オサレ腹黒ヨン様忍者   作:パンツ大好きマン

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※ネタバレ注意


偽りと真実

 

 

 

「ここは……顔岩の上の」

 

 時空間忍術でヒルゼンと大蛇丸が転移した先はヒルゼンにも覚えのある場所だった。歴代火影の顔岩の彫られている岩山の上だ。整備のしやすさと新たな顔岩を彫る作業スペースの為にテーブル状になっている。眺めも良く、木の葉の里を見おろすことが出来るのでヒルゼンも訪れていた。だからこそ直ぐに分かった。

 

 

「ようこそ」

 

 

「藍染!?」

 

 

 イタチが何故、どうしてここへ連れて来たか未だに分かっていない。一瞬も気の抜けない状況だというのに思わずヒルゼンの口からは驚きの声が出た。亡くなったはずの男が、一人の暗部を引き連れて待ち構えていた。

 

 

「フフフ。やはり生きていたのね」

 

 

 目の前の大蛇丸からはそれを予期していたような素振りが見てとれた。

 

 

「積もる話はあるが、今は時間がない。目的の達成を優先させて貰おう」

 

 

 藍染が刀を抜く。明らかな敵意にさすがのヒルゼンも動揺を隠せない。向き直って応対しようにも大蛇丸の魂を『屍鬼封尽』で掴んでいる今少しでもそちらに意識を割けば逃れかねない。大蛇丸は好機とばかりに顔を愉悦に歪めている。

 

 二人ともその藍染の抜刀に気をそちらへ一瞬の間囚われていた。依然ヒルゼンと大蛇丸はお互いの警戒を緩ませていない。しかしその二人を誰が転移させたか、そちらに関しての注意が漏れていた。

 

 

三つ巴の模様が回転し始める。それは風に廻る風車のように、流麗でどこか儚い美の一つで視界に入ると目が離せなくなってしまう。そうしてイタチの写輪眼による金縛りの効力の幻術にヒルゼンと大蛇丸はかかってしまった。両者身動きが取れない状況で更に金縛りをかけたのは万が一にもこの場からの離脱を防ぐため。そしてもう一つ。

 

 

(こ、これは。屍鬼封尽さえも)

 

 

 魂を引っ張り出す力は術者の体力に影響している。金縛りの幻術をかけられたヒルゼンは魂を引っ張ることが不可能な状態、幸いなことに大蛇丸も同様に動けないようで二人の間で魂が宙づりになったまま固定された形となる。

 

 

「良くやったイタチ」

 

 

「はっ」

 

 

 機を見て藍染が今度こそ動き出した。自身すら囮にした策略。イタチという傑物すらも引き連れて余裕の笑みすら見せている。もはやヒルゼンの知る藍染ではない。良く出来た偽物だというのが一番理解できるものの、近くに見れば見るほどそこにいるのは藍染本人に見えた。

 

 

 懐から藍染が取り出したのは深い紺色の宝玉。深海を想わす暗い紺は時折その内側に気泡が湧いていた。特徴的なその見た目からヒルゼンにも直ぐにそれが何か理解できた。

 

 

「……それは、うずまき一族の秘宝。……何故?」

 

 

 初代火影の妻うずまきミト。彼女が千手柱間の為に九尾の人柱力になったことは有名だ。そのミトが嫁いだ際に渦潮隠れの里から木の葉へと祝いの品として持ち込まれたのが宝珠である。そのもの自体がかつての六道仙人縁の品とされていて、国力の乏しい渦潮隠れから出せる唯一の秘宝だった。渦の国が火の国から手厚い庇護を求めての英断だったのだが、既に大国の力を借りても立て直せないほどの負債を抱えており、国が廃れた後に火の国に吸収される形となった。

 

 

 その宝珠は単なる美術的価値や歴史的価値だけのものではない。尾獣を封印する為にはその媒介となる物体が必要となる。人柱力である人には適性が求められる為、前任の人柱力が亡くなった後に一時的に尾獣を保管するための器が必要なのだ。宝珠には六道仙人の遺品としての力なのか、尾獣を封印することができた。

 

 

 当然かなりの貴重品として、ヒルゼンが自来也を案内した地下の木遁封印結界内に厳重に納められていたはずだった。

 

 

「何故? おかしなことを言うね。案内してくれたのは猿飛ヒルゼン、あなただよ」

 

 

「なっ!?」

 

 

 

 驚きの中に、ヒルゼンの脳内にノイズが走る。独特な山中一族の術『感知伝々(かんちでんでん)』の兆しだ。この術はチャクラが込められた意識を周囲に拡散し感知するもので、突然時空間忍術によって飛ばされたヒルゼンの探索の為であろう。そうして突き止めたチャクラに『心伝身の術』で思念のやりとりを行うのが山中一族の常であった。

 

 

『木の葉の忍全員に告ぐ。こちらは山中イノイチ上忍による緊急連絡です。信じがたいとは思いますが、これからお伝えすることは全て……真実です』

 

 

 明かされる真実。カカシの冤罪。藍染の裏切り。カカシ、アンコ両名は生死不明の重態。山中上忍は決して己の術で偽りを述べるような男ではない。それでも信じたくない忍は多くいた。猿飛ヒルゼンもその中の一人だ。中忍の頃から目にかけて来て里の中枢を任せる仕事に推したのも自身である。ある意味カカシが藍染を殺したという情報を聞いた時よりもショックが大きい。

 

 

「今のチャクラは……山中イノイチ君だね。……そろそろ始めさせて貰おう」

 

 

 ヒルゼンが案内していたのが自来也ではなく藍染だったということなら宝珠を持っている理由が分かる。しかしそれをどう使うかについて予想が出来ない。尾獣を封印するにもここには人柱力のナルトはいない。封印する存在など……

 

 草履が岩を踏みしめる乾いた掠れ音が今は耳の直ぐ近くで聞こえているように思えた。藍染はゆっくりとヒルゼンに近づいて、その後ろを見上げた。まるで背後に存在する死神に気づいているかのように。

 

 

 印を結ぶ。すると藍染の片手が透けて一本増えたように見えた。

 

 

 霊化の術だ。生霊となって相手に憑りついて殺す術で本来なら生き霊となって体はそこに取り残されたまま無防備になるのだが、藍染の術は片手のみに限定しているせいかその様子はない。

 

 

「本来は高次元存在ゆえに触れることが出来ない屍鬼封尽の死神だが、魂で干渉することは可能だ。触れた際に死神に喰われてしまうということを除けばね」

 

 

 にも関わらず藍染は霊化した腕で死神の手を掴む。ところが予想した状況と違って何ともない顔で平然としていた。

 

 

「だが屍鬼封尽で術者以外の魂を掴んでいる状態ならばそのリスクは無い。獲物を捕らえる瞬間捕食者は無防備になるものだ」

 

 

「くっ、何を……する気かしら」

 

 

「直ぐに分かるさ」

 

 

 霊化の術の前に事前に結んでいた印が藍染の手に描かれた解放の術式にチャクラが流れることである術が発動された。特殊な封印術はある存在を封印する為だけに開発された。

 

 

六祷(りくとう)封印(ふういん)

 

 

 霊化した手の指先が死神の腕を固定し、もう片方で宝珠を持ち腕のある場所に押し当てる。ヒルゼンの背後で死神の苦悶の声が聞こえた。あの恐ろしくもどこか哀れな存在が苦しんでいる。死神とリンクしていたヒルゼンにはそう感じ取れた。

 

 

 死神は藍染の術を発動させた腕を中心に捻じれて吸い込まれる。その吸引力の凄まじさから死神の体は一点に縮小し、黒い渦状に宝珠の中へその体積など考慮されていないように取り込まれてしまった。

 

 

「……まさか」

 

 

 ヒルゼンに先程までの魂を捕らえられていた胸の閉塞感は無く、同時に大蛇丸の魂を掴んでいた感覚もなかった。屍鬼封尽の術を使った者は、術の成否に関係なく死神の腹の中に魂を捕らえられてしまうというのに、ヒルゼンの身にはそのような兆候が現れていない。

 

 

 まことに信じがたいことだが藍染の術で死神が封印されてしまった可能性が高かった。

 

 

 大蛇丸とヒルゼンは身を襲う虚脱感に思わず地に腰かけた。どうやらイタチの金縛りも解かれたようだった。直ぐに戦闘態勢に戻りたいのはやまやまだが、老いに体力を奪われたヒルゼンは勿論、大蛇丸さえも魂を握られていた違和感に体力を消耗させられている。お互い直ぐに敵対したところで、周囲のイタチや藍染達に気を張ったままではまともな戦闘が出来ない。一時休戦に否やはなかった。まずは藍染達の様子を窺ってからでも遅くない。

 

 

「お主の狙いは……それか。いったい何時から画策しておった? 屍鬼封尽をどこで知った?」

 

 屍鬼封尽は禁術だ。うずまき一族の中でもごく限られた人物しか知り得ない。そのうずまき一族もほとんど流浪の旅で散らばり、里現存時の者はもうほとんどいないと聞く。それに加えて屍鬼封尽の危険性と術者が必ず死ぬという特性から木の葉ですら詳しい術の内容と印について書き記した物はなく、今は唯一ヒルゼンが知るのみ。九尾事件でミナトが使ったことから、仲の良かったミナト経由で聞き及んだのかと考えたが、いくら親友とはいえ禁術をそう易々と教えるほど規律の緩い男ではない。

 

 だというのに藍染は屍鬼封尽について術者のヒルゼン以上に理解し、専用の封印術すら生み出した。

 

 

「最初からさ」

 

 

 掌に納められた宝珠を見つめてどこかうっとりした表情で藍染は応えた。

 

 

「最初からじゃと?」

 

 

「……波風ミナトが九尾を封印したその時に僕もいた。君たちはそれを()()出来ていなかったというだけのこと」

 

 鏡花水月という刀の能力の恐ろしさを改めて思い知らされる。もしやすると今目の前の藍染ですら幻覚かもしれないのだ。

 

 

「……おそらく君達は山中イノイチ君にこう伝えられたんじゃないかな。『藍染惣右介は自身の死を捏造した後、上層部を殺害しその住居で姿を隠していた』と」

 

 

 確かに藍染の言う内容が山中上忍よりの連絡にあった。恐ろしきはそれを成し遂げた後に火影や暗部にそれを悟らせない巧妙さ。幻術や完全催眠に長けたものでもそれを違和感なく現実に合致させるには相当の智謀と綿密な計画が必要となる。

 

 

「だがそれは間違いだ。中忍選抜試験が始まる前に既に僕は上層部を殺し、あなたたち三忍の招集命令を出させた後に居住区全体に鏡花水月をかけた。上層部が生きて業務を続けている状態に見えるようにしておいたんだ」

 

 

 

 

「狙い通り、大蛇丸が神隠しを問い詰めた僕を殺したように見せかけて、里内の危機を煽った。只でさえ各国の要人や忍を受け入れることで緊張状態の木の葉は、老いによって衰えたあなたに継いで次期火影を求める声が大きくなる。そうなれば候補者はあなたたち三忍をおいて他ならない。三忍の一人が裏切り者となれば、残りの二人の中で信頼における自来也に必然的に声がかかる。普段なら里から帰ってこない綱手姫を理由に断ることも逃げることも出来ただろうが、国家間の緊張で封鎖された里内にいてはそれも不可能だ」

 

 

「予め上層部からは火影継承の儀の際に、秘密の国宝保管庫に前任から案内があるということを聞いていたからね。……死神封印の為の封印術については神隠しで攫った人体実験で前々から完成はしていたものの、その封印の核となる物体がほとんどの尾獣を捕らえることに成功した初代火影柱間の眠る木の葉に存在しないはずがないと踏んでいた。そして本質的に死神は尾獣とそう遠くない存在ゆえに封印の核には十分だ」

 

 

「そこで僕を自来也と錯覚したあなたにそこまで案内してもらう予定だった。さすがに初代の木遁封印術は真正面からの突破を試みた際、安全装置として中の秘宝ごと処分されてしまいかねないからね」

 

 

 

「……げに恐ろしき野心の男よ」

 

 

 

「だが予想以上に綱手姫の憔悴とそれによる混乱が大きくなりすぎてしまった。現状の対応に追われて将来の木の葉の火影を考察する余裕さえも失いかねない。そこで別の作戦の為に利用していたはたけカカシへの謀略を軌道修正することにしたのだよ。彼に僕の殺害犯となって貰って、亡くなった御意見番から処刑の執行を命令させた。案の定お優しいあなたは自分の立場を危うくしてまで彼を助けた。来る大蛇丸との闘い、中忍選抜試験後に告げられる辞任を前にして、あなたと自来也の意志を一致させた」

 

 

 

 

「……全て僕の手の内のことさ」

 

 

 もはや言葉が出ない。誰かしらの強い後ろ盾で動いているのかと当初は考えていたが、ここまでの策謀をめぐらす男が誰かの下に大人しく納まるような器ではない。

 

 よくよく考えると初代の封印術の中へ案内する際、緊張しているのだろうといつもの自来也らしくないところがあった。自来也に火影になると告げられた後に御意見番のうたたねコハルに別室で最終確認をとってもらったのだが、入れ替わったのはその時だろう。夕食後再び夜に本戦での詳しい話を詰めて飲み明かした際にはいつもの自来也のように思えた。

 

 

 

「……素晴らしい。想像以上の男に育ったわね。元担当上忍として喜ばしいわ」

 

 

 大蛇丸は先程の山中一族の連絡を聞いていない。木の葉に敵対したとはいえ、今は一時休戦の間柄である。事前情報が無ければいくら大蛇丸とはいえ苦戦は必至。敵対者同士潰しあってくれれば問題はないのだが、あちらにはうちはイタチが控えている。確実に藍染という首魁を叩いて気勢を挫くには大蛇丸に有利な情報の提供は欠かせない。

 

 ヒルゼンの体力は予想以上に削られていた。老いが体力の回復を許さない。助太刀をしたいのはやまやまだが、屍鬼封尽の術で相当消耗していて呼吸が整っていないままでは足手纏いになる。

 

 

「大蛇丸! 藍染の刀が奴の完全催眠の要だっ」

 

 

 ならばせめてと助言した。恐らく大蛇丸も完全催眠の条件に当てはまっているだろうが、何も応援がないよりはマシだろう。実際条件に当てはまった相手に対する助言はほとんど気休め程度である。相手に認識される前に速攻でやってしまうか、ヒルゼンの言うように完全催眠の要の刀を奪い取ってしまう他ない。完全催眠にかかっていない状態でのという厳しい条件を潜り抜けてという前提だが、今は藍染は目的の達成に高揚し油断している。隙を突く戦闘が得意な大蛇丸ならばやれないことはないだろう。

 

 

「……あなたは知らないかもしれないけど。私はあなたをずっと見ていたの」

 

 

 ヒルゼンの助言を聞いているのかいないのか。大蛇丸の視界に既に師の姿はなかった。

 

 彼の男は幼き時より才能に溢れていた。そしてその自覚が傲慢に変わる前に両親が亡くなり、命について深く考えるようになった。不死への憧れから邪法に手をつけて、様々な実験体を酷使して、己を超す才能に出会い嫉妬した。恨んだ。殺意さえ抱いた。

 

 そこで絶望はしなかった。いや出来なかった。

 

 より優れた才能に劣るものの、大蛇丸には才能があった。人の才能を測ることの出来る才能。単なる長所を武器に、優れた才能を他の忍を圧倒する兵器に導き、成長させることによって、それを強奪して更なる力を得て来た。

 

 奪っても奪っても満たされることのない日々。飽いてきた大蛇丸に舞い込んできた逸材。それが藍染惣右介という男だった。

 

 

「このつまらない里にいたのもその為。……でも正直がっかりさせられていたのよ」

 

 

 大蛇丸には分かっていた。彼には才能がある。そして幼少の頃の彼はその才能をひた隠しにしようとする傾向にあった。周囲の視線を気にしていてはせっかくの才能も埋もれてしまう。アカデミー卒業後に担当上忍として面倒な役目をヒルゼンから受けたのもその為。

 

 

「いつまでたっても力を表に出さないし、あなたを優に超える才能を見つけてしまったからその子を確保して里から抜けることにしたのよ」

 

 

 元々藍染の才能は幼少の頃の大蛇丸とほとんど変わらないように思えた。確かに優秀だが、探そうと思えばそれ以上の逸材がこの里には眠っている。

 

 だからこそ大蛇丸は目をつけた。自分と近しい存在だからこそ、かつての思いを知る大蛇丸の手で育て上げればどのような才能を開花させるか、探求心が抑えられなかったのだ。

 

 藍染の()()は優秀だが、本人の意思がこの世に出ることを拒むのならば、()()()()にでも世に出てもらうしかない。

 

 

「岩隠れの前線基地にあなたを派遣して、霧隠れに密告した甲斐がないじゃない」

 

 

「――大蛇丸!? 貴様ッ!」

 

 

 かつてのヒルゼンの肝を冷やした襲撃事件。その犯人は木の葉の忍だった。明らかに内部情報を知らされていないと出来ない完璧な襲撃を疑問に思ったことは幾度もある。

 

 

「まさか水影直属の部隊まで出てきて生きて帰って来るとは思わなかったけどね。無事帰って来た時にはあなたの才能を確信したわ」

 

 

「ほぅ」

 

 

 初めて藍染の反応が宝珠から大蛇丸に移った。それまでの彼は意識を割きつつもどこか虚ろな瞳をしていた。宝珠への好奇心か、あるいはまだ見ぬ策略か。ヒルゼンには藍染の意図と底がまだ見えてこなかった。

 

 

 

「……だからどうなるか見てみたかったの」

 

 

 大蛇丸の纏う空気が変わる。背筋に冷汗が流れる粘っこさと狂気を感じさせる禍々しいチャクラが師のヒルゼンをして怯ませた。三忍の中でも異質。人離れした能力と資質を持つ大蛇丸はやはり根のところはどこまで行っても深く暗い『人』という生物のエゴの塊である。

 

 

「もしもあなたが()()()()()()()を歩めばどうなるか」

 

 

 大蛇丸の両親のように。大事な存在を失って、どのように育つのか。大蛇丸のように不死を求めて邪法にたどり着くのか、あるいは新たな方法を見つけるのか、そもそもそこで諦めてしまうのか。様々な可能性がそこから広がっている。

 

 

 探求心が抑えられない。かつての己の行く末が果たしてどのような結果に陥るか、それを見遂げてどうしたいのかは分からない。……ただ知りたかった。

 

 

「――まさかっ!?」

 

 

 脳内によぎる最悪のヴィジョン。そのようなことをかつての弟子がやらかすはずがないと信じたかった。

 

 

 

「……あなたが危機に瀕していると伝えた時の両親ときたら」

 

 

 

 

 

 

 

 

「――愉快でしょうがなかったわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大蛇丸は冷静だった。その時取れる手段での最適手を迷わず選び取るクレバーな男だ。ヒルゼンの助言に従って藍染の気を話術で逸らして鏡花水月を使わせる選択肢を選ばせない。無論全く嘘もついていないが、藍染よりも注意すべき存在は大蛇丸の中でやはりうちはイタチだった。暁に潜入したのもイタチの体を奪い取り、草薙の剣の()()一振りを探すことが第一目標だ。確かに藍染の行く末も見遂げたいが、安全マージンの確保あってのこと。

 

 

 その為には出来る限りの余力を残しておく必要がある。

 

 

 藍染の両親との仲が良かったことは記憶している。いくら超越した態度をとろうとも藍染も一人の人間。かつての師が藍染の両親を殺した犯人だと知っては、僅かな気の動揺は避けられない。怒りに身を任せて鏡花水月の使用さえも忘れて直接的な攻撃手段をとればその隙を突いて仕留めることも出来る。そうすれば次はイタチだ。

 

 

 

 

「……そうか」

 

 

 一時藍染の表情が無くなる。そして、

 

 

 

「それは……あなたに感謝しなければならないみたいだね」

 

 

 

 藍染はやはり微笑んだ。――そこに気の緩みや、負方向への動きは一切掴めない。つけ込もうとした隙はそのまま大蛇丸の隙に代わってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





次回もネタバレ注意

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