オサレ腹黒ヨン様忍者   作:パンツ大好きマン

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そして終幕

 

 

 

 直ぐに我愛羅の守鶴が陰陽に分割されて陰の部分は藍染の崩玉に封印されることになった。意識を失っているはずの我愛羅の体が体内で暴れ狂う守鶴の決死の抵抗によって激しく痙攣する。それでも死神の力には逆らいきれず崩玉に黒い影となって吸い込まれてしまった。

 

 長年苦しめて来た九尾の半身や、歴代火影の魂たちを解放して直ぐに御しやすい一尾といえどもその全体を封印するには弱体化していた死神にとって負担が重い。それを考慮して今回は一尾の半身を封印する結果に落ち着いた。ただでさえナルトとの全力の戦いの後に再不斬に拉致されて来た我愛羅だ。人柱力は尾獣を抜かれると死んでしまうという特性上、普通なら半身では確実に死んでしまうことはないが、疲労とチャクラの激しい消費によって体力を失っている状態での封印術の行使は余りにも我愛羅にとって負担が大きすぎる。このまま何の処置もしないまま放置しておけばいつ死んでもおかしくないだろう。

 

 既に用済みとなった我愛羅は藍染にとっての興味の対象には入らない。抜け殻のように脱力した体を片手でゴミのように放り投げた。

 

 

 屍鬼封尽によって己の体に九尾を封印することで一時的に人柱力になった後死神に喰われた四代目火影波風ミナトの場合と違い、我愛羅は直接藍染の手によって一尾の半身だけ狙って封印された。空っぽの死神の胃の中に純粋な尾獣のチャクラだけが取り込まれた状態だ。人の魂よりもエネルギー効率は格段に良い。九尾と違って負荷は最小限で死神にとって最良の餌だ。崩玉は先程までの深海を想わす紺色に時折波紋が立つようになっていた。中で暴れる一尾の影響が出ているのだろう。またしばらくは尾獣のチャクラを死神に馴染ませて慣らす必要がある。

 

 

 ヒルゼンは回復しつつある体に鞭うって投げ捨てられた我愛羅が頭から硬い岩肌にぶつかる前に体を滑り込ませて受け止めた。普段ならなんてことのない動きが身体の節々に鈍痛を訴える。他里の人柱力を助ける為に動く義理は無いにも関わらず、善性の強いヒルゼンは見捨てることが出来なかった。

 

 

 怨みの籠った視線が藍染を突き刺した。優しく我愛羅を地に寝かすと、今度こそ藍染を止める為に己の命を懸けて挑もうと身構える。幸いなことにヒルゼンの金剛如意棒に化けている猿魔は鏡花水月の影響を受けていない。藍染の匂いを感知して任意に攻撃させれば一撃を与えることも可能。こちらが完全催眠にかかっているのは分かっているので能動的な攻撃は難しいが、相手の攻撃を受けた直後ならばその隙を狙って猿魔による不意打ちを狙える。『肉を切らせて骨を断つ』ほど上手くいくとは思っていない。肉の部分が己の命でもいい。せめて一撃だけでも有効打を与えることが出来れば、完全無敵の能力ではないと証明できる。

 

 

 

 極限まで集中していたので気づくことが出来た。風切り音が藍染の上空から聞こえる。何かが落下してきていた。小さな影だったそれが藍染の頭上十メートルまで自動落下してくると、巨大な人影がその場に唐突に現れた。巨人ともいえる大きさの人間は落下速度も利用した踏みつけで藍染達ごと岩肌を抉り破壊する。質量と速度の十分乗った一撃は視界を埋め尽くすほどの粉塵を生み出し、四方に岩石の塊を飛散させた。前もって気づいていたヒルゼンは飛礫を危なげなく金剛如意棒で打ち砕いた。

 

 

「火影様! ご無事でっ!?」

 

 

「うむっ」

 

 

 現れたのは秋道一族の当主15代目の秋道チョウザ。自身の体やその一部を倍加させることのできる秘伝忍術の使い手だ。先程の不意打ちは通常の状態から一気に全身を倍加させる超倍化の術によるもの。トリッキーな動きのとれない空中での落下運動だと油断している敵には効果絶大。

 

 

 いち早く動いた藍染を先頭に攻撃を避けたイタチ、黄緑、再不斬が着地する。

 

 

「これは……」

 

 

「おいおい。捕まってんじゃねぇか」

 

 

 黄緑、再不斬が異変に気付いた。

 

 未だ土煙が足元に立ち込めていたからだろう。いつの間にか藍染達の足元は土煙に紛れて地面を這って来た黒い影の手に囚われていた。足首から膝のあたりまで蛇のように這われている為、上体を除いて微動だに出来ない。

 

 

「これは影首縛りの術……やはり君か」

 

 

 土煙が晴れて藍染達の前に姿を現したのは二人。術の維持の為に印を結ぶ上忍は眼光鋭く睨みつけた。もう一人は内心に沸き上がる感情を制御しつつ、アイコンタクトで秋道チョウザとの陣形を合図した。

 

 

「秋道チョウザ。奈良シカク。山中いのいち。猪鹿蝶揃い踏みか……随分懐かしい面々だね」

 

 

 木の葉の庇護下に入る前から深い交流のあった一族だ。上空からの襲撃で意識を上に逸らしておいて、本筋はその時発生した土煙に隠れて影首縛りの術で捕縛する連携力。動けない相手に山中一族の秘伝忍術で精神を乱すことや乗っ取ることで戦闘を終わらせる。全く無駄のない作戦に思わず藍染は感嘆の息が漏れた。

 

 

「……どうやら本当に藍染上忍本人のようですね。信じたくはなかったのですが」

 

 

「何故木の葉を裏切ったのですかっ!?」

 

 

 シズネから聞いて、藍染の動きを感知伝々で把握していたいのいちはある程度事情を把握していたので心の準備は出来ていた。しかし奈良シカクにはその心構えが出来ていなかった。かつて大戦の時も指揮官として指示を仰ぎ、終戦後も変わらず尊敬していた男が大罪を犯したなど信じられなかった。今でさえ普段の穏やかな様子と変わらなく見えた。

 

 それでも油断なく影首縛りの術で掴む力は緩めない。本来であれば全身捕縛といきたいところだが、さすがに残りの三名ほどの実力者を放置は出来ない。特に一人はあのうちは一族の傑物だ。膝まで固定すればいのいちの秘伝忍術から逃れることは出来ないという信頼も大きい。

 

 

「何か誤解しているようだね」

 

 

「ッ!?」

 

 

「君たちの知る藍染惣右介など最初から何処にも居はしない」

 

 

 今ハッキリと理解した。眼鏡の奥の瞳に人間らしい温かみはもうない。何故ここまで変わってしまったか経緯を探る意味は現状薄かった。既に取り返しのつかない事態を招いてしまった。今の藍染が過去の藍染を偽りだと(うそぶ)くのならばせめて過去の己たちが尊敬した藍染のまま送るのが最低限の礼儀。記憶の中の藍染だけは綺麗なまま終わらせたかった。

 

「シカク」

 

「嗚呼。分かってる」

 

 

 影首縛りの術から影縛りの術に切り替える。影首縛りの術の方が物理的な干渉と戦術の柔軟性が高いが消費チャクラはその分大きい。四人分ともなればその維持に苦労する。影縛りの術は術者の動きを影を繋いだ対象にリンクさせるものだ。対象への物理的な干渉もリンクしてしまうので、こちらが殴ればその物理的な衝撃はそのまま術者であるシカクにも及んでしまう。元々足止め用の術なので決定打に欠けていた。

 

 それを補うのが山中一族の精神介入の秘伝忍術。あくまで精神的な干渉なので物理的には何のデメリットも無く影縛りの術と連携出来る訳だ。

 

 

 

「油断するでないぞっ!」

 

 

 ヒルゼンから警告が発せられた。ここまでして尚一切の油断はない。普通なら影縛りで捕えた時点で詰みだ。そんな常識が今まで打ち砕かれて来た故に警戒網は何重にも張っておくべきだ。

 

 火影の声に頷き三方を固める。写輪眼使いのイタチと目を合わせないように留意しながら配置取りをしていると、

 

 

「やはり警戒すべきはあなただよ猿飛ヒルゼン。老いさえ無ければと思わざるを得ない」

 

藍染は告げた。自身達の置かれている状況が分かっているのか怪しい。まだ何か隠しているものがあるかもしれなかった。

 

 

「……悪い気はせぬが、お主はもう(しま)いじゃ!」

 

「心転身の――」

 

 

 術の発動の射程上に突然シカクが割り込んで来た為、イノイチは術を中断せざるを得なかった。絶好の機会を中断させられた憤りに睨みつけるがどうやらシカクの様子がおかしい。操られている様子はないが、困惑しているように見える。

 

 

「――待てっ! おかしい! 奴等の体が俺と同じ動きをしていないっ」

 

 

「なにっ!?」

 

 

 影縛りの術は術者と連動して動く。当然先程のようにイノイチの前に飛び出したのならばそれに伴って動かなければおかしい。だのに奴等は一歩たりとてその場から動いていなかったのだ。あのまま術の狙いを絞って不用意に術を発動させていればその隙を突かれていた可能性は非常に高い。

 

 

「ならば直接やるまで!」

 

(はや)るなチョウザッ!」

 

 

 イノイチの制止を振り切ってチョウザが藍染へと立ち向かう。巨体で地面を揺らしながら、それに見合わさない速さで詰め寄ると部分倍加で巨大化させた拳を勢いよく突き出した。その破壊力は大木さえも真正面から根こそぎ倒すほどのもの。

 

 

ガゴォン

 

なにかがひしゃげたような鈍い音。

 

「なにっ!?」

 

 

 渾身の一撃は十分に体重とそれまでの助走で得た加速が合わさり振りぬかれた。

 

 

――しかし

 

 

 

 チョウザの巨大な手に装着された鋼の手甲部分。その中心に藍染の鏡花水月の切先が突き付けられていた。あの貧弱に見える刀が今も押し切ろうと全身の力を込めるチョウザの巨体を受け止めている。

 

 傍で見ていたシカクは本人よりも状況を詳しく把握していた。チョウザが額から大量の汗を流しているにも関わらず藍染は相変わらず涼しい顔だ。完全催眠にかかっているのかという疑惑さえ生まれた。しかし藍染がチョウザの攻撃を受け止めた証左に、藍染の足元の岩肌は陥没し瓦礫を周囲に散らしている。わざわざ完全催眠で敵であるシカク等にそれを再現して見せる義理はない。つまり単純な実力でチョウザの渾身の一撃を片手で掴んだ鏡花水月の先端で相殺した。いや、チョウザはむしろ押されつつある。拮抗していたと思わせていただけだったのだ。

 

 次の瞬間。チョウザの腹部は裂かれ、力なく倒れていた。

 

 続けてイノイチ、シカクも糸の切れた操り人形のように倒れる。肩や背に大きな刀傷を受けて岩に伏す姿にヒルゼンは眉を顰めた。僅かに刀の軌跡を目の端で捉えていた。

 

 そしてあの恐ろしいほどに冴え渡った剣術を一瞬たりとて美しいと感じた己を恥じた。

 

 怒気がヒルゼンの体力を急速に回復させ、殺意がチャクラを研磨した。チリチリと肌を刺し、圧力(プレッシャー)が周囲の空気を押しのけて風圧と化す。あたりに転がった小石がその凄まじさでひび割れてしまった。

 

 

「行くぞっ!」

 

 

 ヒルゼンの速さは全盛期より遥かに落ちている。カカシや瞬身に優れた忍ならその速度を上回ることは可能。だがそれは単なる()()に限った話だ。

 

「チェアッ!」

 

「……ふむ」

 

 純粋な体術の技巧。目線の誘導などフェイントを含んだ老練さは若き時よりも完成されている。最高速度はそこまでではないが、緩急による加速や急減速で向き合った際は実際のスピード以上に感じられた。

 

『猿飛! 上だ!』

 

「おう!」

 

 加えて鏡花水月の影響を受けていない猿魔によるサポート。二人が一心となりその相乗効果は単純な二対一より更に上まで実力を押し上げていた。得物を使うことによるリーチの長さと手数の多さが藍染に反撃の隙を与えない。

 

 事実藍染は防戦一方で攻勢に出ることはなかった。受け止めた鏡花水月の刀ごとへし折ってやらんばかりの攻めの一手。藍染を後ろへ後ろへと追いやってゆく。あと一撃で有効打を与えるに充分なところまで藍染の体幹を崩すと確信できた。

 

「むっ!?」

 

 その一撃をヒルゼンは加えることを止めた。だけでなく追撃の手を止めて背後へ跳んで距離をとる。絶好の機会を自ら手放したヒルゼンの顔に後悔の色はない。それが最適手だと己の推測と直感を信じているからだ。

 

 

 ヒルゼンが踏み込もうとした一歩には藍染の影が地に映っていた。その影がヒルゼンの前で奇妙に揺らぐ。やがてそれは不定形な大きさに形を変えた。自然の摂理にそぐわないその現象にヒルゼンは己の判断が間違っていなかったことを知る。

 

 

「やはりお主は秘伝忍術さえも……」

 

 

「さすがの洞察力……と言ったところかな」

 

 

「おおかた影首縛りの術から影縛りの術に切り替える際にお主の影で防いだのだろう」

 

 

「ご名答」

 

 

 ヒルゼンが気づいたのは理由があった。藍染の動きが日光を背後にしてヒルゼンに影を踏ませようとする意図が読めたからだ。普段なら気にしないが、シカクの術がかかっているにも関わらず抵抗もなく術から抜け出したことに違和感が残っていた。

 

 そして歴戦の勘。あの三忍を優に超える戦闘経験と初代・二代目・マダラの地図を書き換える規模の戦場を経験している。昨今の戦場と違い、あの頃は殺意が空間に満ち満ちていた。判断力の速さは生死に直結する。強敵を前にヒルゼンは戦乱の世の緊張感を取り戻したのだ。

 

 あとは印は影縛りの術にかかっているフリさえしておけば違和感なく結べる。最も本当にかかる寸前に行使したのだろう。

 

 奈良家の一族でない藍染がどうやって秘伝忍術を身につけたか……あまり良い予感はしなかった。神隠しでいなくなった奈良一族もいた記憶がある。

 

 

 藍染の影は奈良一族のように他人の影と結び付けて利用するものではない。影首縛りの術のように物理的な干渉をメインにしたもので、その都度流動的に形成し瞬時に固形化することが可能だ。影そのものというより藍染の意志で形を柔軟に変化させるガラスのような固形物質。マニュアルで動かす分、その強度はオートで動く我愛羅の砂の盾を凌ぐ。奈良一族と同様に自身に近い程その形成速度と強度が増し、離れるほど落ちる特性上主に防御、カウンターとして使われることが多い。もしあの時ヒルゼンが踏み込んでいれば硬質化した影の槍が足元を貫いていただろう。十刃(エスパーダ)現世侵攻時に藍染が京楽の攻撃を防いで見せた『エル・エスクード』を再現した結果だ。

 

 素直に藍染は初見で見切ったヒルゼンを称賛する。戦闘経験はさすがにヒルゼンに敵いそうもなかった。

 

 両者、お互いのやり口を見計らっていると、

 

ヒルゼンの背後に一人。二人と瞬身してくる影。火影直属の暗部の精鋭たちだ。

 

 

「――終わりじゃ藍染。お主らに逃げ場はない」

 

 

 それだけに(とど)まらない。瞬身の空気が弾けるような音が連続で何度も続く。

 

 

 藍染の背後に日向一族の現当主である日向ヒアシ。既に白眼を発動させて警戒を怠っていない。藍染の前方には上忍の体術の達人であるマイト・ガイが八門遁甲の内の五門を開いて臨戦態勢だ。体術の達人に挟まれて、動きを封じられたのは藍染だけではなかった。ヒルゼンの息子であるアスマは上忍の夕日紅と共にうちはイタチの首元に忍具を構えている。『根』の黄緑は同じ『根』らしき暗部に、再不斬は背中の首切り包丁を警戒して月光ハヤテ等の忍具使いが包囲網を構築して逃げ場を塞いでいた。

 

 

 それぞれ木の葉で始まった暴動を鎮めて優秀な木の葉の忍が藍染達を囲むように勢ぞろいしていた。皆ヒルゼンの愛する木の葉の家族だ。その火影を里を守るために駆け付けた精鋭の顔は非常に誇らしかった。そして手に得物を携えてかつての同志に向ける複雑な感情を押し殺そうとしていた。

 

「藍染上忍」

 

「まさかあなたが……」

 

 

 忍として状況によってはかつての仲間を処理しなければならないこともある。しかし、かつてここまで里に貢献してきた男を罰することはあっただろうか。

 

 

 里に騒乱を巻き起こした二人の男。その中心にいた男はここまでの状況に追い込まれて尚薄く笑みを浮かべていた。

 

 

「何が可笑しい?」

 

 

「嗚呼、すまない。時間だ――」

 

 

「――離れろっガイ!」

 

 

 異変に一番に気づいたのは日向ヒアシだった。あらゆる方向を白眼で観察し警戒していたので上空より迫りくる物体にいち早く反応することが可能だった。

 

 藍染の周囲を囲むように透明な壁が天より降り注ぐ。いや、それは透明な壁ではない。ギリギリのところでヒアシの呼びかけに反応して退いたガイはいきなり肌を貫くような冷気に身を凍えさせた。

 

 

 氷の壁だ。それも気泡の混じっていない純度の高い氷。自然現象ではあり得ない厚みと、藍染を守る意図の込められたタイミングは新たな襲撃者の存在を予期させた。

 

 気づけば藍染の直ぐそば。氷の分厚い壁の中に小柄な少女の姿があった。市女笠(いちめがさ)を頭に、霧の額あてを髪留めのように身につけている。花も恥じらう可憐な少女は殺気の篭った視線も気にせず、まるでそこにいるのが当然とばかりに佇んでいた。

 

 

「お迎えに上がりました藍染様」

 

 

 鈴の鳴るような声が氷の壁に反響して聞こえた。藍染の味方であるのは間違いなさそうだった。

 

 

「ご苦労。白」

 

 

 

「この程度で逃げられるつもりか!」

 

 

 火影の口内が熱く燃え上がり、業火が氷に纏わりつく。近くのガイやヒアシを巻き込まないように制御しつつ、生半可な水遁相手では相性差を埋めて余りある火力。火遁を得意とする猿飛一族の中でも飛びっきりの腕利きである猿飛ヒルゼンの攻撃だ。

 

 氷の表面が火遁の熱で蒸気を生み出し、晴れた頃には――元通りの氷の壁がそこにあった。溶かされたのは氷の表面に過ぎなかったのだ。雪一族の生き残りである白の氷、氷遁は風と水の性質変化を合わせた血継限界であり、例え火影クラスの火遁であろうとも突破は難しい。

 

 加えて白が発動させた氷遁は防御と移動に特化した特殊な術。ガイやヒアシによる物理攻撃も表面を削るのみで修復されてしまう。

 

 

「僕の秘術はそう簡単に破れないよ」

 

 

 白は複雑な印を結ぶと今度は再不斬、黄緑、イタチにも同じような氷の壁が出現して包囲網を一歩退かせた。

 

 単純に防御だけが取り柄の技ならば時間をかければどうとでもなる。当然この術の真価は防御だけではなかった。

 

 

 藍染と白の体が浮く。正確には浮いているのは氷の壁だった。周囲を守るだけに思われた氷の壁は上下も塞がれていたようで、まるで氷で出来た棺の中にいる藍染達は垂直に空へと昇っていってしまう。

 

 当然それを中断させようと妨害の術や忍具が浴びせられるが堅牢な氷の壁を前に意味をなさない。いつの間にかそれらの攻撃は疎らになってしまった。

 

 

「待てっ! 降りてこい惣右介ッ!」

 

 

 木の葉の忍の包囲を掻き分けて女傑が躍り出た。

 

 

「――綱手か」

 

 

 ヒルゼンは今更ながら綱手の胸中を慮る。千手の、綱手にとって唯一の親族の藍染が里を裏切ったのはもはや周知の事実。どれほどの悲哀が綱手を襲ったかを考えると胸が痛む。とはいえいくら三忍の親族であろうとも取り返しのつかない事態を招いた藍染を許すことなど出来ない。

 

 

「惣右介っ! 何故だ!? 他国の忍と手を組み、いったい何のためにっ!?」

 

 

 そこまでして力を求める理由が綱手には理解できなかった。千手一族に相応しい力を持ちえないと蔑まれてきた藍染。しかしここまでの実力を隠し持ってきて、更に新たな力を求める意義が見いだせない。以前までの人柄に実力すら併せ持っていたのならば火影すら夢ではなかっただろうに……

 

 

「――高みを求めて」

 

 既に藍染達は有効な攻撃手段を届かせることが難しい距離にまで達していた。超人的な身体能力とチャクラコントロールによる近接戦を得意とする綱手には難しい距離。それでも不思議と藍染達の声は届いた。

 

 

「里とその家族を裏切るとは地に堕ちたか……藍染」

 

 

 藍染の身に纏う空気が変わった。今までは何処か以前の温和な表情があった。常に笑顔で(まなじり)の下がった老若男女安心するような空気が一変した。

 

 

「驕りが過ぎるぞヒルゼン。最初から誰も天に立ってなどいない」

 

 

 冷たい瞳だ。白と呼ばれた少女の生み出した分厚い氷壁など目ではない。かつての藍染を良く知る者ほどこそ、その差は顕著に理解できた。

 

 

「君も。僕も。神すらも」

 

 

 レンズ越しに藍染は今まで己を偽ってきたのだろう。溢れる野心を押し殺し、外界と内面を遮断してきた眼鏡はもはや必要なくなったのだ。

 

 

「だがその耐え難い天の座の空白も終わる」

 

 

 眼鏡を外して顕になった藍染の素顔。大きく開いた瞳孔に切れ長の一重が意志の強さ、執念とも言えるただならぬ想いを感じさせた。きっとそれは黒く凝り固まった悪臭を発するものだった。

 

 髪を後ろに撫でつけると、まるでそれが本来の彼の姿だったと言わんばかりに固定された。片手に持っていた眼鏡もかつての木の葉の忍であった頃の名残を切り捨てんばかりに、藍染の手の中で儚く砕け散った。

 

 

「これからは――私が天に立つ」

 

 

 

 

 

 

 

 ちょうどその時、木の葉の顔岩を汗水流して登って来た少年たちがいた。ナルト、サスケ、サクラの第七班組だ。ナルト達は木の葉の忍たちが皆同じ方向を見ているのに気づいてつられて仰ぎ見る。

 

「あれ……? 藍染先生だってばよっ!」

 

 

「えっ!? 本当!?」

 

 

 サスケの視界にも確かに死んだ筈の藍染の姿があった。動揺を避けるために意図的に山中イノイチは下忍達に伝えていなかったのだ。サスケはしかし、藍染よりも一人の男から視線が離れない。黒字に赤い雲が浮かぶ特徴的な衣装を身に纏った男。黒髪で顔立ちはサスケに良く似ていた。他ならぬうちは一族を皆殺しにしたサスケの実の兄であるうちはイタチだ。

 

 

 

 

 

 

 

「さようなら。木の葉の諸君」

 

 

 

 氷の棺に包まれた藍染達は一定の高度まで達すると、そこに冷気を残して掻き消えた。時空間忍術の一種であろう。結界班は木の葉の里の中にはもういないことしか終ぞ分からなかった。

 

 

 

 

 ズルリ、ズルリと粘液を纏った男が岩壁の端にいた。蛇のような瞳を持つ男はこの騒動のもう一人の黒幕だった。未だ藍染の残した被害の大きさに混乱している場で、大蛇丸は少年と接触する。

 

 

「今のままじゃあなた一生かかってもイタチ君には勝てないわよ。忌まわしい藍染の近くにいることだしね」

 

「……ああ。奴を殺す力さえ身につくのならば何だってやるさ。だからあんたの弟子になったんだ」

 

 

 藍染に痛めつけられた体から生き延びる為に大蛇丸は部下である左近の体を奪って『不屍転生』を使用した。本来ならばサスケをそのまま取り込みたかったのだがタイミングが悪く間に合わなかった。強力な術だが一度使ってしまうと2~3年は使えない。しかし、予想以上の藍染の力を目の前にし、もっとサスケ自体に力をつけさせて奪ったほうが効率が良いと思いなおす。

 

 そうして大蛇丸は残りの部下三人とサスケを連れて木の葉の里から抜け出す。幸いに邪魔する者はこの騒乱の中いなかった。

 

 

 里を襲った大蛇丸・藍染。二名は木の葉に大きな傷跡を残した。里の上層部の一部腐敗を取り除いたこと以外恩恵は無く、各国のバランスも崩れるのではないかと不安の声も上がった。三忍の一人、上忍衆の一人が里抜けして復旧の士気にも大きく影響していた。

 

 翌日三代目火影猿飛ヒルゼン直々に火影退任の意を表明し、その後継として五代目火影自来也を推した。三忍の一人である自来也は大名からの覚えも良く直ぐに上忍衆でも可決され、正式に五代目火影に就任することとなった。

 

 カカシや脱獄に関わった上忍、ヒルゼンへの処罰は取り消され、里もようやく前向きな姿勢を見せて来た。大蛇丸と共謀して里を襲撃した砂も風影は既に暗殺されていたことを知り、木の葉と同盟を結ぶことに。しかし弱った木の葉を立て直すには人手と時間がまだまだ足りない。

 

 大蛇丸と藍染という強敵。暁という組織のよからぬ噂も聞く。五代目火影自来也の苦悩はまだ始まったばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




白「安心してください、ついてますよ」

ちなみに中忍選抜試験の時からいました。
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