妖怪の森は緑に溢れ、風は正しく南から来るものだった。下から上へと突き上げてくるそれは僕自身を包み込むように走っていく。しかしながら、とても冷たい風なのがどうにも謎である。雲は泥のようで灰色だった。幻想郷ではこの程度はよくある話なのだろう。妖怪の山という外とは少し阻害されただけの場所でこのくらいなので何も感じない事にした。
「行ってきますね」
「この際ですから、新しく技でも教えましょうか」
「そうですか」
確かに教えて貰っていた技には欠落した番号はあった。主に五と七、あるなら九もあるかもしれない。
「この技において、新たな攻撃手段だと思ってください。その代わり、そう易々と扱えるわけではないのでそれだけは考慮してください」
「漸く教えてくれるんですね」
「一つは風刃の強化版になるものです。早速やりますのでよく見ていてください」
そう言いながら、実践してくれるらしい椛さんは自分の愛用している大剣を持って空の方向を向いていた。
それから椛さんは一ノ技 風刃と変わらない姿勢をとった。瞬時にそれは強化されたと思えるものへと変わった。辺りから椛さんに向かって風が吹いている。明らかに風刃を放つようなものではなくなっていた。
ぐっ、と足を踏み込んだ椛さんはそこから一気に大剣を振り回す。身体の回転を扱いながらその一撃は空を切った。横にいた僕でも感じることの出来る風、正面から受けるとどうなるのだろうか。
「少し溜め過ぎたようです」
椛さんの居た地面は足の形になって抉れていた。生半可な気持ちでは習得できなさそうな技であるがこれを扱えるようになれば色んな所で通じるのかもしれない。僕は先ほどの椛さんの動きを試してみることにした。
剣は風刃と変わらない、それを身体の捻りと合わせて前面に押し出す。かなり簡略化されているようにしか見えなかった。
「これが五ノ技 絶狂嵐です。後は独学でお願いしますね。もうやっているようですが」
「はい。後は何かありますか?」
「七ノ技があります、が先にそちらを覚えてください」
椛さんは少しだけ冷たかった。だけど、僕に対して何かあるというよりかはもっと別の話だった。妖怪の山で何か嫌か事が起こっているのかとしれない、と僕は考えていた。
「しばらく見て貰っても良いですか?」
「夜に見ます。それまでに物にしてみてください」
「何か急ぐ理由がありそうですね。仕方ないので一人でやります」
実際のところ、やり方なんて分かっていなかった。それでもやれそうだと期待されているのならば、それに応えるのが僕の仕事なのではないだろうか。ふと、そう思った。それだけではないが何かそうだと思えるところはあった。
「見てあげられないのは申し訳ないです」
そう言いながら、椛さんは山の上の方へと向かっていった。僕は先ほどの一連の動きを頭の中で映像として見てみることにした。まずは、周りから風を集めているのがわかるほど集中する事。又はそうなるように底力を上げておくこと。そしてその風の圧に自分が耐えること。それから、どこまでその力を前へ推進力として与える事ができるのか。それに掛かっていると思う。後はどうでも良い話ではあるわけではないが問題はこの三つだろうと思っている。自分の努力次第では何とかなるとは思う。
そこから僕はその技を発動させる為に一連の動きを繰り返した。その時の疲労感は今までの比にはならないがやれるところまではやるつもりだった。だが、ここで腕が技の発動の圧に耐えられなくなっていた。これはつまり、両腕で持っている必要がありそうだ。取り敢えず、今はもう辞めておきたい。
一旦、石に背中を預けている事したが空はそれを快くは思わないのか僕の所だけに日陰を作るようだった。夏とは思えない天候に加えてこれではとてもではないが身体を動かしていたかった。僕は立ち上がると近くの森まで歩いてから脚に風を纏わせた。此処から自分の実力がつくまで木を避けながら走り抜ける。勿論、全速前進で止まる事は許してない。勝手に設けた規則ではあるが周りをよく見て自分の力を発揮させるのにはこれが一番良かった。
僕は軽く身体を動かしてから走る準備をした。身を低くして左脚を前に出して辺りを見渡す。誰か居ないか、どの道を進もうか、それを探していた。後は感覚でどこまでやれるかこれは自分との勝負だ。負けたくはない。