オサレ腹黒ヨン様忍者   作:パンツ大好きマン

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おめでとう。おめでとう。おめっとさん

 古津之(ふるつの) (はな)

 

 どうやら霧の忍刀の製作者はそのような名の人物らしい。名に聞こえた鍛冶師ゆえにさぞかし忍び里の中央近くで厳重に保護されていることだろうと考えていたが、当の本人は既に引退し里の外れに住んでいるそうだ。後継ぎは里の中心で保護されているので、まずは外れに行こうとそういうことになった。

 

 さすがに木の葉の忍装束と額あてのままで潜入するのは無理があるので、変装の必要がある。変化の術は簡単に姿が変えられる分、忍なら少し目を凝らせば違和感を感じ取れる。つまり昔ながらの変装が一番だということだ。

 

 まず先程の霧の忍から装備を奪って、眼鏡を外す。

 

 無事変装がすんだところで、上空を見上げると水鳥が何匹か飛んでいた。

 

 忍は動物を飼いならし、連絡用や戦闘用に扱うことがある。あれもおそらくそうだろう。あまりゆっくりともしてられないらしい。雲は散り散りに分かれて時代の潮流を暗示しているようだった。

 

 川を上流へと上っていくと荒い岩石が増えてきた。半刻ほどだろうか、轟々と多量の水が流れ込む音がする。

 

 案の定。視線の先に滝が見えてきた。落差100mはあるだろう。近くによると水煙でむせそうなほどだ。幻術で聞いた話によるとここの滝の裏側に住んでいるらしい。

 

 滝を逆風に一振り。出来た隙間にひょいと跳びこんでみると岩を削って人為的に出来た洞穴がそこにあった。道の両脇には一定距離ごとに松明が設置されている。人がいるのは確からしい。

 

「おやあんたかい。さっさとこっちに来な」

 

 道の先に老人が一人いつの間にか佇んでいた。真っ白な髪をあちらこちらに跳ねさせながら手招きをすると奥に行ってしまった。おそらく藍染を誰かと勘違いしているのだろう。それでも周囲の警戒はしつつ、背骨の曲がった老女の後を付いて行く。

 

 たどり着いたのは大小様々な武器が置かれた部屋。苦無、手裏剣、忍者刀、鎖鎌、棍等の比較的メジャーなものから棘付きこん棒、鉄球、大砲、突撃槍。古今東西の武器が壁一面はおろか、床にも足の踏み場のないほど置かれていた。

 

「いつまでボッとしてるんだい役立たず! あんたの爺さんはそりゃあいい男だったよ! それに比べてお前ときたら小さい時から――」

 

 口から唾を飛ばしながら血気盛んな老女(おそらく古津之 花と思われる)は白く濁った瞳で明後日の方向に説教していた。目尻に目ヤニがこびりついて焦点が合っていない様子からおそらくほとんど目は見えていないのだろう。これは面倒なことになったと藍染はひとりごちた。穏便に幻術で解決しようとしたが、手持ちの術に視覚からかける以外の術はない。

 しかし注目すべき点は別にある。足の踏み場のないほどの武器を老女は危なげなく全て避けて歩いていたのだ。建付けが悪かったのか、急に壁から落ちてきた鎖が複雑な動きで彼女を捕えようとするも難なく避けてしまった。目は見えなくとも感ずるものがあるのだろうか。もしあるとするのなら彼女はまさに――職人といえよう。

 

「これは全部あなたが作っt」

 

「――作ったに決まってるだろ! いいからあんたは油布を持って武器を磨きなっ、傷一つ付けたらそいつで腕をぶった斬ってやるよ」

 

「はい」

 

 従う以外、術はなかった。

 

 

 考えようによってはあの時の判断は間違っていなかったかもしれない。目が見えないにも関わらずこの老人は少しでも武器の手入れを間違えると、激しい罵倒と共に正しい処理の仕方を教授してくれた。専門である刀以外の扱いに関しては素人同然なので大変勉強になった。

 

 一刻はたったのだろう。老女の指示通り順番に武器を磨いていくと、

 

「その刀はいいから、次のをしな」

 

 制止を受けた。今までそのようなことはなかったのだが……表情に出ていたのだろう。見るからにはなんの変哲もない刀だ。刃紋は乱刃、二尺二寸ほど。

 

「それはあんたには荷が重い。てんでやんちゃな奴でね」

 

 そのように言われると逆に藍染にも興味が湧いてきた。指示を無視して刀の柄を握ってみると、急激な脱力感に襲われた。チャクラが勢いよく刀に吸われているのだ。急いで手を離そうと試みるが、まるで柄が手と一体化しているかのようで離れる気配がない。

 

「ほらいわんこっちゃないっ!」

 

 老女が駆け寄ってきて、刀身の部分を握って安定させると近くにあった鞘をもう片方の手で差し込んだ。それでようやくチャクラ吸収が止む。

 

 思わぬ出来事にさすがに冷汗が出ていた。

 

「こいつは七本刀の試作品でね。チャクラを吸って成長する鉱石を使っているところは一緒だが、こいつはチャクラを吸うだけ吸ってポイさ」

 

「なぜそのようなことに?」

 

「40年ほど前かね。元々は個人のチャクラとそいつの願望を吸って持ち主と共に成長する刀として作ったんだけどねぇ。使い手を選びすぎるのか、そもそも誰にも従うつもりはないのか。今となってはチャクラを吸い続けるろくでなしさ」

 

 それでも刀に対する愛情はあるのだろう。寂しげに鞘を叩く老女は馬鹿息子を窘める母のようで、更に年老いて見えた。

 

(しかし持ち主と共に成長するか……それはまさに……)

 

 藍染は老女が元の場所に戻した刀をそっとまた手に取ると――鯉口を切って鞘から一気に抜いた。再び体中を襲う倦怠感。チャクラが先程よりも凄まじい勢いで抜けていく。

 

チャクラ、いや精神エネルギーと身体エネルギーによりわけて貪っている。通常通りにチャクラを練ろうとしても片っ端から吸われてしまうだろう。

 

「あんたっ!?」

 

 老女の声が耳元で反響するが藍染の意識からすぐに消え去った。一瞬一秒たりとも気を抜くと次の瞬間には主導権を奪われ骨と皮になりかねない。老女は藍染の鬼気迫るプレッシャーにその場から一歩も動くことは敵わなかった。

 

 すぐに陰エネルギーと陽エネルギーを藍染は練り始めた。刀も異物を感知し、一瞬吸収が弱まる。その一瞬をずっと待ち望んでいた。今まで何度も繰り返し練ってきた陰陽エネルギーを練り始める。ただでさえ難しい陰陽エネルギーだが、今までの消耗が激しいこともありコンディションは過去最悪だ。

 

(集中、集中。思い描くは最強のヨン様)

 

 なるほど、それならやってやれないことはない。懐から取り出した眼鏡を再度装着し、陰陽チャクラを練り上げた。

 

 さすがに陰陽チャクラは吸収したことはないのか、吸収自体は止まないものの、今までに比べるとかなり弱々しい。こうなると形勢逆転だ。呼吸を整えて再び陰陽チャクラを練り直し、今度は逆にこちらから陰陽チャクラを流し込んでやる。

 

 吸収量以上にチャクラを送り込まれることで、悲鳴を上げるかのように刀身が振動でビュンビュンと金属音を鳴らし始めた。最初は荒々しい揺れ幅だったが次第に振動は速く、揺れ幅も細かくなっていく。チェーンソウのように耳を劈くような音は殺傷力が十分高まった証拠だ。

 

 手の先の刀が意思を持って持ち主の首先に向かって来る。まだ歯向かうつもりらしい。むしろそれぐらいでなければつまらない。一呼吸する間に何度も急所を狙ってやってくる。首、心臓、太もも。狙いどころはいいが、動きに無駄が多い。

 

 未だ誰の手にも渡ったことがないせいだろう。意思を持って様々な使い手に使われてこそ身につく剣術が、そこには感じられない。

 

再びどちらが上位か教えるために陰陽チャクラを流し込むと、委縮したかのように動きが弱まる。ついに静止すると刀身が紺色に淡く光って、大人しく手の内におさまった。

 微かにチャクラが吸われている感はあるが、この程度なら許容範囲内だ。

 

「あんた……いったい?」

 

 今の今まで老女の存在をすっかり忘れていた。

 

「ありがとう古津之老。これで一歩先へ進めることができる」

 

「かへっ!?」

 

 古津之老の腹部から刀身が突き出ていた。藍染はそのまま上へ持ち上げると、途中で刀身が震えるのを感じた。先程までの攻撃的な振動ではない。イヤイヤと駄々を捏ねるかのような拒否の意思を感じる。そのまま無視をし続けると、まるで泣き出すかのように小刻みに揺れだした。

 

 なるほどさすがに実の母を傷つけるのは嫌とみえる。

 

「40年も脛を齧って来たんだ。親離れには遅すぎるよ――僕が手伝ってあげようじゃないか」

 

 地面に落ちた血だまりの端が床のシミの一部へと変わるほどの時間。手元の揺れはおさまり、確かな鼓動を刻み始めたのだった。

 

 

「おめでとう」

 

 

 

 

 

 

 




 
この浅打何本かある設定にしようかと思ったけど話が長くなりそうなので止めました。

あと感想のほうでも多くあったので、一応藍染は扉間の孫です。息子ではありません。


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