オサレ腹黒ヨン様忍者   作:パンツ大好きマン

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それぞれの準備期間

 

 

 

 

 

 崩玉の中で守鶴の半身が馴染み、しばらく。完全に死神に取り込まれた影響で崩玉に宿るチャクラは凄まじく、その副産物もまたそれ相応の価値のあるものだった。今もまた崩玉から守鶴のチャクラが固形化して黒い飴玉程の球体が零れ落ちる。

 

『丹』

 

 後の世に大筒木一族のある男が尾獣のチャクラを集めて作ったそれには不老長寿・怪力乱神の効果があるとされている秘薬。今はまだ一尾の半身ということでそれほどの力は持ち合わせていないが、この先尾獣を封印していけばそれに近い性能のものとなるだろう。

 

 崩玉から零れ出たチャクラの結晶を上手く体に取り込むことが出来ればチャクラ量の増加。及びそれに伴う肉体強化を見込める。

 

 これは藍染すらも予期していない副産物だった。

 

 直ぐに生物実験で人間に投与する為の段階まで研究を進める。藍染がいくら一人で雑魚を蹂躙しようとも対応できる範囲はやはり一個人では限界がある。部下の戦力強化という面で今回の願っても無い発見は『崩玉』の能力と同様に周囲の願いを叶える力があるのではないかという疑問さえ抱かせた。

 

 ともあれ。そう簡単に上手くいくはずもなかった。

 

 守鶴のチャクラを体に取り入れるということはそう容易いことではない。チャクラを譲渡することは医療忍術等で珍しくはないが、それはあくまで人間同士での話。その一端とはいえ尾獣のチャクラを受け入れるということは人柱力に近い存在になることと言っても良い。適性無く尾獣のチャクラを体内に取り入れるとそれは毒と同様の効果を発することになる。激しい拒絶反応によるショック死、精神を病み自殺未遂、自身のチャクラが守鶴のチャクラに飲み込まれて脳死状態になってしまったりと散々な結果になった。

 

 人柱力からチャクラを譲渡されるのとは訳が違う。人柱力からチャクラを譲渡される場合、受け取るほうはいわば尾獣のチャクラを人柱力というフィルターを通して人に還元しやすい形で受け取っている。そうした対策の無い場合は大概、尾獣は長年封じこめて利用してきた人間を憎んでいる傾向にあるので悪意の込められたチャクラにやられてしまうのだ。

 

 どうにか普通の人間でも利用しやすい形に加工する必要があった。

 

 かつてジャシン教と呼ばれていた新興宗教団体の建物で教祖の席に腰をかけて思案していた藍染の下へ、任務達成の報告をしに来た者達がいた。

 

「只今戻りました藍染さ<殿!>」

 

 まるで途中で口の主導権が別の誰かに移ってしまったかのような痩身の男。かつてこのジャシン教団の教祖だった男だ。

 

「同じく帰還しました」

 

 僧衣の上からでもハッキリと分かる筋肉の鎧を纏ったスキンヘッドの男が続く。こちらもジャシン教団の元幹部ロクショウ。二人はもう信じる神を捨て、藍染へ信仰を捧げるようになった信徒だ。藍染がここを拠点としたのは彼らがいもしない神を崇めて都合の良い現実だけを享受するのを見て御しやすいと判断したためだ。新興宗教とはいえある程度の規模と『人を殺す』という教義上戦闘力のあるものたちがいたという理由もある。

 

 教団の中に押し入って鏡花水月の発動条件を満たし、望むものを見せて力で支配した。――それは信者にとって正に神の御業だった。

 

 

「<見事任務を達成してみせましたぞ!>」

 

「ご苦労だったね」

 

 

 教祖の口調に違和感を覚えず応える。彼も特異な能力を持つが故に教祖に祀り上げられた類の人間だ。ジャシン教はそういった特異体質や血継限界の持ち主が多い。そういった社会のあぶれ者たちが集い、社会全体に対する復讐を糧に団結している。なかには人体実験に進んで協力して後天的に特殊な能力を身に着けた者も……

 

 

「…………」

 

「どうかされましたか?」

 

 横に控えていたイタチが怪訝な顔で黙り込んだ藍染を窺う。教祖とロクショウも場に流れるなんともいえない雰囲気に押し黙る。沈黙は直ぐに本人によって破られた。

 

 

「……かつてジャシン教で不死の人間を造るという実験が行われていたと言っていたね」

 

「はい。――しかし結果は酷い有様でした。特異体質だったのか唯一の成功例である飛段という者以外は皆バタバタと倒れ、その飛段も今は『暁』という組織に入り連絡もとれない状況です」

 

 元幹部として人体実験を取り仕切っていたのはロクショウだ。薬物投与や禁術を研究し不死の軍勢を作り出そうとしたが飛段があまりに特殊過ぎたのか彼以外の成功は無く研究は取りやめとなってしまった。ロクショウは藍染がその実験を再開させようとしているのではないかと思い始める。

 

「その飛段をここに連れてくることは可能かな?」

 

「早速信者に情報を集めさせます」

 

 

 去っていった二人を見送る。イタチとは反対側に黄緑が藍染に似せた白地に黒の縁取りのフード付きローブを首の後ろで揺らしながら藍染に紅茶を渡した。

 

 教祖たちへ与えた任務と同時に死神の力を強める必要がある。『丹』の加工や投与による人体への定着が上手くいかないのは守鶴という個の意思を持ったチャクラが占める割合が多く、純粋なエネルギーとして利用することを困難にさせているのかもしれない。二尾を封印することで尾獣の個としての意思が薄れ害意を持ったチャクラが薄れる可能性がある。同時にかえって尾獣同士の人への憎しみが増して失敗する可能性も捨てられないが、その可能性はあまり高くないと藍染は予想している。

 

 二尾は猫の尾獣『猫又』として岩をも溶かす高熱のチャクラを操ることで有名だ。だが死を司り、怨霊を常に纏っている『死神』のペットという伝承はあまり知られていない。死神を封印した崩玉の中は二尾にとってさぞかし居心地の良い場所だろう。死霊の力を宿した尾獣は死神の力の復活にも大きく貢献することは確かだ。

 

人柱力は雲隠れの里のくノ一、二位ユギト。

 

彼女から尾獣を引きはがしさえすれば計画は大きく進行する。

 

 

「イタチ。二尾は頼めるかな? 白と再不斬も連れて行くといい」

 

「かしこまりました」

 

 

 イタチの血色は良い。元々色白で病を患っていたイタチは蒼褪めた死人のような顔をすることがあった。病巣は深く他の器官に浸食していて普通の医療忍術や手術では切除できないレベルまでイタチの体を蝕んでいたのだ。藍染もイタチほどの実力者を病気によって失うことは惜しく、その病巣を取り除く手術に協力した。

 

 医療忍術で藍染の上を行く綱手でさえ不可能に思われた手術。幸いなことに藍染には鏡花水月があった。五感を支配する鏡花水月でイタチの体の負担は最小限に、大部分の切除には成功したが完全には取り除くことは不可能だった。転移の可能性は未だ十分にある。それでも劇的にイタチの症状は改善した。

 

 体術、手裏剣術、忍術、幻術に優れて写輪眼の上位である万華鏡写輪眼を持つ。かつて千手と争っていたうちは一族の天才。一応千手一族の一人としてイタチとの関係はどこか因縁のようなものを感じる。丹が完成すればイタチに投与して病状の改善、純粋な強化を見込むことも出来るだろう。

 

 イタチならリハビリに二尾の拉致ぐらいなら何の問題もない。そもそも写輪眼は尾獣相手にさえ幻術をかけることが容易なほど瞳術としてのクラスが高いのだ。サポート性能が高い氷遁使いの白と、前衛として強いフィジカルを持つ再不斬がついていれば万に一つの可能性もないだろう。

 

 

 本来なら二尾確保は藍染自らが赴くつもりだったが別の研究が残っていた。鏡花水月の()()()()()相手がいる理由。憶測ではあるが仮定はついている。問題は()()そのようなことが起きているか。

 

 大事な計画の前に不明瞭なことは解決しておきたい。

 

 仮定を確証へと変える実験の為に教祖と黄緑を連れて地下の実験施設へと階段を下りる。 

 

「あれから鬼鮫とはどうだい?」

 

「……ええ。親しくさせて貰っています」

 

 自身でも不思議な表情で黄緑は答えた。彼女にとっては弟のような存在だった鬼鮫。今はどこか距離を測りかねている様子だった。黄緑も今更どう接していいか改めて考えているのだろう。

 

「それは良かった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの子は封印術の才能も持っているぞ」

 

「……本当か。珍しいな」

 

 自来也から伝えられて綱手も思わぬ才能に驚きの色を隠しきれない。三忍クラスともなると特に封印術が使えない忍もいないが、封印術というのは医療忍術に次いで才能に由るところがある。そして特に医療忍者は封印術が苦手な傾向があった。これは封印術を得意としている忍にも同じことがいえる。

 

 これはチャクラコントロールの方向性の違いによるものだ。医療忍術は細胞の一つ一つにチャクラを浸透させる繊細さとイメージが必須。反して封印術は一度に大量のチャクラを練って封印対象から封印先へと一度にチャクラコントロールで動かし消費するある種の荒っぽさが鍵となる。両者とも消費するチャクラが大きく、実戦ではどちらか一つに絞って使うことが多いのもその傾向に輪をかけていた。

 

「ナルトの方はどうだ?」

 

「……正直螺旋丸をあれほど早く覚えるとは思わなかった。やはり親子だのォ」

 

 ナルトの実の父親である四代目火影波風ミナト。まだ本人には伝えていないが、自衛の力も身についてきたのでそろそろ伝えるのも良いかもしれない。九尾の人柱力であることも四代目の息子だということもナルトに隠しておく理由はもうほとんどないのだ。問題はそれをナルトが上手く受け止めることが出来るかどうか。班員であるサスケが里抜けして、かつての信頼していた教師が裏切り、修行の日々。ナルトの精神状態は決して良好とはいえない。

 

 談話室で忙しい修行の合間の休憩。ナルトとサクラが騒いでいるのが聞こえた。二人とも三忍にこき使われて厳しい修行を受けている身だ。互いの境遇への不満を共有しあったり、貶しあったりとまるで本物の姉弟のように見える。

 

 

「あんたちゃんと自来也様の教えを受けてるんでしょうね? チャクラコントロール苦手だったでしょ」

 

「エロ仙人から『螺旋丸』って新術教わったからバッチリだってばよ!」

 

「……にしてはコントロールが甘いわね」

 

「サクラちゃんは細かすぎ! エロ仙人もそこまで期待してなかったみたいだし強みを活かせって――」

 

「――いくらチャクラ量が多くたってコントロールが上手ければそのほうがいいじゃない? 只でさえあんたは多重影分身でチャクラを使うんだから、付き合ってあげるから早くしてみなさい!」

 

「ええぇ! 休憩時間ぐらい休ませてくれってばよサクラちゃんっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 午後の執務を済ますとガイが持ち帰った真珠の調査結果を直属の暗部から報告を受けた。

 

「結論から申し上げますと、あれは藍染が使った尾獣の封印用の媒介として利用可能なものです」

 

「――つまり死神の再封印も可能なものだということか?」

 

「まず間違いないでしょう」

 

 藍染の封印した死神がどんな効果を及ぼすかまだはっきりとした効果は分かっていない。大蛇丸の使用した穢土転生は生命に基づく精神エネルギーと身体エネルギーが呼び出す死者にもうその制限が取り払われている為、生前のチャクラ容量そのままに術を使いたい放題となる恐ろしい禁術。同じ魂に干渉する屍鬼封尽の死神にも似たようなことは出来てもおかしくない。ましてや封印したのは尾獣の一尾。他の尾獣も狙われている可能性を考慮すると藍染に時間を与えるのは末恐ろしい。もはや木の葉だけの問題ではなくなっているのだ。既に自来也は各国に打倒藍染を呼び掛けている。しかし差し迫った危機がなく実感が無いので色好い返事はなかなかもらえない。鏡花水月の催眠にかかっていない可能性の高い他国の忍の協力は必須だ。

 

 計画とも言えない方針は一応立てている。

 

 まずは鏡花水月の効かないナルトやサクラに崩玉から死神を真珠に再封印させる。崩玉の破壊は一時的な死神の解放だけで、藍染が生き残っている以上、また屍鬼封尽で呼びだされて封印してしまえば意味がない。藍染やその部下の妨害は木の葉の忍と他国の忍との協力が上手くいくかどうかにかかっている。もしもの時は催眠にかかっていない自来也が藍染を命がけで止めて、可能ならば殺す。なにかと綱手を頼って仕事を投げているのは次期の火影を託すためでもあった。

 

 藍染が大きな野望を秘めているのはおそらく正しい。

 

 しかし木の葉の復旧もある今、どうしても受け身にならざるを得なかった。今の状況で木の葉単独で動くのはあまりにも危険だ。藍染の方も死神が本来の力を取り戻すには時間がかかると言っていた。巨大すぎる尾獣の力を御し、各国家に対抗できる力を備えるには1~2年はかかるだろう。『暁』の狙いも尾獣であるという予想はついている。九尾の人柱力がいる木の葉は復旧中とはいえ各国でもかなりの経済力を有して防御も強固。他国の人柱力が優先的に狙われるはず。

 

 他国に間諜を忍ばせているので人柱力が襲われたという情報が入り次第、その隠れ里には対藍染包囲網への加入を提案していくつもりだ。

 

 国という巨大組織が連携するにはそれなり以上に差し迫った危機が起きない以上難しいのが事実。せめて各国が取り返しのつかないところに達するまでには上手く話がまとまって欲しいと自来也は願った。

 

 

 それまではナルトやサクラの成長を促し、国力のいち早い復興の為に火影として全力で里に尽くす。大蛇丸も藍染が邪魔な存在であることは共通しているので、裏取引して協力を呼び掛けるのもいいかもしれない。ダンゾウやヒルゼンといった先人との会合も必要だ。考え得る対抗策の実現に向けて日々忙しすぎる自来也の姿に木の葉の忍たちも元気づけられ、引退した忍からも協力の声はあがった。

 

 

 初代、二代目、三代目、四代目と皆素晴らしい為政者だったが、藍染という危機を前に五代目の治める木の葉は今真の意味で一つに纏まろうとしていた。

 

 

 




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