だともう思ってもらいたい」

 

「おう!」

 

「……ならば最優先されるのは火影の命じゃ。大蛇丸はワシがやる」

 

 さすがにそれを聞いて自来也は黙っていられない。

 

「それは同じ三忍のっ――」

 

「――火影の任を甘く見るなよっ! こうして荒れる時期に次代の火影が万が一にでも亡くなってしまえばもはや木の葉に未来はないのじゃ。優先すべきはお前の命。それに比べてワシはもう降ろさせることも確定している老兵よ」

 

 自来也はやはりライバルである大蛇丸を特別視して、後悔している。しかし真に責を負うべきは師であるヒルゼンなのだ。もっと大蛇丸を良い方向へ導いてやれれば、きっとこうなることもなかったのだろう。

 

 そこまで主張しても自来也の顔色は晴れない。ライバルである以上、大蛇丸の実力をヒルゼン以上に理解しているが故の不安。

 

「なぁに例えあやつを倒すのが無理でも、五体満足では帰さぬ。命を懸けてのぉ」

 

「……ジジイ、無理はするなよ」

 

「余計なお世話じゃ。こう見えてダンゾウと戦闘訓練はしておる。まだまだ若いもんには負けんぞ」

 

 中忍試験本戦を翌日に控えた夜。久しぶりに夜通し語り合った男達はまるで子供のように笑いあった。これから先の騒動も、これまでの後悔も、目の前の安酒も。その全てを飲み込んで――

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。