第1話
長い夜がこれから始まる。国王として職務を終えた男はその似つかない灰色の目立たない格好でグラスに注いだ赤色のワインを唇に触れさせながら喉を通していた。酸味のある味わい深いものであるらしくそのような表情を顔に浮かべていた。
目の前には街並みが見えているが活気のある事だけは聞いていればよく分かる。ブリタニア王国の分国であるこの場所は小さな土地であるが自然は多く、肥えているので特に困ることはなかった。特に不満も浮かんでこないので反乱というのも起きにくい。
どうしても起こってしまう喧嘩はあるがそれを言うと大小関係なくすれば日常茶飯事のことなので割愛する。どちらかと言えば平和だが国王は退屈していた。
「イーラ、もうそろそろ長男を何処かに旅させてみたいのだがどうだろうか。」
男は背後から近づいてくる気配を察知して話しかけていた。こちらは男とは違い、華やかなドレスを本来なら着ている。しかし、今日は誘い出したいのかラフな格好をしている。俗に言う浴衣というもので帯を外せばはだけるものだ。
「別に機会があれば良いのではないですか?」
「そうか。」
男はその歯切れのいいところで言葉を止めた。誰かの訪問を感じ取った男は二階からワインの入ったグラスを置いて飛び降りてしまった。だからと言って、愚行などとはイーラと呼ばれた人は思いもしないだろう。いつもの事だ。
「丁度いいところに来てくれた。」
男はその話しかける。飛び降りた直後とは思えないほどの軽やかさである男の前に立っていた。
「先に用件を聞きましょう。」
黄金の鎧を身につけた騎士のような格好と金色の髪をしている爽やかな雰囲気のある男だった。
「今、長男に冒険に向かわせることを話していた。」
「幻想郷で良いですよね?」
「話が早い。それでは頼んだ。」
踵を返して男はその場から去っていく。
「いや、待ってくださいよ。」
「何か用があるのか。」
「ありますよ。私が何のために来たのか。話していいですか?」
男はどうぞ、と軽い気持ちから放たれた言葉でこの男への返答とした。
「まず、ブリタニア国国王からの伝達です。」
ぺらぺらの紙を一枚取り出した。
「ゆっくりでいいので一回訪れてほしいとの事です。こちらが大体の日程になります。」
この国の国王である男にその紙を渡した。そしてまだ続く。
「最近、大きな動物が周辺の村を襲っているようです。」
「なら、俺が様子を見てから兵を向かわせる。その指揮はお前に任せよう。」
「いつもながら判断早いですね。」
「そうか。褒め言葉として受け止めておく。して、今日はワインがあるが飲んでいくか。」
「ええ。よろしくお願いします。」
ブリタニア王国の兵士でありながら、この国とブリタニア王国を結ぶ橋のような役割のある人であるアーサーはそのように答えた。もともと親しい仲であったが、向こうにも好かれているのでこのような結果となっている。
燦々と晴れた日であった。雲一つなく旅立ちの日にはとても良い日であるのは空気を感じるとよく分かる。
灰色の服装で黒色の髪を後ろで結んでいるだけの男がそれよりかは身長の低い男の背中を叩いていた。
叩かれていた男は少年という顔立ちをしている。王族の血を引いているものとしてはとても軽率な格好であるが向こうではそのぐらいで丁度いい。灰色ではないが白色でもない色をしているシャツと少しダボついた通気性のいい服装をしている。その少年の名はヒカル。
「一人前になったと思ったら帰ってこい。」
ヒカルの背中を叩いた男は抑揚もなくそんなことを言っていた。
「はい。頑張ります。」
声はまだ高めでこれから低くなるかそれともあまり変わらないのかはまだ分かったわけではない。
「アーサー、後は頼んだ。」
男は何か伝えそうにしていたがそれはこの言葉の中に紛れ込んでしまった。もう決意したので戻る気もないヒカル派アーサーの黄金の鎧を掴んでいた。その目は迷う気はなさそうで決意に満ちた瞳をしている。
「宜しくお願いします。」
「兄者はいつも自分勝手なことをする。それでも何か意味があると思う。何かあった時は仲間に聞くといい。」
アーサーはヒカルを諭すように話しかけて時空を飛び越えた。ヒカルとしては楽しみが半分、期待が半分で片輪外した汽車のようだった。
ある男の息子の話になります。