オサレ腹黒ヨン様忍者   作:パンツ大好きマン

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眼鏡とアンコの食べ合わせ

 無事退院した藍染は演習場に向かっていた。担当上忍の大蛇丸に呼び出された為である。一度も見舞いにすらこなかったのに退院したと聞けば直ぐ呼び出されたことをさすがにどうかとは考えたが、実際に見舞いに来られても反応に困りかねない。なんとも複雑な気持ちに心悩ませながら『鏡花水月』の鞘をそっと撫でる。微かな振動が手に返ってきた。

 

 なにも無駄に霧隠れから一週間もかけて帰ってきたわけではない。体を休ませながらも、陰陽チャクラを吸収させ、感じるままに刀を振り続けた。時々思い出したかのようにじゃじゃ馬っぷりを発揮させ、激しく刀身を震わせることもあったがそのたびに躾をして馴染ませた。その成果もあり、木の葉の里に帰還するころには一つの能力? が開花することになった。

 

 『鏡花水月』の完全催眠の条件に始解の解放を見るというのがある。今回得たのはその完全催眠の前提条件だ。条件は鏡花水月の刀身に反射した光を対象の目に当てること。そもそも光を反射しなければその物自体を見ることはかなわぬわけだが、この条件は刀身の鏡面反射光の意だ。幼いころ鏡でよく太陽光を反射させて人の顔に当てる遊びをした覚えがある人もいるのではないか? それを刀身でやるのだ。

 

 この条件を満たせば、未だ完全催眠には足元にも及ばないが、気持ち幻術にはかかりやすくなるという効果はある。日々チャクラを吸収することによって浅打に既にあった自我も藍染の意のもとに変化しつつあるが『鏡花水月』も成長途中なのだ。

 

 この通常戦闘時にするにはあまりにも違和感のある条件ゆえに、水面の光の乱反射という新術をわざわざ開発する必要こそあったものの、術自体の完成度には藍染も満足している。水面に注目させ、鏡花水月自体に関心を向かわせないことで敵・味方関係なく前提条件をより容易く満たすことが出来る。

 

(しかし死覇装に似た着物をわざわざ誂えて、見た目は近づいてきてはいるものの実力はオサレヨン様に遠く及ばない。術の保管庫への出入りは許可されているので、そちらのほうで進展があればよいのだが……)

 

 

 

 

 

「あら。師を待たせるなんて随分偉くなったものね」

 

 既に大蛇丸は藍染を待ち構えていた。大蛇丸の背後には丸太を標的に手裏剣を投げ続ける少女の姿が。近づいてくる藍染に感づくと、少女は手を止めこちらを不思議そうに眺める。紫がかった髪色に鎖帷子の上からジャケットを着こんだ破廉恥な恰好をしているので、服でも濡らしているのかと藍染は疑問に感じた。

 

「退院したのはつい先ほどですよ。いの一番に駆け付けた弟子に労いの言葉こそあってしかるべきでしょう」

 

「ふふん。いうようになったじゃない」

 

「それでそちらの少女は……?」

 

 こちらの会話に興味津々で聞きこんでいた少女は自分に話が飛んでくるとは考えてもいなかったのだろう。慌てたように姿勢を正す。酷く真面目な女の子なのだろうということが窺われた。

 

「私の名前はみたらしアンコと言います!」

 

「そういえばアンコにはまだ紹介してなかったわね。これは藍染よ」

 

「人をもの扱いですか……。僕の名前は藍染 惣右介。大蛇丸様の教え子の一人だよ。ひょっとして君は直接の弟子なのかな?」

 

 大蛇丸は意外と面倒見がいいが、担当上忍でもない限りわざわざ少女と言ってもよい年齢の子にマンツーマンで指示をすることはまずない。中忍になった際に既に藍染の小隊の担当上忍から外れている以上、自身の術の研究や特別任務の忙しい合間に見ているということは直接の弟子でもとったのだろうと推測できた。

 

「はい! 色々と教えていただいています」

 

(色々……恰好からして犯罪臭がすごいな)

 

「あなたも一応私の教え子扱いなのだから、アンコの面倒も暇なとき見てやりなさい。もっともアンコの才能はあなたとは比べものにならないけどね」

 

「――それは、すごく優秀なかたなんですね藍染先輩は!」

 

 アンコにとってごく一部の例外を除いて周囲の人間はあまりにもレベルが低いのが当たり前だった。大蛇丸の存在で世間の広さを再確認して、周囲を蔑むことさえなくなったものの、いまだアンコにとって周囲とは平等でない。そんなアンコにとって藍染の存在は頼りがいのある好人物に見えた。

 

「――逆だよ。逆。僕は一族の中でもあまり優秀とは言えないさ。アンコちゃんのほうこそ、直接あの三忍の大蛇丸様に正式に弟子として認められているから優秀なんだろうね。先程見えたけど手裏剣術もその年にしては異常なほど上手かったよ」

 

 周囲のやっかみを受けてまともに褒められたことがなく、嫌味の感じない言葉にアンコの頬は緩んだ。

 

「ありがとうございます!」

 

 忍の世界で厳しく鍛えられてきた藍染にはアンコの純真さがひどく眩しく見えた。霧隠れから帰ってきて早々尋問を受けていたせいもあり、激しい落差にアンコにつられて頬も緩む。

 

「僕も先達として少しは見てあげることも出来るから、分からないことがあればいつでも声をかけてくれ。――尤も直ぐ追い抜かれちゃうかもしれないけど」

 

「はい! 藍染先輩」

 

「……それで大蛇丸様。今回呼び出した訳は弟子との顔合わせだけではないでしょう?」

 

「あら感動の再会をゆっくり噛みしめる暇もないのね。薄情な教え子を持って悲しいわ」

 

(心にもないことを)

 

 内心毒づくが表情はにこやかに只管大蛇丸が切り出すまで待ち続ける。こういうのは持久力が大事だ。さもありなん、大蛇丸もついに諦めた。

 

「あなた医療忍術を勉強してみる気はない? 綱手が医療忍者の心得を書物にまとめるためにしばらく時間が欲しいらしくてね。現場での人員不足が懸念されているの」

 

 医療忍術。繊細なチャクラコントロールと人体の構造を熟知したエリートでないと使いこなせないと言われている忍術だ。ほかの忍術と違い、情報そのものは公に入手しやすいが、それを理解して実践できるかと言われれば話は別。感覚で術を使うタイプの忍には理論ありきの医療忍術を使うのは難しく、向き不向きがハッキリと別れている。小隊4人が医療忍術を使えれば理想的だが、そういった欠点から4人の内誰か1人が医療忍術を使えればよいとされてはいる。しかし、実際のところ小隊に医療忍術を使うものが一人もいないことも稀ではない。全体の生存力を考えれば覚えていて損はないどころか、覚えるべき重要な術だ。アカデミーで教えるのは必要とされる基本的知識が多すぎるため、また生半可な技術では治癒どころか悪化しかねないため卒業後の選択式となっている。

 

 藍染も前々から勉強をしようと考えてはいたものの、そこそこまとまった時間が必要なことと実践ありきの技術で独学にも限界があり後回しにしていた。

 

「興味はありますが、現場で求めているのは即戦力では?」

 

「医療忍者の卵も駆り出されているぐらいでね。猫の手も借りたい状況のよう。講習も今ならやっているからしっかり勉強なさい」

 

有無を言わさぬ口調だ。とは言え断る理由もなかった。

 

「わかりました。……それでは退院後の片付けもありますのでこれで失礼します」

 

「待ちなさい」

 

「――まだなにか?」

 

 ゆっくりと大蛇丸は藍染に近づく。蛇が獲物に近寄るかのように慎重に、そして粘着質な視線で追い詰める。

 

「あなた確か工作部隊に参加する前はその刀持っていなかったわよね」

 

 大蛇丸の視線の先は藍染の腰に据えられた鏡花水月だった。チャクラ刀の上に腰を落ち着かせている鏡花水月は拵えも鞘も華美なところはなく一見ただの刀にしか見えない。二本差し自体はそう珍しいものでもなく大蛇丸が何故興味を持つのか不思議に思えた。

 

「今私はある剣を探していてね。見た感じ私の求めている物と違っていそうだけど、刀を見ることは好きなの。チャクラ刀という業物を持っているにも関わらず優先順位の高そうなその刀ならなおさら興味深いわ」

 

「……これは工作部隊に参加していた時に、襲ってきた霧の忍の一人がもっていたものです。あの時失った小隊の仲間のことを忘れないよう身に着けていたのですが、大蛇丸様が気になるのならどうぞご覧ください」

 

「あら、ありがとう」

 

 大蛇丸は藍染から鏡花水月を受け取ると鯉口を切って刀身を抜いた。金属を極限まで鍛えぬいた刀には魔性の光が宿る。人を殺すという目的の為に創られたそれには自然の美しさにはない人工の美がある。人の脂を吸って怪しげに輝く刀身に魅入られる者も少なくない。

 

「いつ見てもいいものね」

 

 大蛇丸の振るう鏡花水月が藍染の首筋に振り下ろされる。ピタッと首元で止められたものの藍染は動揺を表情に浮かべて抗議の視線を向ける。

 

「さすがに危ないですよ大蛇丸様。一応次期火影候補に挙げられているんですから……」

 

「言わせたい奴には言わせておけばいいのよ。――それよりあまりいい刀じゃないわねコレ。チャクラ刀でもないみたいだし、予備の刀ならもっといいものを買いなさい。そのほうが亡くなった小隊の為にもなるわ」

 

「女々しいとは分かっているんですがね……」

 

 黙って大蛇丸は鏡花水月を鞘に納め藍染に手渡した。微かに手元で震える鏡花水月を片手で強く抑え込む。大蛇丸に気づいた様子はなかった。

 

「それでは、これで」

 

「さよなら藍染先輩♪」

 

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日々講習に通いつつも、術の保管庫で医療忍術と役立ちそうな術を探す。その間中も陰エネルギーと陽エネルギーを練りつつサイクルをしていると、必然チャクラ量も増えてくる。増えて扱いづらくなるチャクラを医療忍術で精微なチャクラコントロールを学び手中の制御下に治める。余って眠らせているチャクラ量が多くてもあまり意味はない。戦闘時に余裕こそあるものの、その余裕で全力を出し尽くすことなく潰えてしまえばそれまでだ。一度に扱えるチャクラ量を増やさないことにはその全力も大したものではなくなってしまう。

 

 藍染は自身の強化策を幾通りも考えつつ帰路をゆっくり歩いていると、見た顔を視界の端にとらえて思わず声をかけた。

 

「やぁ。アンコちゃんも今帰りかな?」

 

 首を落として歩く紫髪の後ろ姿はあまりに痛々しく声をかけずにいられなかった。

 

「……あっ。藍染さん」

 

「浮かない様子だね。何かあったのかい?」

 

 煩悶として喋ろうにも喋ることができないアンコに藍染はその場で解決しようとはせず、近くの茶屋に連れていくことにした。いつの世も女の子は甘味と恋話に弱いと聞く。アンコの名にちなんでみたらし団子を目の前に出されると沈んだ顔も少しは晴れた。

 

 藍染が聞くにアンコは自身の字が下手だと大蛇丸に言われたらしかった。

 

「それじゃあここに自分の名前を書いてごらん」

 

 懐から取り出した和紙に濃い抹茶を墨代わりにして書かせてみると、金釘流の師範もいわんやとばかりに夏のミミズののたうち回ったかのような筆跡だ。これでは報告書は勿論、起爆札や封印術の術式をまともに書くことも叶わないだろう。これではいくらアンコが優秀とはいえせっかくの才能が埋もれてしまいかねない。

 

「僕が直接教えよう」

 

「本当ですか!? でも藍染さんって字上手なんです?」

 

 藍染は目の前でサラサラと書いてやる。王義之の『十七帖』の一節を迷いもなく書き込むとアンコの前に掲げた。ヨン様も書が得意という話を知ってかなり努力した結果がそこにあった。

 

「すごいです藍染先輩!」

 

「これは草書だけどアンコちゃんはまずは基本の楷書から勉強していこうか」

 

「はい!」

 

 アンコは自身の尊敬する人物の2番手を藍染に定め、無事字の上手くなったアンコは知り合いに話して回った。そしてアカデミーの教師にもその話が流れ、藍染は週に一回ほどのペースで書道の臨時教師として呼ばれるようになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





岸影様がしたことで唯一許せないのはアンコさんを拗らせたこと。でも美人なアンコさんがいい男とくっついている姿を見せられるのもNTR感強すぎで複雑だ。

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