オサレ腹黒ヨン様忍者   作:パンツ大好きマン

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死神の腹の虫

 

 

 

 

 カカシとアンコの治療を済ませてなんとか救命措置を完了した綱手が向かったのは自来也の元だった。既に転移先については分かっている。しかし一人で向かったとしても鏡花水月を扱う藍染には敗れてしまう可能性が高い。確実な戦力を用意して、一人を囮としてもう一人で奇襲をかけることで藍染の無力化をより確実なものとしたかった。

 

 

 山中上忍より自来也は里の外周部で敵忍の迎撃にあたっているとの連絡があり、その道中を急ぐ。普段は市民で賑わう里内はいたるところで煙が上がり、崩壊した建物が見られる。戦闘も依然継続中だ。ちょっかいをかけてくる敵はまとめて始末し、後は他の忍に任せる。木の葉の忍ならば任せておいても平気だろう。

 

 

 ふとすると綱手の周囲を殺気が囲んでいるのに気づいた。綱手の走りに対応してその包囲網が移動する。速度を落とせばそのように、足を止めれば気配も止まった。綱手が気づいたことに敵方も気づいたのだろう。周囲の建物から上空へとその影たちが跳ぶ。

 

 

 一、二、三……八人。三忍を相手にするには少ないが久しぶりの実戦の肩慣らしには丁度いい。

 

 

 しかし腕まくりした綱手の気概は直ぐに沈んでしまうことになった。

 

 

 綱手の背後から上空より飛び掛かる襲撃者たちに向かって、見えない風刃がその尽くを撃ち落としたのだ。

 

 

「……何をやっておる。敵に主導権を握らせるな。そこまで鈍ったか?」

 

 

 顎に十字の傷が入った老年の男が会って早々に嫌味をぶつけてきた。綱手は額に皺を寄せて不機嫌を隠そうともしなかった。

 

 

「黙っていろ老いぼれめ。軽い肩慣らしのつもりだったんだ」

 

 走りながら十字傷の男ダンゾウが並走する。さすが暗部『根』のトップ。ヒルゼンと歳が近いにも関わらず息切れ一つない。

 

 

「――命令だ。自来也と合流して藍染と黄緑、イタチを抹殺しろ」

 

 

「――自来也と合流するまでは聞いてやってもいい。だが藍染は生け捕りだ」

 

 

 綱手の瞳が濁る。殺気さえも感じる強い意志を秘めた圧力(プレッシャー)をダンゾウに向けた。しかしそれで怯むようなダンゾウではなかった。

 

 

「奴の話が本当だとすれば、そんな温いことがよく言えるものだな。能力を明かしたということはその前提条件をほぼ網羅しているということだぞ。狙いはまだ不明だが、ここまで周到な準備をしているのなら碌な狙いではあるまい」

 

 

「――少し黙っていろ」

 

 

 一触即発の気配。片目を包帯で隠しているダンゾウは気取られぬように後ろ手でチャクラ刀の柄を持ち直す。対する綱手も全身に巡らせたチャクラに殺気を込め始めた。互いに目的も手段も違えば相容れる訳がない。処分するのなら他の邪魔が入らない今の内にと考えるのもおかしくなかった。

 

 

 

 そこに一人の影が割り入ってきた。あわや激突というタイミングに二人の殺気をまともに浴びてしまったのはまさに渦中の人だった。

 

 

「騒々しいのォ。内輪もめはこの騒動が済んでからでもよいだろうに……」

 

 

 白髪の長髪を靡かせた初老の男自来也は返り血を被って、普段の飄々とした態度はそこになく、鬼気迫るものを感じさせた。ヒルゼンに約束した通り、里の次代を担う彼には滅私として外敵を打ち倒し平和な世にする為の信念がもう根付いていたのだ。

 

 当然山中一族より事の仔細は聞き及んでいる。里の周囲の巨大口寄せ生物をねじ伏せて、残りは蝦蟇たちに任せて急いで里内部までやって来た。大蛇丸と師の戦闘は邪魔立てするつもりはなかったが、事態は当初の予想と随分違っている。天才イタチさえ現れたのならば加勢せざるを得ない。

 

 

「良いところに来た自来也。藍染を殺害して事態を収束させるのだ」

 

 

「ああ、その件だが実は――」

 

 

 自来也は言いかけて殺気立った綱手の肩を掴んで引き留める。気持ちは分かるがまだその時ではない。それよりもまず周知せねばならない情報があった。戦局を左右しかねない重要な情報だ。

 

 

「おそらくワシは藍染の完全催眠の前提条件にかかっていない」

 

 

 その場の二人は思わず息を呑んだ。

 

 

「――っ!? 本当か、な、ならうってつけだ! 直ぐに向かうぞ!」

 

「――待て」

 

 

 ダンゾウが制止の声をかけた。自来也の情報を鵜呑みにするにはまだ早い。自分たちもその条件が当てはまっている以上、藍染の能力の有効範囲が不明な今上手い話にのって突撃しても失敗する可能性が高かった。作戦の成功率を上げるためにまずその経緯を聞く必要があった。

 

 

「何故そのようなことが言える? ここまでの準備をした奴が三忍ほどの相手に完全催眠をかけ忘れることがあるか?」

 

 

 もしや自来也の姿をした偽物ではないかとさえ疑っていた。そして完全催眠の恐ろしさはその戦闘での絶対性に加えて、非戦闘時でのこうした疑心暗鬼を生じさせるところにあると理解した。理解したところで対抗策がないのが胆である。

 

 

「前々から危惧していた……と言っても信じるのは難しいか」

 

 

 三忍の大蛇丸が人の才能を見抜くことに長けているのならば、自来也は人を見る目に長けていた。その人物が木の葉の敵たりうるか、己の周囲に牙をむきかねない野心を持っているかを長年の経験と勘とで見定めてきた。そうして藍染はそのセンサーに引っかかっていたのだ。振る舞いは真面目で、礼儀正しく目上の者を尊重し、後進の指導にも熱心と疑うべき要素はない。だからこそ疑いつつも誰にも言い出すことはできかった。縁者でもある綱手には尚更。何故怪しいのか自来也本人でも分からないので、出来るのは接触の機会を減らして遠ざけ、嫌悪の表情が出ないよう留意しておくことだけだった。

 

 とはいえここまでの事件を起こすとは努々考えもしなかった。

 

「……まずはここ数日の話を聞かせて見ろ。完全催眠がかかっていないのならば何処かで我らの認識とずれている可能性がある」

 

 

 自来也はダンゾウの言うとおりに里内へ向かいつつ日々の流れを語って聞かせた。すると自来也本人からしてみれば当たり前の出来事が綱手やダンゾウからしてみると違和感を感じさせる出来事が多々あった。

 

 まずは御意見番との接触。自来也はここ数日何度かうたたねコハルとの接触をしていた。しかし綱手が見た上層部惨殺の死体の中に確かに死後一月と見えるうたたねコハルの姿があった。もはや死んでいる筈の御意見番を見たというならば完全催眠にかかっている可能性が高い。それを危惧した綱手だが、ダンゾウが横合いから口を出した。藍染の横に控えていた暗部である黄緑は死体の皮を被って精度の高い変装術が可能な忍だ。彼女の術ならば自来也一人を騙すことは可能。また自来也がこの一月御意見番両名を見ることがなく、ダンゾウは両名揃って目にすることがあった件から可能性は非常に高い。しかし、それは既に藍染が自来也個人の為に偽装工作を用意していたことを意味する。

 

 

 

「……まぁ良いだろう。しかしそれが本当ならお前を行かすことは出来んな」

 

 

「何故だ!? 自来也ならば完全催眠に騙されずに戦闘が可能だろ!」

 

 

「藍染の戦闘力は未知数だ。少なくともカカシを圧倒出来る実力はある。しかしお主ぐらいの実力ならば完全催眠の条件は知ってさえいれば戦闘中にかかることもあるまい」

 

 

「なら――」

 

 

「――だが人質をとられたらどうだ。ヒルゼンはおろか奴の完全催眠にかかったものは既に人質をとられたも同然。その解放と引き換えに条件を強要させらればお主はその条件を呑むだろう。――それこそが奴の狙いの可能性のほうが高い。そうして鏡花水月にかかってしまっては次の木の葉を支えるのは不可能だ」

 

 

 自来也は次期火影として周知されている。老い先短いヒルゼンと裏切り者の大蛇丸にみすみす次期火影の命を失う恐れの賭けなどあり得ないことだ。里への被害も少なくなく、上層部の権力やコネも今回で絶たれてしまったところが大きい。復興への見通しを考えるとここで自来也を戦場へ向かわせるわけにはいかなかった。

 

「――諦めろ自来也よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 火影の顔岩の上では二人の強い圧力(プレッシャー)がぶつかり合っていた。大蛇丸はその湿った殺気を触手のように伸ばし、藍染の圧力(プレッシャー)はただ己以外の全てを上から圧し潰さんばかり。二人の意志が波濤のようにぶつかり合う中心は空間が歪んでいるように思えた。

 

「薄々感づいてはいたよ」

 

 

「ほう?」

 

 

「あなたが私を観察していたように、私もあなたを観察していたというのがそんなに意外かな」

 

 

「……師が師なら弟子も弟子ということかしらね。ますます興味深いわ」

 

 

 大蛇丸は当初の予想を超えた藍染の精神性とその能力に興奮が治まらない。

 

 

「やはりあなたは私の思う通りの人だった。()()()()穢土転生の術式を研究室に残しておいた甲斐があるというもの」

 

 

 大蛇丸を穢土転生の術式へと誘導したのは、ヒルゼンに屍鬼封尽を使わせる為だ。初代・二代目程の実力者を蘇らせたのならば拘束して解除させるまでの時間すらも惜しい。考案者の二代目はその対抗策も熟知しており勝率は限りなく低い上に生半可な封印術は通じない。ヒルゼンのとれる手段は屍鬼封尽以外にないということだ。

 

 

「だからこそ礼を言う必要がある。本当に……ありがとう」

 

 

「可愛くないわね。相変わらずあなたは」

 

 

 お互いかける言葉は穏便なれど、直ぐにでも戦闘に入れるよう空気は張り詰めていた。大蛇丸がいの一番の機会を窺っていると、藍染の姿勢が脱力して意欲を失ったように刀を降ろすのを見る。

 

 

「あら? さすがにかつての師に刀を向けるのは良心が痛むのかしら?」

 

 

「……ここまで育ててくれた(藍染にしてくれた)恩もある。本来ならば手をかけたくなかったのだが、かつてあなたはこう言った」

 

 

「?」

 

 

「“師を超える達成感と喜び、それは弟子だけのものではない”と」

 

 

「……そんなこともあったかしらね」

 

 

 

「――あの日の言葉に従いましょう」

 

 

「――出来るものならねっ」

 

 

 

 藍染は戦闘態勢を解いたのではない。両手をそのままに下ろして、足は肩幅まで開くいわゆる自然体が特有の型を持たない藍染にとっての最適解だった。向かい合う大蛇丸にはそれが良く分かった。隙だらけなのだが、自然体故に次の挙動を予想することが難しい。

 

 

 様子見に徹する余裕は余りない。相手の隙が罠ならば、こちらから新たな隙を作りだすのが定石。大蛇丸の口が裂けたように縦に大きく開かれる。その咥内から夥しい数の蛇が吐き出され、地面を塗りつぶす黒い影が一人に向けて殺到した。

 

不規則な動きで波は太陽さえも覆い隠さんと藍染の目の前まで迫っていた。

 

 

 

 ――目の前まで迫っていた。

 

 

 

 

 否――目の前にいた。

 

 

 

 

 ――()()()

 

 

 

 

 

 蛇の群体が迫ろうとしていた藍染はそこにはもういない。まるで霞のように消え去ってしまった。蛇達も尋常ならざる感知器官で捕捉していた相手を目の前で見失う異変に対応できていない。

 

 

 百戦錬磨の大蛇丸でさえそうだった。

 

 

 一瞬の隙。零コンマ何秒、おそらく時間を数えるという脳内の電気信号が実際に行われるまでのほんの短い刹那が今の大蛇丸にはとてつもなく長く感じられた。達人同士の仕合で見られる時間の流れの相違。全ての動きが亀の歩みほどの速度に感じられる。蛇達も良く観察しなければ剥製にも見える時の流れの中で、確かに大蛇丸は藍染の声を聞いた。

 

 

「破道の九十“黒棺”」

 

 

 藍染の掌の上に黒く渦巻く重力場が時空を歪ませる。一度大きく膨らみ次の瞬間消えたかと思うと、大蛇丸の周囲を黒い線が走った。周囲の知覚は問題なく行えているというのに大蛇丸の体は実際に流れている時間そのままに僅かしか動いてくれない。

 

 黒い線は大蛇丸の周囲を取り囲むように幾何学的な空間図形を描く。そして全ての線が繋がり立方体が大蛇丸を納めると、その中の空間が黒く塗りつぶされた。

 

 

 黒は光を呑み込んだ証左だ。指定された空間内は光さえ脱出できない超小規模の重力場(ブラックホール)と化している。

 

 

 展開された時間は数秒だが、全身の血管から血を流してまだ形を保ったまま大蛇丸は地に伏した。もはやまともな戦闘は不可能だろう。

 

(……よもやこれほどの力を)

 

 藍染は風に白い羽織の裾を靡かせながらまだ意識のある大蛇丸へ視線をやる。

 

 

「鏡花水月の完全催眠は無欠。例え分かっていても逃れる(すべ)などありはしない」

 

 

「素晴らしい力です。藍染様」

 

 

「いや、失敗だ。本来の力からはほど遠い。……陰陽遁に土の性質変化ではこの程度か」

 

 

 軽い用事が済んだとばかりにヒルゼンの元へと足を運ぶ。鏡花水月による完全催眠だけの男ではないと確かに理解させられた。あの見たこともない術。印を結ばない術について確かにヒルゼンは知っていた。単純な性質変化や形質変化を極めたものや特有の装備に予め術式を構築しておいてチャクラで起動させるタイプ。あるいは血継限界固有のものなど多岐に渡る。しかし印を結ばない以上、時間や威力、それ以外の()()()()()と引き換えになる。

 

 しかし、あの術はそれらを無視しているように思えた。九十という数字から少なくとも九十以上あのような印を結ばない術があると見ていい。話を信じるのならばあれで威力が本来のものではないのだから恐ろしい。

 

 

「さて、待たせてしまったね」

 

 

「……これ以上何が目的じゃ藍染」

 

 

 ヒルゼンは自身の口から出た声音が思った以上に弱々しいことに自嘲した。

 

 

「……過去の文献を読み漁って、あるいは禁術を使って屍鬼封尽の死神について研究してきた。その出自はおそらく六道仙人の時代よりも過去に遡る」

 

 

「にも関わらずこの術は秘匿されてきた経緯から死神の腹に呑まれた犠牲者は少ない。つまり存在を保つ為のエネルギーが枯渇しかけていたのだよ。本来の性能なら四代目火影が九尾を封印する際も陰陽に分割する必要がないほどの出力は備えている」

 

 

 術者もその対象もまとめてその魂を封印され永劫の苦しみを味わうというリスクの高さは、その効果に見合わないとされてきた。尾獣の封印にだけ限定すれば時間と封印の媒体さえあれば他の手段でも代行できる。

 死神という存在は人智を超えた先にあるが、何かが存在するにはその事由が必要なのは埒外の死神にも適応される道理。死神にとってそれは腹の魂だったのだろう。

 

 

「弱体化していたところに尾獣最強の九尾が半分でも入ってしまい、それは栄養でなく劇薬に代わってしまったのだ。先に取り込んだ九尾が邪魔をしてこのままではいくら魂を取り込んでも完全体へは辿り着けない」

 

 

 何事にもバランスが重要だ。言ってみれば極限の飢餓状態にドーピングを投与するようなもの。薬物とは違って九尾はそこに居座り続けているので()()()()()()()()エネルギーの補給は出来ても、それ以上は見込めない。

 

 

「そう順序が大事だ」

 

 

 羽織の裾から藍染は何かをおもむろに取り出す。面だ。暗部が被る動物の面とは違う。まるで死神のような般若の面であった。

 

 

「かつての力を取り戻せばありとあらゆる()()を封印し、魂からチャクラを抽出して取り出すことも可能だ。大蛇丸の使っていた穢土転生と原理は似たようなものだよ」

 

 

 現世に蘇った死者は一度に練れるチャクラ量は限られているものの肉体という器を持たない為、精神エネルギーと身体エネルギーに関しては枯渇の恐れがない。さすがに直接点穴や経絡系を閉ざされた場合においてはその限りではないが、術の使用に制限がないことの強みは言うまでもないだろう。

 

 穢土転生の弱点として挙げられる魂そのものの昇華による術の中断。そしてあまりに蘇らせる対象が術者よりも強い場合その制御を外れかねないこと。解除方法さえ知っていればチャクラに制限がないまま暴走しかねないという点がある。

 

 

 死神は死者の蘇生こそしないものの、腹の中に封印した存在のチャクラをそういったデメリット無しで利用できる。勿論藍染のように完全に制御した状態で封印出来ればという話だが。

 

 

「そしてそのための手段がこれだ」

 

 

 面を片手にヒルゼンに近づきつつあった藍染の足が止まる。見れば両足を地中から伸ばされた手で掴まれている。土遁に青白い肌。執念染みた狂気を感じさせる視線。つい先ほど藍染の攻撃をまともに受けたとは思えない生命力の大蛇丸だった。

 

 

「……少し舐めてたのは認めてあげるわ」

 

 

「こちらこそ。あなたの生命力を侮っていました」

 

 

 黒棺をまともに受けていたわけではないのだろう。目の前の本人とは別に地に伏していたのは大蛇丸の抜け殻だった。あれほど精度の高い身代わりはチャクラの消費量も馬鹿にならない。現に大蛇丸は先程の幻を警戒して視界を完全に閉じている。三忍の一人であり、仙術チャクラを半端なれども身につけた大蛇丸にとっては他の感覚器官で十分に対処可能だ。

 

 

――しかし、それでも足りなかった。もとより完全催眠に対しての事前情報がない大蛇丸ではあまりに対抗策が乏しい。

 

 

 藍染の足を握っていた両腕は一切の過程を感じさせず苦無で地に縫い付けられ、瞼の奥から感ずる光量はいきなり夜にでも変わってしまったかのように思う。大蛇丸の顔には般若の面が被されていた。

 

 同時に背中に充てられた宝珠。大蛇丸の体につい先ほどと同じ体感が襲う。

 

 

(これは……死神の)

 

 

 宝珠を通して死神が般若の面を被った大蛇丸を感知して憑依したのだ。

 

 

 屍鬼封尽に封じられた魂を解放する手段は一つ。うずまき一族の能面堂に隠された死神の面を被り、

 

 

「グッァァ!」

 

 

 腹部を切り裂いて憑依した死神の腹も間接的に裂くことで、その腹に囚われた魂は解放される。直接宝珠に触れている藍染と憑依されている大蛇丸にしか見えないが、死神の腹部から夥しい程の死霊が溢れだした。先代の火影たちは勿論、それ以上に多くの魂が数分の間は止まることを知らない勢いで放出された。全て藍染の実験で犠牲になった者たちだ。

 

 全てが流出されると、支えを失った大蛇丸が今度こそ地に伏した。まだ僅かに息があるその不死性には見習うべきところがある。

 

 

「……素晴らしい。まさに私にとっての<崩玉>そのものだ」

 

 

 それ以上に注意をよせられている宝珠、改め崩玉は鈍く輝いて太陽の光を反射させていた。

 

 

 周囲の風が騒めく。イタチの立っている場所から少し離れた場所で不自然な旋風が発生した。それは藍染達も使用した簡易的な時空間忍術の転移先で起きる事象の前触れ。直ぐに風はより激しく岩上の土煙を舞い上げて視界を塞ぐと、収まった先に人影が一人、いや二人現れた。背の高い男が気を失っているらしい少年を背中に抱えてそこに立っていた。

 

 

 男は霧隠れのマークを横一文字に傷つけた抜け忍の額あてを身につけている。鼻から首元までを覆い隠す包帯、全身くまなく鍛えられた筋肉質な体は戦人の証。眉はそり落とされて黒い短髪の男は地獄の極卒のような低いかすれ声で、

 

 

「守鶴の人柱力を連れてきたぜ藍染様よ」

 

 

そう伝えた。イタチや黄緑と違ってそこまで藍染を敬っている気配はそこにはない。それでも藍染は気にした様子もなく頷いた。

 

 

「時間通りだね桃地再不斬。一尾なら死神の丁度良い腹の足しになるだろう」

 

 

 

 木の葉の里の争乱は収まりつつあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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