オサレ腹黒ヨン様忍者   作:パンツ大好きマン

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今回時間少し飛びます。お気に入り10000件突破感謝です。






ヨンサマ―バケーション~冬のソナタ2期~

 

 

「藍染」

 

「藍染」

 

「藍染君」

 

「藍染さん」

 

「藍染先輩」

 

 

 様々な声音で呼ばれる。しかし、その誰もが本当に自身のことを呼んでいるとは思えなかった。

 

 分からない。

 

 本当は正しいのは皆で、間違っているのは自分なのかもしれない。

 

 それを確かめる方法もない。

 

 私にあるのは藍染だけ。それだけで十分。それこそが願いだ。

 

 水面に叩きつけられた。冷たく光もない。そこに水があるかどうかさえハッキリしなかった。不思議なことに自分の体だけがハッキリと見える。

 

 ゆっくり、ゆっくり沈んでいく。体は重く抗う術はない。底は見えない。闇が霞になってそこに満ちているように見えた。

 

 体の末端から熱を奪われていく。体温を感じなくなった場所から闇に覆われて浸食されていった。感覚がどんどん薄れる。下半身は既に闇に包まれて見えなくなってしまっていた。無くなった場所の感触を確かめようと両手を差し伸べるも――その両手すら闇に消えていた。

 

 もはや闇に抗うことさえ虚しく感じた。どうせ抗っても無駄なら気怠い感覚に身を任すのもいいだろう。闇は藍染と一体化しつつあった。

 

 

 

 

 鳥の囀りがする。家の庭木から飛び立つ羽ばたき音が藍染を浅い眠りから覚ました。汗を軽く流した後、身支度を済ませて家を出る。二振りの刀を腰に据えて目的地を目指す。死覇装に白い羽織、足袋に草鞋という和装も慣れたものだった。洋服を着る者も多い里では全身和装姿は少し浮いてしまう。必然目につきやすくなる。

 

「こんにちは藍染さん」

 

「いつもご苦労だね」

 

「今日は野菜が安いよ」

 

「ありがとう。仕事帰りにお世話になるよ」

 

 声をかけてくる町民を時折相手にしながら歩を進める。焦げ茶色の路地裏の壁が日の光を遮り、通りに出ると淡い影を落とす。最初の内こそ光が入る隙間こそあったものの、路地の奥へ進んでいくにつれ光が差し込む場所は無くなっていく。壁のあちこちに落書きが見られるようになった。破れた窓ガラスの奥から視線を感じ、衣擦れの音や缶の倒れる音が周囲から聞こえる。剣呑な空気だ。

ビュンッ

 一息にチャクラ刀を抜いた。背後より藍染の後頭部目掛けて投げられた手のひら大の岩石は真っ二つに――宙に浮いた片割れを柄頭で投擲主に向けて弾いた。確かな感触の後に鈍い音。鞘に納めたチャクラ刀を妬むかのように鏡花水月が疼く。

 

片手で慰めつつその場を後にした。

 

 いよいよ周囲の雑多な物音さえしなくなった。見上げれば建物の隙間から小さく空が見える。段差の高ささえ一段ずつ疎らな下り階段の先には、光を拒絶する帳が暗澹と揺らめいていた。藍染は怯えるでもなく進んで行く。一段一段の高さを完全に記憶しているのだろう。しかしある程度進むと足元の石段を確かめるように草履で踏みしめる。一定の場所の石段を順番通りに踏むと、石と石が擦りあうような音とともに足元の石が動き始める。しばらくすると人が二人分通れるほどの穴が開いた。迷いなく藍染は身を投じた。

 

 30m程地下に体育館が4つは入りそうなほどの直方体の空間があった。壁は特殊なインクで白く染められており、微かに発光しているように見える。水場や砂浜、屋内戦を想定して簡易的な三階建ての建物も設置。隅には藍染専用の研究室もある。ビーカーや研究用具、巻物が山のように積み上げられた部屋には強力な結界が施されていた。

 

 肉体・精神共に満ちつつあった。手刀足刀、その鋭敏は虚空にすら届く躍動。その意を十分に得物へと宿した一撃はもはや軌跡すら残さず。夢幻の合間を縫う歩みは彼我との距離を惑わせる。鬼すら滅す力の理はその秘中を掌上に、万物打ち砕く槍にも、概念さえ新たに法で従わせる経典にもなる。

 

 鏡花水月も藍染の手に完全に落ちた。一度刀身の光の反射を見た者は完全催眠の対象へと切り替わる。全身に張り巡らされたチャクラは精緻かつ血流のように自然と体内の経絡系を循環している。

 

 しかしチャクラの充実にはデメリットもあった。感知タイプとして感知できる範囲は上がったものの、自身のチャクラのせいで鮮烈なほどに藍染の周囲を明るく照らしてしまって、結果自らに近いほどその感知は曖昧になってしまった。感知タイプとして自らの危険に反応できないのは致命的。

 

 その為に半年間の研究で新たにチャクラを身につけた。とはいえ陰陽遁のように一から開発したわけではない。使用者は少ないものの仙術チャクラは歴史上に使用者が確かに実在している。初代火影 柱間が書物にて書き残した情報によれば精神エネルギー・身体エネルギー・そして自然エネルギーを練り合わせることで仙術チャクラを身につけることが出来るとされている。その効果は単純な身体能力の増強、術・攻撃範囲の強化だけでなく、なにより危険感知能力が鋭くなる。

 

 自然エネルギーについてはもとからある程度察しはついていた。感知タイプに目覚めた時、周囲の木々や大地からエネルギーを感じ取ることは出来たのだ。比較的難しいとされるであろう自然エネルギーの知覚は直ぐだった。三つのエネルギーのバランスも陰陽チャクラで普段から鍛えられている藍染にとってもさほど難しくはない。しかし仙術チャクラを全身に廻らわせると仙人モードといわれる形態に変化してしまう。使用者にもよるが総じて顔に隈取が顕れ、修行先の場所によればチャクラを練り損なうと醜い姿になってしまうこともあると聞いた。

 

 

(断じて認めるわけにはいかない。ヨン様の顔を一時たりとも穢すことは……)

 

 

 隈取も顕れることのないレベルでのチャクラコントロールを研究に研究を重ねて突き止めるのには十分な時間が必要だった。無論、それだけではない。

 

 仙術チャクラを陰陽チャクラと同時に練りこみ新たなチャクラを作り上げることはできないかと試行錯誤したのだ。しかし、結果は全滅。そもそも自然エネルギーと陰エネルギー、陽エネルギーとの組み合わせは絶望的で反発するどころか互いのエネルギーで対消滅してしまう。酸性とアルカリ性を合わせることで中和してしまうとも言い換えることが出来る。どちらかの割合が強ければ、そのどちらかの性能に寄ることはあるが、互いの力を消しあったうえでの残りカスにしかなりえない以上、同時に使うメリットは限りなく低く思えた。仙人モードでの陰陽遁が使えないので、一度考え方を変えることにした。

 

 仙人モード自体のメリットは確かに大きいが、主に戦闘に使うのが陰陽遁である鬼道なのだ。無理に仙人モードになる必要はない。必要なのは仙術チャクラの危機感知能力。感知器官のほとんどは頭に集中しているため、頭の部分を仙術チャクラで強化、首から下を鬼道にも瞬歩にも行使できる陰陽チャクラで満たす。この二つのチャクラが互いに干渉しないよう、首の部分は普通のチャクラで部分ごとにチャクラを練り分けている。このチャクラの分割練りこそが、飛躍的にここまでの技術を身につけるのに時間がかかった理由の大部分だ。およそ一年、ただでさえ難しい陰陽チャクラと、相性の悪い仙術チャクラを別部分で練ることに費やした。もはや超絶技巧という言葉すら生ぬるい。実現不可能とさえ思えた。来る日も来る日もこの隠れ家で成果の上がらない修行の日々。何度投げだしたいと思ったことか分からない。斬拳走鬼の修行は実りつつあったせいで、進捗の進まないチャクラ分割は余計に苛まれた。

 

 そういった時は鏡花水月を膝にのせて刃禅に耽る。かつてのヨン様もこうしたのだろうかと思うと煩悶とした気持ちは少し晴れた。それと同時に焦燥感に胸を焦がす。鏡花水月のおかげで秘密の書庫は顔パスで素通りできた。そこで手に入れた情報は実に興味深いものばかりだった。しかし、その情報を十全に活かすためには何より力が必要だった。

 

 自身に深く深く語り掛ける。眼に映る男の姿は? 藍染 惣右介……

 

 ならば何故立ち止まる? その姿のどこに藍染 惣右介がいる?

 

 お前の知る藍染はそのような情けない面をするような存在だったのか?

 

 

(否っ! 断じて否! 万人の言う自らに都合の良い“事実”それを“真実”と誤認して生きるだけの凡人とは違うのだ。私は世界の真実を、秘密を踏破し、深淵を練り歩いてみせよう)

 

 眼鏡に反射する鏡花水月の光はおどろおどろしくも、主を真に認めた喜びに満ち溢れていた。

 

 もはや自身が藍染であることに疑いはなかった。それまでの苦悩が嘘だったかのように修行は進む。分割チャクラ練りが完成するのにそうは時間がかからなかった。確かに一歩踏み出したのだ。

 

 

 この技術自体は確かに人類史に名を遺すほどの偉業ともいえる。研究成果や理論をレポートにまとめれば、実現の可否を除けば貴重なデータとして重宝されることは間違いない。

 

 しかし、所詮人として実現できる程度の力ともいえる。同様に斬拳走鬼、もはや藍染がただの人である以上、限界が見えてきた。限界まで極めつつあってもそれは人の限界。そのような杓子定規で矮小に納まることに堪えられそうにもなかった。

 

 力がいる。人としての限界を超える力が。藍染にとっての崩玉に代わる力が。

 

 

 

 

 

 

 

 戦争が始まる。のちの世に第三次忍界大戦と呼ばれるこの戦争は各国の隠れ里が加わったが、木の葉と岩の争いが特に激しく戦況は木の葉にとって困難を極めた。各国の中心に位置する火の国は国土面積が広く経済力も他の国を凌いでいた。しかし、その分他国との国境も長く、あらゆる里に包囲されている。いくら木の葉が大国であろうと多勢に無勢。国境警備の人員を減らせば、一気に里の中枢までも攻め落とされる可能性がある以上、広い範囲で忍を配置しておく必要があった。当然一箇所に配置される忍も少なくなり、戦況はより劣勢となる。木の葉にとってその戦況もある程度は予想が出来ていた。その為に数を圧倒する才能ある上忍を若いうちから育てる融和策や、綱手の考案した医療忍者の指南法が広く周知されてきた。その両方に当てはまる藍染にも当然のように出動の命令が下った。

 

 

「こんなところにいたのかいミナト――いや、火影候補様と呼んだほうがいいかな?」

 

 ミナトに場所も言われないままに、忍鳥で呼び出された藍染は木の葉の歴代の火影岩を上から見下ろせる岩壁に向かった。火影になりたいと常日頃言っているミナトが呼び出す場所がそこしか思い浮かばなかった。空は高く、遠くに流れる雲が見る間に流れて形を変えてゆく。

 

「止してくれ藍染。君にそんなふうに言われたくないんだ俺は」

 

 ミナトは寂しそうにほほ笑んだ。一度見た覚えがあった。藍染の両親が亡くなった後に初めて顔を合わせた時のような、自身の無力を嘆く優しい男の顔だった。

 

「すまない……僕は明日行くよ」

 

「――そうか。俺は小隊メンバーと一緒に明後日出発する予定だよ」

 

「お互いの無事を祈っている」

 

「ああ。………藍染、死ぬなよ」

 男同士の酷く不器用な会話は終わった。別れは短く、必要以上の言葉は胸に留めておくのが戦へ旅立つ友への暗黙の了解だ。言いたいことは終えたとばかりに、ミナトは岩壁から立ち上がった。

 

「それj――」

 

 

「――――な~~にウジウジやってるんだってばねっ!」

 

 濃い朱色の髪の毛を炎のように逆立てた女がミナトの頭に重い拳骨を叩きこんだ。ズコンッと周囲に響くほどの馬鹿力で落とされたそれは鍛えられた忍すらも朦朧させる。

 

「酷いじゃないか! クシナ」

 

 うずまき クシナ。ミナトの妻であり木の葉の持つ尾獣『九尾』の人柱力でもある。尾獣か、それとも天性の才能ゆえか彼女の持つチャクラ容量は生半可なものではない。感知タイプである藍染にはマグマのように沸き立つそれが幻視できた。

 

「男だからって下らない理由で伝えたいことも伝えられないなんて馬鹿らしい。女々しいってばね!」

 

「――言ってることが滅茶苦茶だよ」

 

 仲睦まじい二人の様子に気を取られていたものの、既にクシナの背後の人物は感知していた。

 

「そういえばすっかり忘れてたけど、ほら確か……アンコちゃんだっけ? 何か伝えたいことがあるんじゃないの?」

 

 あれから忍としても、少女としても成長を遂げたアンコがいた。毛筆の特訓に付き合ったおかげか、すっかり気を許してくれた彼女はあれから何度か相談に乗ったり、修行に付き合ったりと交流の機会は何度かある。

 

 クシナに背中を押されて、もじもじと躊躇っている様子のアンコを急かすことはせずゆっくりと見守る。何度かチラチラとこちらを横目で気にする少女に、藍染は腰を屈めて目線をあわせて――微笑んだ。

 

「ッツ~~~~~~~あのっ、コレ、受け取ってくださ~~ぃ」

 

 『ください』の途中で藍染に何かを掌に握らせた後に遠くへ走り去っていってしまった。状況の把握の為に掌をそっと開くと、そこにはアンコの髪色に金糸の刺繍が入ったお守りがあった。中には和紙の袋があり、その中にまた何か入っているようだったが詳しく何かは分からない。

 

「……うわぁ」

 

「あんた…………不用意にああいうことを人にやるのはやめるってばね」

 

 犯罪者に向けられるような視線を浴びる理由が、藍染にはさっぱり理解できなかった。

 

 








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