オサレ腹黒ヨン様忍者   作:パンツ大好きマン

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今回藍染不在です。ヨン様はいつも皆の心にいるよ。



ドキッ! ジジイだらけのトーク♪ ポロリ(本音)もあるよ

 

 

 雲隠れの前哨基地工作の部隊が壊滅したとの報告があったのは深夜のことだった。

 

 寝耳に水どころの話ではない。

 

 今まで木の葉のハト派として和平交渉に注力してきたヒルゼンも、各国の近年の紛争状態にタカ派の声を抑えきれなくなってしまった。また本格的な戦争に入る前に調停者として抜け忍狩りや、輸出品や輸入品の護衛として忍の派遣、それに伴う拠点の工作は必須事項だった。それが軍事的な意味合いが含まれたミッションだとしても……

 

 火影として今まで援助を受けていたハト派に頭を下げて、タカ派の筆頭であるダンゾウに嫌味を言われながら判を押した案件だったのだ。火の国のバックアップを受けて国家資産とそれなりの人材を懸けて、その結果が壊滅とはあまりにもお粗末な結果といえよう。

 

 任務で亡くなった遺族への弔慰金。大名や有力者への謝罪を含めた説明。有識者を集めて反省点の見直しと次回の作戦の立案会議。この先の気苦労を思うと全身が鉛の塊になったかのように感じた。

 

「あなた少し落ち着きなさい。一度お茶でも飲んで一息つくのじゃえ」

 

 妻のビワコの一言でふと我に返る。あまり悲観的になりすぎてもよくない。それが隠れ里の長たる火影なら尚更だ。トップが暗い顔をしていては部下の士気に影響してしまう。それを気づかせてくれたビワコには感謝の念にたえない。

 

「ありがとう」

 

 渡してくれた茶は目が覚めるほど渋いものだった。

 

 

 

 そのまま火影の執務室へ移動して、詳しい報告を待つ。追加で暗部が現場へ派遣されている。柱間様や扉間様の部下として前線で活動していた時は考えたこともなかったが、ただ待つ身のなんと息苦しいことか。

 

 火影としての立場の重さ、それが安易な行動を許さない。前線の高揚を狙って戦場へ赴くことはあるが、実際に戦場で戦うことは稀だ。相手里の影が対抗して出て被害が増大するというのもあるが、トップが率先して前へ出ると里の忍は活躍の場を失い、信頼されていないと感じるようになるからだ。里の長が自ら不和をばら撒くなんてことになってしまう。それは最低限憂慮すべき問題といえよう。

 

 大人しく執務室のイスと背中を接着する。空が白々と明けてくるころ、伝書鷹が足に括り付けた筒と一緒に窓ガラスを叩いた。

 

 急いで筒の中を確認する。10秒以内に解かないと爆発する封印術をこれまでにない速度で解除。プロフェッサーと呼ばれるヒルゼンは苦手な術が無く、どれも高度なレベルで習得している。特に封印術にはかなり長けていた。

 

 解除した巻物を暗号班に届けてもらい、更に待機。今回は急を要する案件なので暗号自体もそう複雑なものではない。それでもヒルゼンのもとへ報告が届いたのは昼食の頃合いだった。食べかけの飯にさっと茶を注いで茶漬けを流し込む。ゆっくり飯を食う暇もなかった。

 

「では報告させていただきます」

 

「うむ。よろしく頼む」

 

 淡々と告げられる内容はやはり予想通りのものだった。いや、予想よりも酷かった。

 

 工作部隊総勢150名中、死亡者95名行方不明者55名。捜索活動は続けているものの生存の可能性は絶望的。敵地での捜索活動は難航しており、二次災害の危険性から24時間で打ち切られる予定とのことだった。予想外の事態が起きなければ、最低限の遺品を確保したのちに死体を特殊な薬品と火遁で処分して撤退。忍者の死体は個人情報や血継限界等の特異体質など各隠れ里が喉から手が出るほど欲しがっている宝の山だ。みすみす敵国に奪われるようなことがあってはたまらない。

 そうした理由から忍の死体が戦争から帰ってくることは稀だ。

 争った形跡は少数あるものの、死体が一か所に固まっている様子から幻術で一度に嵌められた可能性が非常に高いらしい。

 

 木の葉の忍の死体の他にも十数名の霧隠れの額あてを身に着けた忍の死体もあったことから、おそらく相手は霧隠れの忍。偽装工作の線も無くはないが、現状雷の国及びその属国との紛争状態の今そこまでして混乱させる意義を持つ国は少ない。また忍の死体を処理しきれていないことからそこまでの時間的余裕はないにも関わらず、おそらく発生したであろう怪我人や、行方不明者をその場から運びだすことができるのは地理的に考えても最寄りの霧隠れ以外あり得ない。

 

「そんなレベルの術者がいたとは……まさか鬼灯 幻月、二代目水影の仕業ではあるまいな!?」

 

「申し訳ありません。いまだ詳しい情報はあがっておらず……」

 

「いや、ワシも少々焦りすぎた――残りの55名の名と所属は分かっているのかの?」

 

「犠牲者の死体も個人が特定できるほどのものは少なく、行方不明者のうちの何人かは犠牲者のうちに入っている可能性もあります。暗号には判明次第、追って連絡するとのことです」

 

「そうか。ご苦労、下がってよいぞ」

 

「はっ」

 

 困ったことになった。あまりいい状況とは言えない。

 初代や先代のおかげで木の葉の忍の質は徐々に上がりつつある。アカデミーでの初等教育のおかげで下忍のレベルが上昇し、それを教える中忍にも時間的な余裕が増え、十分な数の教員でアカデミー生に教育できるのでアカデミー生の志望数も増える。

 

 そういった良い連鎖環境の中で、木の葉は自惚れていたのだ。先代がもしこの状況を見ていたら酷く失望していただろう。

 

 思わず頭をガシガシやると、白髪が手のひらにごっそり抜け落ちていた。

 

 

 

 やるべきことはあまりにも多い。しかし日々の進捗はほんの僅かなものだ。一日ごとに送られてくる情報はそんな憂鬱な気分を助長させるものばかり。捜索活動は既に終了しているが、少数の暗部が現地に残って偵察活動は続けられている。

 

 ヒルゼンのもとにその報せが届いたのは一週間後だった。既に遺族への挨拶も終わり、一段落ついたと思い込んでいた。

 

「なに!? 生存者が一人見つかっただとっ! どこで見つかったのじゃ?」

 

 自分自身も予想だにしてない大声が出て、執務室に積まれた書類が宙に舞った。目の前で唾の飛沫を浴びた暗部の一人は、詰め寄るヒルゼンの圧に一歩下がる。

 

「それが……里の入り口なんです」

 

 報告をした暗部も困惑しているようで、謎は深まるばかりだ。現地で見つかるのならまだしも里の入り口とは……

 

「身元は?」

 

「せn――藍染 惣右介。最近中忍になったばかりの忍です。資材調達班にいたためキャンプから離れていたので無事戻って来れたようです。本日未明、里の門の前で傷だらけで倒れているところを見つけ、今は救護班の治療を受けています」

 

 (藍染……なるほど千手の一族か。そういえば大蛇丸が担当していた子が確かそういう名前だったような)

 

「――命が無事ならそれでよい。詳しい話は落ち着き次第聞こう」

 

 そういうことになった。

 

 

 藍染の容態は傷だらけで何針も縫う怪我・極度の疲労・栄養失調直前ということが分かった。死体のように二日も眠り込み、三日目の朝に目覚めたところ、ヒルゼンに連絡が入った。体調を考えて一日様子を見て四日目の昼に事情聴取を行うことに。ことがことなのであまり休ませてやれずに申し訳ない気持ちが沸き上がったが、里の為に必要なことだ。

 とはいえ、ヒルゼンも鬼ではない。聞き取りは必要最低限の人数で行い、時間も2時間と体の負担を考えて設定した。資材調達班で被害のあったキャンプから離れていたと聞いているのであまり詳しい情報は得られないかもしれないが、今はどんな些細な情報でさえ欲しい。尋問班と詳しい打ち合わせを行っていると、外から鷹の鳴き声が三回続けて聞こえる。

 

(この合図はダンゾウの――いったい何用じゃ?)

 

 尋問班に一度昼休憩を呼びかける。直ぐに瞬身の術で男が執務室に現れた。黒髪で顎に十字が刻まれた中年の男だ。その動きに隙は無く、ギョロギョロした目でヒルゼンと視線を合わせた。

 

「ダンゾウ何用じゃ? 今は少々忙しくての」

 

「その件についてだが……妙だとは思わんか?」

 

「基地工作の襲撃の件か? 確かに妙なことは多いがそれを藍染に――」

 

「――その藍染のことだ」

 

「お主……それは本気でいっておるのか? 知っての通り、藍染は千手の一族の者じゃ。木の葉創設の立役者となった一族だぞ」

 

 落ち着いた声色でヒルゼンは語り掛けるが、ダンゾウはそんなことは知っているとばかりにフンと鼻白んだ。さすがになんの証拠もなしに疑っているわけではなさそうだった。

 

「なにかあったのか?」

 

「…………今回の遠征に根の者を2名つけていた」

 

 根。木の葉の裏を牛耳る暗部を養成する部門だ。火影直属の暗部と違い、幼少の頃より暗部になることを専門として教育を行っており、そのスパルタ式と呪印により自由意志のほとんどを失われた戦闘マシーンを作り上げることを目標としている秘密組織。ダンゾウの命令一つで死兵となって戦う根の在り方はたとえ木の葉の為であろうと、脅威的な存在になり得ると危険視されていた。

 

 そして火影への打診もなしに、そのような命令を下すのは明らかな越権行為だ。

 

「ダンゾウ! 根を他里へ派遣する際にはワシに打診しろとあれほど注意しておいたであろう!」

 

「集団から一歩引いて監視する者がいれば敵の存在に気づきやすい――二重尾行というやつだ。監視の存在がいることが漏れるとせっかくの作戦が無駄になるのでな」

 

「だからといって火影のワシにまで黙る必要はあるまい。二重尾行の必要性については理解しておるゆえ、次からはしっかりと報告を頼むぞ。よいな?」

 

「…………了解した」

 

 あからさまな不服の意にヒルゼンも内心溜息をついた。木の葉の為にお互い必要不可欠な存在ゆえにこういった方針の違いはどうにもやり辛かった。酒でも酌み交わして日頃の不満をぶつけ合う時間を作るべきかもしれないと本気で考えつつ話を進める。

 

「それで根の者からの報告は?」

 

「それが問題なのだ。根の者からの報告もない……おそらく既に亡き者となっているだろう」

 

「それは……由々しき事態じゃな。根の精鋭さえもやられるとは相手はどれほどの戦力を――」

 

「――おそらく相手は水影直属の部隊、それも霧の忍刀七人衆もいたのだろう。同じ刀傷で死んでいるものが数十人いた」

 

「十分考えられるな。詳しく藍染に……それで何故藍染を疑っておる?」

 

 結局話が振り出しに戻る。ダンゾウはまだ分からんのかと小声で毒づいた。

 

「何故中忍になったばかりの藍染が、根でさえ抵抗の出来なかった奴らから生き延びて帰って来れている? いくら物資調達班として離れていたとしても、そこまで遠くまで離れることもない。相手の戦力を考えると、それに対応する別動隊がいないはずがないのだ。よって藍染は敵部隊に何かしらの条件を対価に命乞いをしたか、あるいはスパイとして元々繋がっていたか……」

 

 ヒルゼンとしてはダンゾウの心無い言葉に否定の言葉を投げかけてやりたかったが、火影としての立場から感情的な理由で否定するのはナンセンスだ。しかし考えれば考えるほどダンゾウの言葉には信憑性があるとの結果に落ち着いた。

 

「後者はさすがに考えづらいが、前者に関しては……可能性はあるな」

 

 ヒルゼンの口から出てきたのは随分弱々しい肯定の言葉だった。考えは理解できても感情まではまだ追いついていないのが現状だ。

 

「よって私も藍染の尋問に参加しよう。体調が落ち着けば薬品を用いての尋問も追加で許可願いたい」

 

「――わしも付き添おう。まだそうと決まったわけではあるまい。そのような偏向的な考えでは真実にたどり着けぬこともある」

 

「いずれにせよ分かることだ」

 

「……藍染にもなにか切り札があった可能性もある」

 

 忍にとって情報は武器だ。同じ小隊であっても最後の最後まで切り札を隠しておく者も存在する。ヒルゼンにも可愛い教え子にすら見せていない秘術が幾つもあるように、一族で受け継ぐ奥義はその存在すら怪しいと噂されるほど極秘中の極秘情報なのだ。もしそうであった場合は藍染にその極秘を見せてもらい身の潔白を表明してもらう必要性もあるが、可能性はなくもない。

 

「それに――」

 

「――それに?」

 

「わしらの知る扉間様の孫だぞ。あってもおかしくあるまい」

 

「……フンッ」

 

 

 

 


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