オサレ腹黒ヨン様忍者   作:パンツ大好きマン

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キラッ☆ キラッ☆

目覚めるとそこに天井があった。長方形のパネルが組み合わされたそれの繋ぎ目を視線で追いかけていくと、ふとそうしている自分自身に意識が向かいハッと藍染は覚醒した。どうやら寝起きで意識がボンヤリしていたらしい。

 

 意識がハッキリすると周囲の様子も徐々に把握できていく。腕には点滴が刺さって、体のあちこちに包帯やガーゼで手当てを受けたあとが見受けられた。藍染の視界からは布団で遮られて見えないが、体中に感じる鈍痛から下半身も同じようなことになっているだろう。

 

 どうしてこんなことになったのだろうと、過去の一番近い記憶を思い出してみる。あれは……そう確か木の葉の門が見えてほっとしたまでは覚えている。しかし、そこから先の記憶がぼんやりしていて思い出せない。

 

 そういえばと、浅打を探したが案の定武器は取り上げられているようで、いよいよやることのなくなった藍染はそのままぼんやりと虚空を眺めることにした。

 

 しばらくして看護士が意識の覚醒した藍染を発見し、直ぐに周囲が賑やかになった。医療忍者と火影直属の暗部が病室に駆け付けたことでようやく、藍染もことの大きさを自覚し、霧隠れに潜入してからこれまでの記憶が蘇る。

 

藍染は古津之老から浅打を頂戴すると、霧隠れからの脱出を試みた。しかしすでに藍染潜入の情報は漏れていたらしく、追手が次々と現れ、霧隠れの里の周囲は既に包囲網が完成しつつあった。チャクラを浅打に吸いとられすぎて、気怠さが全身に回っていた藍染に絶体絶命の危機。

 

 命の脅威。普段自身を覆っていたチャクラが枯渇寸前へと追いやられ、眠っていた生存本能が過剰なまでに神経を敏感にさせる。普段は気づかなかった音、臭い、感覚。自然に存在しているエネルギーの知覚。生きとし生けるものの呼吸や心臓の音が耳元でうるさいほどに鳴り響き、今まで漫然と分かったふりをしていた気配というやつが言葉ではなく魂で理解できた。万物に宿るエネルギー。特に人という生き物が持つそれは非常に感知しやすく、いくら息を潜めていても今の藍染には隠しきれない。

 

もともと素質はあったのだ。母も感知タイプで、千手一族の二代目火影扉間も感知が得意であったという。この土壇場で目覚めるタイミングには藍染も首を傾げるところではあったが、土壇場だからこそ目覚めたともいえる。

 

 焦燥、興奮、怒り、功名心。そしてわずかな恐怖。ほかの生物にはない感情の波がひしひしと伝わってくる。追跡者にとって恐怖は必要不可欠だ。恐怖と油断は相反するもの。恐怖なくして警戒出来ず、余裕なくして対応ならず。数を有利に獲物を追い詰める追跡者は恐怖を失くすものだが、今回の追跡者はその例に当てはまらずなかなか優秀なようだ。

 

 

とはいえ状況は依然不利。こちらを追跡してくる以上、相手側にも感知タイプがいることは確実だろう。チャクラを直接感知してくるタイプや嗅覚、視覚、聴覚等タイプは色々とあるが、河川の多い霧の国では臭いが途切れやすいので嗅覚タイプは非常に少ない。チャクラを感知するタイプは陰陽エネルギーでごまかせるが、残りのタイプはそうもいかない。包囲網の穴を突いて現状移動はしているものの、敵の配置からして交戦は必至。瞬歩はチャクラを使うため連続使用は出来ない。頼みの綱の浅打は屈服しているが、まだチャクラを吸って鏡花水月に至るまでには時間が必要だ。

 

(さて、どうしよう)

 

 

「藍染さん! 藍染さん聞こえていますか?」

 

 気づくと耳元でナースが大声で藍染に呼び掛けていた。どうやらまだボンヤリしていたようで回想が中断された藍染は困ったようにはにかんだ。

 

「ごめんなさい。どうやら気がどうにかなっていたようで……」

 

「そ、そうですか。……火影様から明日お話があるようなのでそれまでゆっくり休んで、体調を整えておいてください」

 

 実際、藍染の疲労はかなり溜まっていたのでそのまま床についた。目を閉じると体中に心地よい疲労感がのしかかってくる。周囲のざわめきすら子守唄にして深く眠る藍染に視線を向ける影に、当然気づくはずもなかった。

 

 

 

 翌朝。任務終わりに見舞いに来た家族を早々押し返すと、鏡に向かい藍染は身支度を始める。眠っている間、体は拭かれていたようだがやはり自分で身を清めたかった。傷に沁みる痛みに耐えながら手ぬぐいで垢を落とすと着物に着替える。火影との対談、いや尋問だろう。どちらにしろ身だしなみを整えることには変わりない。

 

 いろいろと準備をする必要があったのだが、久しぶりに体を動かすということもあり遅々として進まず、会談の時間はあっという間だった。

 

先に指定された部屋に入っておく。室内は狭く中央には机が一つと椅子が三脚。部屋の端にも椅子が一脚用意されていた。ひとまず中央に設置されている椅子の一つに腰をかけた。しばらく待つと部屋の扉が開き続々と人が入ってくる。

 

 急いで椅子から立ち上がると、一番先に入ってきた三代目火影ヒルゼンに制止された。

 

「よい、まだ怪我も癒えておらんじゃろ。ゆっくり座りなさい」

 

 取り巻きに視線を飛ばして一応確認したのちにゆっくり藍染は腰を落とした。ヒルゼンの姿を遠くから見たことはあるものの、机越しに向かい合うほどの近さに寄ることになるとは思いもしなかった。

 

 そして、気づく。藍染も自身の目指す完成形に近づくために、より強くなってきたという過酷な修行に基づく実感があった。しかし、一見中年にしか見えない目の前の男に眠る力量は……残念ながら今の藍染では勝てないほどのレベルだ。感知タイプに目覚めたことでよりハッキリとわかってしまった事実に軽く絶望しかけたが、絶望に憂う姿は藍染に似合わないと気持ちを切り替える。忍びの隠れ里のトップが影という存在なのだ。弱いはずがない。ただでさえ今代の火影ヒルゼンはプロフェッサーと呼ばれ歴代一とされているのだ。

 

 尋問は始まる。尋問役の男と火影が正面に、横に顎に十字の傷がついた男が一人。部屋の端の椅子にはボードを手に書記が一言一句逃さず速記している。無論、霧隠れの里に潜入していたなどと話せるわけがない藍染は物資収集作業中に襲われたところからはほとんど創作だ。予め尋問されると予期していたのでしっかり設定を構築しておいた。尋問の手口で虚偽の報告を暴くため、または正確性を上げるためにいろいろな方向から同じ答えになるであろう質問をすることがある。それで答えが違っていたり、統一性が無ければ、そこを突き詰めて真の情報を探り出すのだ。

 

「それで、どうやって逃げ延びた?」

 

もう何度目か分からない質問を投げかけるのは、顎に十字傷の男。尋問が始まった時から藍染の表情の変化を瞬きもせずに観察をしている。

 

「言い方を変えようか。何を隠している?」

 

「……それはどういう意味でしょうか?」

 

 切り口の変わった問いかけに藍染は首を傾げた。あくまで表面上は真摯に対応したはずだ。邪気の感じられない藍染の様子にヒルゼンは罪悪感で口の端を歪めた。

 

「惚けても無駄だ。中忍になった程度の実力であの地獄を一人生還することはかなわん。霧の忍に何を話した? 里の警備体制か、それとも既に繋がっていて工作部隊の居場所を密告したか。尋問が拷問に変わらぬうちに身の潔白を明らかにする証左をなんでもいい、出してみろ。我々を納得させてみろ」

 

 ようやく合点がいった。さすがに生存して里に帰ってきたのが藍染一人だけだとはついぞ考えもしなかった。確かに霧の忍は藍染に投降を呼びかけていたとふと思い出す。あのままついて行けば里の機密情報やらを抜き出され、最悪スパイとして木の葉に生きて解放させられることは十分に考えられる。――つまり、工作部隊の本体は壊滅した。よほどの戦力を整えて奇襲をしたのだろう。木の葉に与えた打撃ははかりしれない。十字傷の男の威圧的な態度も現状の焦燥感を考えれば無理もなかった。

 

 しかし木の葉を裏切った証拠は作ろうと思えばいくらでも作ることはできるが、その逆は非常に難しい。裏切っていない証拠など、悪魔の証明のようなものだ。

 

 そうなると人(忍)情に訴えかける手法しかないが、ヒルゼンならまだしも十字傷の男にはそういった手法は通じそうにもなかった。そうなるとそれに代わる利益か、弱みを握らせることで身の潔白とまではいかないが、恩赦に懸けるしかない。

 

「ダンゾウ。いきなりそう言っても藍染が答えづらいじゃろう。ワシらはどうやってお前が生きて帰ってこれたのか不思議に思っているのじゃ――もちろん無事生還してこれたことは大変喜ばしく思っておる。しかし今までの話を鑑みるにどうも状況が厳しすぎる。あと一押しお主を信じる何かが欲しいのじゃよ。話しにくいことは十分承知の上だが、この中で話したことは必要最低限の人員以外漏れることはない。無論、お主の家族にもな……」

 

 藍染は少し考えこむように眼鏡のブリッジを指先で支えると重く閉ざされた口を開いた。

 

「実は……逃げる際にある忍術を使いました」

 

 ぽつりぽつりと語りだす藍染の顔には苦悶の表情が浮かんでいた。ヒルゼンにはその気持ちが痛いほど理解できたが、同時に藍染を救う切っ掛けが出来たと口の端に浮かびそうな笑みを必死に抑える。

 

「どんな術だ? 霧の精鋭から逃げおおせるとなると普通の術では説明がつかないぞ」

 

ダンゾウが問う。

 

「……正確には水遁と幻術の合わせ技と言いましょうか。祖父の残した書籍に構想を得て私が完成させた術です。火影様方のことは信用していますが、どうかご内密にお願いいたします」

 

「おおぅ。やはりそうであったか!」

 

 内心ヒルゼンは、そしてダンゾウも舌を巻いていた。『術を作る』言葉は簡単だが、それは非常に難度の高いことだ。木の葉は様々な一族から構成されている。千手を筆頭にまとめ上げられたが、ただでその庇護下に入れるわけではない。それぞれが得意とする術や、チャクラの技術を代償にようやくその庇護下に入れる仕組みでその知識が集約され、発展してきたこの里では数々の術が作られてきた。新術の考案は専用の部署で毎年馬鹿にならないほどの予算が注ぎ込まれている。例え多くの術を考案した扉間の構想を基にしたといってもそう簡単に出来ることではない。

 

「なるほど。ではその術とやらを見せてもらおうか、今すぐにな」

 

「……今すぐですか?」

 

 さすがに直ぐにばれる嘘をつくメリットがないとダンゾウも理解していたが、もし霧と本当に繋がっていた場合、期間が空くとその間に拉致される可能性がないこともない。しかし実際のところ、ヒルゼンの言った通りの事態になりそうであったことの嫌がらせという側面がつよかった。

 

「何も今すぐでなくともよかろうダンゾウよ」

 

「実際の術の内容にもよるが、自らの身の潔白が直ぐに証明されるのだぞ。私なら断らないが、お前ならどうだ藍染?」

 

「…………お受けいたしましょう。しかしこの術にはある程度の水場が必要です。それと実際の状況を再現するために装備の許可をお願いいたします」

 

「――お主はまだ治療中であろう。ダンゾウの言葉は別に気にしなくともよいぞ」

 

「いえ。私もいわれの無い罪を問われるより、身の潔白を証明して心安らかに体の療養にあてたいのです」

 

「……そうか。お主がそういうならなるべく手早く終わるよう配慮しよう」

 

「心遣い感謝いたします」

 

そういうことになった。

 

 

 

 

 

 

 演習場には火影とダンゾウ、幾人かの火影直属の暗部がいた。近くには池が広がっていて木々の隙間から太陽の光を反射して眩しいほどだった。

 

 ヒルゼンは本気の忍装束を身にまとい、ダンゾウも防具こそ着けてはいないものの動きやすい服にかえていた。暗部は普段見ることの少ない二人の歴戦の佇まいにホゥと感嘆の溜息を漏らす。それほどまでに堂に入る姿勢。忍の神とそれに準ずる実力者を目の前にすると、二人に敵対することのない木の葉の忍である事実に酷く感謝した。

 

「それではこれより当時の再現に入ります」

 

 戦装束を身に纏った藍染は腰に二振りの刀を差して声を上げた。

 

 

 

 あの時、戦闘が避けられないと判断した藍染はあえて霧の隠れ里の外れの池に誘導した。水上での戦いなら木の葉の忍よりよほど慣れている霧の忍相手にだ。忍装束の端を切り裂いて顔全体を巻いて眼だけ見えるようにした藍染は明らかに怪しかったが、身バレすることは避けたかった。

 

 池の真ん中にチャクラ吸着で浮かんだまま、しばらく待つと周囲に霧の忍が次々と現れる。遮蔽物もない場所にわざわざ姿を晒したことからトラップを警戒して距離は離れている。感知タイプになったことで水中にも何人か忍んでいるのが藍染には分かった。

 

 瞬歩も連続使用はできない。水中では瞬歩も意味をなさない。チャクラは残り少ない。術の残り使用回数はせいぜい2回。どう頑張っても3回が限界というところ。頼みの綱の浅打はいまだ微かにチャクラを吸って疲労に追い打ちをかけていた。そして多数の忍に効果的な術は幻術しかいまの藍染にはなかった。しかし警戒状態で幻術をかけてもすぐに解かれることは確定。詰みに近いこの状況、最初の一手が重要だった。

 

 

 投降の呼びかけもなく、周囲から手裏剣が飛んできた。相当警戒しているらしい。

 

『水遁 水分身の術』

 

 水分身の術を足蹴にして跳躍しながら手裏剣をかわして幻術をかける。直ぐに警戒して幻術返しの印を結ぶ忍達。案の定直ぐに幻術を解かれて、チャクラの多量消費で肩で息をする藍染にへらへらと近寄る忍だが、急に動きが鈍る。背後からの苦無が肩を貫いていた。

 

 急いで振り返った先には味方がこちらに苦無を投げて投擲後の様子。さすがにこの距離で味方にあてるほど腕の悪い忍がいるはずもない。ならば幻術か? 急いで幻術返しの印を結んで幻術を解除したことを確認すると、術者のもとに近寄り斬りつける。

 

「どうした!? 気でも狂ったのか!?」

 

「さすがにおかしい。各員もう一度幻術返しをして、術者を仕留めろ!」

 

「もうすでにしている! どうして幻術が解けない!?」

 

「皆落ち着け! 同士討ちが発せッ――ウッ!」

 

 藍染は幻術に嵌り落ち着きを取り戻そうとしている忍をある程度片付けると、

 

「あそこに本体がいるぞっ!」

 

と別の忍びがまとまっている場所に指先を向けて、より喧騒が激しくなりつつある戦場を背後に感じながらも瞬歩で別方向へ跳んだ。

 

 

 前々から藍染は幻術の改造を行っていた。確かに幻術は嵌めれば相手を一方的に無力化できる手段だ。下手な忍術より嵌った時の成果は大きい。睡眠や幻術の中で相手の動きを拘束して無力化すればどんな強者も倒し得ることができるジャイアントキリングだが、そうそう上手く嵌るものではない。強力な効果を得る代わりに印や効果が発揮するまでに時間がかかり、その間に術者がやられたり幻術返しをくらえば本人に返ってくる。だから藍染は安全にかけられる尋問以外では幻術に強い効果を求めず、視界に異常を与えるものを考案した。予めこちらがかける効果を熟知しておけばその程度の内容を幻術返しされても対応がとれる。そしてその幻術返しまでも無視することができるのが今回考えた術だ。

 

 

 

「なるほど。幻術は敵味方の外見や位置関係を変えるものか。シンプルゆえに強いな」

 

「火影様からお褒めに与り恐縮です」

 

「そしてなにより幻術返しをしても再び幻術にかかってしまう。この水面の光のきらめきが幻術に入るための鍵とみたがどうだ?」

 

 やけに眩しいと感じていたヒルゼンも、事前に幻術にかけるとの情報が無ければ気づかなかったかもしれないほど自然な光の乱反射だ。藍染の持つ刀にも光が反射してヒルゼンも思わず目を瞑った。ダンゾウや他の暗部も真上に太陽が昇っているせいか、強い光の反射に眩しそうな様子だ。

 

「さすがのご明察。ただの水に幻術の効果をかけることはできませんが、幻術の術式とチャクラの性質変化で作り上げた水を混ぜ込むことで、効果を発揮します。今回は水分身にあらかじめそれらを混ぜて相手の攻撃にあわせて周囲に散らしました。この光の反射を見続ける以上、幻覚にかかり続けます」

 

「しかし、どうやらメリットばかりではないようだな」

 

 ダンゾウの洞察力に藍染は素直に称賛した。

 

「その通りです。水場での使用は勿論のこと。夜は月が明るければ効果を発揮するでしょうが、闇の中では効果ありません。また特殊な性質変化の水を留めるためになるべく水の流れが速くない場所のほうが都合がよいです。今回はチャクラを直接感知するタイプの忍がいなかったので上手くいきましたが、チャクラを感知するタイプには発生源を直ぐに特定されて散らされてしまうでしょう」

 

「ふむふむ。血沸くのう。水面の光の反射を利用する以上、霧隠れの術とも相性が悪いようじゃな。今回は追跡されるほうだったから自ら視界を制限するようなことはなかったが、霧でのゲリラ戦には向いておらんの」

 

「しかし、使用する際は条件さえ揃えばかなりの初見殺しとなりうるだろう」

 

 ダンゾウも術の有用性に気づき、先程までの渋々とした思いはなかった。里の為に使える力だと理解できた以上、考案者が例えヒルゼンであろうとも潔く認める頭の柔らかさはあった。そして有用な術にはそれ相応の報酬が必要だ。

 

「藍染。この術の詳しい構造を里に提供してみぬか? 身の潔白はこの術で証明できたと我々は考えている。術を解析し、再現することもできるだろうがお前が詳しくまとめたほうが時間の節約もできる。無論、報酬はしっかり払おう」

 

「わしからもそう願いたい。この術は戦争を有利にすすめることの出来る価値のあるものじゃ。術の考案者もお主の名で上忍の間で公表できれば、もはや千手と名乗ることを拒むものもおるまい」

 

 藍染はやはり少し悩んだものの、再び顔を上げた際の表情には迷いはなかった。

 

「術の考案者に名を記すのをやめていただければ構いません」

 

「何故じゃ? お主にとっても家族にとっても悪い話ではあるまい」

 

「自分で完成させたとは言え、これは祖父の手柄を頂いたも同然です。私自身の力で里に名を上げたいのです」

 

「そうか……よく考えての発言ならもはや何も言うまい。ほかに何か要求はあるか?」

 

「よろしければ術の保管庫への出入りの許可をお願いします。中忍に許可される範囲までで構いません」

 

「――上忍候補としてある程度の書物の許可はとっておこう」

 

「ありがとうございます!」

 

「うむ。もう体を休めてよいぞ。術のことは後で詳しく話を詰めよう」

 

「はっ」

 

 

 しかし退出の許可を与えた藍染はそのまま動こうとしなかった。不思議に思ったヒルゼンは問いかける。

 

「どうした藍染?」

 

「それです」

 

「ん?」

 

「…………皆は千手という名にしがみ付いていますが、嫌いではないのです。この家名は」

 

「――そうか――そうか!」

 

 

 

 









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